ろくでなしミュージシャンが国民的アイドルと天才バンドマンに愛されるヤンデレもの   作:三角関係大好き!!!

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第5話

 

「おいっす!」

 

 ガキの頃よくやっていたパズルゲームの推しキャラの挨拶を真似ながら、スタジオに入る。

 今日は、研鑽を積み重ねる日。

 可愛い後輩の頼みを受け入れたオレがヘルプとして参加するバンドの練習日だった。

 

「ギリギリセーフだね、和島くん」

 

「昼ちゃん、おそーい!」

 

 すると、見知った二人が、俺を出迎えた。

 彼女らは、オレが臨時の助っ人として加入しているバンドの構成員。

 インディーズでトップクラスの人気を誇るロックバンド「Martyrs」のメンバーである。

 

「もー、待ちくたびれたよっ。連絡しても既読つかないし、何してたの?」

 

「バイトだよ、日雇いのバイト。近くの工事現場で、汗と涙を流して金を稼いでたのよ。中々にハードだったが、良い運動になったぜ。折角だし、お前らに見せてやろうか? 現場監督のオッちゃんにも褒められた、オレの筋肉を!」

 

「断固として、遠慮するよ。それにしても、日雇い……か。今月も、結構厳しい感じなんだ」

 

「まーな。貧乏すぎるお陰で、もやしの扱いが誰よりも上手くなっちまった。今や、もやし炒めを筆頭にしたもやし料理が、オレの人生のフルコースの大半を占めてるぜ」

 

「食べてる途中で飽きそうなフルコースだねっ!」

 

 女性にしては高い背丈と、一際長い藍色の髪が印象に残るベーシストである右城も。

 華美なゴスロリ服と、ウェーブのかかった金髪がチャーミングなドラマーである佐藤も。

 相変わらず、元気そうで何よりだ。

 しかし、一人だけ姿が見えないな。

 一体、彼女はどこに……と思ったのも束の間、扉が勢い良く開かれる。

 そして、現れたのはオレの可愛い後輩。

 

「ごめん。遅れた……先輩、来ていたんですね」

 

 言わずもがな、真壁だった。

 主役の中の主役であるギターボーカルを務める彼女は、バンドのリーダー。

 作曲や作詞も一人で担う、中々に凄い奴。

 オレの終生のライバルとも言える存在である。

 

「すみません。タメ口を利いてしまって」

 

「謝る必要なんかねーよ。オレが、そんな事を気にする男に見えるか?」

 

「はい、見えます。なので、誠心誠意謝罪させて頂きます」

 

「おいおい、何言ってんの! そこは、見えないっていうところ。オレは器が大きくて、裏表がない素敵な人ですって、褒めちぎるとこだろうが!」

 

 オレと真壁の掛け合いを聞いた、右城と佐藤が笑い声を上げる。

 真壁は無表情な人間ではあるが、意外と冗談が通じる面白いやつ。

 堅苦しくて融通が効かない人間ではない。

 だからこそ、ちゃらんぽらんだと自負しているオレとも、上手くやれていた。

 それは、彼女のバンドのメンバーである右城と佐藤も例外ではなく。

 彼女らの仲は、非常に良好。

 それこそ、3人でルームシェアをしているくらい、心理的な距離が近かったのだ。

 ……是非、オレも混ぜて欲しいものである。

 

「昼ちゃんはともかく、真壁が遅れそうになるなんて珍しいね〜」

 

「今朝は、何も言わずに出かけていたけど。もしかして、彼氏でも出来たのかな?」

 

「……意地悪だね。私に彼氏は居ないって、分かってる癖に」

 

 オレそっちのけで、3人は会話する。

 どうやら、間に挟まる隙は無さそうだ。

 大人しく、百合を見守る壁になるとしよう。

 

 因みに、ルームシェアするほどの仲でありながら、右城も佐藤は真壁を苗字で呼ぶ。

 そして、オレも真壁を苗字で呼んでいる。

 その理由は、至極単純。

 真壁は、自分の名前を嫌っているから。

 

 彼女のフルネームは、真壁夜鷹。

 そして、夜鷹という言葉が持つ意味は、あまり良いものではない。

 何故、真壁の両親が、そんな名前をつけたのか。

 深い事情は全く知らないけれど……確実に、真壁は自分の両親を嫌っている。

 同時に、自分の名前も忌々しく思っている。

 その事が何となく伝わってくるから、オレ達は真壁を真壁と呼んでいた。

 誰かが言い出した訳でもなく、自然な形で。

 

「……話はここまでにして、練習を始めよう。まずは音合わせから」

 

「おっけ〜」

 

「了解」

 

「任せてちょーよ!」

 

 真壁の声を聞いたオレは、意識を切り替える。

 先述した通り、オレはヘルプだ。

 卓越したギターの腕を見込まれて、助っ人として馳せ参じた身。

 曲がりなりにも、真壁から給料を貰ってる立場として、やるべき事をやらなきゃいけないからな。

 

「それじゃ、いっくよ〜。1.2.3.4っ!」

 

 ドラマーである佐藤の掛け声に合わせて、音を鳴らし始める。

 いっつも一人で演奏してるオレにとって、夢のような時間が始まる。

 極めて自己主張が激しいオレと、オレの手綱を引いてくれる真壁。

 そんなオレ達を、陰ながら支えてくれるリズム隊の右城と佐藤。

 我ら4人の相性は、抜群としか言いようがない。

 言っちゃ悪いが、ヘルプであってもオレは他者と合わせるつもりがない。

 いつだって、弾きたいようにギターを弾く。

 それでも、3人は足並みを揃えてくれる。

 オレの癖も、リズムも、タイム感も。

 こちらの全てを汲み取った上で、美しい調和を作り出してくれる。

 そうやって理想の音を作り出していくのが、最高に楽しくて堪らない。

 一人で演奏してる時には、絶対に味わえない特別な快感だった。

 

 ドラムとベース。

 リズム隊の二人は、縁の下の力持ち。

 並のバンドならば、十分に主役になれる技量を持ちながらも、リズムキープに徹してくれる。

 対して、ギターのオレ。

 馬鹿みたいにかき鳴らすオレは、ただのバカ。

 主役ではないにも関わらず、主役を引き摺り下ろすために自由に演奏する。

 

 そして、ギターボーカル。

 我が道を進むオレをあしらいながらも、完璧な演奏と歌声で頂点に立つ真壁は、バンドの主役。

 悔しいが、オレより高みに立つ存在。

 ドラムの佐藤もベースの右城はもちろん。

 自分勝手なギターのオレも、手のひらの上で転がして、自分の世界を創造する天才だった。

 

 真壁のギターは、オレとは役割も毛色も、何もかも違う。

 感情を全面に出して、思うがままに演奏するリードギターがオレ。

 感情を微塵も出さずに、機械の如き正確さで演奏するバッキングギターが真壁。

 その上で、彼女の技量はずば抜けていた。

 難解なテクニックもそつなくこなすし、フレージングも正確無比。

 立ち位置を把握しきっており、音の奥行きを自由自在にコントロールする。

 他者の事を顧みないオレに寄り添って、目立つべき所は目立って、引くべきところは引く。

 メリハリをつけることによって、観客の心を掌握する弾き方を心得ていたのだ。

 

 無論、ギターのみならず、歌も素晴らしい。

 朝音ちゃんと比べても、決して劣らない表現力を有していた。

 しかし、その方向性は真逆。

 朝音ちゃんは、自分に出せる全力で熱唱する事で、観客に感動を与え、歌の世界に引き込む。

 真壁は、余裕がありながらも表現に幅がある歌い方で、観客を虜にさせて、歌の世界に誘っていく。

 謂わば、光と闇。

 朝音ちゃんは観客に夢と希望を与える光であり、真壁は観客を魅了して心を奪っていく闇そのもの。

 

 その上、真壁が作る曲は、現実に対する鬱屈とした感情を詰め込んだものや、架空の神を礼賛するものが多い傾向がある。

 なので、真壁のバンドは……なんていうか、悍ましげな雰囲気を醸し出していた。

 ファンも、熱狂的な人達ばかり。

 独特な世界観を生み出す真壁の事を『神』と呼んで、崇める者もいるくらいで。

 ……まー、つまり。

 それだけ、真壁はすごい奴なのだ。

 間違いなく、朝音ちゃんとは別ベクトルの天才だと断言できる。

 

「今日は、この辺にしよう」

 

「さんせーい! もう6時だもんね。お腹ぺこぺこだよー」

 

 右城と佐藤の言葉で、現実に戻される。

 音の世界に浸っていた意識が覚醒する。

 窓から外を見ると、すっかり暗くなっていた。

 スタジオに来た時は、昼過ぎだったのに。

 本当に時間が経つのが、早すぎる。

 もっと、もっともっと練習したかった。

 真壁達と共に、演奏していたかった。

 

「名残惜しいですか、先輩」

 

 そんなオレの感情を表情から読み取ったらしい真壁が、声をかけてくる。

 彼女の顔の表情筋こそ動いていないものの、心なしか満足げに見えた。

 

「ああ、名残惜しくて堪らないね。一人で演奏するのも最高だが、バンド組んで演奏するのも最高だ。やっぱり、音楽って最高の娯楽だよな」

 

「そう言ってもらえると、私も嬉しいです。私も、先輩と演奏するの、大好きですよ」

 

「そっか。なら、オレたちゃ両思いだ」

 

 真壁は笑わず、オレだけ笑う。

 でも、雰囲気は決して悪くない。

 確かな、居心地の良さがあった。

 

「右城せんせーい。二人がイチャイチャしてまーす。もう置いて帰りませんか?」

 

「そうだね。お邪魔虫は退散して、二人の世界に浸らせてあげようか。あ、延長した分の料金はキミたちで払っておいてね」

 

「ちょっと待て、置いてくんじゃねぇ! 貧乏人のオレにはスタジオの使用料は払えねーよ!」

 

 そそくさと立ち去っていく、右城と佐藤の後ろ姿を見ながら撤収作業を始める。

 制限時間は残り少ない。

 工事現場の日雇いバイトで稼いだ金を使いたくない一心で、オレは荷物を纏めて外に出た。

 

「ふぅー、危ない危ない。ギリギリセーフだな」

 

「……先輩。ちょっと必死すぎです」

 

「そりゃ必死にもなるわ。どんだけ大変だと思っとるんじゃ、寒空の下で肉体労働すんのが」

 

 右城と佐藤は、既に居なくなっていた。

 同居人の真壁を置いて先に帰ってしまうとは、薄情な奴らである。

 どうやら、百合の花は咲いていなかったようだ。

 

「あの、先輩。……この後、一緒に夜ご飯食べに行きませんか?」

 

 突然の提案だった。

 声に反応するように振り向くと、真壁はこちらの反応を伺っているように見えた。

 彼女から、夕飯の誘いをするのは珍しい。

 普段は、オレがたかってばかりいるから。

 また、どことなくしおらしく見えるのも、珍しかった。

 彼女は、感情を見せる事が少ないから。

 

 何故、真壁にこのような変化があったのかはわからない。

 けれど、距離を詰めてきてくれるのは、素直に嬉しいと思えた。

 オレにとって、彼女は終生のライバル。

 いつの日か、超えるべき高い壁。

 だが、それ以上に……ギターと歌をこよなく愛している同胞。

 話が合う上に気心も知れている存在だから、是非とも行きたい。

 真壁の性格上、絶対に奢ってくれるだろうから、そういう意味でも行きたい。

 でも、行けない。

 オレには、行けない理由があった。

 

「めっっっちゃ行きたいけど、悪い。この後、人と会う予定が入ってるんだ」

 

「人と会う予定、ですか」

 

「おい。お前、今……先輩にもそんな相手が居るんだ、って思っただろ」

 

「……はい」

 

 正直な子だ。

 そこは嘘でも「そんな事ないです。先輩は友達が少なそうとは思ってません」と言って欲しかった。

 まぁ、友達が少ないのは事実なのだけれど。

 ぶっちゃけ、友達と言える友達は、真壁くらいしか居ないし。

 梶岡とはよく絡むけど、あいつはト◯とジ◯リーって感じの関係だし。

 因みに、梶岡がト◯で、オレがジ◯リーな。

 梶岡と追いかけっこするのは楽しいんだ。

 数年間の付き合いで、お互いにお互いを知り尽くしているからこそ出来る駆け引きがアツい。

 

「確かに友達は居ないがな。オレには人脈があるのよ、人脈が。……だから、悪いな」

 

「いえ、お気になさらないでください。先約があるなら、仕方ありません」

 

「じゃあな、マッカちゃん。また明日、バイトの夜勤で会おう」

 

「はい。さようなら」

 

 オレは振り返る事なく、後ろ手で手を振って歩き始める。

 そんなオレの背中に、ずっと。

 いつまで経っても、何者かの視線が突き刺さってるような気がした。

 

 

 

 

 

 真壁と別れたオレが、訪れたのは公園だった。

 わざわざ言うまでもなく、いつもの公園。

 そして、公園といえば、あの子。

 

「もうっ。遅いですよ、お兄さん!」

 

「悪い悪い、用事が長引いちゃって」

 

「幼気な少女を寒空の下で放置するなんて酷いです。何かあったら、責任取ってくれるんですか?」

 

「いや、取れないね。取るつもりもないっ!」

 

「うわ……最低ですね、お兄さん」

 

 蔑むような視線を送ってくるのは、変装している国民的アイドル。

 オレの中のイメージが公園と結びつきつつある、朝音ちゃんだった。

 先日の出来事から、彼女は遠慮という概念を忘れつつある。

 少し前まで、憧れの視線を向けてくれていたのに、今ではすっかりグレてしまった。

 何かと自堕落なオレにビシバシと小言を言うようになってしまったのである。

 ファン1号時代の、何から何まで全肯定してくれる朝音ちゃんが懐かしい。

 

「お兄さんは、色々と適当すぎです。アーティストとして尊敬はしてますが……私は、人としてもっとしっかりしてほしいです」

 

 でも、手厳しくなった朝音ちゃんも、悪くない……寧ろ、ちょっといい。

 アイドルとして振る舞ってる時とのギャップがあって、とても魅力的だ。

 成人済みの大人なのに、未成年の子供に注意されて、本当に自分が情けない。

 ちゃらんぽらんな発言に対して、蔑むような目で見られると苦しい。

 苦しい……けど、嬉しいと思う。

 悔しいけど、感じちゃう自分がいるのだ。

 これが、新たに開かれた性癖の扉、なのか。

 オレの心に秘められた欲望の芽生え。

 ……ああ、文明開化の音がする。

 

「お兄さん? さっきからぼーっとしてますが、大丈夫ですか?」

 

「何も問題はない。オレは……散切り頭を叩いていただけだから」

 

「???」

 

 意味不明な発言を聞いて、疑問符を頭の上に浮かべる朝音ちゃん。

 オレは、生まれ変わったような気分だった。

 

「それで、お兄さん。私に話したい事って、なんですか?」

 

 話したい事。

 そう……オレは朝音ちゃんと話したい事があって、公園に呼んだのだ。

 連絡先を知っているのだから、文面で伝えれば良いと思うかもしれないが、それじゃあダメだ。

 まるで、風情というものがない。

 これから話すのは、オレにとって重要なこと。

 よって、無機質なメッセージを送るだけで、済ませたくなかった。

 朝音ちゃんと、しっかりと顔を突き合わせて話したかったのだ。

 

「例の如く、オレは回りくどいのは苦手だから、単刀直入に言わせてもらうぜよ」

 

「は、はい……!」

 

 口調こそふざけてるが、表情は真剣。

 これからオレが述べる言葉に込められる感情は、単純明快。

 有り金を使い果たして、朝音ちゃんのライブを見た時と、全く同じ気持ち。

 オレは、朝音ちゃんのパフォーマンスをこの目に焼き付けたい。

 彼女が全力で歌に命を吹き込む姿を、間近で見てみたいのだ。

 そして、その欲求は日を経るごとに増大しつつある。

 風船に空気を入れるように膨らみ続けて、今にも破裂しそうになっている。

 故に、オレは……風船が破裂するのを防ぐために。

 朝音ちゃんが楽しそうに歌う姿を見るために、出来ることは何でもする。

 そう、心に決めた。

 

「朝音ちゃん。オレと一緒にバンドやらない?」

 

「…………え?」

 

 だから、オレは一緒に歌う。

 活動休止した国民的アイドルが復帰するまで。

 朝音ちゃんが歌う姿を、一番近くで見るために。

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