2034年6月14日 東京湾基地
この日、仁は東京湾基地の方に出勤していた。
目的はASAWP計画の進行報告会。
会議室には以下のメンバーが揃っていた。
・ASAWP計画総合主任 真田ニ佐
・航空班(一班)班長 城山一尉
・橋本二尉
・春樹二尉
・島崎一尉
・アムロ二尉
・ザアク二尉
・イアン二尉
・山本二尉
「それでは、ASAWP計画進行報告会を始める」
まず最初に行われたのは、航空班の成果報告だった。
「城山一尉。報告してくれ」
「ハッ、現在一班で行っている戦略攻撃機計画についてお伝えします」
流石に上官の前では行動も固くなるな、と思いつつ報告を聞く。
「戦略攻撃機に求められる能力である、大気圏内外での運用能力の試験のため、X-3で現在試験を続行しており、問題もなく順調に進んでいます」
向こうは、俺たちみたいな複数の試作機を作っていくタイプではなく、一機の試作機を使い回してデータを集める方式を取っている。
まあ、本来俺たちみたいな方式の方が異常ともいえるのだが。
「また、国内の宇宙開発企業などとの技術共有を行っており、そちらも順調に進んでいます」
ヴェーダの技術移転も目的であるASAWP計画。
それは我々だけでなく一班もそうであり、主に宇宙関連企業との提携をしている。
逆に我々は重工業系の企業との連携を行っている。
「うむ、報告ありがとう。そういえば、X-3の動力を変更したとの報告があったが、それは?」
「それについては、資料の15ページを開いてもらえればと思います」
その言葉とともに資料の15ページを開く。
「以前はスクラムジェットエンジンとロケットエンジンを使用していましたが、太陽炉の実用化に目途が立ったことによって、発電用のガスタービンエンジン兼大気圏内の補助用エンジンとしてのジェットエンジンとメインエンジンの擬似太陽炉二基に変更しております。これによって、大気圏内外でのエンジンの切り替えが必要なくなったことにより、積載容量に余裕ができたことで重装備の試験が可能となり、これらのデータによって量産機の更なる高性能化が見込まれます」
太陽炉が使用できるのは何も人型の機体に限ったことではない。
太陽炉を艦船や飛行機の動力として使用することで、高性能化が見込まれるだけでなく、出力増加によってレーザー兵器やビーム兵器などの特殊兵器の運用が可能となる。
その太陽炉搭載航空機一号機として選ばれたのがX-3というわけである。
「ありがとう。これからも精進してくれたまえ」
そういわれたのち、城山一尉が席に座る。
「それでは、次は人型機動機の報告をしてもらおう」
その言葉とともに島崎一尉が立ち上がる。
自分たちの番が回ってきた。
「ハッ、最初に資料の20ページを見てもらえればと思います」
ページを開いて、俺たちが作った見覚えのあるページが目に入る。
「人型機動機の進捗としては、2か月前に試作機兼陸自の量産配備型である34式が正式配備され、現在、月産1機のペースに持ち込めており練習部隊を中心に配備されています」
今更だけど、月産一桁って少ないな。
まあ、来年には新型の後継機が出るし仕方ないか。
そんなことを思いながらも、会議に集中する。
「また、来月の末には新型のロールアウトが控えており、それに向けて最終調整を行っています」
来月にロールアウト予定の新型。
本来は34式と同タイミングでの正式配備とされていたのだが、量産ラインの整備に時間がかかり、正式配備が3か月遅れてしまった。
「新型の方は月産8機を目標にしており、各普通科連隊に配備予定です」
月産の数が34式より多いのは、この機体には34式と違って後継機が今のところ予定されていないため、比較的長く、大量に生産が予定されているためである。
「そちらも順調なようで何よりだ。太陽炉の方はどうかね」
「それについてはイアン二尉の方から説明してもらいましょう」
入れ替わりで、イアン二尉が立ち上がる。
「え~、ヴェーダの解析が完全に終わったことで擬似・オリジナル両方の太陽炉の設計図が手に入り、擬似太陽炉の方は再限度95%までの物が完成。現在、それを使った高重力発生装置と資源採集用の無人宇宙船の建造を行っています」
高重力発生装置と資源採集用の無人宇宙船。
これはオリジナルの太陽炉建造のために必要なものだ。
オリジナルの太陽炉の建造には、宇宙空間で採取される資源で作られる宇宙の卵と、木星レベルの高重力空間が必要となる。
OO劇中では、これらの条件のために製造には長い時間がかかるとされていた。
しかも、劇中で生産された年代より前であろう時代でこれをやろうとしているのだから通常、生産にはもっと手間と苦労がかかるはずである。
「君の元の世界の太陽炉と少し違うといっていたが、それはどうなったのかね?」
「それについてはコアの金属を同じにした結果、望む効力が見られました」
しかし、劇中とは違う点が二点ある。
それが擬似太陽炉とトランザムシステムの実用化である。
限りなく劇中の物と近い擬似太陽炉と、GN粒子を用意できたことによって、宇宙空間の効率的な推進が可能となり、さらにトランザムシステムの再現が出来たことによって更なる効率化ができるので、資源採集に関してはかなりの時間短縮が可能となる。
また、以前効能が劇中と違うと言っていたが、同じとなれば斥力も同じように再現されているので、これを利用して高重力空間の再現が可能となり、地球圏でも製造が可能となった。
「うむ、ありがとう。高重力施設等の建造はどうなっているのかね?」
「太陽炉製造用高重力施設についてはすでに建造が完了しており、現在試験を行っています。資源採集用の無人宇宙船は現在完成度95%であり、来月中には完成する予定で、来年度までに地球を出発し、再来年までには任務を果たして帰還する予定です」
ちなみに、高重力施設にはコアの金属が同じものを使用するが、無人宇宙船は今までの物を使う。
理由としては、斥力が発生するのはコアの金属が同じ太陽炉であるため、これを使用せざるを得ないが、同時にこれは電波妨害等の効能もあるため、遠隔操作をする無人宇宙船には不向きであるため、今までの電波妨害や斥力の発生がない太陽炉を使用する。
「ご苦労。次に、サイコミュ関係はどうなっているのかね」
今度はザアク二尉が立ち上がる。
「ハッ、サイコミュに関しての進捗をお伝えします」
「うむ、頼む」
「まず33式に搭載されたサイコミュですが、あれは我々の世界では初期型に相当するもので、後の物に比べると大型で、仁二尉のような適性が高い者以外は扱えないものとなっています」
確かに、あの装置は大きいと感じていた。
設置した時はコックピットブロックの周辺ごと入れ替えるような感じで設置していたし、中に入った時はコックピットの内装が半分くらい変わっていた。
「ですが現在はそれを改良して、我々の世界ではバイオセンサーと呼ばれるものを開発しました。これは機体の制御に使われる小型の簡易版サイコミュで34式に搭載しています。使いようによっては、記者会見で見せたような、他の機体の制御を行うことも可能です」
バイオセンサー。
ZガンダムやZZガンダムなどに搭載されたサイコミュの簡易版。
34式にも搭載されており、俺が扱った時はまるで体の一部のように機体を扱うことが出来た。
それにしても1年しかたってないのに、8年分の技術進歩とはすごいな。
そんなことに感嘆しながら、説明を聞く。
「ですが課題もあります。小型化と適性問題の多少の改善には成功したものの、サイコミュ適性が高くないと使えないという問題は依然として根強く残っており、現在、脳波の増幅装置を搭載したサイコミュの開発をしています」
一般人でもサイコミュが扱えるようになれば、かなり機械とか動かしやすくなるだろうな。
「また、更なる小型化のためにサイコミュの機能を持つ素材であるサイコフレームの開発も進められており、現在は試作段階にあります」
サイコフレームとか、またアクシズショックみたいのを起こすんじゃないんだろうな。
一抹の不安を抱えていると
「ほう、かなり進んでいるようだね。では、実際に操縦している仁二尉はどうかね」
声をかけられた。
「は、はい。何でしょうか」
「実際にサイコミュを搭載している機体を動かしてみて、どう感じた?」
「感じ、ですか」
「あぁ、そうだ」
「なんというか……機体が自分の体の一部となっているようで、自分が思った通りに動いてくれて、サイコミュなしの時より格段に動かしやすくなっていると感じましたね」
「ほう、それでは二機を同時に動かしたときはどうだったのかね」
「二機を同時に動かしたときは、自分が見ている視界とは別にもう一つ視界が脳内に現れました。そっちの視界も自分が思ったように動いてくれて、体が二つあるように思えましたね」
「そんな状態でもよく機体を自由に動かせたね」
「自分でもその理由はわからないんですよね」
二つの体を別々に動かすっていうのはよくよく考えると不思議なものだ。
普段、俺たちは一つのことを考えると他方が疎かになるのに、同時に二機をしっかりと動かせた。
これも、サイコミュ適性が高いからなのだろうか。
それとも、サイコミュが深層意識みたいな無意識に考えていることを読み取っているとか?
「まあ報告はこれくらいにして、こちらから二点伝えたいことがある」
なんだろうと思いつつ着席し、話を聞く。
「まず一点目は予算の増額と期間の短縮。今までの総予算8000億2900万円から1兆2000億に増額されることになったが、上層部はその代わりに実戦型の配備を2038年から2036年に短縮しろとのことだ」
金はやるから早く仕上げろということか
予算1.5倍とはいえ時間が削られるのは痛いな。
ちなみに総予算はASAWP計画全体の予算であるため、俺たちの班が実際に使えるのはこれの三分の一程度となる。
というか、こっちは実戦型についてはまだ設計段階なんだが。
上は試作機を投入するつもりなのか?
正直には喜べないなと思うが、どうしようもないのでそのまま話を聞く。
「二つ目はとある情報についてだ」
情報?
何か俺たちに関係することでもあるのか?
「情報科が調べたことだが、2年程前から各地の紛争地での巨人兵器の目撃報告が相次いでいる」
「巨人兵器の目撃報告ですか」
巨人。それだけ聞くと何か神話的なものだと感じるだろう。
だが、兵器となれば話が変わってくる。
何者かがそれを運用しているということだ。
しかし、今までにASAWP計画以外で人型の巨大兵器の開発・実戦投入は聞いたことがない。
どこかの国が秘密裏に開発していたのか?
「目撃された巨人兵器の共通点は二つ。一つ目はその機体の大きさは10m程度であるということ。二つ目はその機体は何処の勢力にも所属せずに、唯々戦場を観察していたり、勢力と問わずに殲滅を行っているという点だ」
敵味方問わずの殲滅。
まさか、ソレスタルビーイングのような組織が実在しているのか?
いや、それなら戦場を観察している意味が分からない。
それに機体の全長が10m程度。
これはウチでしている機体群と一緒だ。
またどこかで機体データが流出しているのか?
それとも偶然の一致か?
「なんか不気味ですね」
「実際、それらが何なのかは全く証拠がないから不気味ではある」
「まさかまた情報流出とか……」
「この計画は自衛隊の中でもトップクラスの機密度を誇るし、以前の件で強化されたから、恐らくそれはない」
不安が残る会話をしつつ、報告会は終いとなった。
2034年6月19日 トレセン学園
なんだかんだ衝撃の報告会から5日。
仁は普段通りトレセン学園に出勤し、ジムでエースのトレーニングを見ていた。
皐月、ダービーを制して、二冠馬となったエース。
だが、クラッシックにはまだ最後の一冠が残っている。
菊花賞。
京都レース場で行われる芝3000mの長距離G1でクラシック最後の一冠。
今まで二冠を快勝してきたエースだが、このレースだけは訳が違う。
これまで走ってきたレースは全て中距離レースであり、これはエースの距離適性が関係している。
エースがクラシック期で好走・勝利したレースは2000m代の中距離が中心。
この為、3000mという長距離はエースにとって圧倒的に不利であり、勝ちの望みが比較的薄い。
この距離適性は如何ともしがたい問題で、トレーニングでどうにかなる問題ではない。
無論、スタミナを盛りに盛って強引に逃げ切るという戦術も取れるが、その他が疎かになり、他の要因で敗北するということも考えられる。
謎の噂に加えて頭痛の種が一つ増え、悩んでいるとエースがメニューを終えてやって来た。
「とりあえずメニューは終わったぜ、トレーナーさん」
「おう、お疲れさん」
「ありがとな。それにしても、かなり悩んでたみたいだけど大丈夫か?」
「あぁ、菊花賞について考えててな」
「菊花賞かぁ。ぶっちゃけ、アタシも不安ではあるな」
「やっぱり長距離っていうのは、完全に未知か」
「ダービーでも結構きつかったのに、それから600も増えるからな。アタシにもわからない」
「じゃあ、一回走ってみるか?」
そう提案したところ、
「まあ、何もしてないのにうじうじしてても始まらないしな。走ってみるか」
承諾してくれ、グラウンドで走ってみることにした。
「それじゃ、始めるぞ。全力で走れ」
「おう!トレーナーさん」
「ヨーイ、ドン!」
その言葉とともに疾風のごとく走り出すエース。
様子を見ていると2000mまでは普段の走りだったのだが、2600を過ぎたあたりで疲れが見えた。
明らかにスピードが下がっていたのだ。
やっぱり厳しいか。
そう思いながら、見ていると最終直線を走り切り、こちらにやってきていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「大丈夫か?何処か体に異常は?」
「いや、特には、それよりも、肩、貸してくれねえか」
「あ、あぁ、分かった」
かなりキツそうな様子なので、言われたとおりに肩を貸して、息が落ち着くまで待つ。
「ありがとうな、トレーナーさん」
「これくらいなんてことないさ。でも、念のため保健室行っておこう」
「そこまでしなくても……」
「いや、今まで走ってない距離で、どんな負荷が掛ってるか分からないし見てもらうべきだ」
「う~ん、分かった行くよ」
「おう、一人で歩けるか?」
「あぁ、大丈夫だ」
そして保健室に向かっている最中で、走った感じを聞いた。
「3000m、走ってみてどうだった?」
「想像以上にキツイ。いままで走った中で一番長い2400mの走りを参考にしたんだが、それでもスタミナが足りねえ。多分、3000を逃げ切るには今まで以上にスタミナに振らないとな」
「今まで以上にスタミナが必要か」
「でも、それだと他が疎かになっちまうんだよなぁ~」
「悩ましいものだな」
そう話していると保健室に到着し、保険医に見てもらう。
「特に異常はなさそうです」
「そうですか。よかった」
「若干心配しすぎな節があるからな、アンタは」
「心配は幾らしてもいいと思ってるからな。特にエースみたいなアスリートはな」
「実際そうですよ。レースは60㎞/h以上で走りますから、ちょっとしたことが故障に繋がります」
「そうかもな。アタシも気を付けるよ」
そう話している間にとあるアイデアが思いついた。
「……エースこの後トレーナー室に来てくれないか」
「えっ、いいけどよ、どうしたんだ?」
「ちょっと今後のことで話したいことがある」
そういって、保健室を後にする。
「あ!待ってくれよトレーナーさん!」
このルートなら、勝てる可能性が上がる。
だけど、クラシックから逃げることになってしまう。
そんな葛藤を抱えながら、廊下を歩いて行った。
ガチャ
「来たぜ、トレーナーさん」
「おう、少し遅かったな」
「少し花摘んでてよ、ごめんな」
「いや、大丈夫だ」
「それで話ってのは?」
そう言いながら来客用の椅子に座る。
「話っていうのは今後のレース予定だ」
「ん?菊花賞に出るんじゃないのか?」
「そのつもりだったんだが、一つ案が出てきた」
「案?」
重々しい空気を醸し出しながら、口を開く。
「秋天に出る案だ」
天皇賞(秋)。
東京レース場、クラシック・シニア混合で行われる2000m中距離G1。
2000mとなればエースの得意距離であり、菊花賞に比べれば勝てる可能性は上がる。
本格化を果たしたシニア期の連中がいるのが懸念だが、距離の問題が無くなるのは大きい。
しかし、これには致命的な欠点がある。
それはクラシック戦線から撤退してしまうことだ。
クラシック戦線から逃げるとなれば、エースのライバルのシービーから逃げてしまうことになる。
それは、ある意味敗北を宣言したようなものだ。
そのようなことがあるから、エースに意向を聞こうとしている。
「勝てる可能性は上がるが、事実上の菊花賞敗北宣言をすることになる。こんなことは俺の一存じゃ決められないからエースの意見を聞こうと思って呼び出した」
するとエースは身を乗り出して
「菊花賞に出る」
と力強い声で言った。
「お、おう。でも、いいのか?」
「戦わず負けたってのは嫌だしな。それに…」
「それに?」
「シービーとの勝負からは逃げたくない」
その言葉でハッと気づかされた。
逃げる行為は今まで戦ってきた相手を無碍にしているようなものじゃないか。
「……分かった。菊花賞に出よう」
「ありがとうな、トレーナーさん」
「俺も全力を出して支援する。だからエースも全力を出して走れ」
「あぁ。元からそのつもりだ」
夕日に照らされながら、その誓いは立てられた。
同日 山本家
その日は遅くまで仁の一室は光が灯っていた。
「う~ん、これをどこに移すか……」
理由はエースの夏合宿のトレーニング予定。
二か月に渡る長期合宿のため、綿密に予定を練っている。
「ここに…いや、そうすると別のに干渉しちまう」
そう頭を二回も三回もひねって考えていると。
ピピピピ
「ん、星街さん?」
ピ
「どうしました?星街さん」
「お仕事頑張っているみたいだね、仁君」
「すいちゃんこそ。さっき配信終えたばっかりですよね?」
「うん。でも、仁君がどうしてるかな~って思ってかけたの」
「それはどうも」
「見たところ、なんかの予定みたいだけど……」
「はい。エースの夏合宿の予定を考えてて」
「それは大変だね~、疲れてるんじゃない?」
「弱音になっちゃいますけど、多少は」
「やっぱりね」
「仕事量三倍となれば、こうもなりますよ」
「…ねぇ、仁君」
若干期待を込めた声で星街さんが言う。
「このまま寝るまで、通話しててもいい?」
「ん?どうしてです?」
「ほら、私って一人暮らしだからさ話し相手が欲しくて」
少し考えた後、口を開ける。
「まあ、それくらいなら」
「そう、ありがと」
ほんのり頬が朱色に染まっているように見えたが、気のせいだろう。
そんなこんなで、会話は長く続くことになったのでした。
真田 仙三郎
ASAWP計画の総合主任。
宇宙戦艦の方の人とは何も関係ない。
城山 漣毘
航空班(一班)の班長。
普段はフレンドリーだが、そういう場ではしっかりできるオンオフの切り替えができる人物。