──ラストワード
力ある者たちが必ず、最後の手段として隠し持つ最大にして最強のスペルカード
発動に際して、使用者はその力を枯渇寸前まで解き放つことになる
故にそれが使われるのは、身命を賭した戦いにのみ限られる
……と、俺は聞いていた
«LastWord»
橋姫[丑の刻参り□日目]───
発動の瞬間、パルスィは障壁と呼んでいい程の妖力を纏う
俺は反射的に眼を切り替えて、どんな弾幕を放たれてもいいように備えた
けれどそれは
この局面においては間違いだった
「ッ──!!?」
『主!?』
耳をつんざく落雷のような轟音と、視界を真白に染め上げる閃光
それが天を覆うほどまで展開された弾幕の、ただの余波であったことを把握するのに、少しの時間を要した
無理だ、この眼では眩し過ぎてマトモに視覚を使えない
「悪い、もう大丈夫だ」
『しかし、これは。』
満天の星空、と錯覚する程の色も大きさも様々な弾幕
これが彼女の本気、真の実力なのか
考えていると、パルスィは右手を振り上げる
そしてゆっくりその手を降ろすと
星のひとつが降ってきた
【一日目】
カ──────ンン
突然釘を打つような音がして
同時に異変が起きる
「ぐッ…!?」
胸を、穿たれるような激痛
『なんと、醜悪な…』
「なに、がッ…?」
妖力の流れを整え、痛みを軽減する
外傷は無い、ということはあのスペルの効力ということだ
『丑の刻参り、その名に沿っているならば、日が進む毎に傷は深まるでしょう。』
「……時間は限られてる、か」
伝承からするに恐らく、七日目。そこまでが勝負だ
緑色の大玉、軌跡に花弁のような弾幕を残して俺のすぐ隣を通り過ぎたそれは、彼女の2枚目のスペル[大桜の灰]に酷似していた
続いて2つ、3つと降ってくるが、それは軌跡共々すぐに消えていく
【桜は咲かず、故に私の想いはそれ諸共妬き尽くす】
間髪入れず、大玉が降り注ぐ
花弁が拡散することは無いが、雨あられと振る大玉とその軌跡によって避けるスペースが潰されていく
出し惜しみしてる場合じゃない
「焔!!」
『ええ、ええ。それが良いでしょう』
───[参式改メ・暴レ朧灯]
居合の構えから荒ぶる妖力を解き放ち、可能な限りパルスィに当たらないようにその道筋を手繰りながら誘爆させる
配置された花弁を焼き払って道を確保し、同時に彼女の纏う障壁も削る
やがて緑色の雨は止み、代わりに夜闇が色濃くなった気がした
【二日目】
カ──────ンン
再び走る激痛
「ゥぐ、くっ…」
『私が護ります。主は前へ』
焔の妖力が俺と繋がる
ダメージを肩代わりするつもりらしい
何もせずとも勝手にカウントは進んでいく
なんとか接近して彼女のうなじにある何かを処理しなければ
【嗚呼、何故私の眼は、こんなにも曇っているの】
小さな緑色の輝きが無数に飛来する
その軌跡に細い帯を引きながら
帯はうねりながら分裂を始め、やがて小さな弾幕となって拡散する
それらと同時に半透明の白い星が幾つか、俺目掛けて降ってくる
反射的に避けると、白い星は俺が居た座標で衝突してその点から弾幕が撒き散らされた
その挙動はまるで[グリーンアイドレディ]のようだった
処理法が同じなら…とも思うけどそう甘くはないだろう
被弾しては元も子もない、となれば…
考えてる間にも星は降り続ける
軌跡の帯が拡散する弾幕は、見た目より密度が低い
白い星の方に注目して、それを撃ち落とすべく構える
「焔。」
『仰せのままに。』
───[壱式流レ・劫火転輪]
流レは、スペルによって変質する妖力をスキルに与える系統
これは燐気斬の要領で操る派生スキルだ
「…ここだ!!」
白い星を引き付けギリギリで回避しつつ、その衝突地点に向けて劫火転輪を放つ
予想は当たっていた
白い星は放たれた輪に当たると同じく弾幕を撒き散らした
直接斬りに行っていたらまともに食らっていただろう
けど、このスキルなら問題ない
白い星を蹴散らしながらパルスィへ近付いていく
ある程度進むと緑の星もこちらへ降ってくるようになったが、どれも思ったより脆い
軌道を見てから輪をぶつけるだけで消滅させることができた
やがてパルスィを射程内に捉え
「行ッッけぇぇえ!!!!」
輪を刀身に戻し、出力を引き上げた上で射出した
【熱い……なんて…熱い………】
彼女の纏う障壁を更に削ることに成功したが、同時に彼女自身にも熱が及んでしまっていることに気付く
仕方がないと言えば仕方がないけど、なるべく傷つけたくはない
【三日目】
カ──────ンン
「い゙ッ──!?」
『これは…』
より一層強く、胸を射たれるような激痛が走る
「何故、さっき焔が…」
?「そりゃあ、アンタの魂が直接狙われてるからでしょ」
音もなく突然現れたのは、真っ赤なリボンの巫女
霊夢さんだった
「どうして、ここに?」
「バカみたいに大きい妖力が暴れてるんだもん。そりゃ気付くわよ」
ため息をつきながら、呆れたように言う
「あいつがこんなスペルを使うなんて、アンタ一体何をしでかしたのよ」
「いや、俺は何も…」
「ふーーーーーん?」
ものすっごい懐疑的な視線を向けられたので、説明をしようとする
しかしそんな余裕は無さそうだった
【痛んで、妬んで、
怨めしい。
身も心も、裂けて。】
響く声、それと同時にパルスィの姿がブレて
【【【どうして、私だけ苦しまなきゃならないの?】】】
三人に、割れた
「ところでアンタ、幻想郷の掟は聞いてる?」
「…何の話ですか?」
軽々しい声音
なのに彼女は、とても冷たい目をしていて
「ヒトへ害を為す妖怪への、対処」
「ッ─────」
聞いたことのある台詞を、言った
『この幻想郷ではね、ヒトに害を成す妖怪は誰かの手で処分されるの。それは私にであったり、勇儀にであったり、もしかしたら次はアンタかもしれない。』
『だからそうなった時は遠慮せず、躊躇もせず、淡々とこなしなさい。でないとアンタ自身が危うくなるんだからね』
「──違う!パルスィは!!!」
「違わない。現にアンタは今、あいつに殺されようとしてる」
「でも…っ!!」
必死に言葉を紡ごうと考えるが、うまくいかない
そうしているうちに
【【【ねぇ、どうして?】】】
三人が三人とも、サイズも軌道も違う弾幕をばら撒いてくる
「ヤバッ」
「ほら、気を抜けばこうよ。」
───夢符[封魔陣]
慌てて構える俺を横目に
彼女は片手間に、スペルを発動する
直後膨大な数の御札が顕れ、飛来する弾幕を次々と相殺していく
それは見る間にパルスィ達の放つ弾幕を押し返し、逆に攻勢へ転じるほどだった
測るまでもない、圧倒的な力量の差
それを有する彼女の言葉には、揺るがない絶対的なものがあった
霊夢さんは、パルスィを"処分"するつもりなんだ
そう理解して、血の気が引く
原因も分からない暴走状態なのに、それでも容赦無く
「…パルスィを、殺させはしません」
「口だけなら何とでも言えるわ。そもそもアンタに私を止めるチカラなんて有るわけない」
「それ、は…」
腰の白鞘を握り締める
力が、足りない
でも俺は、パルスィを護りたい
『否、貴方には』
なぁ、頼むから
「ほら、次が来るわよ」
【四日目】
カ──────ンン
「ガ…ッは……うぅ」
息が続かない
あまりの激痛に意識が飛びそうになる
けど
「そのままじゃアンタが殺されるのよ。死ぬよりは殺してやった方がマシじゃないの?あいつだってきっとそれを願うわよ?」
そうかもしれない、でも
「それでも、俺は、護りたい…!!」
心の底から、そう思った
『ええ、ええ。その願いの為に、私が居るのです』
脳内に響く焔の言葉
白鞘が震え、その柄頭がヒビ割れる
立ち昇る紅の妖気は、熱い
「──アンタ、その力…」
何が起きたかは、分からなかったけれど
ナニカが、繋がった
気がした