東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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10章 -異変- 後編

 

 

 

途端に、視界がクリアになる

 

未だ宙を覆う弾幕も、どこか驚いた様子の霊夢さんも、傍らに控える焔の姿も、今はハッキリと認識できた

 

ゆっくりと、深呼吸する

 

 

何が起きたのかは分からない

けど、チカラが漲っている

 

それだけ解れば、十分だった

 

 

 

「霊夢さん」

 

「…なによ。」

 

「俺は、まだ、護られるべき人間ですか?」

 

そう、あの掟はあくまで只の人間を護るためのもののはず

であれば、既に半妖である俺はその対象にはならないはずだ

 

「ッ…………そう、ね。」

 

暫く逡巡して、彼女は首を振った

 

「なら、パルスィを処分する理由も無い。そうですね?」

 

「……えぇ、そうね。アンタはとっくに人じゃないし、私だって好きで殺しなんてしたいわけじゃない。けど策はあるの?」

「まず、話を。」

 

パルスィは、何故か怯えた様子で硬直している

理由は分からないけど、それはそれとして都合がいい

 

俺は霊夢さんに、今へ至る経緯と、彼女のうなじに何かあること、それからこの後どうするかを説明した

 

「なるほどね。そういうことなら簡単だわ」

「一人では困難でも、二人なら。博麗の巫女サマの助力があるのなら、容易く突破出来ると思います」

 

「フン、おだてたって何も出ないわよ。じゃあ決まりね」

「宜しくお願いします」

 

 

策は単純

俺は朧灯で突っ込む

霊夢さんは俺の前面に結界を貼って可能な限り維持する

 

それでパルスィに届けば、うなじにある何かを排して終わり

...届かなかった場合、は考えなかった

決して不安だったからじゃない

今の俺と霊夢さんの力なら、不可能はないと思ったからだ

 

 

 

「焔。」

「はい。」

「行こう。」

 

その姿が消えたことを確認して、白鞘から刀身を解き放つ

それはいつもの様に耀くことはなく、紅の色をしていたはずの刃は何故か素の白金色に戻っており、ただそこに有るだけだった

 

 

【どうして、どうしてどうしてどうして!!!】

 

再び、絶叫が轟く

それを引き金に、宙を覆う星──無数の弾幕が、一斉に降り始めた

 

 

すごい圧だ

でも

 

「霊夢さん!」

「わかってる!!」

 

───境符[博麗結界]

 

彼女が放った青白い霊力の札が、前面の四方に配置されて結界を形成する

 

 

───[参式・朧灯]

続けて

───[弐式流レ・烈火転身]

 

 

漲るチカラを、推進力に注ぎ込む

迫る星々を前に、覚悟を決めた

 

「押し負けるんじゃないわよ!」

「当然!!!!」

 

 

スペルの起動によって荒れ狂うチカラを、溜めて溜めて、一気に燃焼させる

 

それはロケットエンジンというより、最早特大の爆弾にも等しかった

 

 

「っ……あいつ…無事よね…?」

 

直後、空間を支配する轟音

流星群のような途方もない弾幕に真正面から立ち向かい、その全てを受けながら押し進む

身体が圧し潰されそうだ、と思った

 

けど、負けたら何も護れない

 

軋む身体を保護するために、焔から更に妖力を引き出す

同時に、もうひとつ

 

 

『イメージするんだ、心臓から溢れるエネルギーを腕を通して掌、指先、その持っている物へ伝達する感じでな』

 

今度は妖力ではない

生命力そのものを捻り出して、妖力と混ぜ合わせるイメージ

理屈じゃなく、直感がそうすべきだと言っていた

 

 

「……紫、なんてヤツを連れてきたのよ」

 

直感は正しく、俺の身体はより強固に保護された

あとは、進むだけ

 

「うぉぉぉおおおおお!!!!!!」

 

 

【五日目】

ガッ──────ン

 

魂が軋む

…知ったことか

 

 

 

【六日目】

ガッッ───────ン

 

霊夢さんの結界にはヒビが入り始めている

限界が近そうだ

 

俺の魂に入った無数の亀裂は、漲るチカラで埋め立てる

まだ、進める。大丈夫

 

 

【どうして、なんでオマエは───!!】

「絶対に、助けるんだ!!!」

 

 

【七日目】

                                   呪符[丑の刻参り/終]───

 

音も無く、しかし確実に、俺の魂が蝕まれる

同時に鈴のような音を立てて、霊夢さんの張った結界が崩れ去る

 

……それがどうした

 

 

───[肆式改メ・纏イ昇灯]

迸り燃え盛るチカラを、放つことなくその身に纏う

 

それはまるで太陽のように輝き、燃え上がる妖力

俺自身が弾幕を灼き尽くす弾頭になる

 

当然、負荷はかかる

心も身体も悲鳴を上げている

 

………だからって、止まることはできない

 

 

【もう、終わり。だから、】

 

魂にかかる圧力が消える

 

目前に迫ったパルスィの手前に、黒いもやが現れる

 

「氷雨、ダメッ!!!」

「パルスィ─────ッ!!!!!!」

 

構わず飛び越える

 

【呪いは、成った────!?】

 

拡がり、視界を覆う黒いもや

俺を包み込む呪い

 

 

『その程度で、我等を別つことが出来るとでも』

 

 

《さぁ、唱えて》

 

───[陸式・□□□□]

 

脳裏に浮かんだ見知らぬことば

それを唱え

 

刹那、紅の妖力が金色を示す

耀く焔、それは瞬く間に闇を呑み込み

 

【──貴女、は】

 

金色の奔流は、残る弾幕も、パルスィが纏う障壁をもその耀きで以て焼き払う

俺の行く手を阻むものは、もう何も無かった

 

「届、け─────!!!!」

 

最後の力を振り絞って手を伸ばす

中空でうずくまる彼女、その虚ろな瞳が微かに光を灯したように見えて

 

 

 

 

「ひ、さめ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────

 

 

地上に降りた俺の左腕の中には、気絶したパルスィの姿がある

隣で霊夢さんが彼女の状態を確認していた

 

「衰弱しきってる。放っといたら直ぐに死ぬくらいには」

「何か手は無いんですか」

 

 

問うと、霊夢さんは少し考えて

「あるには、ある。…ちょっと痛いだろうけど」

「教えてください」

 

今更多少の痛みは気にならない

俺は食い気味に答えた

 

 

ふう、と息を整えて、霊夢さんはこちらを見た

そして

「アンタの血、それを飲ませなさい」

「………へ?」

 

思わぬ言葉に呆気にとられてしまう

それを見て、霊夢さんはまたため息をついた

 

「血にはね、チカラが宿ってるの。枯渇した妖力を補充させるなら、妖力を持つ者の血を与えるのが一番手っ取り早いのよ」

「なるほど、分かりました。…焔?」

焔「此処に。」

 

呼び掛けると、焔は直ぐに実体を伴って現れた

思考も少し共有しているようで、要件は言わずとも伝わっている

 

「加減が分からないから、頼む」

焔「仰せのままに。」

 

抱えたパルスィの口元に、右の人差し指を沿える

焔はその刃を優しく、素早く引いて綺麗な切り傷をつくった

 

「ッ…」

「あとは、そう。可能ならアンタの…なんだろ、生命力?も込めてやるといいわ。その方が多分回復も早い」

焔「それでは主が…」

「大丈夫。言う通りにしよう」

 

指先から滴る血に、妖力と生命力を流し込む

俺自身が死なない程度に、可能な限り

 

 

眼を切り替えると、パルスィの身体を俺の色の妖力が包んでいるように見えた

 

少しして、パルスィは落ち着いた寝息をたて始める

もう十分そうだ

 

 

「傷口を塞げる?」

焔「勿論です。」

 

言うと即座に傷口が塞がり、仕上げのように火花が散った

それで元通り

安心して、ゆっくりと息を吐いた

 

「お疲れ様。正直見違えたわ、アンタがあそこまでやるなんてね」

 

「実は無我夢中で、何をどうしてここに至ったか記憶が定かじゃないんですよね」

「…あ、そう。あとパルスィのうなじには何かあったわけ?」

「そうですね。これが。」

 

俺は懐から、三つ折りの札のようなものを取り出す

よく分からない陣が書かれたそれは、パルスィのうなじに張り付いていたものだ

 

 

「見たことない術式ね…開くわよ?」

「はい。」

 

霊夢さんがゆっくりと札を開くと

「……ナニ、これ。」

「…爪?でしょうか」

 

既にチカラの残滓すら感じられない赤黒い色をしたそれは、ヒトの爪のように見えた

 

 

何かを考えるにも、材料が足らな過ぎる

...それに、体力がもう無い

アタマが回らない

 

 

「ひとまずコレは私が預かっておく。パルスィも勇儀辺りに届けてくるから、アンタは帰って休みなさい」

「…………お願いします」

 

 

飛び去る霊夢さんに深々と頭を下げ、その姿が見えなくなると、俺はそのまま地面に転がった

 

ダメだ、もう指の一本も動かせそうにない

我ながら頑張り過ぎたな、と思った

けど後悔してるわけではない

 

 

この程度のことで

 

 

 

彼女を救えた

 

 

 

 

なら

 

 

 

 

 

それで

 

 

 

 

 

 

「仕方がありません、ね。」

 

傍らにどこか懐かしい熱を感じながら、意識を手放す

 

 

 

その時の俺は、事の重大さを解っていなかった

 

力のある妖怪が唐突に暴走する、ということの意味を

 

 

やがてこの幻想郷を脅かす事になる異変

これが、その先触れであったことを

 

 

 

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