時は進んで、とうとう萃香さんと弾幕ごっこをする日が来る
パルスィとの一件以降、代理として派遣されて来た霊夢さん
その指導は厳しく、しかし確実に成長の手応えを感じるものだった
霊「ここまでやっておけば相手が誰であれ、まぁそれなりに渡り合えるはずよ」
と、一応の合格点を貰った俺は、勝つ気満々で旧都へと向かうのであった
しかし
「………なんだ、この人混み」
ただの見物、にしては異常なほどのヒトが集まっていた
なんか屋台とかもあるように見える
〔文々。新聞〕ってやつの効果なのだろうか、いやそれにしたってこれは…
「あやや!氷雨さんではありませんか!!お久しぶりです!!!」
「…あ、どうも。」
突然大ボリュームで挨拶してきたのは、例の新聞記者だった
「あの、なんでこんなにヒトが集まってるんですか?」
「───そういえば氷雨さんには伝わってないんでした!!」
一人で納得したように手を打つ彼女は、ポーチから一枚の紙を取り出して、俺に手渡した
そこには
【第六回旧都花火大会!今回の目玉は"伊吹 萃香"vs新進気鋭の外来人"神凪 氷雨"!!!】
とかなんとか書いてあった
それから、向かい合う俺と萃香さんのイラスト
他にも色々書いてある
記載してある日付は、多分今日なのだろう
「一鬼さんがここに居着いてから、年に二回ほど大規模な花火大会をするようになったんですよ。それと併せて力のあるヒト同士の弾幕ごっこを取り付けて、もーっと人を集めて、より一層盛り上がれば、と!!」
「なる、ほど…」
つまり、大敗なんかした日には晒し者になってしまうわけだ
尚更負けるわけにはいかなくなってしまった
…よく見ると、イラストの右下に[絵/陽 十色]と書いてある
「あれ、これって…?」
「あーそうですそうです!こないだ話した人里に住む外来人の、陽 十色(ヒナタ トイロ)さんですよ!!絵がものすっごくお上手で、それで生計を立ててるくらいなんです!!!」
知らない外来人…気にはなるけれど、一鬼さんも外来人の枠であることを考えると、そのヒトにも何かしらの役割があったのかなと思った
今度紫さんに会ったら訊いてみよう
「まだ時間もありますし、適当に見回ってきては如何ですか?たぶん珍しいものが沢山ありますよ〜」
「んー、確かに。そうしてみます」
頷いて、とりあえず人混みに紛れて歩いてみることにした
知らない人が沢山いて、見慣れない屋台も沢山
元いた場所ではお祭りに自ら出向く事なんて無かったので、全てが新鮮に見えた
「やあ氷雨。調子はどうだい?」
「勇儀さん、お久しぶりです。わりと良い方ですよ」
人混みを離れて休んでいると、法被を着た勇儀さんが声を掛けてきた
こう言っちゃなんだがすごく漢らしい
美人は美人でも、カッコイイ寄りの美人だからかな
「そうかそうか。なら期待していいんだね?」
「……俺なりに、最善は尽くすつもりです」
「アッハハ!正直だね!嫌いじゃないよ、アンタのそういうとこはさ」
豪快に笑ってわしわしと頭を撫でられる
少し痛いけど悪い気はしない
ただ、その笑顔は直ぐに曇ってしまった
「──それと、ウチのパルスィが悪かったね。随分と苦労させたろ?」
「いえ、寧ろ彼女を連れて来てくれた萃香さんには感謝してます。どこまで予想されてたのかは分からないけれど、結果的に俺は今日ここに来れてますし」
「そうじゃなくて...その、さ」
「分かってます。でも、それも含めていい経験になったと思ってますよ」
「そっか。ならもう何も言わないよ!アンタの努力の成果、楽しみにしてるからね!!」
ブンブンと頭を横に振って、勇儀さんは笑顔を取り戻す
激励するように俺の背中を叩いて、彼女は人混みの中へ戻っていった
確かに、例の一件はかなり堪えた
けれどそのお陰で、恐らくどんな修行を積むより早く強くなれたのも確かだ
──あれから4日
元気になったのかな
他人の妖力なんか取り込ませて大丈夫だったかな
なんて、何度も何度も考えた事がぐるぐると回る
よくないな、と思い直して深呼吸をした
実際、パルスィとの戦いを経て、俺はかなり成長出来ていた
飛行の慣らしは完璧に、弾幕の扱いも並程度には
スペルの扱いも、命懸けのやりとりの最中でかなり洗練されていた
故に霊夢さんとしたのは、模擬戦が主だった
桁違いの実力を持つ相手に、実質ノーリスクで挑み続けられたのはとてもいい経験になったはずだ
きっとそうだ、と自分に言い聞かせるように繰り返す
メンタルで負けていては勝負にもならない
俺は俺の出来ることを、出来る限りの戦いをするだけだ
それから少しして、花火大会が始まる旨のアナウンスが聞こえた
どうやら打ち上げは人混みの只中で行われるらしい
...いや、それは安全面にかなり問題がないか?大丈夫なのか?
それと同じ流れで、俺と萃香さんの弾幕ごっこのお知らせも聞こえてきた
ひとまず屋敷に来いとのことなので、素直に向かうことにする
萃「やあやぁ氷雨くん。久しぶり〜」
「ども。」
文「氷雨さん!お散歩はどうでしたか!!」
「楽しかったですよ、初めて見るものが多くて。」
文「それはなによりです!!ではでは今回のレギュレーションを説明させていただきますね!」
「よろしくお願いします」
例によって早口で捲し立てる文さん
とりあえず大事そうなところだけ抜き出すと
・カタキ役の萃香さんがスペルを展開する
・挑戦者役の俺は攻め手を自由に変えていい
・どちらかの被弾でスペル切り替えを行う
・全てのスペルを突破することで終了
・突破スペル数>被弾スペル数であることが勝利条件
だいたいそんな感じだった
「俺はスペルを連発しても大丈夫ってことですか?」
文「はい!その認識で大丈夫です!!」
「なるほど」
萃「──え、連発できるの?」
「…まぁ、多分?」
問いと、答え
萃香さんは慌てた様子で文さんの方を振り向くけれど、文さんの方は何かメモを取っているようでそれには気付かない
文「ではお二人とも、先程伝えた位置に移動をお願いします!!」
「分かりました。萃香さん、今日は宜しくお願いします」
萃「うん。キミがどれくらい成長したか、見せてもらうね」
萃香さんは、にぃっと笑って霧散した
前にも見たけど、あれも彼女の能力の範疇なのか
─焔、調子はどう?─
『万全です。どうぞ、主の思うままに』
─分かった、ありがとう─
腰の白鞘を撫でる
柄頭のヒビは、いつの間にか無くなっていた
…あれ以来、陸式は使っていない
というか、使えない。
何を言ったのか覚えていないからだ
焔に訊いても、明確な答えは返ってこなかった
【さあさあ皆様お待ちかね!ついにこの時間がやって参りました!!】
待機していると、アナウンスが流れ始める
【今回の対戦はいつもとは違います!何せ三年ぶりの外来人!!!果たして!!!彼の牙は我らが萃香さんに届くのかァ!!??】
めちゃくちゃ煽られてる。怖くなってきた、勘弁してほしい
【ではまずは東から、萃香さん!どうぞ!!!】
「はいよー!!!」
大声で応え、大玉の花火と共に現れる萃香さん
大輪の光の華、その最中から飛び出して、直後花弁が砕け散る
かと思えば再び光が束ねられ、また違う形の華を形作る
あれもきっと、彼女の能力の範疇だ
大規模で、美しく、なんとも目立つ
まさに主役の働きだ
観衆も、正しく大きな反応を見せている
……重たい。コレの後にどう出ればいいんだ、俺は
『お任せを。貴方が託してくれるのなら、私が。』
─それなら、頼むよ。何も思いつかないからさ─
【そしてェ!!此度の挑戦者ァ!!!西に来るは〜??紅蓮の炎の使い手ェ!!!!カンーーナギーーーィィイ!!氷雨ェェエエ!!!!!!】
「おいコラ!!どんな口上だよ!!!」
しまった。無意識にツッコんでしまった
『ふふ、楽しそう。ですね?』
微笑む焔、同時に白鞘に添えた右手から妖力が吸い出される
「─ッ!?」
焔「さぁ、望むのであれば魅せて差し上げましょう」
───祭事[紅龍乱舞]
鞘に微かにヒビが入り、紅の妖力が噴き出した
これは、あの時の…
【おーーッとこれはどうした事か!!!氷雨さんの妖力がァーーーってうひゃぁあ!?!??!!!?】
紅の妖力は瞬く間に龍のカタチを成して、空を舞う
それは俺の手を離れて、長い体躯で以て空域を支配する
その余波は、衝撃波と轟音は、文さんのアナウンスをも掻き消すほどだった
「おい、誰もここまでとは…!」
焔「あら、そうですか?では終いに。」
言うと、そのか細い両の手でパンと音を鳴らす
すると紅の龍は、現れた時と同様、瞬く間に姿を消した
【私としたことが…いやはや!!これは驚きです!!!萃香さんに勝るとも劣らないデモンストレーション!!!!これは試合に期待が出来ますよ!!!!】
…参った。なんてことを。
仕方がないので俺は俺自身の姿を空に晒す
なるべく、自信を持った姿として映るように
観衆は、驚いて目を丸くしているようだ
しかし俺の存在に気付くと、それぞれが思い思いに声を上げ始める
期待してるだの、見掛け倒しだの、様々だ
柄頭のヒビは、いつの間にか消えていた
萃「さあ来るがいい挑戦者よ!!なーんて。期待、裏切らないでよ?」
「…ええ、もう!頑張りますとも!!やってやろうじゃないか!!!」
こうなったらもう、なるようになれの精神だ
俺の全力をぶつけてやろう
それが認められるかは、また別の話だ
【でェはではァ!!第六回旧都花火大会メインイベントォ!!!!伊吹 萃香vs神凪 氷雨、開戦です!!!!】
派手な大玉花火の爆発と共に、戦いの火蓋が切って落とされた