2034年5月3日 トレセン学園
トップアスリートが集う学園、トレセン学園。
その学園のグラウンドで、俺とエースは練習を重ねていた。
目的はもちろん、今月末に控えた日本ダービーに向けた練習だ。
日本ダービー。
日本で行われるレースの中で最も名誉あるレースの一つ。
ここで勝ったウマ娘はダービーウマ娘という名誉を持つことになる。
条件は東京競馬場左2400m。
中距離でもっとも長い条件であり、経験が全くない距離。
そのため、今までよりスタミナの練習を重点的に組み、長い距離に耐えられるようにしている。
だが、これだけではない。
なぜなら東京レース場故の課題が別に存在するからだ。
今までやってきた大逃げ、これは直線が短い中山レース場では有効だった。
理由としては、大逃げの最初に後続と大きく距離を突き放すという戦術は、直線が短い中山に合致しておりでは末脚を利用することでの巻き返しが難しくなる。これによって現時点での最大の敵であるミスターシービーを抑え込むことができた。
だが、東京レース場なら話は違ってくる。
東京レース場の最終直線距離は中山の1.5倍以上の距離があるため、末脚による追いつきを許してしまう可能性があり、それに加えてそもそもの距離が長いため、戦術を変更する必要に迫られる。
ここでとれる戦術は、俺が考えた限り二つ。
・普通の逃げに変更して、最後の伸びを頼りにする戦術。
・今までの大逃げをより進化させて、より突き放すことで長い最終直線でも捉われないようにする
前者は末脚による追いつきをある程度防止でき、レース場による問題を解決できるものの、実績の全くない戦術のために詰めが甘くなる可能性が出てくる。一方、後者の戦術は今までの戦術を流用できるため、前者に比べれば詰めの甘さを防止できるものの、レース場と距離の問題はそのままであり、スタミナ切れと直線の長さの利用したシービーの追い込みを許してしまう。
どちらにしろ一長一短であり、仮にどちらかの策を取ってシービーを抑え込めたとして課題は依然として存在しているため、それの解決が次の課題となってくる。
そんなことを考えていると、エースが練習用コースを一週して帰ってきた。
「お疲れ様。ダービーと同じ距離を走った感じはどうだい?」
「ハァ、ハァ、やっぱり、400m違うだけでもスタミナの消費は違うなって感じる」
やっぱりか。
2000を走れても2400で息切れする子はいるので、今まで以上にスタミナは重要になる。
スタミナを単純に増やすだけでなく、さらに節約することも必要になる。
だからこそスタミナをどう使うかの戦術が重要になるので考えなければならないのだが……
「かなり悩んでいるみたいだな、トレーナーさん」
「まあな。もう力押しじゃ勝てないようなレースになってるわけだし」
「力押しじゃ勝てないのは確かにそうだ。皐月賞の時は戦術が合致したから良かったけど、周りの奴らの力量が半端ねえ。それこそ、ダービーならもっとだ」
あ~~、現実逃避したいくらいに現実が押し寄せてくる~~。
「そう言っても、そんな簡単に戦術なんてポンポン出てくるもんじゃないだろ?」
「そうなんだよな~。まあ、そんな簡単に出てきたら戦いはもっと複雑化してるだろうしな」
二人で頭をこねくり回しながら時間は過ぎていった。
帰宅後 山本家
「はぁ~~~~」
「溜息なんてついてたら、幸せが逃げていくわよ」
家に帰って夕食を取っている間も、ため息が出るほどに仁は考えていた。
「いやね、ダービー用の戦術が中々思いつかなくて」
「ダービー、ダービーか。今思うとダービー逃げ馬ってイメージがそんなないけど、それか?」
「それもあるけど、多分大逃げの力押しじゃもう勝てないんだよな」
話しながら、野菜炒めを口の中へと放り込む。
実際、ダービーを逃げで勝った馬はそんなにいない。
事実、ウマ娘化しているダービー馬19頭中逃げ馬はミホノブルボンとアイネスフウジンくらいだ。
理由としては他の二つの戦術、先行、差しがダービーポジションと言われている位置で有利と言われるため、比較的に逃げが不利になる。
それに加えて、前述した単純な力量差の問題が出てくるためどうするべきか悩んでいるのである。
「とはいえ、その口ぶりからすると、仁君的には戦術変えたくないんでしょ?」
「一応、大逃げ以外の逃げも最初の方にやって、それを使おうかとも考えたけど、それ以来だからG1に通用するかの実績がないんだよな」
こうやって、力押しによる弊害が出てくるんだなぁと思いながら、みそ汁を啜る。
「結局、エースちゃんと話し合って決めるのが一番じゃないのかしら」
「やっぱそれ?じゃあ、もう少し考えていかないとな」
「みこたちも今までの経験をもって、支援するから必要な時は頼ってね」
優しさが胸にしみる中、課題の痛みもひしひしと心に沁み込んでいた。
そう話し込んでいると、ごちそうさまを迎え各自解散となった。
夕食後、俺は自室にこもって考え込んでいた。
一体どうする?
今までの経験をいったん捨てて、新しい道を開くべきか?
それとも、多少無理をしても今までの安全な策で出るべきか?
安全か新しさか。それは人類の前に何度も立ちはだかってきた課題。
安全を取れば、確かに確実性は増すがその方法が解析され、対策がされるかもしれない。
新しさを取れば、対策は取りにくくなるが、代わりに確実性が低くなる。
どうしようもないジレンマに悩まされながら、それでもめげずに考え続ける仁。
もおこのまま終わらないんじゃないかと考えていた時だった。
ピピピピ
「誰だ?」
発信者を見てみると、星街さんだった。
「すいちゃんだよ~、仁君」
なんか用があるんだろうかと思いつつ、扉を開ける。
「どうしたんですか」
「いや今日は特に配信もないし、たまには仁君とお話ししようかなって」
「いいですけど、面白いことなんてありませんよ」
「いいの!いいの!君と話がしたいんだし」
なんかこういうこと最近多いな。
そんなことを思いながら、部屋に入れる。
「最近どうなの、仕事の方は」
「万事順調ですね。ASAWP計画の方はテストパイロットを務めさせてもらってうれしい限りですし、トレーナーとしてもG1を二回も勝たせてもらって、どちらもやりがいを感じてますよ」
「良かった!仁君が仕事を楽しんでそうで」
「まあ、それなりに大変ですし、やりがいはあります。そう言うすいちゃんは?」
「私?私はソロライブも決まったし、自分の努力が実ったと感じれて、最高に楽しいと思ってる!」
「よかったです。あなた方の仕事は大変なものでしょうし」
アイドルというのは一種の崇拝によって成り立っているため、その苦労は計り知れない。
「気遣ってくれてありがと。そんなところも好きだよ」
「ありがとうございます。でも、その好きはファンの人に向けてあげてください」
すると、すいちゃんは不服そうな顔をして。
「もう!この『好き』君にあげたいの!」
「はは、まあその気持ちは受け取っておきます」
若干言葉に違和感を覚えながらも、気にしなくていいかと受け流し話は続く。
すると、話題はあの悩みになった。
「そういえば、あの戦術の悩みはどうなったの?」
「あれですか?あれ未だに悩んでるんですよね。安全と新しさ、どっちを取るか」
「やっぱり誰でもそういうのは悩むよね~でもさ、両極端中央を取るのは如何なの?」
ん?中くらい?
「どうしたの仁君?」
そうだ、そもそも二つで分けるんじゃなくて中間で考えてもいいんだ。
「ありがとうすいちゃん。おかげでいいアイデアが思いつきました」
「え?私なんかした?」
まあ、あとで詳しく説明しよう。
一先ず感謝を。
「すいちゃんもソロライブ頑張ってくださいね。確か来月の3日でしたよね?」
すいちゃんのこの世界初のソロライブ、「IlluminateStar」は来月の三日に控えている。
「うん!仁君もチケット取ってくれてるんだよね?」
「はい。エースも一緒にですが」
「えっ、初耳なんですけど」
「そういえば伝えるの忘れてましたね」
新たな打開策とともにダービーへの時間は着々と迫っていく夜であった。
2034年5月28日 東京競馬場 日本ダービー当日
トレセン学園のトレーナーの朝は早い。
特にG1レースの日は。
レース場では開園の前にコースの試走が許されている。
俺たちも最終調整のために早朝から試走をしていた。
日が本格的に照り出した時間帯に、彼女たちの脚が光る。
と言っても、軽~く流す程度の走りだが。
その走りからエースが戻ってきた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
エースの軽い息の音が耳に入る。
「一応学園のコースでできる限り再現したつもりだったけど、どうだ?」
「坂とかのレース場特有の奴以外は練習通りだな。イメージ違いはそんなにない」
今までの練習が完全な的外れじゃないことに安心しつつ、特有の問題に対して目を向ける。
「どうだった、最終直線の坂は」
最終直線前半に存在する坂。これが末脚用のスタミナを削る一因となる。
それがスタミナを多く消費するであろう逃げであるなら、もっと致命的だ。
メイクデビューでも走ったことはあるが、念のため聞いてみる。
「前走った時もそうだったけど、やっぱりキツイな」
「だよな~。逃げのダービーウマ娘が少ないのはそれが原因かもしれないし」
「実際そうだろうな。で、どうするよ」
それでも戦術の変更は行わない。
まだ、これなら想定の範囲内であるからだ。
「中盤の距離は少しだけ短くしておけ。その方がスタミナを残せる」
「わかった、トレーナーさん」
そうやって、最終調整を行っていると見覚えのある二人が入ってきた。
「お、橋塚とシービーだ」
「本当だ。お~い!シービー!」
そう声をかけると、こちらに気づいたようで近寄ってくる。
「おはよう、橋塚。調子はどうだい」
まだ眠そうな顔をしながら、会話をする。
「昨日、少し残業したからな……まだ眠い」
「おいおい、大丈夫かよ」
「でも、シービーの方の調整は最高までやってある。きっと大丈夫さ」
体調を心配しながら、話す二人の横ではエースとシービーが話していた。
「よう、シービー。この前の宣言、果たしに来たぜ」
「こっちこそ、皐月賞の借りを返させてもらいに来たよ」
そこはまるで二人だけの世界のように、互いに集中していた。
「……それと言うことがある」
「ん、どうしたの?」
「互いの全力を出した、最高のレースにしようぜ!」
そう言って、ニッと笑うエース。
「……!!!」
一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに普段の顔に戻る。
「ふふっ、そうだね」
「???どうしたよ?なんかおかしかったか?」
「いや別に。君も私と同じような人なんだなぁって」
そうやって会話している二人を少し離れたところで見る仁と橋塚。
「青春だなあ」
「アオハルだな」
「まあ、俺たちもそれを目指さなにゃならんのだがね」
「そうだな。お互いに最高のレースにしよう」
そう言って互いの間で決意を固める、四人であった。
「まさか、ホープフルにつづいてダービーのチケットも取れるとは」
「東京レース場って20万人近く入るらしいから、比較的取りやすいんじゃないかしら」
「それでも希望する人が多ければ落ちると思いますし、運がよかったですね」
私、すいちゃんは今、山本夫婦とともに東京レース場のゴール前最前列にいる。
この最高のポジションを取れたのも運がよかった。
え?ライブ5日前なのにこんなことしてていいのかって?
元々、ライブ前最後の休みがこの日だったから特に影響はないのだ。
もちろん、練習もしっかりとやってるけど。
ちなみにみこちは配信のため来ていない。
もったいないなぁ~と、思っていると放送がかかり
「只今より、航空自衛隊ブルーインパルスによる記念飛行を行います」
前の世界だとこういうのなかったけど、やっぱり力の入れようが違うな。
しばらくすると、低空飛行で4機の機体が右から左に向かってやってきた。
なんか機体の形に違和感を覚えつつも、演技を見る。
その四機は円を描いたりなどの演技をした後、帰っていった。
いや~、壮観だったな~と思いつつ、コースの方に視線を戻す。
どうやら、もう選手たちが入場してきているようだ。
同時に甲高いファンファーレが鳴る。
その中でエースちゃんを探していると、解説が入った。
「さあ!本日の一番人気はこの子!ジュニア級時代から、G3京都ジュニアSやG1ホープフルSを制覇!クラシック期に入ってからは一冠目の皐月賞を制覇し、快進撃を続けるこのウマに勝てるのか!」
この文言から、確実にあの子だなと思い掲示板に目を向ける。
「無敗でクラシック二冠となるか!カツラギエース!」
そう締めくくるとともに、画面にエースちゃんの姿が映し出される。
ワアァァァァァ!!!!
私たちの後ろから一気に歓声が上がる。
今まで一度も負けずに皐月賞を制覇したし、それだけ注目されているのだろう。
頑張れ!エースちゃん!
そう思いながら、夢の時間は迫るのであった。
そういえばこの世界のブルーインパルスってT-4じゃなくてF-2だったな。
上空を飛んで行った4機を思いだすも、再び気を引き締める。
「そして、二番人気は共同通信杯、弥生賞を制し、皐月賞二着!二冠に待ったをかけるか!」
「ミスターシービー!」
さっき、エースの解説が終わったので今度は二番人気のシービーの解説に移っていた。
相変わらず不安だが、もうどうにもできない段階にまで来てしまった。
ここはもう、応援モードに切り替えるか。
そんなことを思いながら、勝利を祈るのであった。
・みこち皐月賞は当たったけど、今回は誰が勝つと思う?
「今回もエースだと思うにぇ」
・今回も一番人気か
・みこちは大穴とか狙わないの?
「大穴を狙わないというより、みこは推しが出るときはその子に期待するタイプにぇ」
・推し活の鑑
・人には人の楽しみ方があるし、いいと思う
「ありがとうにぇ。それじゃみんな!」
この世界のみこちの予想配信では決め台詞がある
それが
「夢を見ようにぇ!」
決め台詞ととともに夢はターフに至る。
他の子がゲートに入っていき、アタシも入る準備を整える。
やっぱりこの緊張はなれねぇな。
そうして少しでも緊張を和らげようと、トレーナーさんの方を見る。
どうやらこっちに気づいたようで、こっちにやってくる。
すると、手すりをつかんで
「全力を出せーー!エース!最高のレースにするんだーーー!」
その言葉で、何かが吹っ切れた気がした。
そうだ、全力を出すんだ。
そうすれば、結果は自然とついてくる。
そして、それにこたえるように頭上に向けて親指を立てた。
やってくるぜ、トレーナーさん。
その思いとともにゲートへ入る。
夢は結集し、今解放せん。
「今、最後の一人がゲートに入りました!」
日本ダービー 東京レース場 芝2400m 左
最高のレースを見せてくれ、エース。
会場が静寂に包まれる。
ガシャン!
「スタートしました!」
さあ早速やろうか、作戦を
「おぉーーーっと、カツラギエース今までに見たことのない大逃げだ!」
最初は、末脚+途中用のスタミナを残しつつ全力で逃げる。
これで、皐月賞と同様に差を着けて巻き返しを難しくする。
だが、違うのはここから。
「カツラギエース!スピードを落とした!」
その後、後続とほぼ同じスピードに落とす。
これでスタミナを節約する。
そこからはとにかく距離とスピードの維持を図る。
大逃げの突き放しと逃げの中間のような戦術。
こちらの作戦がうまくいったのか、後続は追いつくことを諦め、後続で競り合っている。
そのまま各バ動きを見せず、最終直線に突入。
夢が果たされるまで500m。
クソッ、想像以上のプレッシャーだ。
距離は離しているはずなのに、それでもゾクゾクと感じる。
「頑張れー!エースー!」
「追いつけー!シービー!」
やっぱりこのプレッシャーはシービーか!
どんどんこっちが威圧される!
オマケにここは高低差のある坂だ、スタミナも削られる!
その絶望しかけた瞬間、とある一言が頭をよぎった。
「全力を出せーー!エース!最高のレースにするんだーーー!」
そうだ、アタシはまだ力を出せる。
全力を出せば、結果は自然についてくる。
そうトレーナーさんは教えてくれたじゃないか。
「ウオァァァァァ!!!」
全てをこの直線で出し切るつもりで走る。
「カツラギエース!さらに増速!」
相変わらず、シービーのプレッシャーは感じる。
だが、そんなんにうかうか負けてらんねぇよなぁ!
「ミスターシービー追い込むが追いつけない!強い‼強い‼」
「カツラギエース!!今一着でゴォーーール!!」
夢は果たされた。
「「「いやったぁぁぁぁぁ!!!!」」」
その瞬間、私たちは両手にあるものを放り出しそうなスピードで手を挙げた。
そりゃ、息子の担当がダービーに勝ったとなればこうもなる。
落ち着いた後仁君がエースちゃんに駆け寄っていた。
さすがトレーナーだなと思っていたときだった。
二人がハグしていたのだ。
その光景に一瞬感情が止まってしまった。
勝利を祝う意味もあるんだろうが、なんか恋愛的な意味もあるように見える。
もしかして、と思いつつその光景を見るのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
周りの空気をすべて吸い尽くすようなペースで息をする。
そして息が整った後、ダービーに勝ったという事実を噛み締め
「いよっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
競馬場全体を埋め尽くす声をかき消すような声で叫んだ。
そうしてレースの余韻に浸っているとトレーナーさんがやって来た。
「やったな!エース!ダービーだ!あのダービーに勝ったんだ!」
「あぁ!してやったぞ!トレーナーさん!」
その時、テンションが高かったのもあったのかトレーナーさんに抱き着いてしまった。
「え、ええっ!エース!」
普段なら絶対やらないであろう行動をしてしまったが、もうこのまま行っちゃえと思い
「この勝利はアンタと一緒に分かち合いたいんだ!だから、抱き返してくれないか?」
そう言うと、トレーナーさんは優しく抱き返してくれた。
やっぱり優しいなアンタは。
後々、これを思い出し、自室で枕に顔を埋めて悶絶するのは、また別のお話。
・いや~皐月賞に続いてまた的中とは
「やっぱりエースちゃんは、強くてかっこいい最高のウマ娘だにぇ」
・なんかすごい馴れ馴れしい感じ
・まさか会ったことがあるとか?
「え?そうだよ?あったことあるよ?」
・ええええええええええ!!
・衝撃の事実判明
チャット欄が騒然とする中、みこちはレース中継の画面を見る。
その画面には抱き合うエースと仁が映っていた。
すいちゃん、これは一層負けてらんないね。
心の底でそう思うみこちであった。
「また勝ったね、あの子」
「そうですね、でも次の菊花賞はどうでしょうか」
「わかんないね。でも、期待はできるんじゃない?」
「そうですね。それにしても、彼女も「例外」なのでしょうか」
「それを調べるために俺たちはいるんだ。それじゃ行こうか」
「分かりました」
彼らが複数の「例外」を見つけるのもそう遠くないかもしれない。
2034年6月3日 有明アリーナ IlluminateStar当日
ダービーに勝ったのもつかの間、俺とエースは有明アリーナに来ていた。
「それにしても、凄い人だな」
会場前には一個旅団分の人数がいるんじゃないかと思うレベルの列ができていた。
「それだけすいちゃんが人気ってことだ。まずはグッズ買いに行くぞ」
そう言って二人はグッズ販売のテントに行き、ペンライト等をそろえた後、座席へ向かった。
「一番いい席を二人隣でとれてよかったな!」
「席は指定できたとはいえ、運がよかったとしか言えないな」
このライブへは、元々俺一人で行くつもりだったが、トレーナー室で予約している時
「なあ、アタシも行きたいんだけどいいか?自分の席代とかは出すからさ」
と言ってきた。
ちなみにこの世界のウマ娘の賞金制度は、額自体は変わらずトレーナーと本人で山分けなものの、億とかいう額を学生が自由に使えるのは危険ということで、卒業するまでは学校側が預かり、卒業までの間は、賞金から毎月3万円(賞金がない場合は毎月生活補助費として1万円。賞金額が400万を超えるとなくなる)が支給される形となっている。
だから、ある程度勝っているウマ娘はお小遣いに余裕があるのだ。
「今回の席ってまあまあ高かったはずだけど、大丈夫か?」
「あぁ!こういう新しい趣味とかのために、貯蓄してたからな」
えらいなあと思っていると、会場の電気が一気に落ちる。
二人とも察し、それぞれでペンライトを構えた。
そして前方のモニターが起動した。
まず初めに流星群が流れる映像が流れた。
すると、その流星群が一点に集まって地上に降りてきた。
その光の中からすいちゃんが現れた。
メインの登場ということで、会場は突沸したかのような歓声に包まれた。
そして、登場とともにリズムが流れ出した。
そのリズムに合わせて、観客が手拍子を始める。
無論、俺たちも他の人に負けないくらいにやっている。
ついにすいちゃんがマイクを構えた。
さあ、ショータイムだ。
「いや~楽しかったな」
「あぁ、俺も初めての体験だったが面白かったな」
二時間半後、アリーナ前で俺たちは今回のライブを振り返っていた。
俺も今回が初のライブだったが、周りとの一体感などを楽しめた。
「なあ、トレーナーさん」
「ん?どうした?」
「また同じようなライブがあったらさ、ついていってもいいか?」
「いいけど、どうしたんだ?すいちゃんに興味を持ったのか?」
あんまりエースがこういうことに興味を持つイメージがなかったので聞き返す。
「いやさ、今回のライブが思っていたよりもすごく楽しくて、また来たいなって」
「ほ~ん」
こういうことに興味を持ってくれたのは嬉しいな。
「じゃあ、今後のライブの予定とかも共有していくから」
「おう!ありがとうな!」
ニカッと笑うエース。
こういう姿に元気をもらえるんだよな。
その後は周りの飲食店で夕飯を食べたのち、エースと別れアリーナに戻った。
約束の場所で待っていると
「ごめん!後片付けに手間取っちゃって!」
「いえ、大丈夫ですよ」
このライブの主役のすいちゃんとゲストのみこちがやって来た。
「それじゃ行きましょうか」
そう言って、帰るために駅に向かって歩き出す。
「どうでしたか?今回のソロライブは」
「久々にライブの感覚を取り戻せたし、何より私を応援してくれる人がいるって思えたね」
ライブの感覚や自信を持つことが出来たようでよかった。
「いや~疲れたにぇ」
「ゲスト枠でも、やっぱりライブって大変なんですね」
「まあ、いろいろ打合せとかしないといけないしね~」
「それでも、ファンのみんなと一緒になれるってのは何にも代えがたいにぇ」
アイドルの鑑だなぁと、思いつつ気になってたことを質問する。
「そういえば、今日のライブで一番楽しかったことって何です?」
「一番楽しかったこと?」
一緒に過ごしていても、ライブ直後のアイドルに質問できるなんてことはほぼないので、思い切って聞いてみた。
すると、そっぽを向いて
「そうだね……仁君たちが来てくれたことかな」
「え?何でです」
「だって、この世界に来た直後からお世話になっている人が来てくれたら嬉しいじゃん」
そう、若干緊張と興奮が入り混じる声で話す。
「それは嬉しいですね」
そう言うと、なんだか首の角度がより曲がったように感じた。
「……やっぱり女誑しにぇ」
なんか言われたような気もしたが、その声は夜の歩道に沁み込んでいった。
この後、すいちゃんがアタックを強くしようと思うのはまた別のお話。
F-2
F-16をベースに開発された第4.5世代ジェット戦闘機。対艦ミサイル四発+対空ミサイル四発を搭載可能なマルチロールファイター。8個飛行隊+飛実団+術科学校+ブルーインパルス用で222機が調達されている(208+3+3+8)。また、ブルーインパルス用以外の214機が現実のF-2が受けることのできるすべての改修+12式地対艦誘導弾改(空発型) (ASM‐4)の発射用改修を受けている。また、今後の改修によりAGM‐158、154、88や、AIM‐120シリーズ、9Xの運用が可能となり、戦略的な継戦能力の向上が見込まれている。
一飛行隊=実動23機+予備3機