機動戦士ガンダムSEED DESTINY 運命の破壊者 作:くまたいよう
(一人でお留守番・・・・か)
シンにとっては何年振りなのかわからなかった。
【買い物に出ます。お客様が来たら待っててもらってね】
以前に門前で困ってたら、ルナマリアとメイリンがロミナに連れられて帰って来た際に合鍵を一つ貰ったから入れたのだが。客間にそう記されたメモがあってこうなっている。そろそろ訪ねて来るかもと思われてたようだが、シンからしたらまるで昔にあった光景のようで、物悲しくなっていた。
嘗て妹のマユが生まれてからは両親は自分達よりシンになつき、仕事で出掛けるときも兄さえいれば良いなマユにかなりの度合いでショックを受けていたものだとするのは覚えていた。だが此処は肉親のいる家では無いので回想は止めた。肉親でなくてもロミナは自分にとっては家族なのだから変な風に考えてもいけないとしたし。それでもマユはいないから物悲しくなってもいた。以前はホーク姉妹が来てて、として冷や汗を流した。
(あの時、大丈夫だったのかな・・・・以前、ルナの奴はアカデミーの事を色々喋ったけど、ロミナさんには許容範囲だったのかどうか)
実はそれについては危険域であったが、シンにはまだ踏み込めなかった。あくまでも奇縁の内な関係としてはいけないからロミナには違う道へ進む事を報告に来たので場合によっては縁を切られかねない恐怖すらあった。
(折角、アカデミーに入れるようにしてはもらえて赤服のMSパイロットになって喜んではくれたのに・・・・ロミナさん、俺が新天地求めますなんてどう思うか・・・・昔ながらの頑固な人なら怒声や制裁喰らうか?いや、それはそれで受け入れないとな、ハイネから言われたし、ハイネは・・・・)
『まあ、折角に移民の身で入って赤を貰ったのにとかな系統でアカデミー関係、ああ・・・・オーブ関係の誰かにも殴られたりするかもな』
そう言われた時、自分の頭は冷えきっていたともシンは感じていた。今のシンはオーブなんかより優先させる事があるからだが、せめて誠意が必要だ。考えてみたらそれなりの立場なんだと気付いていた。カナーバに指摘されたように自分の事で頭が一杯だったので、漸く自分で柄にも無いとする事を考え始めていた時。
ピンポーン♪♪
チャイムが鳴るなら来客、訪ねて来る人は滅多にいないハズだとしながら留守番役として一応対応するべく扉を開けたシンだが、訪ねて来た者同様に固まってしまった。飾り気の無い私服だが厳格なようで柔和さがある顔は忘れようが無い。
「もしかして・・・・【トダカさん】ですか?」
「あ、ああ・・・・久し振り、だね・・・・」
実はデュランダルに相談して屋敷にいるシンの知り合いに事前に話を仲介してもらうよう勧められ、そのつもりでいたのに。まるで訪ねた先の子供みたいに本命が出て来るとは思わなかったトダカは上手く言葉を出せずにいた。
【加えて、ホテルで渡されたメモには時間がわざと間違えて記されていたと知る術は無い】
シンは一先ずは客間に案内して対応する事にした。
「えぇ・・・・と、兎に角、見よう見まねなお茶ですがどうぞ・・・・」
「お、御構い無く・・・・此方は護衛のアレックス君、事情で同行してもらった。え、えぇ・・・・とだ。今回の用件はだね?」
トダカは話した。
元オーブ市民の扱いに関してのカガリの要求から最近に起きた事件による立場の危うさ、何より自分が誠意を示すべく元オーブ市民に会いに来た事。
「成る程・・・・まあ、俺には関係無いですね」
ソファーに並んで座りながら目を丸くするトダカとアレックスにお茶の御代わりでもと立ち上がるシンは全然他人事としかしてない声色。そんなシンに対してアレックスは暴発してしまった。思わず立ち上がって二人の目を引いた。
「どうかしましたか?」
「君は自分の立場をわかっているのか?」
事態がわからないトダカに反してアレックスが述べた事、それはトダカが言葉を失ってしまう。
要するに、下働きや新入りならまだしもシンのようにアカデミーに入って赤服を貰うような経歴を持つような存在がいてはカガリの立場が危ういとする内容。
確かに、とすべき点はあるが。カガリが最初の返答で指摘されたように取り決め等は無い、情報漏れを細かく説明する余裕が無い為に感情論だ。これでは過保護な親兄弟の身勝手な言い分も良いとこだ。それに公的な目的から逸脱している。
加えて、やはりシンにはどうでもいい事。
そうなった時の事は予め吹き込まれている事もあるが、要はオーブの獅子の娘がその程度の事で勇み足踏んで、どんな意図か知らないが越権行為をしてしまう男を差し向けた。怒りを通り越したものを感じて見切りをつけた自分が間違ってはいない確証を得てしまったのだ。
「つまり、俺のせいでオーブが不味い事になったって、政治家の方々が慌ててしまってるんですか・・・・それは大変ですね」
「何とも思わないのか?」
「俺は都合良い後継人に出逢えたから入れた場で二年過ごしたようなものですからね、公的な事は俺だけの管轄ではありません」
「赤を着ている癖に、自分の意見を持たないのかっ?」
「赤だからですよ、赤だからこそ不用意な発言は控えるべきです。そもそもどうしろと?」
【どうしろと】
実は出立前に呼び出された時に言われた事を思い出した。
『そもそもカガリは要求が通った時にどうする気だったんだろね、まさかとは思うけど、そのシンって子みたいなのを連れ帰った後に連合が引き渡すよう要求したらその通りにするの?』
ユウナに言われた事だ。カガリの婚約者というのが暗い対抗意識をもたらしていたが、自分がまるで気付かなかった事を指摘されたのがアレックスの口惜しさを煽っていたが、それ以前にシンとトダカはユウナの言うような内容にしてでもアレックスがオーブの保身をしたがっているように見えていたとは気付かない。
「それより【護衛に発言権が無いハズ】ですが?」
その言葉に頭に血が登ったアレックスが衝動的に振るった全力の拳がシンの左頬に飛んだ。オーブを出る前とホテルでのメモに書かれた事が原因ではあるが、シンは地雷を踏んでしまったのだ。
「あ、アスラン君!?」
「【アスラン】?」
「何の騒ぎですか?」
「あ、お帰りなさい【ロミナさん】」
アレックスは数年前迄にプラントでは亡き母の次に親しくしていた女性が客間の入り口に立っていた事で。頭に登った血が冷えるどころか凍り付いた気分であった。自分の知るより痩せていて影のある表情だが、そうなる理由は自分が誰より知っているので呼吸すら忘れていた。
「あの・・・・私は、ここの屋敷の者ですが・・・・貴方達は、シン君のお知り合いですか?」
「わ、私は・・・・」
トダカが事情を話して、ロミナは普通に対応しつつ、自分がシンの後継人で実質養子に近い扱いをしながら面倒を見ていたと説明をした。密かにシンを心配していたトダカは移民先でそのような縁が出来た事を心から喜んでロミナに感謝した。
一方で、シンとアスランは悟っていた。普段通りのようでロミナの瞳に宿る感情は紛れもなく。
【怒り】
そうなる原因を唯一知るアスランは処刑台にいる気分であった。
「では、何か騒がしくしていた理由を教えていただけますかトダカ一佐・・・・それと【アレックス】さん・・・・【アレックス・ディノ】さんで宜しいのですね・・・・?」
「は、はい」
「・・・・」
「どうしました。何か返しの言葉が出ないようですが・・・・どうなされたの【アレックス・ディノ】さん?」
そうして、改めて二対二の対談のようになって漸くアレックスは国内の事情を話して揉め事を起こしてしまったと説明をした。殴ってしまった事を話せないでいた時にロミナは口を開いた。
「それはそれは・・・・【オーブの新人護衛】さんはお若いのですわね、ですが【自分が要人さんかその縁者】のような振る舞いをしていて良いという思い違いは感心しませんわ。ところで、シン君・・・・ほっぺが赤いけど訓練か実戦で怪我したの?」
「はい」
「深入りはしないけど、身だしなみはしっかりなさい、公的な場にはせめて治療してから行くのよ?」
敢えて聞かないし、シンがされるがままな理由もわからない、情報によれば気が荒いとされていたハズなシンの対応もアレックスとトダカにはワケがわからない内にシンが衝撃的な切り出しをした。
「とにかく、トダカさん・・・・オーブの代表が誠意を示したいらしいですが、俺は貴方に感謝してます。それだけしか言う事はありませんし、近い内に地球圏から離れるので関係はありません」
「え?」
「はい、実は【カナーバ前議長】が参加している外宇宙進出計画にMSパイロットとして参加を決めました。俺は計画通りにいけば一年か二年後には火星か逆の方向の星、少なくとも地球圏の外に向かっている途中になります。だからオーブの事は関係が無くなります」
「【外宇宙】・・・・そ、そうか!」
スカンジナビアにでも送るべきかどうかと考えたトダカは救われた気分だった。オーブや地球側の国家の軋轢に巻き込まれるよりは余程良いとしている。新天地で自分なりにやりたい事を始めてくれるのなら自分の不甲斐なさのせいでシンを苦しめる事は無くなるのだ。
一方、シンが懸念したロミナは?
「唐突ね、けどそれも良いかもしれないわ・・・・MSは本来は宇宙でのアクシデント対策や開発作業用に使う方が良い。戦争なんかやるよりは良いわ【身内】と【その友達】もソッチに進むべきだったわ」
「身内・・・・ですか」
「えぇ、息子は戦死して夫は【行方不明】なので・・・・あら、ごめんなさい。けど私も覚悟はしていたわ・・・・遺体すら無い戦死程度は覚悟はしてますわ・・・・」
アスランは針の筵であった。息子の戦死だけではなく、ロミナの夫が【行方不明】・・・・そして、自分の正体からシン・アスカへにした事に対して一切触れないまま話が終わって帰路に着いたがアスランは足元がおぼつかなかった。
『仇は君が討ってくれたじゃないか』
ニコルを殺したストライクは討ったから言われた事。
『ニコルや君や・・・・多くの若者達が、命懸けで戦っているのに!何故・・・・それを裏切るような事をするんだ!?私は・・・・それが悔しくてならんよ!』
「アス・・・・いや、アレックス君。今日の事は良くない、カガリ様を大切に思っているのはわかるが・・・・我々は【過保護な親兄弟】ではないのだ」
実を言うとカガリとアスランの事を多少知っている上での苦言。反応が無いアスランに対して、余程の事があるのかとソッとしてあげる事にしたトダカだった・・・・トダカは、やはり軍人には到底向いてないとされる一例でもある。公私の区別がつかない事に関してはトダカも他を責められないのだ。
-ーーーーーー。
「あの、改めて・・・・」
「良いのよ・・・・私はね、子供達が健全に幸せに生きていて欲しい・・・・それだけよ、それより久し振りに【弾いて】みてくれない?」
通された場にあったのはロミナが大切にしているものの一つ。
【ニコルのピアノ】
アカデミーの初めての休暇中に顔を出した際に、カリキュラムに苦戦中で気が立った時に勧められたものだった。そして、シンもその時の事を思い出して弾き始めた。曲名は?
【孤独の中の神の祝福】
ある意味、皮肉が効いたものだ。夫は行方不明で息子は戦死。その渦中で知った事実にショックの中で出会った存在のピアノの聞き入る。流石に技術はニコルに及ばないが・・・・ロミナに少しでも上手に弾きたい心で弾いている。
これこそが音楽だとロミナは思う。今の自分には唯一無二の音楽・・・・芸術を芸術たらしめる条件に最後に必要なのは人の心のみだという見本だ。
「え、と・・・・お粗末様です」
「何か違う気がするけど、私はシン君のピアノは良いと思うわよ、お飲み物持ってくるわ」
弾き終わったシンは妙な気分だった。妙に難しいものの方が向いてるのはインパルスの時にも言われたものだ。ロミナの持って来てくれた紅茶を飲みながら一息呼吸置いた時。
ガチャンっ!
ティーカップが落ちて、割れた音が響く。崩れ落ちたシンを見るロミナはうたた寝をしてしまった家族に向けているような優しい目の色だった。
「ふふ、ごめんなさいね・・・・良いタイミングだから・・・・丁度、あの二人にシン君がお茶を出していてくれたから良い考えが浮かんだの」
仰向けにしたシンの頬や額を指でなぞりながら微笑む、徐々に笑みが浮かぶが・・・・それは異様な気が滲み出ていた。
「大丈夫よ、貴方が救ったと同時に救われた娘達は私が守るから・・・・真相を知った時には、私の所に真っ先に来てね?」
戦地に赴く夫や息子にするような口付けを額に落とすロミナ・・・・唯一の謝意は出来れば話に聞いたセツコかステラが【そうなった時】唇の初めてを譲ってあげたいが為に口付けをする箇所を額にした事であった。
そして、歯車は回り出す。
安全を確認したデュランダルは漸く組み直した算段の一歩目を進めていた。最早、躊躇が無くなったのだ。
「準備は整ったかね」
「はい、この機体【バルゴラ】は。ほぼフレームだけに解体して新たに装着すべき全ては【連中に対する防犯対策】を兼ねて改良しつつ、新たに立てた予定通りの機体にします」
渡された手書きの資料を見て計画通りならと安心した。これなら予想される事態【ビームが効かない敵】すら恐るるに足りない。元々、バルゴラが【持っていた兵装】はオーバースペックとすべき概念を越えていたのだから運用に支障はない。それに例えばジャンク屋ギルドが総力を上げてこの場を突き止めて乗り込んで来ても解析が出来ない理由があるからこそデュランダルは決断をしたのだ。
「うむ・・・・これなら邪魔をされまい・・・・予定より遅れて遠回りになるが、決して無駄な時間とはならん、良い授業料だ。先ずは部品からでもシン・アスカの為の機体、コードネームは【乙女座の運命】か・・・・コレの製造を開始せよ」
スタッフが了解と一斉に叫んで持ち場に着いた。恐らく完成した機体が猛威を振るうのは先になるが今はコレで良いのだとは全員の認識であった。
原作でこんなじゃ駄目だったんだろかなオマケ。
今作で指摘されてるような事を吹き込んでミネルバで議長に喚き散らかし、高山漫画でルナマリアからも白い目で見られたカガリを目の当たりにさせた際。
レイ「シン、オーブはこんなだからお前は議長の治めるプラントで改めて再出発するんだ。アスハの事は相手にする価値は無いし忘れろ、お前が喚いても他の元オーブ市民に妙な事をされてはたまらんだろ?」
シン「もうどうなってもいいや・・・・」
実はオーブに密かな期待はしていたシンの未練と想いは断ち切られた。