栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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2025年8月7日 改稿
2025年12月6日 改稿
2026年2月22日 改稿
レースのグレード格付けはゲームを参考にしています。


第十二話 ホープフルステークス

2033年10月9日

ジュニア期も後半の10月。

メイクデビュー後、大きな動きは見せていなかったがそろそろ動き始めようと計画を練る。

そのために仁はとある人物の下に電話をかけていた………

 

同日 山本家

ピリリリリ

「やっほーにぇ、仁君」

俺はみこちへ電話をかけていた。

「ごめん、みこち。ちょっと聞きたいことがあって」

「別に良いにぇ。それで話っていうのは?」

「競馬のことについてで」

「ほ〜ん。となるとエースちゃん関係にぇ?」

「はい。俺はこの世界のレース史について詳しくても、現代の方には明るくないんです。エースを勝たせるためにも、みこちに聞きに来ました」

「お父さんの方はもう当たったにぇ?」

「あぁ。でも、2025年の春のG1戦線だけはわからないので聞きに来ました」

「ふ〜ん。そういうことなら!このみこ先生を頼ると良いにぇ!」

フンス!とでも擬音がつきそうな顔をしながら得意げに語る。

「じゃあ、まず皐月賞から」

「わかったにぇ。まず皐月賞は……」

それからはみこに春のG1の結果、勝ち馬の特徴、状況等を教えてもらった。

「……とまあ、こんなかんじにぇ!」

「ありがとう。参考になりました」

「困ったことがあればまた頼ると良いににぇ!」

「ありがとうございます」

ちょっと疑問を持ちつつもみこちの部屋から退出する。

 

 

2033年10月10日 トレセン学園

 

俺はエースと今後について話していた。

「今後出るレースについてなんだが、まずは京都ジュニアSを目指す」

「それまたどうして」

少し不思議そうな目で俺を見る。

「理由としては二つ。一つはクラシックへの練習。一週短いとはいえ京都ジュニアS・ホープフルSへの期間は、クラシックの皐月・ダービーの期間に近いので中距離で期間も似ているこれをクラシックへの踏み台にする」

「確かに、期間の練習は必要だな。もう一つは?」

「もう一つは実績作り。重賞を勝てばある程度実力が認められるし、その先のホープフルSを勝てば、クラシックに向けての本格的な実績を作れる」

実をいうと、これはとある競走馬をモデルにしている。

みこから聞いた2025年のダービー勝ち馬、クロワデュノール。

彼は京都2歳Sを勝ったのちホープフルSに勝利し、同じ間隔の皐月・ダービーにおいて二着・一着と好走しているためこれを参考にさせてもらった。

ただ、マイルが合わないと思ったので中距離の京都ジュニアSの変更したため、競争間隔が一週短いのが不安点だがそこは調整でどうにかするしかない。

後は本人次第だが……

「これでいいのか?エースが望むなら他のローテでも良いが」

「ああ、特に他のも思いつかないし、それにあたしの信頼するトレーナーさんのローテだしな」

「そう言われると照れるな」

本人も反対していないので、このローテで行くこととなった。

その後エースと分かれ、書類を渡しに行くために廊下を歩いていると橋塚にあった。

「よう、仁」

「橋塚か。そっちも書類で?」

「あぁ、たづなさんに渡しに行くためにな。お前もか?」

「そうだ。せっかくだし、少し話しながら行こうぜ」

そうして話しながら歩いていると、話題は自分の担当の話となった。

「そういえミスターシービーの方はどうだ?」

「4か月前にメイクデビューを勝利したけど、底力の凄さを思い知ったな」

そりゃそうだろう。彼女は未来の三冠馬なのだから。

「それで、次は何のレースに出るんだ?」

「ジュニア期は力をためて、クラシック期に本格始動して共同通信杯に行った後、弥生賞だな」

どうやら彼はゲームと同じレースローテで出るつもりらしい。

「普通のレースローテだな」

「ジュニア期はクラシックに向けて鍛えることに集中しようと思って」

「いいんじゃないのか。ローテは選手生命にかかわる重要な事項だし。オーソドックスなもので」

「そういうお前はどうなんだよ?」

「京都ジュニアSを経由してホープフルSに出る」

「そっちだってオーソドックスじゃないか」

「悪いか?」

「いや、お前と同意見だ」

そんな会話をしていると、向こうから歩いてくる緑の帽子が目に入った。

「あ、たづなさん」

「あら、こんにちは。何か御用ですか」

「書類をちょっとあなたに届けに」

「自分も」

「あ、ありがとうございます。お二人ともお仕事頑張られているようですが過労には気を付けて。特にお二人は業務量2倍、3倍と聞いているので、一層気を付けてくださいね」

「ありがとうございます。家族にも言われているので気を付けていますよ」

「それならいいのですが……。それと、書類は預かります」

「すいません。それでは」

そんな会話をして、二人はその場を後にした。

(それにしても、あの二人はどうやってあんな業務量をこなしているのかしら)

その背中には多大な苦労を背負っているように、彼女には見えるのだった。

 

2033年11月27日 京都ジュニアS当日

 

仁は関係者観戦席で手を組み、その様子は何かに祈っているようだった。

「頼むぞ、エース」

その緊張している様子からは、このレースへの力の入れようが分かる。

そんなこんなでレースが始まったのだが………

「カツラギエース一着!4馬身差を着け勝利いたしました!」

結果はエースの圧勝だった。

戦術は変えないで行ったのだが、案外通用したようだ。

レース後、エースはウィナーズサークルにて取材等を受けた後に、俺のところにやってきた。

「トレーナーさん。勝ってきたぜ!」

「あぁ、よくやってくれたエース」

「これもトレーナーさんのおかげだな」

「いやいや、エースが強いんだよ」

「い~や。トレーナーさんのサポートがあったからこそ勝てたんだ。謙遜するなよな」

「そういうことなら、ありがたく受け取らせてもらうよ。でも、エースも頑張ったからこそ勝てたっていうこともしっかり理解してほしいな」

ちょっとだけ圧をかけるようにエースに話す。

「お、おう。ありがとうな」

「でも、まだ油断はならないな」

「あぁ、なんてたって次はG1ホープフルSだしな。もっと強い連中が出てくる」

「そう思うと、今から若干恐怖で震えてくるな」

その言葉を聞いたエースは、少しからかい気味に言う。

「トレーナーさん、今から恐怖してどうするんだ?」

「さすがにG1ともなれば怖いよ」

「それに、前にも言ったろ?負けたことは負けた時に考えればいいって」

改めて、メイクデビューの時の記憶を思い返す。

すると、少し体が軽くなった気がした。

「確かに、今は次のレースに向けて全力を尽くすことだけを考えよう」

「だろ?そうとなれば、明日からさっそく練習だ!」

「ちょっと待て」

そう言ったエースに待ったをかける。

「うん?どうしたんだ?トレーナーさん」

「思い返せば、これまでずっと練習詰めの毎日だったよな」

「確かにそうだな。でも、休日はしっかり休んでたし……」

「同室のパーマーから聞いたぞ。休日も自主練してたってこと」

「ギクッ」

「練習に熱心な事はいいことだが、休みも大事だぞ?」

「わ、わかってるけどよ……」

「まあ、やってることは悪いことではないし、元から責めるつもりはない」

だが、本人には休んでもらわないといけない

「だけど、今週末は休んでもらう」

「休むつったって、どこで?」

「トレセンの近くにいい店を見つけたから、今度そこに食べに行こう。俺のおごりだ」

「い、いいのか?」

「頑張った教え子に何もしないってのは道義じゃない。それを糧に次に向けて頑張るぞ」

「あぁ!ありがとうな!トレーナーさん!」

次のレースへの準備もありながらも、一先ず勝利を喜ぶ二人であった。

 

2033年12月5日 トレセン学園自衛隊派出所 地下

「伏射!5発!射ッ!」

パンパンパンパンパン

20式を伏せ撃ちし、8割の命中率を叩き出す仁の姿がそこにあった。

「ふぅ」

防大の頃に比べれば大分ましになったな。

そんなことを思いながら、銃から弾倉を外し安全確認を行いガンロッカーにしまっていた。

それにしてもどうしたものか。

地下から上がる階段にて考え込んでいる仁。

そう、彼には今悩んでいることがあった。

それはホープフルSで使う戦術だった。

今までの計二回のレースでは同じ戦術を使い、勝つことが出来たもののG1ともなればより強力な戦術を編みださなければならない。

とりあえずトレーナー室に向かうか。

問題解決の案を思いつくことを信じて、トレーナー室へと向かった。

 

同日 トレーナー室

「がぁ~駄目だ!思いつかん!」

授業を終えたエースの前でそんな嘆きをする。

「もうこんなに考えてないなら、今までの戦術でいいんじゃないか?」

「いや、G1ともなれば新しい戦術が欲しい。どんな奴がいるかわからないからな」

そうして再び難しい顔に戻る仁。

「…そういえば中山の直線って短いんだよな」

「うん。そうだけど」

「ならトレーナーさん。逆に考えればいいんじゃないのか?」

「え?」

 

2033年12月25日 ホープフルS当日

「さすがにあたしでも身震いしちまうな」

「だな。勝つとか負けるとか関係なく、会場の熱量に押されるな」

そんなことを話しながら地下バ道を歩く。

「だけどやることは一つ。そうだよなトレーナーさん」

「あぁ。今出せる全力をすべて出す、やってこいエース」

「おう!見ててくれよな!」

そういって、地下バ道の出口へと向かう。

頼んだぞエース。

 

 

 

日暮れ空の元、ファンファーレが空を貫く。

そのファンファーレを聞いている、4人の人影があった。

「いや~レース場に来るのは久しぶりだな」

「そうね、前の世界以来かしら」

「まさかG1見に来れるとはね……」

「運よくチケットが当たったから良かったにぇ」

その人かげは宗光、白鳥、星街、みこちだった。

「仮に取れなくても、無理やりにでも取ったけどな!」

「そうね、仁が担当しているエースちゃんのレースですもの」

「すごい覚悟にぇ」

「そりゃ、親なら本気出すでしょ」

宗光と白鳥の本気度に押される二人の瞳に、バ場入場してくるウマ娘が写る。

「あっ!白鳥さん、宗光さん、入ってきましたよ」

「おっ!本当だ」

「エースちゃんは何処?何処?」

興奮している二人を横目に、二人は冷静に探していた。

「う~ん、あっ!居たにぇ」

みこちが指さす方向を見ると、黒髪のが特徴的なエースちゃんがいた。

だけど、今までに見たことのない服を着ている。

「みこち、あの服は何?」

「あれは勝負服って言って、G1とかの特別なレースできる服にぇ」

「へぇ~」

改めてエースちゃんを見ると、青のシャツに黒のハーフパンツ、そして長いコートには

「葛城栄主」と書かれていた。

「カッコいい系の勝負服だね」

「ヤンキーとか暴走族みたいにも感じるけど、それ以上にカッコいいにぇ」

そんなことを話しながらも、勝負の時間は迫っていった。

 

 

「来年のクラシック路線を占う重要なレース、ジュニア級の王者決定戦、ホープフルステークス。幕が上がるまであと少し」

緊張が前のレースの比にならねぇ。

会場の雰囲気にのまれちまう。

そんな風に緊張をしていた時、視線を感じた。

その方向へと振り向くと、トレーナーさんがいた。

こちらに気づいたトレーナーさんは、こちらの方に近づいてきた。

「負けたときは負けた時だ!全力を尽くせ!エース!」

その言葉にハッと気づかされた。

そうだ、そう言ったのはあたしじゃないか。

そう思うと何かが吹っ切れた気がした。

トレーナーさんの方向に向けて頷くと、ゲートに入ると深呼吸をする。

さあ、あたしの力を見やがれ!

 

 

 

ホープフルステークス 中山競馬場 2000m 18枠

 

「ジュニア王者を決めるG1ホープフルステークス。今、最後の一人がゲートに入りました」

その瞬間、競馬場が静まり返る。

ガシャン!

「スタートしました!」

いよいよ始まったホープフルステークス。

だが、始まったばかりだが、かなりの大荒れになるだろう。

なぜかって?それは……

「おおっと!カツラギエース!大逃げだ!他バを大きく突き放していく!」

エースが思いついた作戦、それは作戦なしということだ。

中山の直線は短く、早仕掛けしないと勝てない。

だが、これが大きく差が開いているなら話は別だ。

早仕掛けしても勝てない可能性が出てくる。

レース場の条件を利用して、勝ちに行く。

これが今回の戦法だ。

さあ、他バはどう出る。

残り1600m

 

 

 

「1000mを通過、タイムは59秒5! 」

「ちょっと早いけど、誤差の範囲内だね」

「やっぱり、体力意識してるにぇ」

そうみこちと話す。

エースちゃんが始めから大きく飛ばす展開となり、状況は大荒れ。

他の子は若干疲弊しているようにみえる。

いきなり先頭のペースメーカーが飛ばせばそうなるだろう。

それでも体力を消費しすぎないように、誤差レベルのスピードになっている。

単純そうに見えても、しっかり考えられてる。

そんなことを考えていると第4コーナーを回りかけ、もうすぐ最後の直線。

残り400m。

まだ勝負はわからない。

 

 

 

体力をある程度節約したとはいえ、さすがに大逃げはキツイ。

横目でハロン棒を見ると残り400m。

いよいよ最終直線、心臓破りの坂だ。

コースや状況もそうだが、プレッシャーもやべぇ。

あたしを狙う視線をガンガン感じる。

マズイな。そう思っていた時だった。

「頑張れー‼エース‼」

遠くから微かに聞こえた応援の声。

その声は間違いなくトレーナーさんの物だった。

「逃げ切って‼エース‼」

「エースちゃん‼頑張って‼」

それに続いて次々と応援の声が聞こえる。

こんだけの人があたしに夢を見てくれている。

だったら猶更負けてらんねぇ‼

「ウオオオオオオオオオオオ‼」

残り200m。

 

 

 

「頑張れー‼エース‼」

一瞬走りに陰りが見えたとき、反射的にその言葉を叫んでいた。

そうだ、エース。

お前は一人じゃない。

「逃げ切って‼エース‼」

「エースちゃん‼頑張って‼」

多くの人がお前に夢を見てる。

今この瞬間、誰よりも憧れになっているんだ!

「5番チャッピーローズ伸びるが、届かない!」

「行け‼カツラギエース‼」

「強い‼強い‼カツラギエース‼今一着でゴール‼」

勝った‼勝った‼

走り切って今にも倒れそうなエースに駆け寄り、介抱する。

「大丈夫かエース⁉」

「ハァ、ハァ、大丈夫。それよりもトレーナーさん、やってやったぜ」

「ああ!!よくやった!俺たちの勝利だ!」

全てを出し切って走り終わったレース場には歓声だけが響いていた。

 

 

「「やった!やった!」」

初のG1制覇。

限られたウマ娘しか手にできない称号をあたしは手に入れた。

トレーナーさんも年甲斐もなく喜んでくれている。

こういうしっかりしてるけど喜ぶときは喜ぶ姿がなんか好きだな。

そんなことを思いながら取材と授与式のためにウイナーズサークルに向かうのであった。

 

 

 

「やった!やったにぇ!エースちゃんが勝ったにぇ!」

「よくやった!エース!そして我が息子!」

「お父さん興奮しすぎて、おかしくなってるわよ!」

エースちゃんのG1初制覇。

二人ともとても喜んでいる様子がここ(観戦席)からでもわかる。

無論、それは喜ばしいことだ。

でも、二人が何だか仲良くしてるのに、ちょっとだけ嫉妬しちゃうな。

ウイナーズサークルで取材を受ける二人の姿を見ながらそう思うのであった。

 

 

 

「フーン、勝ったらしいじゃん、あの機体のパイロットの担当バ」

「戦闘だけでなく、レース方面でも才覚があるとは。以外ですね」

0と1の世界でそのレース中継を見ているものがいた。

「まあ、たまにいるからね~。そういう複数の才能を持つ連中は」

「彼がまだ‘‘例外‘‘かはわかりませんね」

「フン、興味ないね。私は‘‘例外‘‘など認めない」

「相変わらずつれないね~、君は」

二つの意識体の間で二進数が交わされる。

「私は機体の調整と量産に取り掛かる。後は好きにしてるといい」

「ハイハ~イ。そんじゃあね~」

通信から片方が抜ける。

「それでは、この後はどうしますか」

「う~ん、もう少し他のレースも見ない?こっちでも‘‘例外‘‘がいるかもしれないし」

「私も少し興味があります」

「よしっ!それじゃもう少し見ますか!」

ファイルを検索し、目的の動画を探し始める。

彼らの目的への道のりはまだまだ遠い。

 

 

この世界ではレース後に定番となっている物がある。

それが…

「みんな〜!!待たせたな〜〜!!」

ウイニングライブ。

ゲームではウィニングランの代わりになっていたこれも、立派な伝統だ。

「それじゃ、行くぞ!!」

「「「「「「「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォ」」」」」」」」」」」」」」」」」」

ライブは大盛況となり、その予熱はしばらく冷めそうになかった。

 

ライブ後

「トレーナーさん、アタシしっかりセンター務めれてたかな?」

控室でそう話すエース。

「あぁ、務めれてたぞ!」

若干気分が高揚しているのか、興奮気味の声で言う。

「さすが俺の愛バだ!!」

その声に僅かに顔を逸らすエース。

「お、おう、ありがとうな!」

 

 

 

帰宅後 トレセン学園 栗東寮

布団の中でエースは物思いに耽っていた。

あの時、トレーナーさんに「俺の愛バだ!」って言われた時、なんか心が熱くなったんだよな。

レース直前で燃えるとかそういう感じじゃねぇ。

一体何だろうなこれは

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