東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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3章 -その男、博識- 前編

 

 

「あのですね魔理沙さん」

 

「ん?どうした?」

 

「急発進ってほんと心臓に悪いからやめてほしいんすよ」

 

「お前叫んでたもんな、おちるーとか」

 

 

悪いか。あんなロケットスタートされたら誰だってそうなるわ

 

 

「でも、向かい風すら感じないのは凄いな。こんな速度で飛んでるのに」

 

「それも、私の魔法のお陰だぜ」

 

 

この世界の魔法ってのはかなり自由度が高いようだ

軽く時速100kmくらいは出てそうなのに、風も揺れも感じない

 

 

「さーすが魔理沙さん。で、香霖堂とやらにはまだ着かないの?」

 

「あぁ、もうすぐだぜ。ほらあそこだ」

 

 

そう言って指差す先、森の中に1箇所だけ開けた所がある

よく見るとその真ん中にぽつんと1軒、大きめの家が建っていた

 

そこに俺達は向かっているのだが、凄まじい速度で近付いているのに一向に減速しない

 

 

「場所はわかったけど、いつ、止まるんですか!魔理沙さん!!!?」

 

どんどん近付く家

あと三秒もあれば衝突してしまう、というところで

「勿論、今だぜ!」

 

急減速。玄関と思われる場所から3m程のところに俺達は着陸した

 

「だから!急な加減速は!!やめろって!!!」

 

「霖之助〜入るぞー」

 

「話を聞いてくれ…」

 

 

俺の訴えをガン無視して家に入っていく魔理沙

仕方が無いので俺も続いた

 

 

 

「おーい霖之助〜?居ないのかー?」

 

 

玄関を開けるとそこには、所狭しと並べられたよく分からない品物たち

雑貨屋なのだろうか

 

「居ないなら適当に持ってくぞーいいのかー?」

 

「え、いやそれは不味いんじゃないの?」

?「駄目に決まっているだろう!?ちょっと待っててくれ!」

 

唐突に奥の方から聞こえた男性の声

それから少しうるさい物音と駆けてくる音

そして俺達を迎えてくれたのは

 

 

「全く、今日は何の用だい?」

 

銀の短髪に黒縁の眼鏡、それから…なんと表現すべきか、青と白を基調とした少し着崩した着物みたいなものを着た優しそうな人だった

さっきから呼んでいる霖之助、というのはこの人なのだろう

 

 

魔「ッチ居たのか。今日は私じゃなく、コイツの用事でな」

 

霖「こら、舌打ちが聞こえたぞ。キミは?」

 

魔理沙が俺を指差し、ようやく彼は俺の存在に気付く

 

 

「どうも初めまして、神凪 氷雨といいます。先日この幻想郷へ来たばかりで、着るものに困っていまして」

 

霖「成程ね。これはご丁寧にどうも、僕は森近 霖之助だ。着るもの、ではよく分からないが…ふむ、差詰め魔理沙の提案で白玉楼にでも行こうとしたけど、運動に適した服を持ってない事に気付いてここへ立ち寄った、というところかな?」

 

魔「流石霖之助、話が早いぜ」

 

霖「彼の服装と腰の刀を見ればその程度はね?」

 

 

彼の視線がこちらへ向いていた時間はそう長くないはずだが、それでもここまでしっかり把握出来るのは流石と言ったところだ

 

 

魔「あ、お代は勿論ツケで頼む。」

 

霖「はぁー……そうだと思ったよ…」

 

 

…彼の洞察力は凄かったが、しかしだいぶ苦労してるみたいだ。

魔理沙が勿論とか言ってるし、もう何件もツケになってるんだろうな…

 

「そんなところですが、こちらへ来たばかりで俺はマトモな通貨も持っていません。不可能ならそれでいいのですが、可能であれば彼女の言う通り、支払いは後日また改めてという事にさせてもらえませんか?」

 

霖「ま、僕が渋ったせいでキミが死んでしまっても寝覚めが悪いしね。今回は彼に免じてタダにしてあげよう。彼の服だけはね。彼の服だけは。」

 

魔「流石霖之助!!」

 

霖「彼の服だけだからね!魔理沙の分はダメだからね!」

 

魔「しょーがねーなぁ」

 

ここまで来ると非常にタチの悪い開き直るタイプの強盗みたいだが、それはともかく俺は服を貰えるらしい

 

 

「本当にありがとうございます。この借りは必ずいつか返しますので」

 

俺は深々と頭を下げた

…ん?死んでしまっても?

 

「それはそれとして、俺が死ぬとかってどういう?」

 

霖「あぁ、外の世界は平和なんだろうが、この幻想郷ではそこかしこに危険が潜んでいるんだ。人を襲う妖怪は勿論、有害な瘴気に溢れている所もある、一人でふらふらと出歩くのは感心しないかな」

 

「そういや俺も、いきなり襲われたんだっけ…」

 

魔「そこを私が華麗に助けてやったんだぜ!」

「諸共巻き添えにしてね。」

 

 

 

 

霖「なんだって!?」

 

彼は目を見開いて身を乗り出す

実は結構おおごとだったのかも

 

魔「…墓穴を掘ったぜ…」

 

霖「話を聞かせてもらおうか?」

 

「そうこの魔理沙さんが軽率にマスパして全部消し飛ばしたんですよ霖之助さん」

魔「いやほら、私は早く助けようと思ってだな!つい手が滑ってマスパしちゃったんだぜ!!」

 

 

 

霖「…後でお説教だからね、魔理沙」

 

魔「はい… 」

 

霖「ん?ってことは氷雨君は、魔理沙のマスタースパークに巻き込まれても無事だったのかい?」

 

「え?あー、そうなりますかね?気は失いましたけど」

 

魔「おーい霖之助、それより服だよ服。私達は服を貰いに来たんだぜ」

 

霖「貰いにって…まぁそうだね、その件については後にしようか。氷雨君、採寸とかしちゃうから奥へどうぞ」

 

「はーい。魔理沙、これ預けるね」

 

魔「ん?あぁわかった。」

 

魔理沙に刀を預けて霖之助さんについていくと、店の奥の生活スペースのような座敷へ通される

後ろで声が上がった気がしたけど、さて?

 

「ちょっと汚いけど気にしないでくれ。とりあえず上着を脱いでくれるかい?」

 

とは言っても俺は白シャツにスラックスの学生服スタイルのままである

シャツ脱げばいいのかな、と思いそうしてみると

 

「あぁごめん、上全部だ」

 

「あっはい」

 

スラックスのみというちょっと妙な状態で、霖之助さんに採寸を任せる

 

「よし、終わりだ。服と、ついでに防刃の効果がある下着も用意しようと思ってね」

 

「なるほど…わざわざありがとうございます」

 

「いいってことさ。しかし、肉付きは悪くないが筋肉は薄めだね。そこそこ運動はしているけど鍛えてるってほどではない、ってところかな」

 

「そうですねー、いろいろやってみてはいるんですがなかなか続かなくて」

 

「わかる…そんなものだよね、でもこれからはもっと鍛えた方がいいよ。身を守るためでもあるし、それに──

 

言いかけて霖之助さんは視線を逸らし、苦笑して続けた

 

─女の子にも太刀打ちできないなんて、男としては悔しいだろう?」

 

服を着直し店側へと戻る

霖之助さんは倉庫から良さそうな服を探してくるらしい

その間は好きにしていてくれ、と言われたので俺は雑多に並べてある商品を眺めることにした

 

「魔理沙、ただいま」

 

「おぉおかえり、大丈夫か?ヘンなことされなかったか?」

 

「いやヘンなもなにも男同士だし…」

 

「そうか、ならよかった。ほれ、返すぞ」

 

「ん、ありがとうね」

 

預けていた刀を返してもらい、腰に差す

それから俺達は店内の物色を始めた

 

 

 

「…なん……えっ……? これは…あの伝説の……なんだここ…」

 

そこには一発屋として名を馳せた系の小道具やそもそも売れずに消え去ったゲームや、その他諸々時代の闇に葬り去られたモノが沢山あった

 

「奇妙な品揃えだろ?でもたまーに掘り出し物があったりするんだよな」

 

「ここ幻想郷には、誰からも忘れ去られたようなモノが流れ着くのさ。その一部がここに並んでいる品々だよ」

 

いつの間にか霖之助さんは戻って来ていた

その手には服のようなものを持っている

 

霖「ほら氷雨くん、着替えてみてくれるかい?」

 

「ありがとうございます」

 

それを受け取ると、先程通された座敷の方で引っ込んで着替える

防刃のーってのはこの黒いTシャツだろうか。なんだか複雑な模様がうっすらと見える

それから黒い袴に群青の上衣…和風だ、コスプレみたいだ

腰の帯に刀を差し、二人の元へ戻る

 

魔「おぉ、なかなか似合ってるな」

 

霖「うん、いい感じだと思う」

 

「そうでしょうか…改めて元と違う世界なんだなって実感します」

 

霖「郷に入っては郷に従えってね。とはいえ君の先までの服装も通じないわけじゃないから、時と場合と好みによって使い分けてくれ。恐らくあの服は、東風谷の巫女になら伝わるんじゃないかな」

 

「コチヤ?とは?」

 

魔「あーあの緑色の巫女か。妖怪の山の上の神社にいるやつでさ、どっかの紅白とは違って礼儀正しいんだぜ」

 

霖「お世辞にも礼儀正しいとは言えない人が言うセリフじゃないと思うが、僕から見ても彼女はとても礼儀正しい子だったよ。どうやら外来人だったらしいが、今ではすっかり馴染んでいるね」

 

「へぇ…他にもいるんだ、外来人」

 

魔「そうじゃないと、そもそも外来人って呼称が付かないからな」

 

「魔理沙が知的だ。すごいぞ外来人効果」

 

 

魔「お前もっぺんぶっ飛ばしてやろうか…?」

 

霖「そう珍しいものでもないよ。とはいえ紫様の裁量次第だから、僕達は受け入れる他無いんだけどね」

 

「その巫女さん以外にも、外来人ってのは沢山いるんですね?」

 

霖「…正確には居た、かな。どうやら力を持った外来人がここに訪れる度に、歴史が分岐していっているらしいんだ。あまりに強い外来人が多数、同一の時間軸にいると、パワーバランスが崩れてしまったり歴史に重大な歪みが生じてしまうらしくてね。これは人里の慧音先生に愚痴られた話なんだけど、紫様の指示でこれまでも何度も歴史を切り分けさせられたってさ」

 

「歴史を…分岐…?切り分け…?ケイネ…?とは?」

 

魔「簡単に説明すると、特定の条件下でのみ歴史を自由自在に切り貼りできる妖怪がいるって話だ。流石にスケールがデカ過ぎて私達にも正直よくわからんが、まぁそう愚痴ってるって事は恐らく事実なんだぜ」

 

霖「そういうこと。この世界では外の常識が通用しない。常識外れの能力を持つ人や妖怪、神様までもが無数に存在しているからね」

 

「既に訳分からんくなってきたんでとりあえず話は頭の片隅にでも置いておきますね…」

 

この短時間で情報量が凄まじい事になってしまっている

凄いな、幻想郷

 

 

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