東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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4章 -おいでませ白玉楼- 後編

 

 

 

?「つんつん…うりうり…なーんだ、ちゃんと生きてるじゃないか。心配してソンした」

 

襖の開く音がして、知らない女の子の声がして、頬を弄り回されて、襖の閉まる音がした

 

 

俺はどうなったんだろう

記憶も意識もはっきりしてるけど、起き上がるどころか目を開けることも出来ない

 

 

 

思案していると傍らに冷たい感覚

 

「私も少しやりすぎちゃって、貴方の生命力をそこそこ奪ってしまったみたい。無理に起きると死んじゃうかもしれないから、もう暫く休んでいて」

 

……なんですって??

 

?「まったくもう…今度のは替えが利かないんだから、気を付けてよ?」

 

幽「あら、いらっしゃいユカリ。…あんまりにもあっさり妖夢がやり返されるものだから、私も焦ったのね、きっと」

 

淑やかな落ち着いた声

幽々子さんがユカリと呼んでいるその人は、恐らく魔理沙の言っていた 八雲 紫 だろう

 

 

にしても、替えが利かないってどういう事だろう

 

霖之助さんが言っていたように、歴史が分岐しているという仮定で考えるなら

連れてこられる外来人ってのは特定の役割を果たすピース

そんで、その役割に依って替えが利くかどうかも変わる、みたいな。

 

そう考えると、俺は一際特異なのだろうか

紫さんのチカラの規模─自在に異世界から人を拉致できる能力─から考えて、それで以て替えが利かないと言わせる程の資質

うーん……全く思いつかない

 

 

紫「そうねぇ、妖夢が居なかったらろくに生活できないものね、貴女」

 

幽「ホント、何から何まで頼りきりだもの。居なくなったらなんて考えたくもないわ」

 

大切な従者が傷付けられそうになったから、慌てて俺を止めた。実に道理だ

自分でも勢いに任せすぎたって自覚はあるし、その代償がこの不自由ってのもまあ仕方ない

 

 

 

そういや頭の中に聞こえてきたあの声、誰だったんだろう

よく考えてみれば、技を使うタイミングだけじゃなかった気がする

 

的確なアドバイスをくれた謎の声…うーん

 

 

紫「それで、この子はどこまで引き出したの?」

 

幽「スペルを使ったわ。妖夢のスペルを易々と切り裂くくらいのを」

 

紫「あら、意外と早いじゃない。流石に驚きね」

 

幽「うん…だから私も焦っちゃって、つい」

 

引き出した?それにスペルって…

 

 

紫「アレを扱えるのは現状この子だけだし、どう育つか楽しみね」

 

幽「恐らく初段のスペルであの威力だし、私はちょっと怖いわ」

 

初段。そういえば技の名前に壱式って入ってたっけ

各個人で固有の技みたいなのが、スペルって呼ばれてるんだろうな

 

紫「妖夢のどのスペルを斬ったんだったかしら?」

 

幽「…迷津慈航斬。近接系のスペルでは五段目に当たるはずよ」

 

紫「本当に?てっきり現世斬とかだと思ってた」

 

幽「現世斬は辛うじて防御していたようだけれど、初見であの速度についていくっていうのもなかなか末恐ろしいわ」

 

紫「思っていた以上の逸材みたいね、この子。ふふ…どう育ててあげようかしら」

 

 

 

妖「私はもっとやれました!!!!!」

 

唐突な大声と襖が勢いよく開かれる音

体は動かないが、それでも跳ねそうになるほど驚いた

 

 

幽「あ~ら妖夢ぅ、どうして死にかけの子の部屋にそんな勢いよく入ってくるのかしらぁ?」

 

見なくても絶対笑ってないのがわかる声色である

 

紫「そうねぇ…私にとってもまあまあ大事な子なんだけれど、もしびっくりして死んだりしたらどうしてくれるのかしら?」

 

こちらは変わらず淑やかな声

けれど悪寒がするのでやっぱり凄みのある顔をしてるのだろう

 

妖「ヒッ…も、申し訳ありません……」

 

消え入るような声で謝る妖夢さん。ちょっと可哀想に思えてきた

 

 

紫「まぁそれはさておき、とりあえず様子見だけのつもりだったし、そろそろ私は帰るわ」

 

幽「サクラには挨拶していかないの?」

 

妖「あ、サクラなら今お昼寝してたはずですよ」

 

紫「知ってる。それにランが呼んでるのよ、というわけでまたね」

 

聞きなれない名前。起きたら教えてもらおう

言い終わるや否や、ヴオンと不思議な音がして紫さんの気配が消えた

 

 

妖「…それにしても、なかなか起きてくれませんね」

 

幽「紫が心配してなかったから、大事ないということよ。そのうち起きるでしょう」

 

よいしょ、と小さく呟きながら幽々子さんが立ち上がる

 

幽「というわけで、しばらく見張りを宜しくね?」

 

妖「は〜い」

 

やがて音もなく気配が消える

初めて会った時もそうだったけど、幽々子さんは不思議だらけだ

 

 

 

口は動かないが、呼吸は出来ている

目は開けられないが、瞼越しでもぼんやりと気のようなものは見える

 

自分で言うのもなんだが俺だって年頃の男の子なので、こう、あれだ

年の近そうな女の子に見守られながら眠るっていうのは、すごく落ち着かない

 

目を逸らそうにも目が動かないんだもん。誰か助けてくれ

 

 

ちょっと待ってくれ妖夢さん、何故顔を近付けるんだ

 

手が頬に添えられる

ゆっくりと近付く顔

 

そして──

 

 

 

──その指は、俺の瞼をこじ開けた

 

「ホント、綺麗な瞳」

 

柔らかく微笑む彼女

その笑顔は、ちょっと眩し過ぎた

 

 

 

 

胸が高鳴って、途端に身体の主導権が戻ってくる

じわりと汗が滲んで、俺は思わず目を逸らした

 

「…あ、の。近い、っす」

 

「え、あっ、えっと、その、ごめんなさい」

 

声も出た

ひとまず無事に覚醒できたようだ

 

少し離れて正座し直す妖夢さん

 

感覚を確かめるように、ゆっくりと身体を起こす俺

 

なんとも言えない気まずい空気が流れてしまう

 

 

少しして、どちらともなく口を開く

 

「「あの」」

 

刹那、交差する視線

口ごもり、俺たちは苦笑する

 

 

そうしているうちに、やがてそれは訪れた

 

控えめだがしっかりとした足音が聞こえて、廊下側の戸が開かれる

 

入ってきたのは肘まであるピンク色のサイドテールの女の子

着ているのは…ジャージか?

 

?「あ、起きたんだね?よかったよかった」

 

妖「サクラも起きたんだね、おはよう」

 

サクラ「うん、おはよー。それでこれが例の子ですな?」

 

初対面の人間に例の子とは、なかなかいい性格してるな

でも不思議と憎めない感じだ

 

 

「どーも初めまして。俺は氷雨、知っての通り外来人だ。ヨロシク」

 

相手がタメ口なので俺もそれに則る

 

サクラ「礼儀正しくて良し!ボクは篠宮 雀螺(シノミヤ サクラ)、同じく外来人デス。よろしくねー氷雨クン」

 

めちゃくちゃ軽い。でもなんか、ちょっと懐かしさも感じる

 

 

……待てよ、サクラってもしかして

 

「桜chan☆?」

 

雀「──えっ、じゃあもしかして藍ちゃん!?」

 

「違うわ。俺は雪の方」

 

雀「そっちか〜!!なんだ、すぐ会えたね!!!」

 

手を取ってぶんぶんと振られる

素直に痛い。やめてほしい。

 

 

妖「あの…えっと、知り合いだったの?」

 

妖夢さんは雀螺とは親しいようで、かなり砕けた喋り方だ

 

雀「そう!初めに話した友達の1人!イジられキャラの雪くんだよ!!」

 

「その紹介はどうなんだい桜chan☆?」

 

雀「ボクは至って真面目に事実を述べただけなのだよ?」

 

「そっすね。はいはい」

 

口で勝てる気がしないので降りる

やっぱりこの子はどこまでもマイペースだ

 

 

とはいえ、驚いているのも確かだ

もしかすると皆こっちに来てるのだろうか

 

予期せず異世界でオフ会……複雑な気持ちだ

 

雀「それでそのゆ…氷雨クンはどうしてここに来たのさ」

 

「妖夢さんとこで修行するんだってさ。俺の得物は刀みたいだから」

 

部屋の角に立て掛けてある白鞘のそれを指さして言う

 

妖「紫様からも説明があって、雀螺と一緒に鍛えてほしいとの事でした」

 

 

雀「ほほ〜う。つまりライバルってことだね?」

 

「む、そう言われると競いたくなるな」

 

雀「ふふふ…成長を楽しみにしているよ」

 

既に先を行っているような口ぶりに少しだけむっとする

だけど、それは多分実績に裏打ちされているんだろう

恐らく俺が魔理沙といる間も、ここで鍛錬していたんだろうしな

 

 

「じゃあ妖夢さん、これから宜しくお願いします」

 

妖「こちらこそ。昨夜あれだけやられて私も悔しかったし、手は抜きませんからね」

 

雀「ししょーって呼ぶといいよ!」

 

妖夢さんは無言で雀螺にデコピンする

 

 

いろいろあったけど、そんな感じで白玉楼での日々が始まったのだった

 

 

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