東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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12章 -秘めた想いと地獄のヒトビト- 中編

 

 

 「よかった。見付けてくれて。」

「………うん。見付けられて、よかった」

 

 「アンタ、凄かったみたいね」

「そうらしい、ね」

 

ぎこちない会話

 

空いた時間がそうさせるのか、それとも

 

「「あの、」」

 

同じ言葉が、同じタイミングで飛び出す

 

なんだか面白くなって、お互いに笑ってしまう

 

 「なによ?」

「いや、うん。無事で良かった」

 

  「あら、そんなに心配してくれてたの?」

 

軽く煽るような、そんな言い方

普段なら気にもしないような

 

でも、今の俺には効く言い方だった

 

 

「心配ッ、、、したよ。あれから一度も連絡無いし、誰からも何も言われなかったし、最後に見たのは弱りきった姿だったしっ…」

 

言葉が溢れる

 

「ちゃんと助かったのかとか、俺のチカラが悪く作用してないかとか、もしかしたら、俺の対処は、間違ってたんじゃないかってっ」

 

  「…うん。」

 

気持ちが零れる

 

「怖くて、だから、必死に遠ざけようとして、でもどうしてもアタマから離れなくて、ずっと怖くて…」

 

  「……うん。」

 

堪えていたものが、流れ出す

 

「だからっ………ずっと、あれからずっと、心配して。もう気が気じゃなくて、だから必死に努力してアタマの端に押しやるしかやりようがなくて。」

 

  「…うん、そうね。」

 

見ないように、考えないようにしていたことが、今更になって

 

「だ、から、、その………」

 

感情が、濁流になって押し寄せる

それを何とか言葉にしようと努力して

 

でも、上手くカタチにならなくて

 

何を言いたいのか、よくわからなくなって

 

せめて、と。

ひどく滲む視界を、どうにか前に向ける

 

その目に映ったのは、慈しみに満ちた、驚くほど優しい笑顔

 

なんだか、とても安心して

考えるよりも先に、足が、腕が動いて

 

次の瞬間には、彼女を抱き締めていた

 

  「ゴメンね、心配かけて」

「…うん。」

 

体温を感じた

 

鼓動を感じた

 

香りを感じた

 

間違いなく、ここに居ると確かめて

 

心の底から、安堵した

 

  「ありがと、ね」

「…うん。」

 

しかたないな、とでも言うように

あやすように、彼女の手が俺の背を優しく叩く

 

 

 

 

  「私、さ。実は惚れっぽいの」

「そうなんだ、意外」

 

縁側にふたり、隣合って座り、外に足を投げ出す

 

パルスィは、その重みを俺の肩に預ける

 

  「昔ね、アンタとは正反対の、真っ直ぐな奴がいてさ」

「うん。」

 

  「信じられないくらい真っ直ぐで、バカで鈍臭くて、不器用でニブくて、でも底抜けに明るくて、誰の事も疑わずに信じ切ってさ」

「うん」

 

  「だからすぐに皆に好かれたし、誰からも信じられて、当然というか、それは私も例外じゃなくてさ」

「うん」

 

はぁ、と大きなため息が聞こえる

 

 「でもさぁ、アイツは最初っから萃香のことだけが大好きで、初めの頃は鬱陶しがってた萃香も、修行を積んで強く逞しくなっていくアイツに惚れて。」

「うん」

 

  「それで、いつしか誰からも祝福されるバカップルになっちゃったりして、でもそれを見て私は、嫉妬するよりも諦めが先に来ちゃってね」

「そっか」

 

深い深いため息

バカみたい、と小さくつぶやく声が聞こえる

 

  「ねぇ、知ってる?”能力”って、自ら否定すると弱くなるのよ」

「初耳。」

 

  「うん。だからね、きっとそのくらいの時から、私は少しだけ弱くなっちゃったんだ」

「そう、なんだ」

 

ぐりぐり、と頭を擦り付けられる

優しく撫でてあげた

 

  「その前には、短命なただ普通なだけの人を、その前にも、叶わないし叶えるつもりも無い恋を、何度かしててさ」

「うん」

 

  「だから、今回も私は、また間違ったのかなって、不安になって」

「うん」

 

  「…だから、その隙を狙われちゃったのかな。あんなことになっちゃった」

「………」

 

 「霊夢に聞いた。アンタ、あの戦いで命を削ってスペルを強化する、なんて方法を身に付けたんでしょ」

「……うん」

 

  「ホント、馬鹿。そんな事して誰が喜ぶってのよ」

「…スミマセン」

 

はーぁ、と今度は、呆れたようなため息

けれど、すぐに小さな笑い声

 

  「とはいえ、私の為、と、生き残る為だもんね。その場で死ぬよりはマシだし、仕方なかったんじゃないかしら」

「…うん。間違えたとは思ってない」

 

  「そうね。」

「うん」

 

  「でもさ、お願いだから、自分の命くらいは大事にしてよ」

「……はい」

 

ぎゅっと、袖を握られる

 

悪いことをしたな、と思う

自分のせいで命を削らせた、とか考えてそうだし

 

 

 

……

 

「でもさ、俺は、それで救えるならいいと思うんだ」

  「…え?」

 

「仕方無かったし、何をしてでも俺は君を救いたかった。だから命を削って、戦って、それで結果はちゃんと伴った」

  「うん…」

 

「霖之助さんは言ってた、この幻想郷には危険が溢れてるって。だから多分、この先も何度か、命を賭して戦いに臨む事かあると思う。」

 

  「……そう、かもね」

 

少し深く、息を吸う

 

「だから、俺はその度に、自ら命を削るかもしれない。もしかしたらそれで、見知らぬ誰かのために命を落とすかもしれ ない」

「……っ」

 

震えを、感じる

 

「でも、それで誰かを救えたら、いいと思うんだ」

  「ば……ッかじゃないの…」

 

腕を抱かれる

震えと、早まった鼓動を感じる

 

「だって、俺なんか

  「なら!!!」

 

言いかけて、割り込まれる

 

  「なら、私の為に、生き延びてよ…っ」

「………え、っと?」

 

 振り向くと、すぐ側に彼女の潤んだ瞳があった

 

  「アンタはもう、居なくていい存在なんかじゃないの。他の誰がどう言ったって、私が、私だけは、絶対に…ッ!」

 

「……うん、そっか」

 

微笑んで、額を当てる

 

  「なにが、そっか、よ。」

「いやさ、俺は本当に、パルスィに好かれてるんだなって思って」

  「うっ…………」

 

パッと離れて、気まずそうに座り直す彼女

俺は、考え方を改めないといけないようだ

 

「分かった。俺は、ちゃんと生きる。生きる為にこの命を遣うよ」

  「……………分かれば、いいのよ」

 

ふい、とそっぽを向く彼女を眺めて、心が暖かくなるのを感じる

あぁ、やっぱり、このヒトと過ごす時間は好きだ

 

 

「なぁ、あれから、どうしてた?」

  「…あれから、か。特に何も」

 

「あー、えっと、なんか悪影響とか、出なかったかなって」

  「……ふふ、そうね。アンタの夢は沢山見たわ」

 

「…………そうっすか」

  「冗談。いやホントではあるけど、別に異常をきたしたりはしなかったわよ。安心しなさい」

「……………よかったぁ……」

 

長い長いため息

よかった、悪い影響が出なくて本当に良かった

 

  「あぁ、でも。」

「…何かあったんすか」

 

  「うん。強いて言えば、前よりチカラが増したみたい」

「えっ」

  「ほら、アンタの遣う”神氣”ってやつ、あれが私に少し流入して、私の妖力と混ざって変質した、とかなんとか。」

「シンキ…?」

  「……え?」

 

その名前を聞いたのは、初めてだった

俺が生命力を込める、と認識して遣うチカラは、そう呼ばれていたらしい

どうやら俺の核にはまだ霊力を生み出す能力が残っていて、それと焔の妖力をいい感じに調和させるとソレになるんだとか

 

 

「でも、それなら良かった」

  「ええ。アンタのお陰で、私はまた強くなれた。感謝してる」

 

言いながら空に目を向ける

とても自信に満ちていて、力強い眼差し

 

よかった。本当に元気になったんだ

実感して、ほっとする

 

やがて彼女はこちらを向いて、初めて、屈託の無い笑顔を見せてくれた

 

 

 

 

長い再会を済ませて、打ち上げ会場に戻る道半ば

パルスィはおもむろに口を開く

 

  「そういや、今ってアンタ含めて何人こっちに来てるんだっけ」

「んー、と。6人?かな」

 

一鬼さんと、俺の知る3人と、人里に居るらしい十色って人

俺も合わせて6名、パーティでも組めそうだ

 

 「…多いわね。香霖堂に行ったなら聞いてるだろうけど、ここまでの人数が分断されず同じ時間軸に居るなんて…」

 

「まあ、確かに…?」

  「うーん…強くなる見込みが無い?……それとも…」

 

パルスィは考え込み、歩みを遅くする

 

 

まぁいいか、分からないことは考えても仕方ない

 

 

今は、ただこの時間が長く続くことを喜ぶことにしよう

 

 

しばらく歩いて、喧騒が近付いてきて、俺たちは顔を見合わせる

 

 

 

「行こっか」

「ええ。一緒にね」

 

意を決して、二人で大きな襖を開く

 

 

その夜は、今までのどの夜よりも長く、楽しく、思い出深いものになった

 

 

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