東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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13章 -束の間の二人旅-

 

 

 

紫さんの指示で旧地獄を発ち、大穴をただひたすらに昇る俺たちは、道中を雑魚妖怪や謎の瘴気のようなものに阻まれながらも、なんとか無事地上へと辿り着いた

 

久しぶりに見る本当の夜空は、当然だけど地獄で見た仮初のそれよりも美しくて

 

俺はなんだか感動して、暫くぼうっと空を見上げていたのだった

 

 

 

「にしてもさっきの瘴気、なんだったんだろ。不思議な感じの妖力だった」

「私にもよく分からなかった。けど……いや、まさかね」

 

 

考え込むパルスィの横顔を眺めながら、これからのことを考える

旧地獄の上は、地下間欠泉センターと呼ばれているらしい

そこから香霖堂へは大きく3つのルートがあるようだ

 

 

 

ひとつ、高く高く翔んで直線距離でひた走るルート

でもこれはボツにした。味気無いし、長時間の飛行にも自信が無いし、何より正確な方角が分からないと土台無理だからだ

 

 

ひとつ、魔法の森を突っ切るルート

これは前述と同じ理由でボツになりかけたが、パルスィの一言で反転。有力な候補となった

彼女が道を知っていると言うからだ

 

 

ひとつ、森を避けて霧の湖側を歩くルート

どうやら香霖堂は、魔法の森の中でも比較的外側に位置しているらしい

なので森の縁を歩いていくとそのうち見えるというのだ

以前魔理沙と行った時は、そんな風にはとても見えなかったが……

 

 

結果、選ばれたのは3つ目の森の外ルートだった

理由はふたつあって、森の中をただ歩くのは退屈なのと、常に物陰に注意を払い続けるのは心身ともにしんどそうだったからだ

 

 

 

そんなわけで俺はパルスィと二人、魔法の森の縁をゆっくりと歩いている

特に会話はないが、これは気まずいとかそういうのじゃない

……と、思う。たぶん。

 

俺は、湖が綺麗だなぁと眺めていた

妖怪の山の麓に広がる霧の湖は、名前に反して霧に鎖されるのは昼間のみであり、夜間─つまり今はその全貌をさらけ出している

 

 

事前に聞いていたよりは小さく見える

しかし湖と呼ぶに相応しい広さのそれは、紅い月に照らされて妖しく輝いており……

 

…………紅い月?

「氷雨ッ!!!!」

「うおっ!!?」

 

パルスィに突き飛ばされ、反射的に受身をとる

直後、俺が先まで居た場所に深紅の稲妻のような槍が突き刺さった

 

 

?「残念、もう少し呆けていたら当たっていたのに」

「レミリア!何のつもり!?」

 

「…あれが、レミリア・スカーレット…」

 

俺が月の光と勘違いしていたのは、彼女が放つ眩い紅の妖力だったようだ

 

レミリア・スカーレット

血のように紅く鋭い瞳

青白いウェーブのかかったセミロングの髪

幼げな、しかしカリスマ性を感じさせる顔付き

少女のような体格と、それに見合わぬ大きな翼

 

衣服は、名に恥じぬ薄桃色の立派なドレス

あとなんだか不思議な帽子を被っている

 

 

紅魔館という館の主であり、この幻想郷でも指折りの実力者でもあり、<運命を操る程度の能力>というなんとも掴み難い力を扱うんだとか

 

つまり、この重苦しい妖力の圧は能力に関係の無い本人の実力ということだ

 

 

 

レミ「咲夜が言うから出向いてやったけど、現れたのはただの人間モドキだなんてね。あとでお仕置しておかなくちゃ」

 

「失礼な。俺はれっきとした人間だぞ」

パル「それはいいとして、なんの用?紅魔館の主サマが私たち程度のために出張ってくるとは思えないけど。」

 

……それはいい、だって。少し悲しい

 

レミ「アンタのことは見飽きてる。そこの人間モドキとは一応初めましてだから、まぁ軽く挨拶でもと思っていたのよ」

 

パチン、とレミリアが指を鳴らす

同時にパルスィが臨戦態勢に入り

 

パル「氷雨、気をつ

 

次の瞬間には、消えていた

 

「…パルスィは、どこに?」

「あら、この状況で答えると思って?」

「…………だよな。」

 

改めて、眼前の"敵"を見据える

朧気で掴みどころのない幽々子さんとも、力強く荒々しい勇儀さんとも違う、絶対的な自信を感じさせる安定した妖力だ

 

「やろう、焔」

『ええ。吸血鬼の一匹程度、我らの敵ではありません』

 

 

俺は静かに刃を抜き放ち、"敵"に真っ直ぐ向ける

 

「ふふ、悪くないわね。せいぜい楽しませてちょうだい?」

 

───[壱式・劫火]

神槍[スピア・ザ・グングニル]───

 

 

 

 

─パルスィside─

 

けてっ!!…って、あれ?」

 

「申し訳ありませんが、お嬢様の邪魔になるといけないので場所を移させていただきました」

 

目の前にいるのは、十六夜咲夜

場所は…どこだろう。見覚えがない

というか何も無い。薄暗い無機質なだだっ広い空間だ

 

どうやら私達はうまく嵌められたらしい

向こうのことは少し心配だけど、仮にも紫が目を付けた人間だ

危うくなったらなんとかしてくれるだろう

 

「そう。で、私はどうしたらここから帰してもらえるの?」

 

「特に、何も。お嬢様の気が済むまでお連れの方を隔離しろとの命令なので。」

 

「…急ぐ場合は?」

 

「それはまぁ、実力行使でもしてみてはいかがです?」

 

「じゃあ御言葉に甘えて。......覚悟、しておきなさいよ」

 

「…フフ。何を覚悟すればよいのでしょう?」

 

幻符[殺人ドール]───

 

───妬符[グリーンアイドレディ]

 

 

 

 

─紫side─

 

「どうしてこうなったのかしら……」

 

次元の狭間で私は、現状を把握して頭を抱えていた

 

氷雨とレミリアでは流石にまだ地力の差があり過ぎる

とはいえ簡単に助け舟を出してしまうと氷雨のためにならないし、最悪レミリアの能力でいろいろと捻じ曲げられてしまう可能性もある

 

様子を見守りながら限界まで粘らせるのが最良の手ではあるのだが、どうしたものか

 

パルスィの様子も確認してみる

良かった。向こうは大丈夫そうだ

 

例の一件で瀕死にまで陥ってしまったから心配していたけど、どうやら以前よりずっと力を増しているみたい

 

あの調子なら、咲夜が本気で殺しにかからない限りは問題ないだろう

 

少し考えて、とりあえずは様子を見ることにした

レミリアは確かに強いが、一方的な戦いを好むタイプではない

まずは氷雨の実力を測ろうとするはずだ

 

仮に手を出すにしても、その後でいいだろう

氷雨もタダではやられないだろうし

 

 

 

……だろうだろうって、楽観が過ぎるかしら、なんて。

自嘲して私は、自分の作業を進めることにする

 

今回の計画の見直しが少しと、今後に向けて必要な道具の準備と、もしまた道順から外れた場合のカバーストーリーと

 

 

やれやれ、今回も私は大忙しだ

でもこの世界を守るためだもの。仕方が無い

 

ひとつ小さな溜息をついて、前を向く

 

「頑張ってね、可愛いニンゲンたち。大いに悩み、苦しみ足掻いて、私たちの望む未来を勝ち取ってちょうだいな」

 

虚空に呟き、スキマを開く

 

行き先を誰にも知らせぬまま、私は一人、裏方の作業に戻るのだった

 

 

 

 

 

─十色side─

 

「これでヨシ、と。薪屋のおっちゃーん!出来たよー!!」

「おう!ありがとな、ってこりゃ別嬪さんだァ!どんな魔法を使ったんだい?」

「バっカだな〜、ワタシはいつも筆しか使ってないよ!てーかおっちゃんも見てたろ?」

「そりゃそうだ!でもあんまりに出来がいいもんだからよ。家内も喜ぶだろうし、こいつはオマケってことで受け取ってくれや」

「こりゃありがてェや!毎度あり!」

 

一仕事終えて、提示よりだいぶ多い代金を受け取った私は、上機嫌で買い物に出かける

 

 

仕事というのは似顔絵屋だ

たまに風景画とかも頼まれるけど、今日みたいに身内や自分自身を描いてくれって依頼の方が多い

 

「やぁ十色ちゃん!いい天気だね!」

「八百屋のおばちゃん!腰は大丈夫かい!」

 

「おー十色ちゃん!今日も色っぽいねぇ!」

「肉屋のおっちゃん!やめなよまた奥さんに…\ゴンッ!/あーあ」

 

 

今日も人里は平和そのものだ。

優しい人達に豊かな自然、美味いメシに広い寝床、元いた場所より何万倍も幸せに満ちている

 

たまーにはぐれ妖怪が出るけど、けーねセンセがだいたい何とかしてくれるから気にもならない

本当にいい場所だなぁ、と噛み締める

 

「お、森近のにィちゃん!画材売ってくれよ!」

「やぁ画家さん。一通り揃えてあるから、必要なものを買っていってくれ」

 

 

今日は月に一度、香霖堂の霖之助さんが物売りに森から出てくる日だった

私はいつものように減ってきていた画材やら、珍しい食材やお菓子やらを選んで代金を手渡す

 

「うん、ピッタリだね。毎度どうも」

「こちらこそだよ!画材が無きゃ始まらないから助かってるんだ。来月も頼むよ!」

 

その後、茶屋でちびっ子共と戯れたり、寺子屋の様子を覗いたりして、満足した私は帰路につく

 

本当にいい場所だ。願わくばこの平和が、いつまでも続きますように

 

 

夕焼け空にそう祈りながら、私は今日もここで生きていく

明日も、来週も、その先も

 

「そういやこないだ描いた男の子、元気にしてるかなぁ」

 

そんな彼女もまた、いつかくる出会いに思いを馳せていた

 

 

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