2025年8月25日 改稿
2034年7月1日
俺たちは高機動車で高速道路を走っていた。
理由は静岡県に存在する合宿所に向かうためだ。
トレセン学園では7~8月に全体で夏合宿を行うのが恒例となっている。
無論、俺たち自衛隊もそれの護衛のために向かっている。
派遣される隊員は俺と橋塚含め16名。
普段の規模に比べれば少ないが、戦力をトレセン側に残さないといけないため、こうなった。
向かっている車両は高機動車一両と東京湾基地から派遣された31/2tトラック三両。
トラックには武器や通信機器が積まれている。
また、これとは別に東京湾基地から34式と新型とその周辺機器が輸送されてくる予定である。
今回の夏合宿は34式と新型の試験を行うことも目的の一つであるためである。
ちなみに、合宿所側にも自衛隊派遣所兼宿舎が建設されている。
改めて思うと、自衛隊が来て色々変わってるな。
そんなことを思っていると合宿所の駐車場に着いた。
各隊員が下りて荷ほどきの準備をしている。
俺?俺は荷ほどきの手伝い兼指揮だ。
ただ後ろから見守ってるだけじゃ味気ないんでな。
2時間ほどで武器や通信機器含めた荷ほどきが終わり、俺と橋塚は合宿所に向かった。
合宿所に向かうと、丁度合宿の説明が終わったようで、ぞろぞろと生徒が動き始めている。
少しその中に目をやると、エースとシービーが話しているのを見つけた。
「おーい!エース!」
声をかけるとこちらに気づいたようで!
「あ!トレーナーさん!」
と、近づいてくる。
「おはよう、トレーナーさん。シービーのトレーナーさんもいるんだな」
「あぁ、丁度荷ほどきが終わったんでな。一緒に様子を見に来た」
「やぁ!トレーナー。今日は何するんだい?」
「おはよう、シービー。やる気満々だな」
「キミとやるトレーニングは楽しいからね。さっそく始めよう!」
そう話して、シービーたちは行ってしまった。
「あいつら、やる気が有り余ってるな」
「アタシたちも負けてらんねぇな。それで、今日は何するんだ?」
「今日は菊花賞に向けたスタミナトレーニングをやる」
「分かった!道具借りてくr」
そう言って、走り出そうとしたところを
「まあ、待て」
と言って制止する。
「ん?どうしたんだ、トレーナーさん」
「ついでだから、この2か月のトレーニング予定も同時に伝えておくから聞いてくれ」
「そういうことか。分かった」
「まず、この2か月で中心になるトレーニングは二つだ」
「その二つって?」
「スピードとスタミナ」
「なんかいつも通りだな」
「まあ、この二つがないとレースを勝つことは元より、走り切ることもできないからな」
「基礎中の基礎だしな。他のトレーニングはどうするんだ?」
「パワートレーニングと座学はその次ぐらいでやる、根性トレーニングはたまに」
座学は所謂、賢さトレーニングである。
「根性はそんな感じでいいのか?」
「根性に関しては残りの一か月半でやってもいいしな。基礎をこの合宿中に作っておきたい」
「ふ~ん、アンタの考えは分かった。取り合えず、今日はスタミナでいいのか?」
「あぁ、それで頼む」
エースは機材を借りに、走っていった。
その間に俺は、飲み物やアイシング用の氷水を入れたクーラーボックスを用意しに行った。
その後、飲み物は用意できたのでアイシング用の氷水を用意しに行った時だった。
水を汲みに水道場に行くと、自衛隊服の人が水をくんでいた。
だが、その後ろ姿は橋塚ではなく、とある別の人物の面影があった。
もしかしてと思い、駆け寄るとその考えが当たりだった。
「晴斗!?晴斗か?!」
「ん?えッ⁉仁⁉」
防大の同期であり、陸自へ行った晴斗がいたのだ。
「久しぶりだな!防大の卒業式以来か!」
「あぁ!久しぶり!まさかこんな形で会えるとはな!」
なぜ陸自に行った晴斗がここにいるのかというと、ちょっと訳がある。
今回の夏合宿の少し前に決まったことだ。
それは、自衛隊派出所に陸自隊員を派遣するということだ。
個人的にはやっとかという気持ちだったが、やはり余裕がなかったのだろう。
派遣される陸自隊員は10名でその中に晴斗が含まれていたというわけである。
しかし、トレセン学園派出所指揮官の俺は忙しすぎて人事の把握を忘れていたのである。
ちなみに派遣された全員がトレーナー資格持ちである。
「水汲んでるってことは、お前もトレーナーなのか?」
同時に水を汲みながら話を続ける。
「あぁ、チームでサブトレーナーをやってる」
「ほ~ん。俺の場合は担当一人だけだな」
「へぇ、誰なんだ?」
「カツラギエースって子。自慢の担当だ」
すると、晴斗の表情が一気に驚愕の表情に変わる。
「えっ⁉おま、それって今年の二冠馬じゃん!」
「ああ、そうだ。どっちとも勝ってくれて俺は嬉しいよ」
「すげえなぁ~。同期が夢のダービー制覇を二年目で成し遂げちまうなんて」
「自分だとあんまり実感湧かないけどな」
「まあ、そういうもんだろ。ダービーなんてすごいレースなら」
そう話していると
「お~い、トレーナーさ~ん。準備終わったぞ~」
と、エースがやってきて声をかけてきた。
「おっと、時間が来たみたいだな。それじゃ!」
「あぁ!じゃあな!」
クーラーボックスの箱を閉じ、エースに駆け寄る。
「すまん、待たせた」
「いや、全然大丈夫だけど、あの人は?シービーのトレーナーさんじゃないみたいだけど」
「少し前に派遣された陸自の自衛官で、俺の防大の同期。晴斗っていう人」
「ふ~ん、クーラーボックスに水汲んでたけど、もしかしてトレーナー?」
「あぁ、なんでもチームでサブトレーナーをやってるらしい」
「自衛官のトレーナーさんが増えたな。そのうちライバルになるかもしれないぜ?」
「そうかもな。それじゃ、トレーニング行くぞ!」
「おうっ!気合い入れてくぜ!」
そうやって、彼らはトレーニングを始めた。
潮風が心地よく吹く海岸で、彼らはトレーニングを続けていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「お疲れさん。ほい、スポドリ」
「ありがとう、トレーナーさん」
時刻を見ると午後5時。
まだ日は高いとはいえ、そろそろ潮時だ。
「そろそろ終わりにしようか、エース」
「そうだな、もう5時だしな」
そういって、エースと共に機材の片づけを始める。
「よいしょっと。おっと」
「あ、ごめんトレーナーさん、ぶつかっちまった」
「いや、こっちが姿勢崩しちゃったから別にいいよ」
もう1年と3か月も一緒にいるとこういう不意な体の接触は気にしなくなる。
契約した当初はそういう接触も気にしていたが、エースが
「もう一々こういうの気にしなくていいんじゃね?アタシとトレーナーさんだしよ」
と言ったので俺も気にしないようにしている。
慣れって早いもんだなあと、思っていると片づけ終わっていた。
「案外早いもんだな」
「まあ、そんなに物出してなかったしな」
それもそうか。
「それじゃ、帰るかエース」
そう言って、自衛隊舎に帰ろうとした時だった。
「あ、あの、トレーナーさん!」
エースが、少し大きい声で俺に呼びかける。
「ん?どうしたんだ、エース」
「あ、あのさ」
そして、若干照れ臭そうにエースが話し始めた。
「今回の夏合宿は菊花賞に向けての奴だろ?」
「まあ、そうだな」
「菊花賞は今まで経験したことのないレースになるだろ?」
「あぁ」
「それに向けてのトレーニングは重要になるだろ」
「うん、うん」
「だから、そのトレーニングのコンディションを整えるために……」
一体何を言うんだろうと、少しだけ緊張しながら声を発するのを待っていると
「頭を…撫でてくれないか?」
予想外の答えが俺に向かってきた。
「頭を撫でる?」
「も、もちろん、トレーナーさんが嫌じゃなければだけど」
少し顔を赤くしながらエースは言う。
数秒、考えたのちに俺は答えを発した。
「良いぞ」
「えっ!いいのか!」
エースの顔がパァっと明るくなる。
「今まで体がぶつかったことは色々あるから、それの延長線上と考えればいいし」
「そ、そうか」
若干、エースの耳が垂れ下がる
「じゃ、じゃあ、お願いします」
そう言って、頭を少し下げる。
「それじゃ、始めるぞ」
エースの頭に手を下ろし、左右に動かし始める。
「ちゃんと髪は手入れされてるな」
「アタシだって一人の女の子だぜ?髪の毛の手入れ位する」
「だからこんなに髪が柔らかいのか」
そうして、エースを撫で続けた。
あれ?これ結構恥ずかしくね?
トレーナーがなでなでを始めて少し経った頃、アタシはそのことに気づいた。
「なんか、ずっと撫でていたくなるな」
「そ、そんなか?」
えぇっ⁉これ以上撫でられるのか⁉
撫でられている間、アタシは口角が上がっているのを感じた。
多分、トレーナーさんには見せられないような顔になっているはずだ。
「と、トレーナーさん、もういいぜ」
「ん?いいのか?」
そう言って、手を外す。
若干名残惜しさもありつつ、これ以上口角が上がらないことに安心感を覚える。
「ありがとうな、トレーナーさん。アタシの我儘聞いてくれて」
「これくらい、普段頑張ってくれてるエースの為ならなんてことないさ」
「それと、トレーナーさん。もう一つだけ我儘言ってもいいか?」
「ん?可能な範囲でなら聞くぞ?」
「頭を撫でるの……トレーニングの後毎回やってくれないか?」
「えっ、そんなんでいいのか?」
「トレーニングは頑張るからさ。やってくれないか?」
「まあ、それくらいなら」
よっしゃ!、と心の中でガッツポーズを決める。
「それじゃ、夕食で!」
「ああ、じゃあな」
その日はスキップ気味で帰るエースであった。
その日の夜 合宿所
消灯時間の少し前に、部屋で3人のウマ娘が話していた。
「へぇ~エースもなでなでしてもらえたんだ」
「そうなんだよ!その代わり、トレーニングは頑張るけどな」
「これからエース先輩ももっと攻めていかないといけませんね。相手は同居人なんですから」
その3人はエースとシービー、そしてパーマーだった。
「だよな~、次はどうするべきか……」
「夏だし、夏祭りに誘ったらどう?」
「おっ、いいですね~」
「でもよ~ベタじゃね?」
「恋愛は安牌の方がいいんじゃないの?」
「こういう時はそうですね。地域のイベントを活用しないてはないですし」
そんな3人の会話は消灯時間を過ぎても続いた。
2034年7月2日
朝、7時過ぎ。
点呼や朝礼を終えて、朝食を食べ終わって業務開始まで少し時間があるので外を歩いていた。
朝7時ということもあり、日が完全に登り切っていた。
暑い。
それが外に出た時の第一声だ。
気温計を見ると33度。
8月に向かってまだまだ暑くなるのかと思うと気が重くなる。
だが、業務の準備も終わっているので特にすることがなく、仕方なく敷地から出る。
敷地から出た瞬間、ある一台のバスが近くに止まっているのが見えた。
そのバスにはトレセン学園のマークが書かれていた。
そういえば、今日は特別講師が来るって言ってたな。
特別講師はトレセンが外部から呼び寄せる人員のことで、すいちゃんやみこちもそれだった。
多分、あれがその人たちが乗っているバスだ。
見たところ、今はバスから降りている最中のようで乗降口に人が集まっている。
一体だれがいるんだろうなと思い、その方向に歩いていく。
だんだんと近づくと、人の輪郭がはっきりとしてきた。
すると、そのうちの5人に知人の面影を感じた。
まさか、と思い近づくと
「あ!仁君!」
と、聞きなれた声が鼓膜を震わせる。
そう、その5人とは0期生の5人組であるのだ。
その内、すいちゃんがこちらに気づいたようで駆け寄ってきて
「仁く~ん!」
とハイタッチしてきた。
「どうも、すいちゃん」
その後、みこちもこちらにやって来た。
「やぁにぇ、仁君」
「どうも。というか、2人はどうしてここに?」
ふと、疑問に思ったことを言う。
「みこたちはアイドルとしての心構えとか、振り付けの指導役として呼ばれたにぇ」
その後、2人含めた特別講師は敷地に入っていった。
その後、俺も業務を始めて、自衛隊の業務を終わらせたのち、エースとのトレーニングに移った。
「なあ、トレーナーさん」
「どうした?」
「今日、特別講師が来るって話だったじゃん」
「そうだな」
「その中に星街さんがいたぞ」
「ああ、知ってるぞ。朝あったしな」
すると、エースの表情が少しジト目風に変わる。
「え、どうした?」
「別に。なんでも」
そう言って、トレーニングに戻るエース。
一体何だったんだろう。
ただ、今年の夏は少し違うものになると感じた瞬間だった。
自衛隊派出所装備
20式小銃+10丁
9㎜拳銃+10丁
5.56㎜弾+3000発
9㎜弾+1500発
元値は第七話を参照