東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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12章 -秘めた想いと地獄のヒトビト- 前編

 

 

\\\\\カンパーーーーイ!!!!!!!!!/////

 

「か、かんぱーい」

 

 

 

打ち上げはまさしく、どんちゃん騒ぎってやつだった

絶え間なく運ばれてくるとても美味しそうなご馳走の数々

萃香さん、一鬼さん、勇儀さんを経て皆に振る舞われる様々な飲み物

 

聞くところによると、無限に酒が湧く伊吹瓢と、それを好きな飲料へ変換できる一鬼樽、そしてあらゆる飲み物の質を引き上げる星熊盃へとリレーすることで、みんながしあわせになる、らしい

 

 

笑い声に泣き声、罵声に奇声、笑顔、笑顔、沢山の笑顔

飲み屋ってのは行ったことがないけれど、多分こんな雰囲気なんだろうな

 

 

 

因みに霊夢さんは、白熱し過ぎた喧嘩とかの仲裁で忙しなく駆け回っている

 

 

俺はというと、その騒ぎの端で、曰く最高級の日本酒らしいものを注がれたコップを目の前に呆けていた

 

花火大会の人混みも凄かったけれど、ここは室内なだけあって圧迫感もある

それに熱気と混濁したいろんな匂い

 

 

多分俺は、こうして騒ぐのは苦手なんだと思う

でも、なんだろ。眺めているだけなら、嫌いじゃないかもしれない

 

そんなことを考えていると突然、くぅ、と腹が鳴る

ここに連れてこられたはいいものの、圧倒されて何も口にしないままそろそろ1時間が経とうとしていた

 

 

......未成年だけど、まぁ別の世界だし、俺向けに出されてるものだし、いいよな?

 

言い訳をしながら、目の前のコップを手に取る

 

とても甘い香りがした

果物というより、これはよく噛み締めた米のような甘い香り

 

 

少し気分が良くなって、勢いのままそれを口に含む

 

「───これは…!!」

 

_人人人人人_

>うまい!!<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

「うわぁ!?」

 

心の声を大音量で言い当てたのは、一鬼さんだった

 

「美味いだろ?良い酒ってのは呑み易いし悪酔いもしねぇし、飯は進むし気は良くなるしでいい事づくめなんだぜ」

 

「…確かに。」

 

言われてみれば、空腹感も増している気がする

 

「あんまり食ってねぇみたいだったから、ほれ。お前さんの分だ」

「あ、ありがとう、ございます」

 

しどろもどろになりながら答え、手を伸ばす

しかし彼はその手の食べ物をひょいと持ち上げて

「ッカ〜!硬ぇ!硬ぇよ態度が!!!もっと砕けろ!!!!」

なんて煽ってきた

 

ええい、どうにでもなれ

「ァザッッス!!!!!!」

「ヨシ!!!!!」

 

そんなこんなで渡されたのは、マンガでよく見るような大振りの骨付き肉だった

実際に見るとなんかこう、不思議な感動を覚える

 

「なんもしなくても美味ェから、そのまま思いっきりかぶりつくといいぜ」

「………っ!」

 

言われるまま、噛み付く

 

それは驚くほど簡単に噛み切れて、柔らかくて、なのに歯応えはしっかりしていて、肉の旨味ってやつが十二分に感じられて、なのにしつこくもなくて

 

_人人人人人人人_

>美味い!!!!<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

今度は思わず、俺が叫んでいた

 

「ははっ、そーだろ?他の料理も酒も全部美味いぞ。酒呑んで、飯もたらふく食って、楽しく過ごしてくれよな。今日の主役はお前さんなんだから」

 

「…ありがとう、一鬼さん」

「いいってことよ」

 

にかっと笑う一鬼さん

釣られて俺も笑顔になる

 

暫く俺は、一鬼さんの勧める料理をひたすら食べ続けた

 

っと、そういえば

 

「そうだ一鬼さん、聞きたいことが。」

「おーう、なんだあ?」

 

「ヒナタトイロ、って人、知ってます?」

「あ〜〜〜〜十色ちゃんかぁ〜〜」

 

その名を口にすると、一鬼さんの表情があからさまに弛んだ

そしておもむろに肩を組んできた

 

「十色ちゃんはいい娘だぜ。素直だし愛想が良くて可愛いし声もハスキーな感じでいい、それに絵が天才的に上手いし、なにより…………」

 

「な、なにより…?」

 

「なにより太ももとおっぱガッハァッ!?!??!?」

 

「………ワァ」

 

不埒な事を言おうとした罰なのか、一鬼さんは突如現れた萃香さんの鉄拳を食らって館の壁をぶち抜き、そのまま夜空へ消えていった

 

南無阿弥陀仏。いいヒトだったよ、あなたは

 

 

「ったくもぉー!!ま〜〜た他の娘の話でだらしないカオしてさぁ〜!?ひどくない!!?わたしというものがありながらさあ!!!」

 

一鬼さんをぶっ飛ばした萃香さんは、その勢いのまま俺にカラんで来る

 

すごい酒気と鬼の腕力、俺はなすがままに揺さぶられたり愚痴られたり酒を飲まされたりしたのだった

 

暫くして気が済んだのか、萃香さんはふらふらと他所へ行ってしまった

ふう、と一息

 

 

 

まったくもう、と思って無意識に伸ばした手の先には何故か勇儀さんの盃が

 

刹那、フラッシュバックする

この地獄へ来た日、彼女の酒を横取りして制裁されていた2人の姿

 

アレの二の舞にはなりたくない

慌てて手を引っ込めると、不満そうなため息がすぐ後ろから聞こえた

 

 

そう、ゼロ距離で、背後から

というか耳元から。

「…なんだァ?アタシの酒が飲めないってのかい??」

「っヒ!??」

 

初めて聞く勇儀さんの低い声に、か細い悲鳴を上げる

小さく跳ねた肩を、彼女の腕が押さえ込んだ

 

「ンンだよ別に取って食いやしないよ、というか怯えすぎだ、どうしたんだい?」

 

「あぁ、いえあの、ただビックリして…」

 

だって不意に背後から、いや、なんで抱きつかれてるんだ?

仕方ないと思う。正直な感想だ

 

「そっか〜〜〜〜まぁいいさ、飲んでみなよ。アンタは特別だ」

「ありがとう……ございます?」

「ン。」

 

恐る恐る、大きな紅い盃を手に取る

思ったよりは重くなくて助かった

 

その端に口をつけて、ゆっくりと傾ける

 

初めに感じたのは、熱さ

次に感じたのは、形容し難い、しかし確かな美味

そして、喉を滑り落ちる液体の冷たさ

間もなく襲い来る、思考すら融かすような凄まじい酔い

最後に、多幸感

 

気付くと俺は、その盃を空にしていた

 

「…えっ、あれっ」

「ふふ。そうだろそうだろ、美味いだろ私の酒は」

 

ふわふわとした頭で、すぐ隣にあるドヤ顔の勇儀さんを眺める

すると、手の盃に重み

 

次の一杯が注がれている

 

無意識にそれを口に含む

 

今度は、目が覚めるような冷たさ

それから巡り変わる様々な果実の香り

喉を通れば熱く、胃に落ちれば鼓動が早まる

思考は蕩け、ただただ幸福に包まれるような──

 

「はっ」

気付くと、俺はまた盃を空にしていた

「…ふふ。」

 

満足気な声が背から聞こえる

 

不思議と思考はハッキリしている

ふわふわと身体が浮くような感覚はあるものの、酒絡みでよく聞くような気持ち悪さとかは全く感じない

 

「これは……………」

「随分と気に入ったようだ。私も嬉しいよ」

 

寧ろ怖くなった。

俺が飲んでいたのは本当に酒なのか?

麻薬かなにかではないのか?

 

少しだけの沈黙、そしてゆっくりと彼女は口を開く

 

 

「…今日は、ありがとうな。よく頑張ってくれたよ、ホント」

「え、あ、はい。どういたしまして…?」

 

急に素面のトーンに戻るものだから、それでその声があまりにも優しかったものだから、驚いてドモってしまう

 

「あんな事があったのにこんなに強くなって、萃香のヤツの奥義まで引き出した。本当にスゴイよ、アンタは」

 

わしわしと乱暴に頭を撫でられる

 

「俺は、出来ることをしただけですよ。あと負けたくなかったので頑張っただけです」

 

「それがスゴイ、って話だよ。口に実力が伴うヤツは多くないんだ、そんでアンタはその多くないヤツだ。だから素直に喜んどきなよ」

 

「…はい。」

 

努力を認められることの、なんと嬉しいことか

大会の終わり際にも萃香さんが言ってくれたけれど、やっぱり有難いことだな、と思う

 

「よし。私の用件は終わりだ、多分一鬼にも言われただろうけど、めいっぱい楽しんでいきなよ」

「ありがとうございます、勇儀さん」

 

ひらひらと手を振って離れ、喧騒の最中に殴り込む勇儀さん

改めて、鬼といういきものの鑑のような人だなと思う

 

ただただ、楽しい空間。いい気持ちだ

善いヒト、好い料理、良い酒

あぁ、頑張ってよかった

 

 

 

そんなことを、酒に浮かされたアタマでぼんやりと考えていた時だ

 

 

ふと視界の端に、ウェーブのかかった金髪が映った気がした

 

 

 

もしかして、と立ち上がり、追い掛ける

 

 

 

 

覚束無い足元に微かな苛立ちを覚えながら、懸命に足を動かす

 

 

 

 

 

影はゆらゆらと、不規則に揺れながら暗い回廊を進んでいく

酔いがそう見せているのか、実際にそうなのかは分からない

 

 

 

 

 

俺はただ、ひたすらに追い続けた

 

 

 

やがて影は、館の真裏に当たる縁側で足を止めた

外から差し込む偽りの月灯りに照らされて、その金色はいっそう美しく映える

 

 

 

「久し振り、氷雨。」

「……うん、久し振り」

 

 

振り返った影──パルスィは、どこか居心地悪そうに、苦笑した

 

 

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