東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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4章 -おいでませ白玉楼- 前編

 

 

「長い石階段だなぁ」

 

「ホントだぜ。絶対に徒歩では登りたくないな」

 

 

俺達は次の目的地、白玉楼に続くという道を飛んでいた

うっすら漂う霧、先が見えないほど長い石階段と、それに沿って並ぶ無数の桜の木々

 

そこをもう十数分は飛び続けていた

 

 

「ところで今回はあんまり飛ばさないんだね」

 

「この霧じゃ前が見づらいからな。どこまで続いてるかなんて覚えてないし、止まれずに激突とか勘弁なんだぜ」

 

「よかった。そのくらいの理性は残ってたんだ」

 

「お前、私をなんだと思ってるんだ?」

 

「それはそれとして、この箒の後ろにくっついてる物は?」

 

そう、この箒はそれだけで動いてるわけではなさそうだった

箒の後ろ側に手のひらサイズの八角形の箱のようなものが付いていて、それが推進力を発生させているように見えた

 

「それは八卦炉(ハッケロ)だ。簡単に言うと、私専用の魔法の杖みたいなもんだな」

 

「ほーほー、なるほどね。」

 

 

話していると、唐突に妙な圧力を感じた

同時に魔理沙が飛ぶ速度を緩める

 

「もうそろそろ、かな?」

 

「当たりだ。ここは何回来ても重っ苦しくて嫌になるぜ」

 

 

少しして霧の中から姿を現したのは

 

鉛色のとてつもなく巨大な門だった

 

「よし、さっさとぶっ飛ばしてやるぜ」

 

降りるなり八卦炉を門に向かって構える魔理沙

その手からぼんやりとした光が溢れ、八卦炉に注ぎ込まれていくのが見える

八卦炉から魔法陣のようなものが現れ、徐々に大きくなって

それが回転を始めると、魔理沙はゆっくりと息を吸い

 

 

恋符[マスター────

 

───すとーーーーっぷ!!!!」

 

突如として響く声

同時に魔理沙の目の前に人が一人降り立った

 

?「だから!なんで貴女はいつもいつもここで魔法を使おうとするんですか!!」

 

そう言い放ったのは、サラサラとした銀のボブカットに黒いカチューシャ、それから緑のワンピースのような服と、その腰の後ろに二振りの刀を差した女の子だった

年は...同年代くらいに見える気がする

 

魔「おー、今日は早かったな」

 

?「早かったな、じゃないですよ!普通に門を叩いてくれればいいのに、どうしてわざわざ壊そうとするんですか!?」

 

魔「んー?そりゃお前が大体飛んでくるし、来なかったらコイツで門を叩けてとりあえず手っ取り早いからだぜ」

 

?「そう、ですか…はぁ…全く貴女はいつもいつも、あれ、そちらの方は?」

 

 

魔理沙に怒り、呆れたように首を振ると、彼女はようやく俺の存在に気付く

 

「どうも、初めまして。最近幻想郷に流れ着いた者で、神凪 氷雨と申します。ここに剣の修行をさせる為に連れてこられたとかで…だよね?魔理沙」

 

魔「合ってるぜ。新しい外来人なんだが、どうも私の所とは相性が良くなくてな。お前に任せに来たんだ」

 

?「成程、そういう事でしたか 。私は魂魄 妖夢(コンパク ヨウム)、この白玉楼の使用人兼剣術指南役です。しかし珍しいですね?ひとところに2人も任せるなんて」

 

「2人…?」

 

疑問符を浮かべると、妖夢さんはこちらへ微笑み何かを言おうとした

しかし次の瞬間

 

?「ク・セ・モ・ノーーー!!!!!!」

 

上空から轟く声

慌てて見上げると、そこには木刀を上段に構えて降ってくる────赤茶色のジャージ姿の女の子がいた

 

「何者!?」

 

見るからにターゲットは俺に向いていた

ひとまず迎撃するために腰の刀を鞘ごと抜く

 

妖「ちょっ、なんでいきなり襲ってるの!?」

 

魔「というかこれ氷雨に直撃コースだぜ!」

 

「あーもうまったく…………」

 

落下の勢いも合わせて振り下ろされる彼女の木刀を、真正面から受けては被害は避けられない

そう思い俺は横薙ぎに叩き落とすことにした

 

?「せぇぇぇえええい!!!!」

 

「……ッ」

 

タイミングを合わせて彼女の木刀の真横から俺の刀を鞘ごとぶつける

そのまま叩き落とすことに成功するはずだった

のだが

 

グシャ

 

嫌な音がして木刀が根元からひしゃげ、砕ける

バランスを崩した彼女は、落下の勢いを殺せないまま俺へ真っ直ぐ降ってきて

 

「嘘でしょ」

 

衝突

 

その衝撃は、俺の意識を容易に引き剥がした

 

 

 

 

ーー

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、見慣れない和室に寝かされていた

広さは6畳ほどだろうか、右手には磨りガラス入の障子、頭側にはふすま、左手と足側には壁

障子越しに差し込む光は月明かりのそれと思われ、もう夜らしかった

 

身体を起こし、ゆっくり立ち上がる

それでも若干ふらついたが、倒れることはなかった

ひとまず外へ出てみようと思い、障子を開く

やはり縁側になっている

足元を確かめ、一歩踏み出して顔を上げると

 

「う、わ……」

 

満天の星空がそこにあった

今まで見ていた夜空とは比べ物にならない程に、どの星も眩く輝いている

 

そこから少し視点を下げると、月明かりに照らされて妖しく揺れる無数の桜の木々

更に視点を下げると、かなり丁寧に整えられた芝生があった

 

桜との距離は、遠い。ゆうに200mはありそうだ

おそらくその裏に塀があるのだろうことを踏まえると、非常に広い敷地を有しているのは想像に難くない

 

そんなことを考えていると、キィ と床の軋む音がした

反射的に振り向いて軽く身構えたが、そこに居たのは和装の女性

肩程までのウェーブのかかった薄桃色の髪に、フチに白いフリルが沿っている水色の着物を纏っていて、驚く程整った、しかしどこか幼さの残る顔立ちをしている

 

「あら…先客かしら?」

 

女性はそう呟くと、ゆっくりと歩いてくる

 

「貴女は───

 

言いかけた俺の唇を、彼女の人差し指が縫い留める

最後の数歩は、全く見えなかった

 

「…景色、楽しみましょう?」

 

こんなにいい夜なんですもの、と小さく付け足す彼女は微笑んでいた

どことなくあどけなさの残るそれに、俺は思わず見惚れてしまう

 

 

暫し惚けていると、彼女はきょとんとした顔をこちらへ向けてから縁側に腰を下ろした

俺も我に返り、その隣に腰を下ろす

…二人分ほど距離は空けた

 

「ここからの眺め、綺麗でしょう」

 

不意に、彼女が自慢げに呟く

 

「ええ、とても。今まで見た中でも一番です」

 

「そうでしょうそうでしょう。私のお気に入りの場所に、私のお気に入りの天気だもの。綺麗じゃないわけがないわ」

 

なんと、ここは彼女の特等席だったのか

知らずとはいえ邪魔をしてしまったようで、なんとなく申し訳なく思ってしまう

 

「それに、今日は話し相手も居ることですし」

 

「……あ、俺、ですか?」

 

 

「他に誰が───

 

言いかけると少し思案して、続ける

 

───いえ、そうね。沢山居るけれど、貴方のことよ」

 

沢山、居る?何が?

よく分からなかったが、ひとまず俺は邪魔者ではないらしい

こんな美人に歓迎されるとは、ツキが回ってきたのだろうか

或いは尽きてしまったのか

 

「光栄です。俺なんかで良ければ、いくらでも付き合いましょう」

 

「ふふ、嬉しいわ。有難う、優しい外来人さん」

 

見ると、彼女はこちらへ笑みを向けていた

可愛らしくも美しい笑み

思わず照れ笑いを返してしまった

 

 

……待て、外来人って言ったか?

 

「貴女は、俺の事を知っているんですか?」

 

「ええ、妖夢から聞いているもの。不思議な妖刀を携えた、蒼い眼の男の子のお話」

 

蒼い眼だって?そんな筈はない、俺の眼は黒いに決まっている

 

「綺麗な色をしていたわ。深く冥い蒼……まるでこの夜空のよう」

 

「俺の瞳は、本当にそんな色に?」

 

「あら、知らなかったの?意外と鏡は見ないのね」

 

くすりと笑って彼女は視線を夜空へ戻す

 

 

 

いつの間にそんなことに…

でも、思い付く節はあった

 

──身体そのものを造り替えているのかもしれないね──

 

霖之助さんがそんな事を言っていたっけ

 

その影響と考えれば、何ら不思議はない

 

 

…でも、やっぱり複雑な気持ちになる

 

「ねぇ、貴方はどうして此処へ来たの?」

 

「どうして、ですか」

 

ぼんやりと夜空を眺めながら、思案する

 

「苦痛だったから、でしょうか」

 

「そう、辛かったの」

 

「えぇ、まぁ。」

 

 

「此処なら、楽になれると思ったの?」

 

「そうかもしれません」

 

「環境が変わって、もっと辛くなるかも、って考えなかったの?」

 

 

「ちょっとは、それも考えました」

 

「でも、何か変わるなら、そのほうがいいなって。そう思ったんです」

 

 

 

右肩に何かが乗る感触があった

 

彼女がいつの間にか傍にいて、俺の肩に頭を乗せている

 

声をかけようと口を開くが、そこで小さく寝息を立てていることに気付いて、やめた

 

まぁ、悪くない

そのまま寝かせてあげよう

 

俺はそのまま、静かに夜空を眺めていた

 

 

 

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