ろくでなしミュージシャンが国民的アイドルと天才バンドマンに愛されるヤンデレもの 作:三角関係大好き!!!
オレはバンドを組んだ。
未来のトップミュージシャンと、国民的スーパーアイドル。
最強の二人が手を組んだ最強のバンド。
無論、朝音ちゃんの本業はアイドルであるため、永遠に続く事はない。
それでも、限られた時間の中で、最高の輝きを放ちたい。
その一心で、オレは家に引き篭もり、自分なりに準備を始めた。
三日三晩、ひたすら作業に取り掛かる。
寝ることもなく、バイトはサボって、飯は生命維持に必要な分だけ喰う。
全ての時間を、自分のバンドの準備に捧げる。
そして、何者かによる来訪があったのは……そんな日々を過ごして、三日が経とうとしていた時。
「お兄さん! 開けて下さい、お兄さん!」
インターホンが鳴らされ、ドアを叩かれる。
扉越しに聞こえてくる声は、間違いなく朝音ちゃんのものだった。
……何故、彼女がココに?
オレん家、教えた覚え無いんだけどな。
「お兄さん……生きてますか、お兄さん……?」
もしかして、幻聴だろうか。
そう思い、無視しようとすると。
「嘘……嘘嘘嘘嘘。そんな事、絶対あり得ない。でも、確かめないと。今すぐ、斧を買ってきて……」
「生きてる! ちゃーんと生きてますから、扉を破壊するのはやめてぇ!」
このまま放っておいたら、ドアが壊されちまう。
悲壮感溢れる声色から、そう判断したオレは飛び出すように扉を開ける。
すると、今までに見た事がないくらい無表情な朝音ちゃんが、こちらを見据えて。
「………っ。ふ、ぐ、ぅう……生きてた、私のお兄さんが生きてた……!」
矢継ぎ早に、抱きついてきた。
号泣しながら、オレの腰を両手でガッチリとホールドして離さない。
いつも笑顔でいる彼女が、泣いている姿を見せるのは初めてであり。
なんというか、罪悪感がすごかった。
「この前、私とバンド組むって言ってから、音沙汰がなくて。何度も連絡したのに、既読もつかなくて。バイト先にも、何処にも現れないから……私、ずっと心配で……」
「ご、ごめんな。スマホ充電切れたまま、放置してて。外にも出ずに家に引きこもっててさ」
「どれだけ心配したと思ってるんですか? 私、お兄さんが居なくなったら、私は……」
朝音ちゃんが泣く姿を見ると、心が痛む。
だが、それと同じくらい、オレ達の騒ぎを遠巻きに見守る人々の視線が痛い。
ここら辺で悪名高いプー太郎が、平日の昼間に未成年らしき女子を泣かせているだなんて。
注目されて、当たり前だ。
オレがあの人達の立場でも、つい見ちゃうもの。
けれど、このままの状態だと不味い。
犯罪の香りを嗅ぎ取った人が、警察に通報しちゃうかもしれん。
そうなったら、面倒臭い事この上ない。
「マジで、ごめん! 本当にごめん! と、取り敢えずさ、オレの家に入って話そうぜ」
「う、うう……はいぃ……」
今も尚、涙を流している朝音ちゃんを、強引に家の中へと押し込む。
まさに、事案レベルMAX。
けれども、一切気にしない。
というか、もう考えないことにした。
通報されたら、そん時はそん時。
そん時のオレが機転を効かせて、どうにかしてくれると信じたい。
「よーしよしよし。心配する必要なんてないぞ、朝音ちゃん。お兄さんは無敵のミュージシャン。殺されたって、死にやしない!」
「…………」
今は、朝音ちゃんの相手に注力する。
安心させるために抱きしめ、頭を撫でまくる。
この行為に効き目があるのかは分からない。
何故なら、さっきから朝音ちゃんは黙したまま、ぴくりとも動かないから。
けど、それでも、撫で続ける。
なんたって、オレは女の子が泣いた時の対応なんて知らんからな。
「ごめんなさい、お兄さん。みっともなく取り乱してしまって」
およそ数分ほど経ったとき。
泣き止んだ朝音ちゃんが、こちらを見上げる。
にこりと微笑む彼女の表情は、どこか満足げに見えるのだが気のせいだろうか。
「いや、気にしないでくれ。今回の件は、オレが全面的に悪いからな。誠にごめんなさいって奴だ」
「いえ、お兄さんがそういう人だって分かっていた筈なのに、感情を制御出来なかった私に非があります。なので、この話は終わりにして……」
朝音ちゃんは、部屋へと視線を移す。
そこに広がっていたのは、オレの生活空間。
一年ほど掃除せずに、散らかり尽くしているゴミだらけの汚部屋だった。
「お兄さん、コレはなんですか?」
「見てわかんないかー、オレの部屋だよ。一見すると、ゴミ屋敷に見えるけど意外と利便性に」
「掃除しましょう、今すぐに」
「……はい」
朝音ちゃんは、笑っていた。
アイドルらしいキラキラとした笑顔。
でも、その裏には確かな圧力があった。
故に、抗うことは出来なかったのだ。
「溜まってる洗い物や、部屋の清掃は私がするので、お兄さんは必要なものと、必要ないものの取捨選択をして下さい」
「えー! オレにとっちゃどれも宝物よ。要らないものなんて一つも」
「取捨選択を、してください」
「……はい」
完全に、尻に敷かれていた。
ボロボロのTシャツ、衝動買いした謎の置物、絶対に使わない生活用品。
明らかに不要なゴミ予備軍を、纏めておく。
そうすると、朝音ちゃんが分別してくれる。
その姿を見ていると、古い記憶を思い出す。
オレが上京する前、クソ田舎に住んでいた時。
昔から片付けが出来なかった俺の部屋を、隣に住んでいた幼馴染の元カノが良く掃除してくれた。
今の朝音ちゃんみたいに、文句ひとつ言わずにテキパキと。
それだけじゃなく、ギターと歌に没頭するオレが、周囲から浮かないように手を回してくれた。
この世界で生きていけるように、必要最低限の社会性を与えてくれた。
だから、今のオレがあるのは元カノのお陰。
マジでギリギリではあるものの、生きているのは彼女の教えがあったからなのである。
だからこそ、ろくでなしのオレでも、あの子となら上手くやっていけると思っていた、のに。
上京するときに、あっさりと振られちゃった!
それはもう、バッサリと!
アンタと遠距離恋愛はムリ、の一言で!
「だ、大丈夫ですか、お兄さん。渋柿を食べた時のような顔をしていますが……」
「掃除をしているとな……沁みるんだよ、苦い思い出が。だから、オレは」
「掃除を、続けましょうか」
「……はい」
畜生。
朝音ちゃんも、元カノも。
ほんとに、よく似てるぜ。
適当なことを言って、嫌な事から逃げようとするオレの性格を知り尽くしてるところがな!
「お疲れ様でした、お兄さん。苦労の甲斐あって、見違えるように綺麗になりましたよ」
掃除という名の激闘を終えたオレ達は、ぐるりと部屋を見渡す。
すると、どうでしょう。
あれだけ汚かった部屋が、埃ひとつない聖域へと変わっているではありませんか。
これには、流石のオレも感動を禁じ得ない。
感謝感激雨あられ、である。
「いやー。助かったよ、朝音ちゃん。今度から汚さないように気をつけるから、もうウチに来る必要はないからね!」
「嫌です。私が定期的にお掃除しないと、一週間後にはさっきと同じ景色になってそうですもん」
「そんな事無いって! オレを信じろよ!」
「お兄さんは、部屋の掃除ができる人じゃないって信じてるので、絶対にまた来ますね」
「……はい」
完全に立場が逆転していた。
21歳の成人男性が、未成年の女子高生に何も言えなくなってしまうだなんて。
なんたる、体たらく。
なんたる、醜態。
世界に名を轟かせる、未来のトップミュージシャンの姿か、これが……?
「それでは、本題に入りましょうか」
「本題、ですかぁ……」
「お兄さんは、家に引きこもっていたと仰ってましたよね。バイトもサボって、いったい何をしていたんですか?」
至極真っ当な疑問が飛んでくる。
正直、言いたくないが、ここまできて言わない選択肢などないだろう。
全く連絡を取らずに心配させてしまった手前、だんまりを決め込むわけにはいかない。
一人の男として、腹を括ったオレは口を開く。
「曲を、作ってたんだ。オレと朝音ちゃんが二人で歌うための曲をな」
「……曲、ですか。それは、私達のバンドのために……ですよね」
「その通り。オレが過去に制作した曲を流用するなんて味気ないだろ? 折角の機会だし、完全な新曲を歌った方が楽しそうだと思ってな」
「…………なぜ、その事を言ってくれなかったんです? 最初から、曲を作る時間が欲しいので連絡は取れない、って言えば済む話じゃないですか」
至極真っ当な正論が飛んでくる。
彼女の言う通り。
事前に家に引き篭もる理由を伝えておけば、無用な心労をかけることもなかった。
その点は、本当に申し訳ない。
だが、オレにも言えない理由があったのだ。
「ごめんな! でも、オレは……サプライズしたかったんだよ! バンドのための新曲を作ったら……朝音ちゃんが喜ぶと思った、からさ……」
「……!」
朝音ちゃんは、僅かに瞳孔を開く。
恐らく、驚いたのだろう。
オレが隠れて、曲を作っていた事に。
それと、オレが照れてる姿を見せてる事に。
……自分でも、分かる。
オレは今、猛烈に顔を赤くしている。
ああ、もう、恥ずかしい。
こんなの、全然スマートじゃないぜ。
常にカッコよくあろうとするオレらしくもない。
もっと、なんていうか、こう。
サッと、新曲を披露したかったのに。
オレは特別な事なんて、してないぜ……とでも言いたげなキメ顔を添えて!
「……ありがとう、ございます」
朝音ちゃんは、感謝を告げる。
それと同時に、またもや泣いていた。
本日、二度目となる涙。
しかし、玄関の前で泣いている時以上に、嗚咽を漏らして泣いていた。
「え、ちょ、大丈夫、朝音ちゃん!」
「平気です。ご、ごめんなさい。私、嬉しくて……嬉しすぎて。お兄さんが、そこまで、私とバンドを組む約束を重く受け止めてくれた事実が……」
その言葉が聞けて、ホッとする。
これは、先程の涙とは違う。
心からの嬉し涙だと知れたから。
そりゃ、重く受け止めるとも。
オレだって、有名なアイドルとバンドを組む事を軽く捉えている訳じゃない。
足りない脳みそを動かして色々と考えて、それでもやりたいと思ったから組んだ。
それこそ、己の人生と引き換えてでも、朝音ちゃんと歌いたいと思ったから組んだのだから。
「ごめんなさい。私、お兄さんの頑張りを知らずに、好き放題言ってしまって」
「気にすんな。その事に関しては全く連絡しなかった俺が悪い。ぶっちゃけると、曲作りに夢中になりすぎて、他の物事を一切気にしてなかったんだ」
「でも、私は……お兄さんに何も返せないです」
返せない、なんてことはない。
実を言うと、オレが作った曲は未完成。
朝音ちゃんにしか出来ない仕事が残っている。
「返せる物ならある。朝音ちゃんには、オレが作った曲の作詞をしてもらいたいんだ」
「さく、し……?」
「そう、作詞。朝音ちゃんって、感情を込めて歌を歌うだろ? それなら、自分で歌詞を書いた方が良い。作詞して、曲に思い入れができた方が、より一層感情を込められるんじゃないか、と思ってさ」
オレと朝音ちゃんのバンドは二人のもの。
折角、国民的スーパーアイドルと、未来のトップミュージシャンが組んでいると言うのに。
オレ一人で作った曲を、朝音ちゃんが歌うだけってのは些か味気なく感じる。
どうせならば、曲も一緒に作りたい。
歌に込める感情も、曲に対する思い入れも。
全部、何もかも、二人で共有していきたい。
なんといっても、オレ達は……死ぬほど音楽を愛している、マブなダチなのだから。
「だが、無理にとは言わないよ。あくまで、朝音ちゃんさえ良ければってレベルの話だからさ」
「……いえ、やります。やらせてくださいっ!」
朝音ちゃんなら、そう言うと思っていた。
必ずや、オレの気持ちを受け止めてくれると信じていた。
とは言っても、ちょっくら緊張したけどな。
今まで、オレが作ってきた曲は、全部自分が満足するためのものばかり。
他人に曲を贈るなんざ、初めての経験で、童の貞を卒業する時以上にドキドキした。
「私、一生大事にしますね。二人で作る曲を、私達だけの曲を……」
だけど、贈って良かったと思えた。
屈託の笑みを浮かべる朝音ちゃんの姿は。
アイドルとして振る舞っている時にみせる笑顔とは比にならないくらい……輝いていたから。
きっと、今ならば言える。
朝音ちゃんに隠していた、もう一つの事実を。
「ねぇ、朝音ちゃん。作詞って、どんぐらいの期間があれば出来そう?」
「えっと……断言はできませんが、だいたい一週間あれば完成すると思います」
「悪いんだけど、最短で。おおよそ三日で、完成させてくんないかな?」
「……? 何故、ですか?」
「実を言うとさ、一週間後に、オレ達の初ライブをする予定を入れちゃったんだよね」
「…………え?」
「練習する期間を考えるとさ、3日でも足りないくらいだけど。まぁ、オレと朝音ちゃんの才能がありゃ、なんとかなるっしょ!」
オレはにかっと笑いながら、サムズアップする。
対する朝音ちゃんは、ただただ呆然としていた。
……まぁ、そういう反応をするよな。
オレだって、そうなる。
でも、仕方ないじゃない。
朝音ちゃんと二人で歌いたい欲求が、どうしても抑えられなかったんだもの。
逆に、責任とってもらいたいくらいだ。
無垢なオレを、こんな体にした責任を。
「……お兄さん」
「おお! やってくれるか! さっすが朝音ちゃん! オレの女神! 最っ高に愛してるぅ!」
「やりますよ。やりますとも。でも、その前に」
「二人の愛を確かめるか! 一緒に歌でも歌ってさ! 熱唱すれば、気分もハレルヤ〜!」
「少し、お話しましょうか。お互いの認識を擦り合わせるために」
「…………はい」
朝音ちゃんの表情から、笑みが消え失せる。
加えて、彼女の瞳には一切の光が無く。
……その日、オレは真の恐怖を味わった。
次回、ライブ回です。
後輩ちゃんもでるよ!