雲ひとつない晴れ渡った夜空
青白く輝く月の下で、蒼と紅が眩い閃光を伴って何度も交差する
「人間モドキ風情が、案外戦えるじゃない?」
「そりゃどーも……ックソ、なんつー重さだよ」
こちらは実体を持つ刀に妖力を纏わせている
対して向こうは全て妖力で形作った不定形の槍
打ち合えば此方が有利なはずなのに、押し負ける
彼女が振るうそれは、俺の知るモノとそもそもの妖力密度が違い過ぎる故か、異常なほどの硬度を誇っていた
「でも残念ね。私、まだチカラの2割も出してないの。アンタはどう?今ので必死なのかしら」
「ッ……いや、まだまだ。」
強がってみせるが、これ以上を引き出すには準備と覚悟が要る
「そう?ならもう少しチカラを込めてもいいのかも。ね?」
「ッ!?」
言うや否や、目にも留まらぬ速度で投擲される"紅"
その軌道は微かにズレており、俺に当たることはなかったが
見送って彼女へ向き直ると、既に彼女の手には二本目が握られていて
「……マジっすか」
「次よ!」
微かな殺意を込められた"紅"が、今度は正確に俺へと投擲された
ただ、狙いが正確ということは軌道も絞られるわけで。
いくら硬かろうが、手を離れてしまえばそれはただの棒でしかなく、それが分かれば対処も簡単だった
「…………ッラァ!!!!」
対処とは、つまり
バッティングの要領で"紅"へ"焔"をフルスイングすることだ
「な、にを…!?」
穂先を真芯に捉え、その瞬間に出力を引き上げる
自身の膂力と妖力の炸裂による推進力を合わせれば、彼女の尋常ではない威力の投擲にも対抗することが出来る
両断された"紅"は湖面と空で同時に砕け、甲高い破裂音と共に消滅し
「……いいじゃない。」
図らずもその音は、結審を示すものとなってしまった
「…何がだよ」
「見くびってた。認めるわ、ヒトモドキにしては、アンタは強い方よ」
先までの不遜な態度はどこへやら
彼女は唐突に言葉を翻した
「名前を聞いてもいいかしら?」
「…………ヒサメ。神凪 氷雨だ」
「カンナギ………ヒサメ…?
───ああ、そう、そういうことなのね」
「???」
ひとりで納得したように頷くと、彼女はその手に"紅"を握り直す
「であれば、もう少し試す必要がある。"6番目"を使いなさい」
「6番目…?……俺は…」
使えない、と口に出しかける
けれど迂闊なことは言えない
彼女の纏う妖力は、先程までとは全く違うものになっていた
眩く湧き上がるようだったそれは、今は静かに、しかし確かに厚く力強く彼女の身体を包み込み、微かに拍動しつつ、解放の時を待ち望んでいるかのようで
「………………ッ………」
返答を間違えれば死に直結する。そう思わせるほどのモノだった
───しかし沈黙は、言葉よりも雄弁に真実を語る
"できない"事を悟った彼女は、小さなため息とともに視線を逸らした
「……そう。やっぱりアンタは違うのね。なら、死んでおく方がきっと幸せだわ」
「何を言ってるんだ?」
「言葉の通りよ。アンタはこのままだと、悲惨な末路にしか辿り着けない」
本当に、なんのことだか分からない
悲惨な末路だって?
こんな道半ばで殺される方が、よっぽど惨めだろうに
「…とりあえず、殺す気なのはわかったよ」
「あら、そう?じゃあ大人しく死になさいな」
真祖[SCARLET.]───
"紅"が変質する
もう荒ぶるような眩い輝きは感じ取れない
血のような紅い妖力のカタマリが、ただそこにあった
一目見て、分かる
アレに触れたら、跡形もなく消し去られると
考えなければ
考えろ
生き残るために
──────永遠にも思える一瞬の後に、彼女は翼を広げ
次の瞬間には、目の前に居た
「…ここだッ!!」
紅の閃光と、"白い"閃光が交差する
その更に次の瞬間、彼女─レミリアは、天を仰いでいた
「─────────は?」
大きく息を吐き
2度大きくバックステップして距離をとる
「──嵌めたわね?」
「ああ。通じてなかったら死んでたところだ」
彼女はゆっくりと起き上がり、恨めしそうな、しかしどこか愉しげなカオでこちらを見る
利用したのは、〔決闘舞台〕と[炯眼剣]だった
〔決闘舞台〕の即時展開でレミリアの攻撃を『ただの武器による近接攻撃』へと陳腐化し、間髪入れず[炯眼剣]を手動で発動する
タイミングさえ合えばあらゆる近接攻撃を無力化できる[炯眼剣]は、〔決闘舞台〕の中で発動できれば異常な強さを誇る
思いついたはいいものの、彼女の攻撃に間に合うかが不安だった
冷や汗と、無駄に強く跳ねる心臓を無理やり押さえつけながら、覚悟を決める
ここからは根性と技量の勝負だ
「さぁ、第2ラウンドといこう」
「いい度胸ね。乗ってあげるわ」
─??side─
そんな激闘の様子を見つめる少女が物陰にいた
長い前髪の隙間から覗く夕暮れ色の瞳は、不安げに揺れている
「…あれが、そうなんだ。きっとそうだ。ど、どうしよう……助けた方が…いやでも………」
自信なさげに呟く声には幼さが残る
「もうちょっと……あと少しだけ、様子を見てみようかな………」
視線の先には半透明のドームの中で白刃を振るう男がいて、それは素人目に見ても優勢とは思えない
少女には確かに彼を救う手段があった
しかし主から事前に手を出すなとも言われていたので、それを破る勇気もなくただ見つめているに留まっている
主というのは、視線の先の彼と戦っているレミリア・スカーレットその人である
命に背いたら最後、どんな仕置をされるやら
でも救える命は救いたい
けど居場所を失ってしまったらどうしよう
でも彼はきっと私の知る"彼"だから、死んでほしくない
けど、でも、
逡巡していると、簡素な銀細工のイヤーカフから声が響く
『変な気起こさないように。後で機嫌とるのタイヘンなんだから』
心底嫌そうに言うのは図書館のパチュリーさん
彼女には良くしてもらっているから、迷惑はかけたくない
「でもさっき、すごい殺意を感じたんです。本当に大丈夫なんでしょうか」
『だーいじょうぶよ。あの子、そういうの得意だから。そうやって本気を引き出して遊ぶの。』
「そう……ですか…。」
本気のような殺意を発して応えさせる。
全くわからないとは言わないけれど、それにしたってもうちょっとやり方があるんじゃないかと思う
…彼が展開したアレはたぶん、この間見せてもらった紫様謹製の魔道具だ
であれば命に危険は無い………はずなんだけれど、胸騒ぎが止まらない
小心者だから、と言われてしまえばそれまでだ
それでも、私のこの直感は今まで何回も私を助けてくれたものだから、無視はしたくない
「………すぅ………………はぁ………よし」
ゆっくり深呼吸をして、意を決した
ごめん、パチュリーさん
やっぱり私が、彼を守らなきゃ
ゆっくりと立ち上がると、イヤーカフからの声が大きくなる
......少し耳が痛い
私は懐から、自らの得物を取り出す
それは簡素な革の鞘に納められた短刀であり、"こちら"に来てから紫様に貰った大事なものだ
「ごめんなさい。やっぱり、助けます」
『やめなさいってば!!』
技の使い方はわかっている
あとは......結果を正確にイメージすること
鞘から短刀を抜き、両の手で中段に構えをとる
霊力の流れをコントロールして、両手から短刀へ注ぎ、刃先が揺らぐのを確かめる
「...お願い。上手くいって...!」
次の瞬間、空中に袈裟斬りを繰り出した彼女は、その場から姿を消した
じぐざぐに切り裂かれた、小さな"スキマ"を残して
いつも読んでくださりありがとうございます
ここから先は執筆中で、更新は疎らになると思います
申し訳ないのですが、気長にお待ちいただけると幸いです