2026年2月9日 改稿
2034年2月25日
共同通信杯から少し経った頃。俺はすいちゃんと一緒に東京まで出かけていた。
「何か東京に用があるんですか?」
「うん。今度ソロライブやることになったんだ」
「えっ!すごいじゃないですか!」
「それで調整のために東京まで行く必要があるんだけど、そのついでに遊ぼうと思って」
東京の真ん中でシレッと凄いこと言うなこの人。
「それはわかりました。ですけど、俺までついてくる必要ありました?」
「君、仕事が超激務じゃん。だから息抜きになると思って誘ったの」
「まあ確かに。遊ぶにも理由があんまりなかったのでこういうことなかったですし」
「でしょ。何しようかな~」
「楽しみにするのもいいですけど、午前中だけとはいえ仕事もちゃんとしてくださいね。むしろ、そっちの方がメインなんですから」
「分かってますよ~」
「それならよかったです。あなたの顔に泥がついたらいけませんから」
仕事に何か問題が起きたら、それが重大なことにつながるかもしれないからな。
「心配してくれてありがとう。しっかりやってくるよ」
その目的の場所に着いたので、すいちゃんと別れて俺は適当に歩き回って待つことにした。
今日は休日ということもあって人が多い。
まあ、ここ渋谷とかの近くだから元々人多いけど。
そう思ってプラプラ歩いていると、町中に設置された電光掲示板が目に入った。
どうやらニュースをやっているようで、内容は今年のクラシック路線についてだった。
画面の右上には
『群雄割拠のクラシック路線
今後の展望は』
と書いてあった。
「今年のクラシックレースどうみますか?」
画面左側にいる女性アナウンサーが専門家と思わしき人に質問する。
「そうですね。今年のクラシックは強い娘がいっぱいいますよ」
「ほう。例えば」
画面中央にいる男性アナウンサーが話題を広げる。
「まず外せないのは、昨年のホープフルステークスで勝ったカツラギエースでしょう」
ある程度予想はしていたが最初に自分の担当バの話題が出てくるとは。
「数少ないジュニア級でG1を勝った子ですし、クラシックレースではメインとなる中距離適正も抜群です。クラシックでも力強い走りを見せてくれるでしょう」
自分の担当が褒められていることに対して少し照れるも、話は次の子へと移る。
「次に、今月初頭の共同通信杯を勝利したミスターシービーです」
やはり出てきたかミスターシービー。
「ジュニア級では着実に好走を重ね、今年に入ってからはクラシックの登竜門となる共同通信杯を勝利した、期待できる一人と言えるでしょう」
俺たちの世界では三冠を取る強さを見せつけたシービー。
この世界でも俺たちの強力なライバルとなるだろう。
だからこそ負けられない。
人が右往左往する町中で、仁は静かに闘志を燃やしていた。
おっと、いけない。
ふと我に返り、掲示板の時刻を見てみると、もうすぐすいちゃんの用事が終わる時刻。
元の場所に戻ろうとすると
「あ!仁君!」
と声をかけられ、振り返るとすいちゃんがいた。
「え、なんでここに」
「想定より早く用事が終わってね。どこに君がいるかな~って探してたら偶然」
「手間をかけさせてすいませんね」
「いいの!いいの!君についてきてほしいって言いだしたのは私なんだし」
ちょっと会話をしていると、後ろにある電光掲示板に気づいた。
「ん?これ今レース特集やってるの?」
「はい。さっきはエースも紹介されてましたね」
「ふ~ん。他にどんな子が紹介されてたの?」
「エースのライバルで、俺たちの世界では三冠を取ったミスターシービーも紹介されてましたね」
「はえ~。今年のレース、面白くなりそう?」
「そうですね。何より強力なライバルのミスターシービーがいるので」
レースについて興味があるの以外だな。
前の世界で、競馬やってたみこちの方が興味ありそうだけど。
「それじゃ、時間のありますしそろそろ行きますか」
「そうだね。どこ行く?」
「お昼近いですし、まずはご飯食べに行きましょうか」
そうしてその辺りあったファミレスに入って、食事を済ませたのち、本格的に遊びに出かけた。
「仁君、まずはどこ行く?」
「時間はあるので、映画でも見に行きますか?」
「おっ!イイね~。それに決定!」
というわけで、近場の映画館に入り、見る映画を決めることにした。
「おっ、これ私たちの世界でも映画化されてたやつじゃん」
「俺は見たことありませんね。どんなんなんですか?」
「確か賞取ったラブコメ物を映画化した奴だったかな」
「へぇ。この世界ではどうなってるんですかね」
「ポスターに思いっきりウマ娘描かれてるけど、題名同じだし、そこまで変わってないと思うよ」
こういう、前の世界にあったやつのこの世界バージョンって見たことないな
「じゃあ、これにしましょうか。俺、カウンターで飲み物とか買ってくるのですいちゃんは映画のチケット買ってきてください」
「わかった!飲み物はオレンジジュースでお願い」
「分かりました」
そういって、各々分かれて必要なものを買い、シアターの入り口前に向かった。
「それでは、入場を開始します」
係員の誘導に従って次々とシアターに人が入っていく。
「予約した席ってどこです?」
「後ろの真ん中の方。ついてきて」
付いていくと、一番後ろのかなり見やすい席に着いた
「一番いい席取れましたね」
「奇跡的に二席開いてて。運が良かったね」
そんなことを話しながら、席に着き映画の上映を待つ。
「そういえば、すいちゃんは見たことあるんですか?」
「うんにゃ。大まかな内容を知ってるってだけで、見たことはないね」
ということは二人ともほぼ初見というわけか。
これはちょっと不安ではあるけど、面白いな。
すると、照明が一気に暗くなった。
まあ、期待し過ぎない程度に見るか。
2時間後……
「いや~よかったね~」
「俺、あんまりこういうのは見ないんですが、これは良かったと思えましたね」
内容としては感動モノの恋愛映画という感じだった。
主人公とヒロインが何度もぶつかり合っても、互いのことを思いあって……
ああいう恋愛もあるのかなぁと思いつつ、映画館から出る。
「次どこ行きます?」
「そうだね~。宗光さん達には夕食も食べてくるって言ってあるし……」
「えっ、初耳なんですがそれ」
「あれ?伝えてなかったっけ」
まさかの、両親に許可取っていたとは知らなかった
「まま、遊べる時間が増えるんだしいいじゃん♪」
「まあ、そうですね」
なんか図られてる気もするが、今は楽しむとしよう。
そうして出発したのだが
「あ、あの、すいちゃん」
「ん~?どうしたの仁君」
「て、手つないでますけど、いいんですか?」
「え~別に私から繋いでるんだからいいじゃん」
まあ、いいか。
しかし、エースと同じように指を絡ませるスタイルなのか。
近頃はこんなのが流行ってるのか?
その後は秋葉原や池袋、原宿を転々とし最後には東京タワーにたどり着いた。
「いつ見ても東京の夜景は綺麗ですね」
「ツリーもいいけど、ここの夜景も負けてないね」
今日一日を振り返りながら、網膜に光の海を映す。
「そういえば仁君、もうすぐ誕生日だね」
「それはすいちゃんの方が先でしょ……」
「すいちゃん的には君の誕生日を祝いたいんです~」
「それはありがたいですけど、自分の誕生日も意識してくださいね。俺にとってすいちゃんは大切な人なので」
「ふ〜ん、ありがとうね〜」
「また来たいですね」
「そうだね。次はもっと予定を組んで来たいね!」
「ですね。もっと楽しみたいですし」
町中の光は二人の未来を見据えるように光っていた。
帰宅後 星街家
「いいんじゃないかにぇ?」
「いいんじゃないって、何か駄目だった?」
すいちゃんは自分の部屋でみこちと一緒に今日一日を振り返っていた。
「だって、あんなに距離近いのに今ままで手もつないだことない方が驚きだったにぇ」
「し、仕方ないでしょ。異性とお付き合いしたことなんてないんだから」
「最も、すいちゃんはその段階にすら至ってないにぇ」
「ウグッ」
「まあ、散々に言ったけどすいちゃんは頑張ったと思うにぇ」
「欠点指摘された後にそれ言われてもあんまり響かないね」
「それなら、もっと仁君に対してアピールするにぇ。そうしないと一生このままにぇ」
その夜は作戦会議で、夜遅くまで電気がついていたという。
2034年3月25日 トレセン学園
トレセン学園の一角にある自衛隊派出所。
その一室で仁はシミュレーターによる戦闘訓練を行っていた。
その様子は集中しているようで、苦悶の声すら一言も発してない。
しばらくすると右上に表示された時間が00:00となり、画面に「訓練終了」の文字が出る。
「ふぅ、終わったぁ」
今までの反動のように、気の抜けた声を発する仁。
「それにしても、やりすぎだよなぁ」
シミュレーターに対して文句を言う仁。
「いくら対人型機を想定しているとはいえ、アムロさんのデータを流用するのは」
この自衛隊派出所にあるシミュレーターは様々な状況を想定した訓練を行うことが出来る。
例えば、・戦闘機を想定した対空戦
・防御を固めた艦隊に対する対艦攻撃
・ゲリラ戦を想定した対人訓練 などがある。
その中で、敵対する組織が人型兵器を保有した時のための対人型機の訓練がある。
その訓練の動きの参考データがまさかの伝説のパイロットであるアムロさんをベースにしている。
なので変態的な動きをし、例を挙げると
・接近したミサイルの切り払い
・武装投棄を囮とした搦手
・こちらが撃ってるにもかかわらず、避けて突っ込んでくる などである。
もうこれ対人型機じゃなくて対ニュータイプ用の訓練だろと思えるほどである。
最初は撃墜されまくっていたが、今は何とか制限時間まで耐えることが出来るようになった。
「まあ、ここまでできるように成長したってことか」
自分のことを褒めつつ、シミュレーターから出る。
「それで今後の予定は~」
自分のデスク上に用意しておいた予定表に目を通す。
「来月の下旬に、量産機の発表。ASAWP計画もここまで来たか」
ASAWP計画は戦略兵器の開発計画であるが、人型機動機の場合は少し違う。
人型機動機は戦自以外にも、量産型を陸自に配備予定であり量産機がその第一号となる。
その発表ではデモンストレーションも同時に行われるため、仁は訓練に集中していたのだ。
「その後は一気に飛んで今夏に量産機2型のロールアウト」
量産機2型は来月に発表する量産機と並行して開発され、量産機と同時に発表予定でいたが、開発のトラブルによって納期が大幅にずれ込み、今夏にロールアウトとなった。
「その後は最終試作機兼新型量産機を作った後……」
そう予定を確認していると、時計の鐘が鳴った。
ゴーンゴーン
「もう十二時か」
午前中の業務で腹が減っていたところだ、行くとしよう。
トレセン学園自衛隊派出所の自衛隊員はトレセン学園側の一部設備を一般隊員でも使用できる。
例えば職員食堂。
トレーナー等のトレセン学園関係の職員が利用可能な食堂だが、派出所の自衛隊員も利用可能なようにトレセン学園側と契約している。
無論、それ相応の資金援助を対価としてだが。
まあ、それは俺たちが考えることではないか。
そう思いながら券売機にて食券を購入し、受け取り、席に着く。
「やぁ、仁」
「ん?あぁ、橋塚いたのか」
「偶然な。隣いいか」
「いいぜ。最近調子はどうよ」
昼食を取りつつ、世間話をする。
「自衛隊もトレーナーも順調だよ」
「そうか、それは良かった」
「それより、俺たちトレーナーはもっと重要なことがあるだろ」
「それもそうだな」
この春の時期はトレーナーとその担当ウマ娘、特にクラシック級の子は重要な時期となる。
なぜなら、クラシック・ティアラ3冠の内、二冠が4月~6月に集中しているためである。
クラシック・ティアラ路線やクラシック級ではなくても天皇賞春等のG1が集中している。
逆に夏は夏合宿に行くため、一部を除き活躍している子はなつはレースに出ない。
「お前の担当のエースも皐月賞に出るんだろ?」
「エースは中距離がメインだからな。出ない手はない」
「俺たちも皐月賞に出る。あの宣言は果たさしてもらうぜ」
やはり出てくるか。
あんなことを堂々と宣言したし、エースは中距離走者だから予測して決めたのだろう。
「こっちだってあの宣言を忘れたわけじゃないぞ」
二人の間に一瞬の静寂がはしる。
「負けるつもりはないとだけ言っておく」
「生憎だが、こっちも勝つことしか見えてないんでね」
一触即発状態だったが、ふっと我に返る。
「まあ、互いに」
「頑張っていこう」
箸を進めながら、戦略を練る二人であった。
同日 トレセン学園 グラウンド
食事を終えた仁はエースとグラウンドで待ち合わせ、練習を行っていた。
当然、皐月賞、その後のダービーに向けたもののため、普段の物より厳しく行う。
と言っても、まず皐月賞を走り切らないといけないが。
作戦は条件が同じのホープフルを勝った時と同じく大逃げ。
だが、ジュニア級より格段に強い連中が相手となるため、道中の逃げ足、重要な末脚の改善のためにスタミナ、スピード、仮に囲まれた時のためのパワーを中心としたトレーニングを行っている。
「ハァ、ハァ、ハァ」
そんなことを思っているとエースが周回を終えて戻ってきた。
「お疲れ様。体に異常は?」
「今のところは」
「じゃあ次はスタミナのトレーニングだが……」
そう言いかけて、エースに目をやった時だった。
普段とエースの様子が違う。
震えているのだ。体が。
「ど、どうした⁉熱中症か⁉」
ウマ娘は運動量が多いため、気温が低くても大量に汗をかき、熱中症になったりする。
「ちょっと失礼するぞ」
念のためエースと自分の額に手を当て、体温を確認する。
ウマ娘の方が通常体温が高いとはいえ、多少の参考にはなる。
だが、特段体温が高いわけではないようだ。
じゃあなぜ震えている?
数秒の思考の末にとある結論に行きつく。
「怖いのか?」
「!!!!!!」
どうやら図星なようだ。
それもそうだろう。
生涯一度だけ挑戦できる栄光あるレースであるクラシックレース。
だが、それにもし負けたら?
怪我をしてしまったら?
人間、最悪の想像だけはどうしても捗ってしまうものだ。
「……気づいたのか」
「自分の担当が震えているのに俺は放置するほどバ鹿じゃない」
「………」
数秒ののち、俺は再び話し始める。
「話してみろ」
「え?」
「人間、話してみれば多少は楽になるものだ」
多少ぶっきらぼうだが、生憎楽になる方法は俺にはこれくらいしか思いつかない。
「……怖いよ。そりゃあ」
エースが少しづつ話し始める。
「だって!嫌な想像ばっかしちゃうし、負けたらどうしようって!」
エースはその後も自分の思いを吐露しつづけた。
気づくと、俺の胸でエースが泣いていた。
俺はそれに対して、ただ優しく抱きしめるしか方法を知らなかった。
「ごめんな、トレーナーさん。恥ずかしいところ見せちまって」
「誰にだって弱いところはある。たまにはそれをさらけ出してもいいさ」
「……ありがとう」
「それはどうも。あと、勝手に抱きしめてすまなかった」
「いや、いいぜ。それに……」
「それに?」
「い、いや!何でもない!」
流石に好きな人にハグされて嬉しかったとは言えない……
「それじゃ、トレーニング続けますか」
「おう!」
トレーナーとの仲が深まったと思えた瞬間だった。
2034年4月16日 中山レース場 皐月賞当日
先のホープフルSからの4か月、みっちり調整したし万全の状態にした。
だが、未だに不安は残る。
情けないものだな……。
「あたしを励ました張本人が怖がっているとはな」
同室で待機している勝負服姿のエースが話しかけてくる。
「すまんな、情けない姿見せちまって」
「たまにはこういう姿をさらけ出してもいいって言ったのはアンタだろ?別にいいって」
「ありがとうな、エース」
「おう!それと改めて言うことがある!」
どうしたんだろうと、言葉を待っていると
「今はただ全力を出すことだけに集中しろ!」
その言葉にハッと気づかされる。
「アンタがメイクデビューの時に言ってくれた言葉だ」
そうだ、それを言ったのは俺自身じゃないか。
負けることじゃなくて最善を尽くすことに集中する。
勝ち負けも重要だが、その前提には全力を出すことがある。
そのことを忘れていた俺は馬鹿だな……
「どうやら気づいたみたいだな」
「あぁ、気づいたよエース」
そう会話をしていると
ガチャ
「カツラギエースさん!準備をお願いします!」
スタッフがやってきた。
「はい!今行きます!」
それじゃあなと、声をかけようとした瞬間。
「トレーナーさんも地下バ道まで来てくれないか?」
「え、いいのか?」
地下バ道まではトレーナーは入ってきていいのだが、今まで
「トレーナーさんに気ィ使わせたくないし、大丈夫だ」
と言っていたのだが、今回は違った。
「おう!アンタに来てほしいんだ」
「それなら、行くか」
二人でともに地下バ道の出口まで向かう。
「さて、俺がついてこれるのはここまでだ」
「ありがとうなトレーナーさん。あたしのわがままに付き合って。アンタがいると心強いんだ」
「メンタルケアもトレーナーの仕事の一つだ。こんなのわがままの内に入らんよ」
「ありがとうな。それじゃ行ってくる」
「おう。行ってらっしゃい」
そういって、エースと別れ関係者観戦席に移動する俺。
「よう、橋塚」
「おう、仁。待ってたぞ」
いよいよトレーナーたちは関われない段階に来た。
俺たちからすれば、賽は投げられたとも言うべきか。
さぁ、戦いの始まりだ。
皐月賞当日、私たちは山本家のリビングにいた。
「あれ?みこちは?」
「今年から始めた予想配信やってるらしいです」
「活動が安定してきたから、こういうこともできるようになったのかしら」
前の世界でもやってたけど、安定した人気が出てきたから再びやるようになったらしい。
そんなことを思いながら、目の前のテレビを見る。
「さあ、先週の桜花賞に続いてクラシックメインレースの一つ!皐月賞!」
「この解説は世界を跨いでも変わらないな」
「そうね~、耳に残るわよね~」
「あっ、走者紹介が始まるみたいですよ」
そういうと、二人はもっと画面に食い入る。
やれやれと思いつつ、私もライバルの晴れ舞台を応援する。
夢の時間まであと少し。
同時刻 山本家 みこちの部屋
・みこち誰が勝つと思う~
「誰が勝つも何も、みこは一人しか見えてないにぇ」
・ほう、その心は!
・いったい誰だ!
・wktk
「それはズバリ!カツラギエースにぇ!」
大声できっぱりと宣言するみこち。
・えぇぇぇぇぇぇ⁉
・まさかの一番人気
様々な反応をする35Pたち。
「まぁ、みこの推しだしね」
みこちが見ている配信画面の横には中山レース場の風景が写っていた。
「さあ、一番人気はこの子!昨年のホープフルSを制し、今まで連戦連勝!カツラギエース!」
仁君が持ってる子だけに、勝ってほしい気持ちは人一倍にある。
「さぁ、みんな!夢を見ようにぇ!」
「春風が吹く、ここ中山レース場。賽が投げられるまであと少し」
レース場名物の実況を聞きながら、シービーを探す。
「う~ん、あっ!よぉ!シービー!」
「やぁ!エース!あの宣言を果たしに来たのかい?」
「おう!本気出さないと怒るぜ?」
「そっちこそ!本気だしてビビらないでよ!」
こうやって互いに励ましあいながら、ゲートへ入る準備をする。
「エース」
「ん?なんだ?」
「ただで勝てるとは思わないでね」
声自体は落ち着いているが、その言葉には強い闘志が秘められていた。
「そんなことは百も承知だ。エースの力見せつけてやる」
二人の間に視線が交わされる。
「ゲート入りお願いしまーす」
すると、ゲート入りの合図がが入った。
「時間みたいだね。それじゃ!楽しいレースにしよう!」
シービーはそう言ってゲートに入っていった。
あたしは18枠だし、まだ先か。
不利な条件、燃えるじゃねえか。
さあ、反逆のエースの実力、見せつけてやる!
「各バゲートに入りました」
本当に賽が投げられる直前まで来た。
心臓の音がいつもより大きく聞こえる。
頼むぞ、エース。
「スタートしました!」
ついにスタートした。
「序盤からカツラギエース、飛ばしていく!」
序盤は大きく差を着ける大逃げをやる。
ある程度差を付けた後に後続とスピードを合わせ、スタミナを温存する。
そして最終直線で一気に爆発させる。
これが今回の作戦だ。
だが、周りの連中もエースに負けないくらい強い。
これがどこまで通じるか……
いやいや、今はできることを考えろ。
全力を出せ。
そう考えていると、レースの半分である1000mを通過した。
「1000ⅿを通過!タイムは60秒7!」
あまり変わらないけど、スローだな。
ここからが勝負だぞエース、気張れ!
同時刻 山本家
「前も大逃げだったけどエースって大逃げの馬だったの?」
「ジャパンカップでは三冠馬を二人まとめてそれで倒したから、適性はあるだろうな。シービーと後にG1を7勝することになるシンボリルドルフってのを同時に倒した」
でも、仁は負けず嫌いだ。
それだけで終わらせるわけがない。
「仁って負けず嫌いじゃない」
「まあ、そうだな」
「もしかして、仁が狙っているのは三冠かそれ以上じゃないの?」
その言葉に二人が注目する
「どうして、そう思う?」
「仁は負けず嫌い。逆に言えば、勝利することにこだわっているとも言えるし、エースちゃんの勝利インタビューとか聞いていると似たような感じがするんだよね」
「仮にそうだとして、それ以上ってなんだ?」
「例えば……G1 10勝とか?」
「ありえなくはないな」
そうやって、仁の狙いについて話していると
「あっ!お父さん、もう最終直線!」
そういわれ、再び画面に集中する。
夢が決まるまで、あと少し。
「さあ、残り400!カツラギエースを追い抜かすウマ娘は出てくるのか!」
くそっ、スタミナは残っていて十分加速できるが、一人だけプレッシャーが違う。
間違いない、このプレッシャーは…
「ミスターシービー追い上げる!ここから先頭に追い付くか!」
やっぱりシービーかっ!
まだ加速はできるといえ、さすがに不安だっ!
いや、逆に自信を持て!
シービーはまだ追いつけてない!
今から加速すれば間に合うっ!
それに……
「頑張れー!エース!」
「走れー!カツラギエース!」
応援してくれているトレーナーさんや観客を裏切りたくないっ!
「うおぁぁぁぁぁぁぁ!」
「カツラギエース!まだまだ加速するっ!これは追いつけるのか!」
王冠まで残り200ⅿ。
「いけー!エース!」
もっと声を張り上げろ俺!
最善を尽くすんだろ!
「抜かせー!シービー!」
橋塚とはこの瞬間はライバルだっ!
「逃げ切れー!エース!」
シービーに残り一馬身まで近づかれているエース
だが、三女神はこちらに微笑んだようだ
「ミスターシービー!追い縋るが追いつけないッ」
「そのまま走り抜けろ!エース!」
「カツラギエース!今、一着でゴール!」
その瞬間、観客席では予想新聞の紙吹雪が舞い、おれは泣いた。
一冠目を手にした者達
「「やったぁーーーーーーー!!!!!!!!」」
宗光と抱き合って喜びあっていた。
「やりましたね!父さん!」
「あぁ!!本当によくやった仁!」
「まさか2回もG1を勝つとは思ってもなった!!」
もうとにかく二人で喜び合った。
「「やった!やった!」」
俺はエースと抱き合い、一緒にこの勝利を喜んでいた。
「勝った‼勝ったぞトレーナーさん!」
「ああ!本当によくやったエース!」
俺たちが勝利に酔いしれていると
「やぁ、ちょっといいかな」
橋塚が話しかけてきた。
「ん?どうしたんだ橋塚」
「一瞬でそのテンションに戻るのか」
「まあな、それで用は?」
「まずは皐月賞制覇おめでとう。それと……」
「ダービーでまた会おう、とだけ言っておきたくて」
橋塚の後ろからシービーが出て来た。
「まだ勝負は始まったばかり、というわけか」
「そういうこと、それじゃあね」
そういうと橋塚とシービーは行ってしまった。
「血がたぎるな」
「あぁ、ダービーでもやってやろうぜ」
照らす夕日は二人の目標を示すようだった。
「いや~~、本当に勝っちゃった」
・シービーも凄かったけど、エースの末脚がそれ以上に凄かったな
「そうだよね。まさか大逃げをしても末脚用のスタミナが残っていたとは」
そう皐月賞を振り返るみこち
・ダービーには出るんだろうか
「そりゃ、出るでしょ。中距離でG1を2勝もしてれば」
・今からどうなるか楽しみ
「本当だね~~~」
彼らの目にはもう、次のレースのゲートが見えていた。
「いや~~~見ごたえあったねぇ」
「研究より楽しむことがメインになっていませんか?」
「まあ、俺ら意識体でも娯楽は必要だしね~」
0と1の世界で彼らは新たな可能性を見出そうとしていた。
それが芽吹くかはまだ誰も知らない。
35P…さくらみこのリスナー