ろくでなしミュージシャンが国民的アイドルと天才バンドマンに愛されるヤンデレもの 作:三角関係大好き!!!
人生っつーのはままならんものだ。
自分のやりたいことをやるだけじゃ、生きていくことは出来ない。
だからこそ、周囲を鑑みずに好き勝手していると、ツケを払わなきゃならん時が来てしまう。
どれだけ後回しにしても、いつか必ず。
「ついに、ライブ当日ですね。お兄さん」
「あ、ああ。頑張ろうな、朝音ちゃん」
並んで歩く、オレと朝音ちゃん。
オレ達は今、ライブハウスに向かっている。
……記念すべき、初ライブを行うために。
「出来ることはやりました。後は、最高のパフォーマンスを発揮するだけ。私とお兄さんの音楽をお客さんに届けるだけ……ですが」
屈託のない笑顔を浮かべる朝音ちゃん。
彼女には、本当に苦労をかけた。
一週間という期間の中で、新曲の作詞に、パート分けに、会場を盛り上げる魅せ方の考案に、ライブを想定した実践的な練習の積み重ね。
様々な課題を一緒に乗り越えた。
限られた時間を音楽に捧げて、オレ達のバンドを形にしてみせた。
それも全て、朝音ちゃんのお陰。
彼女の献身があったからこそ、今日という日を迎える事が出来たのだ。
決して、無事に……とは言えないけれど。
「再三申し上げますが、次からは報連相を怠らないで下さいね。一週間で、新曲を披露できるレベルに仕上げるなんて無茶、もう二度と出来ませんから」
「は、はいぃ……」
言葉には、棘が仕込まれている。
過酷なスケジュールを乗り越えたオレ達の立場は、まるっきり入れ替わっていた。
少し前までは、気弱な朝音ちゃんを、威勢の良いオレが引っ張っていたのに。
今となっては、年下とは思えない威圧感を放つ朝音ちゃんが、オレの手綱を握っている。
これが、好き勝手に生きたツケ。
やりたいことを優先して、それによって生じる問題から目を背けた結果なのである。
だが、こんなのは、まだマシな方で。
もっとヤバい問題が、この先で待っている。
「……お疲れ様です、先輩」
ライブハウスの入り口にて、声をかけられる。
すっかり聞き慣れたハスキーボイス。
相変わらず感情が篭ってない瞳で、オレの姿を捉えているのは可愛い後輩である真壁だった。
「他の二人は準備を始めています。一刻も早く、先輩もリハに参加してください」
「お、おう」
「…………」
真壁とオレの会話を耳にした朝音ちゃんの表情から笑みが消え失せる。
それと同時に、プレッシャーが放たれて。
……オレは今、焦燥感に駆られまくっていた。
積もり積もったツケをどう精算すべきか、考えて考えて考えまくっているのだ。
端的に述べよう。
真壁のバンドのヘルプとして参加するライブと、オレと朝音ちゃんのバンドのライブの日は同じ。
加えて、ハコも同じ。
もっと言うと、真壁のバンドの後に、オレ達が演奏するって流れだった。
何故、こうなったのか。
その理由は、明白。
真壁のバンドとオレ達のバンドのライブを同じ日にやったら、最高に気分がアガりそうだ……なんて発想で、わざと被らせたから。
オレという人間が、目先の欲望に駆られて、後先を考えずに行動するバカだったから、であった。
……だがまぁ。
真壁のバンドがトップバッターで、オレと朝音ちゃんのバンドがケツなのが救いだな。
忙しいながらも、リハの時間は確保できるから。
「バンドのお手伝い……目一杯楽しんで下さいね、お兄さん」
「お、おう」
「…………」
事情を知っている朝音ちゃんと、事情を知らない真壁の視線が交差する。
そして、重苦しい雰囲気が場を支配する。
何故、こうなったのか。
その理由もまた、明白。
前述した諸々の事情を、朝音ちゃんには話したけれど、真壁には話していないから。
朝音ちゃんには、オレが真壁のバンドにヘルプとして参加することを事前に伝えてある。
その上、ライブをする日が同じ事も伝えており、あまりにも無計画過ぎると言われてしまった。
ぐうの音も出ない正論である。
しかし、真壁には、オレが朝音ちゃんとバンドを組んだことを話していない。
どうして、話さなかったのか。
その理由もまたまた、明白。
何となく言い出し辛かったので、話さなかった。
ただ、それだけ。
それだけなのだが、真壁のバンドの加入の誘いを頑なに断り続けた負い目があり。
尚且つ、一人で活動したいと言っておきながら、朝音ちゃんと組んだことに対する罪悪感もあって。
どうしても、言えなかったのである。
我ながら、愚かにも程があるけれど。
「……アイドルちゃんも楽しんでね。フロアで、先輩の演奏を聞くのを」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、今日という日を全力で楽しみますね」
だが、それにしても。
なんか、ギスギスしてね?
前会った時、こんな感じだったっけ。
真壁はともかく、人当たりが良い朝音ちゃんも、何処かぎこちない気がする。
双方共に淡々と言葉を紡いでいる姿は……まるで、互いを敵だと思っているようで。
ぶっちゃけ、怖い。
ものすごーく、怖いと感じちゃう。
ギスギスしてるように感じるのが、オレの思い違いだと良いんだけれど。
つーか、勘違いであってくれ。
「…………行きましょう、先輩」
「お、おう」
返事をするだけのbotと化しているオレは、ゆっくりと歩き出す。
何となく後ろを振り返ると、朝音ちゃんはこちらを見ていた。
アイドルとして振る舞っていた時と同じ。
貼り付けたような笑顔を浮かべながら。
「サウンドチェック、お願いします」
ライブハウスのPAさんの呼びかけに呼応するように、オレ達はサウンドチェックを開始する。
まずは、ドラムから。
「はーい。いっきまーす!」
真壁のバンド。
「Martyrs」のドラマーである佐藤が、元気よく叩き鳴らし始める。
普段のオレなら音を聞くところだが、頭の中がぐちゃぐちゃで、それどころじゃない。
……これから、どうしよう。
朝音ちゃんとバンドを組んだ事、ちゃんと真壁に伝えるべきだよな。
でも、どうやって伝えようか。
いつものオレらしく、軽いノリで言うべきか。
神妙な態度で、何度も誘ってくれたのに申し訳ないと謝るべきか。
いっそ、言葉にする事なく、オレと朝音ちゃんの演奏を見せるべきか。
いくつもの選択肢が、浮かんでは消えていく。
中々にこれだ、って案が思い浮かばない。
というよりも、全てが丸く収まる妙案なんて存在しないのかもしれない。
何故なら、どんなに手を尽くしても、真壁を傷つけてしまう結果になるだろうから。
これは、自惚れでも何でもなく。
真壁はオレを尊敬してくれている。
一人のギタリストとして、一人のアーティストとして、リスペクトしてくれている。
彼女は、オレの路上ライブをこっそりと観に来てくれている。
彼女は、オレを認めてくれているから、ヘルプとして呼んでくれる。
更に、彼女は……オレと、ずっと一緒に演奏していたいと思ってくれている。
だからこそ、何度も誘ってくれるのだ。
いつか、一緒にバンドを組む日を夢見て。
それなのに、オレと朝音ちゃんはバンドを組んだ。
真壁ではなく、朝音ちゃんを選んだ。
自分が選ばれなかった事実を知った時、彼女は一体どんな感情を抱くだろうか。
正直、全く予想できない。
皆目見当もつかないが、好意的な感情を抱かない事は分かる。
そして、オレと真壁の関係が、拗れてしまう事も分かってしまう。
きっと、オレ達は元には戻れない。
今みたいに、真壁のバンドのヘルプとして呼ばれる事は無くなるだろう。
それだけでなく、傷ついた彼女はオレを避けるようになるかもしれない。
無論、オレ的には許容したくない。
けれども、許容しなければならない。
人生は選択の連続だ、ってどっかの詩人が言っていたように。
望むもの全て総取りなんて、出来やしない。
何かを得るためには、何かを諦めなきゃならん。
朝音ちゃんとバンドを組むならば、真壁とギクシャクするリスクを受け入れなければならんのだ。
本当に、マジで、嫌ではあるけれど。
この際だから、はっきり言う。
オレは、真壁の事がめちゃ好きだ。
恋愛的な意味でなく、親愛的な意味で。
ぶっちゃけると、付き合いが長い事もあり、好感度は朝音ちゃんよりも高い。
それでも、オレは手を取らなかった。
真壁がオレを評価しているように、オレも真壁を評価しているからこそ、対等でありたかった。
肩を並べるのではなく、切磋琢磨したかった。
真壁を超える存在になりたいと思ったからこそ……共に歩む事を拒んだのだ。
……よし、決めた。
もう逃げるのはお終い。
ライブが始まる前に、伝えよう。
オレと朝音ちゃんがバンドを組んだ事。
真壁をライバルだと思っているから、ずっと勧誘を断り続けた事。
そうして、願うならば。
これからも、良い関係を築いていきたい事。
自分の思いを、惜しまずにぶつける。
そうすれば、真壁も理解を示してくれる。
今までのような関係で居られる筈だ。
さっきは、何かを得るためには、何かを諦めなきゃならん……とか言ったけど。
やっぱ、そんなんはヤだ。
オレは、望むものは全部手に入れたい。
朝音ちゃんとバンドを組みたいし、真壁との関係も切りたくないのだ。
我儘だと言われようが、構わない。
やりたい事をやって、やりたくない事はやらん。
それが、オレって人間だからな!
「真壁ぇ!」
「なんですか、先輩」
ベースのサウンドチェックが終わった瞬間を見計らって、真壁に声をかける。
時と場合を考えるべきだと自分でも思うが、好機逃すべからずって奴だ。
言いたいときに、言いたい事を言わせてもらう。
「お前に言わなきゃならん事が……」
何もかも、ぶちまけようとした刹那。
「サウンドチェック中に、私語は厳禁ですよ」
真壁は自分の口に人差し指を当てる。
それも、にこりと微笑みを浮かべながら。
「何を言おうとしているのか。私には見当もつきませんが、大事な話なら然るべき場所で聞きます。……先輩、ライブの後、時間取れますか?」
「……うむ。予定は何もないぞ」
「それなら、食事に行きましょう。秘密の話ができる、二人きりになれる場所で」
声色も明るい。
真壁のこんな姿を見るのは、初めてのことで。
バンドメンバーである佐藤や右城は連れて行かなくて良いのか、とか。
言いたくても、言えなかった。
「わかった。食事に行こう。……あんまり、高い店はやめてな。オレ、金無いからさ」
「ええ、先輩の懐事情も知り尽くしています。私の奢りなので、安心して下さい」
いつもと何も変わらないやり取り。
でも、違和感しかなかった。
普段の真壁は、微塵も表情筋を動かさない。
何気ない言葉の掛け合いを楽しみながらも、能面のような表情のままで。
朗らかに笑うような奴では、断じてない。
それなのに、何故……真壁は、笑っているんだ?
「ライブに全力を注ぐために。難しい事は考えず、演奏に集中しましょう」
今の真壁は、明らかに歪だった。
間違いなく、笑顔の裏には何かが隠されている。
その事を察しているのは、バンドメンバーも同様なのか。
佐藤も右城も、何かを言いたそうにするだけで、口をつぐむばかりだった。
「……おっけー。オレの超絶ギターテクで、フロアを大歓喜させてやるぜ」
「暴走するのも、ほどほどにして下さいね」
オレも真壁の様子がおかしい事に言及せず、普段通りの振る舞いを貫く。
笑顔の裏に……どんな感情が隠されているのか、気にならないと言えば嘘になる。
けれど、ここで追求したりはしない。
今、優先すべきは目先のライブ。
バンドの助っ人として、最高の演奏をする事だけ考えるべきだろう。
どうせ、嫌でも真壁とサシで話す事になる。
それならば、細かい事はライブが終わった後に考えりゃいい。
真壁達や朝音ちゃんと共に、音楽を楽しみ尽くした後で、現実を直視すりゃいいのだ。
ごちゃごちゃと悩んで、お楽しみの時間を無駄にするなんて、勿体無いたらありゃしない。
「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず……では、ギターさん、お願いします」
「了解! ヒルト、いっきまーす!」
PAさんに呼ばれたオレは、ギターをかき鳴らす。
現実を忘れて、音楽の世界に没入していった。
「お兄さんが、私以外の人とライブ……か」
ぼそりと口に出した後に、言わなければ良かったと後悔した。
フロアの片隅に佇む私は、ライブハウスのステージを眺める。
あそこが、私とお兄さんが初ライブする舞台。
……別の人とお兄さんがライブする舞台。
無事に、今日という日を迎えられて嬉しい。
嬉しいのだけれど、同時に複雑でもあった。
「……見たくないな。私とバンドを組んだお兄さんが、他の人と演奏する姿」
私の心の中を占めるのは、醜い気持ち。
お兄さんには、私だけを見ていて欲しい。
私とだけ、演奏してほしいと願う独占欲だった。
彼に救って貰った立場で、こんな事を思うのは烏滸がましいとわかっていても、抑えられない。
心の内に秘められた欲望は、日に日に大きくなっていく。
せめて。
初ライブの日、別の日が良かったな。
私たち二人が初めて脚光を浴びる瞬間をもっともっと、特別な思い出にしたかったから。
「来たっ、カミサマ!」
フロアの観客が歓声をあげる。
お兄さんがヘルプとして参加しているバンド「Martyrs」の面々が、次々と現れていく。
その中には、お兄さんの姿もあった。
助っ人である彼もまた、他のメンバーと同じ黒い装束に身を包んでいて。
臨時のメンバーとは思えない程、調和していた。
「一曲目、始めます」
バンドのギターボーカル。
銀髪のお姉さんは無表情のまま、そう告げる。
次いで、碌なMCも無しに演奏を開始した。
「…………」
そして、私は言葉を失った。
目の前に広がっている世界は……私にとって、あまりにも異質だったから。
フロアに立ち尽くす私以外の観客は、微動だにせずにステージを注視する。
まるで、何かに取り憑かれたかのように。
……いや、実際に取り憑かれているのだろう。
比類なき演奏技量にて織りなす独特の世界観に、観客は取り込まれてしまったのだ。
銀髪のお姉さんが中心となって作り出す歌の世界は、極めて退廃的で陰鬱としている。
ジャンルは、ヘヴィメタルのサブジャンルの一つであるゴシックメタル。
何処か隔離世的な雰囲気の歌詞を、余裕のある歌い方で演出し、観客を魅了する。
世界そのものに対する憎しみや、生きる事が無価値とする価値観を、刷り込んでいく。
そうして、その果てに、救済を与える。
絶望に囚われていても、神を信じる事で救われると強く主張する。
冷たく落ち着いた曲調を、荒々しいギターで悉く破壊していく。
曲のサビ付近でキーを変えて、陰鬱な雰囲気を消し去ってしまう。
大胆ながらも不自然でない巧みな転調。
私も、思わず聞き惚れてしまった。
多少なりとも音楽を嗜む者として、銀髪のお姉さんを凄いとも思った……けれど。
「貴女にとっての神様は……」
私の呟きは音の奔流に巻き込まれて消える。
そして、お兄さんは心の底から楽しそうにギターをかき鳴らす。
銀髪のお姉さんが生み出した歌の世界で君臨する……唯一神として、ギターソロを完璧にこなしていた。
断言できる。
このバンドの曲で、度々登場する神の正体は。
銀髪のお姉さんが信仰する神は、お兄さんだ。
その証拠として、ボーカルこそ銀髪のお姉さんが担当しているものの、リードギターはお兄さんが務めている。
お兄さんが最高のパフォーマンスを発揮できるように、銀髪のお姉さんはリズムギターを担当する。
それこそ、歌の世界にて君臨する神を陰ながら支える、殉教者のように。
曲の構成だってそうだ。
転調する時はいつも、リードギターが切っ掛けとなっている。
どんな曲だって盛り上がりの中心にいるのは、お兄さん。
その事に気がついて、私は……銀髪のお姉さんの思考を完璧に理解できた。
お兄さんの輝きを引き立たせるために、彼女はこのバンドを作ったのだと確信した。
歌を聞けば、わかってしまう。
銀髪のお姉さんが抱く執着心の強さが。
お兄さんに対する、信仰心に近い愛情が。
きっと、彼女は諦めたりしない。
一個人を神聖視するような人だ。
私とお兄さんがバンドを組んだ事を知ったとしても、大人しく引き下がる訳がない。
だからこそ、絶対に負けたくない。
「お兄さんは、渡さない……」
世界に対して憎しみを抱いている銀髪のお姉さんが、お兄さんに救いを見出したように。
私にとっても、お兄さんは……生きる意味を与えてくれた救世主なのだから。
次回から、本格的に後輩ちゃんのターンが始まります。
曇らせと、過去回想もあるよ!