栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第十四話 クラシック戦線異状なし

2034年1月26日 トレセン学園 

新しい出会いもあった正月も過ぎた一月後半。

俺は変わらずトレーナー室で仕事をしていた。

「そういえばもうすぐ共同通信杯だな」

共同通信杯。

クラシック戦線のメインレースへの踏み台となる重要なレース。

ここで勝った馬はアイネスフウジンやナリタブライアン等のちにG1を勝つ馬を多数出している。

そしてその馬の一頭にエースのライバルであるミスターシービーがいる。

彼らが活躍していた当時とは色々レースのグレードなどが違っているが、この世界でもシービーは共同通信杯に出走するようだ。

そんなことを思っているとエースが授業を終えてトレーナー室に入ってきた。

「こんにちは!トレーナーさん!」

「やぁ。元気だなエース」

「おう!そういうアンタはなんか疲れてそうだな?」

「人の三倍の仕事してればこうもなるよ」

「さ、三倍⁉」

「うん三倍。自衛隊の仕事二倍とトレーナーの仕事」

「それ大丈夫なのか⁉」

「俺がここに赴任した時から自衛隊の方の仕事量は2倍だけど、なぜか倒れないでいる」

疲れが滲む声でエースと会話する。

「なんか社会の闇を聞いた気がしたぜ」

「まだ君は知らなくていいよ。いずれ知ることになるから」

「今の説明聞いただけだと嫌なイメージしか持てないんだが」

「まあまあ、その話は一旦置いといて」

多分置いといちゃいけないんだろうけど、一旦置いておく。

「今後のレースの予定なんだが、今時間あるか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「それじゃ、今後の出走するレースだが意見がなければクラシック路線に行こうと思ってる」

「意見はないんだが、とりあえず理由を聞いてもいいか?」

「理由、理由か。この時期のメジャーな路線ってのもあるし、ホープフルで中距離のレース実績も作ったからな。これをフルに活かさないって手はない。ティアラ路線じゃないのは桜花賞のコースであるマイル実績がないからだな」

「ほ~ん」

「とりあえず、こんなところだな。何かあるか?」

「いや、特には。理由もしっかりしてるし、あたしもクラシック路線に進むつもりだったからな」

「そうか」

まあ、本当は実馬の影響もあるんだが、来るべき時が来たらこれは話そう。

「そうとなれば!さっそくトレーニング」

「まあ待て」

今にも飛び出しそうなエースを制止させる。

「どうしたんだ?トレーナーさん」

「確かにトレーニングも大事だが、対戦する相手を見極める必要もある」

「ということは?」

「敵情偵察だ。今度の共同通信杯、見に行くぞ」

「ふ〜ん、やっぱりお目当てはシービーか?」

「あぁ、ヤツは強者の感じがする」

「あたしもシービーと模擬レースする時はかなり警戒してる」

 

 

 

同日 夜 栗東寮

トレセン学園には我々の世界のトレセンの名がつけられた寮が存在する。

その中の一室で、二人のウマ娘が会話していた。

「~~~~♪」

「鼻歌を歌ってるとは、何かいいことでもあったんですか?」

その二人はカツラギエースとメジロパーマーだった。

「えっ!?そんなにわかるか?」

「わかりますよ。そんなに機嫌よさそうな顔をしてれば」

「実はトレーナーさんと共同通信杯に行くことになったんだ~」

口調まで崩壊してしまうほど嬉しそうだ。

まあ、レース偵察兼デートのようなもの、こうなるのもわからなくない。

「そんな好きなんですね~。トレーナーさんのこと」

「おうよ!あたしのことをしっかり見てくれるトレーナーさんだからな!」

このトレセン学園は中高一貫であり、多感な時期な子が集まる。

そんな中で自分にしっかり向き合ってくれる人がいれば惚れてしまうこともあるだろう。

オマケに、この学園では異例中の異例として教え子と恋仲になって寿退社することもある。

だから私やエースさん含め、好きなトレーナーさんを狙う子は多いのだ。

「でも、エースさんにはいるんでしたよね?恋敵」

「いるぜ。それも強力な」

エースさんが見ていたスマホの画面には星街すいせいの配信画面が写っていた。

「相変わらず綺麗な声ですね」

「そうだな。というか知ってたのかパーマー」

「一年ぐらい前から見てて、綺麗な声に魅入られちゃって」

「バーチャルアイドルだし、ある意味ではあたしたちに似てるのかもな」

私たち競技ウマ娘はアイドルとしての一面もある。

歌って踊り、ファンに夢を見させる。

そういう意味では、私たちは同業者なのだろう。

「それで、デートの作戦とかはあるんですか?」

「それが決めかねてるんだよな~。イマイチ良い案が思いつかなくて」

「だったら!こういうのはどうですか?」

「えっ。どんなのだ?」

「それは………」

パーマーがエースに何か耳打ちする。

「そ、そんな作戦で行くのか⁉」

「だって、恋敵のすいせいさん一緒に買い物に行って名前呼びさせても、好意に気づかなかったって、前言ってましたよね?だったらこれくらいしないと!」

「うぅ。腹をくくるしかねぇのか……」

「そうですよ!すいせいさんにトレーナーさん取られてからでは遅いんですよ!」

取られるという言葉を聞いた瞬間、エースさんの目の色が変わる。

「そっ、それだけは!」

「ですよね。じゃあここは気張るしかないですよ!それで具体的な作戦ですが……」

その部屋は夜遅くまで話し声が聞こえていた。

 

 

 

2034年2月5日 東京レース場前 共同通信杯当日

「約束の時間の20分前だけど、さすがにいないか」

自衛隊という仕事の癖で約束の時間より早く来てしまうことはたびたびある。

「まあ、気長に待つか」

そう思って待とうとしていた時だった。

「あ!トレーナーさん!」

エースの声が後ろから聞こえた。

思ったより早かったなと思いつつ振り向くと、そこには私服姿のエースがいた。

赤いジャンパーに人参のマスコットのワッペンが特徴的な服装だ。

「早いな!約束の時間の20分前だぞ」

「そういうエースだって20分前に来てるじゃないか」

「まあな!ちょっと楽しみでさ」

「一応、これ偵察だからな。それは頭に入れておいてくれ」

「分かってるって。それにしてもこんな早いのは予想してなかったぞ」

「職業柄早い時間に集まるのは慣れてる、というより癖だな」

「ふぅ~ん」

「それじゃ、行くか」

そういって、レース場へ続く長い空中廊下を歩きだした。

「相変わらず長いな」

「下に駐車場とかもあるしなー。これは仕方ないでしょ」

そんなことをぼやいていると、チケット売り場に到着した。

「大人二人で」

「400円になります」

前の世界では親父に連れられて来たなぁ、と思いながらチケットを買い入場する。

競馬場の内部に入ると、右手にパドックが見える。

「一先ず、パドックに行くぞ」

時計を見ると15時20分。

丁度、共同通信杯に出走する子たちがいる時間帯だ。

「あぁ!急ごうぜ!」

人混みのという名の針の穴を早歩きで通り抜け、パドックへと向かう。

 

東京レース場 パドック 

人の5倍くらいありそうな掲示板が特徴的なパドック。

その中では闘志を燃やすウマ娘たちがレースに向けた準備を行っていた。

「何度来ても緊張感漂うな」

「まあ、あたし達にとっては一世一代の勝負なわけだし」

「そうだな。ん?こっちに気づいてないか」

俺らが注目していた子は一人のみ。

俺らの世界では3冠馬となったミスターシービー。

そのミスターシービーがこちらに気づいたようだ。

「やぁ!エース。まさか来てるとはね」

「おう!シービー。親友のレースに来ないわけないだろ!」

「そんな風に思ってくれるとは嬉しいね!」

やっぱり二人は親友なんだなと思いつつ、一言話しかける。

「なんか、君はあんまり緊張してる感じがないな」

「そうかな?これでも人なりに緊張してるつもりだけど」

「緊張を超える感情があるんじゃないか?」

「確かに。レースを楽しむっていう気持ちがあるかな」

「良いんじゃないか?戦い方は人それぞれだからな」

そんな会話をしていた時に、府とエースの方を見た時だった。

エースが何か寂しそうな表情をしていた。

「え、どうしたんだエース」

「いや、ずいぶんと仲が良いようで!」

プイッ、と効果音がつきそうな感じで顔をそむける。

「俺、なんか機嫌を損ねちゃったかな」

「ふ~ん」

「どうしたんですか」

「いや、君は噂通りの人だなと思ってね」

「???????????」

「その様子だと本当にそうみたいだね。じゃあそろそろお暇するね」

「そうですか。それではレース頑張ってくださいね」

そういって、パドックの方へと戻っていく。

「なぁ。トレーナーさん」

「ん?どうした?」

「ごめんな。あんな態度取っちゃって」

「いいよ。俺にもそれなりのそうさせた責任があるわけだし」

そうやってなんだかもやもやなことに対して謝っていると、パドックから子たちが撤退していた。

「いつの間にかいなくなっていたな」

「だな、それじゃコースの方に行くか」

そういってエースと一緒に移動しようとしていた時だった。

「あ、あの、トレーナーさん!」

エースが声をかけてきた。

「どうした?」

何を話すのかと耳を傾ける。

「あ、あのさ。仲直りって程でもないんだけど……」

ちょっと恥ずかしそうにしながらも話を続ける

「手、繋がないか?」

ちょっとした要求に多少驚いたが、返答する。

「別にそれくらいなら」

要求に応えて、エースの綺麗な手を握るが、

「な、なあ、トレーナーさん。握り方変えないか?」

と言われ、握り方を変える。

さっきまでは普通に手を包むように握っていたが、指を絡ませて握る。

エース曰く、これがいいとのこと。

「それじゃ、行くか」

手を繋ぎながら、勝負の地へと向かうのであった。

 

 

 

や、やった!

手、繋ぐことが出来た!

前にパーマーに言われたことはこうだ

『改めて言いますが、作戦は恋人らしいことをすることです!』

『こ、恋人らしいことをするって言ったって、例えばどんなことだ?』

『一緒にご飯を食べたり、手を繋いだりすることだったり、あとは名前呼びとかですかね?』

『ご飯は時間帯的に無理だ。今回は共同通信杯の偵察がメインだからな』

『じゃあ、それは消して……ってエースさんってトレーナーさんに名前呼びされてましたね』

『それに関しては、あたしのトレーナーだってことで最初にやってもらった』

『じゃあ、今回の作戦は手を繋ぐってことになるのか?』

『そうなりますね』

『それくらいならできそうだ』

安堵している様子のエースに容赦なく追加条件を突きつける。

『でも、ただの手つなぎじゃありませんよ。指を絡ませるつなぎ方じゃないとだめです!』

『そ、それって……』

『はい!所謂恋人つなぎです!』

それを聞くと、エースの頬がほんのり赤くなる。

『どうしたんですか。これくらいで照れてちゃ、どうにもなりませんよ』

『うぅ~。あたしも一人の乙女なんだぜ?少しくらいは照れるぞ///』

『もう今の段階でできるのはこれくらいしかないんです。覚悟を決めてください』

若干口調が崩壊しているが話を進める。

『……わかった。覚悟を決める』

『よかったです。後は突き進むだけ!頑張ってください!』

最初はどうなるかと思ったが、ちょうどいいタイミングが出来てよかった!

サンキュー!シービー!

そんなことを思いながら、レース開始時刻を待っていた。

「いよいよ始まるクラシックレースの前哨戦!共同通信杯!」

威勢のいい解説の声が場内に響く。

「そろそろだな」

そうトレーナーさんが言った時、ウマ娘がバ場内に入ってきた。

その中にはシービーの姿も見える。

頑張れよ!シービー!

「さあ!各ウマ娘のゲートインが始まりました!」

新進気鋭の選手たちがゲートへと入ってくる。

見せてくれシービー!その強さを!

 

共同通信杯 芝1800m 18枠

「さあ!運命の1800m!夢への第一歩を踏み出すのは誰なのか!」

レース場に一瞬の静寂がはしる。

「スタートしました!」

ついに始まった!

レース序盤は後について足をためるシービー。

アイツの脚質に合った戦術だ。

そのまま特に大きな動きもなく第三コーナーに突入。

「ミスターシービー!追い上げていく!かなり速い展開だ!」

もう追い上げるのか。

解説が言ってるとおり早い展開だが、アイツにはそれに耐えられるスタミナがある。

そのまま次々と抜かしていくと、最終直線に突入。

だが、周りもただ抜かされていくだけではなかった。

「プラムランナー!ミスターシービーとの激しい競り合いだ!」

シービーが前のレースで負けたプラムランナー。

恐らく、アイツは最初から彼女を狙っていたのだろう。

「逃げ切れるかプラムランナー!抜かせるかミスターシービー!」

「行けー!シービー!」

自然と口が動いていた。

「差せー!シービー!」

トレーナーさんも一緒に応援してくれていた。

やっぱりあたしのトレーナーさんだなと深く感じた。

ありがとう、トレーナーさんのおかげでより強く応援できる。

「頑張れー!シーービーー!」

「シービー!差し切った!差し切った!そしてそのままゴールイン!」

 

 

 

共同通信杯の栄冠を手にしたのはやはりシービーだった。

「シービー!おめでとうー!」

「よくやったぞー!シービー!」

あらゆる方向からシービーに対する讃辞が飛んでくる。

その後は、ウイナーズサークルで橋塚と一緒に授賞式やインタビューが行われた。

それも終わり、帰ろうとした時だった。

「エース!」

「仁!」

突如、大声で呼びかけられた。

その声の主は橋塚とシービーだった。

一斉に観衆の視線が俺たちに向く。

一体どうしたのかと待つと、

「君/お前との対決楽しみにしてるよ!/ぞ!」

その言葉は何処か熱く、同時に反骨心を刺激するものだった。

そして俺たちは顔を見合わせた後、こう言った

「「おう!負けるつもりはねーからな!」」

それを宣言した瞬間、観衆から拍手と喝采が上がった。

この日は、俺たちの戦いのゴングが鳴った日になった。

 

 

 

同日 夜 トレセン学園 栗東寮

「どうでしたか?偵察兼デートは?」

「うまくいったぜ。けど……」

「けど?」

不思議そうな顔でエースを見るパーマー。

「シービーとの真剣勝負をすることになった」

そう話すと何かを察したような顔をするパーマー

「……まぁ、頑張ってくださいね」

「おう」

そう答えながらエースは心の中の闘志を燃やすのであった。

彼らの戦いは始まった。どうなるかはまだ誰にもわからない。

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