栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第二十一話 夏デート

2034年8月13日 トレセン学園合宿所

今日も今日とてトレーニングに勤しむ仁とエース。

世間はお盆休みの時期だが、そんなものはどっかに行ってしまった。

「よーし、いいぞエース!」

ザバザバと音を立てながら、エースがバタフライで泳いでいる。

「ハァ、ハァ、ハァ」

「よし!ここらへんで一旦休憩にしよう!」

気づけば、トレーニング開始から30分ほどたっており、キツめのトレーニングだったので、休憩にすることにした。

「ふぅ、つっかれた」

「今更だが、バタフライはウマ娘でもきついもんなのか?」

「そうだな、力はウマ娘の方が強いけど抵抗も比例するからきついな」

「ほ~ん」

ウマ娘でも人間でもきついものはきついものだなと思いつつ、今日の予定表を確認する。

「今日の予定を伝えると、昼間までスピードとスタミナのトレーニングで午後は座学だ」

「分かった。まあまあ予定詰まってるな」

「それを突破した今週末は休みだから、それまで頑張ってくれ」

「おう!もちろんだ」

エースは努力家だなぁと感心しつつ、何か労えることはないかとも思う。

「どうしたんだ?トレーナーさん」

気がつくと、少し考えていたようでエースに声をかけられた。

「あぁ、すまん。少し考え事してた」

「ふ~ん、何考えてたんだ?」

「いや、エースには普段から頑張ってもらってるからな。何か労えることが出来ないかなって」

そう言うと、エースがチャンスを見出したような希望に満ちた目で言った。

「じゃあさ、今週末に近くの神社でやる夏祭り、一緒に行ってくれないか?」

まさかの、夏祭りのお誘いだった。

「う~ん」

「ダメか?トレーナーさん」

「いいけど、俺なんかでいいのか?シービーとかパーマーとかは?」

「アイツらはそれぞれのトレーナーさんと一緒に行くって言ってるからな」

まさかの他のトレーナーも同じような状態だった。

「教職員と一緒に生徒が夏祭り行くとか、普通の学校じゃ考えられないな」

「そもそもトレセン自体、普通の学園の範疇なのかっていうのがあるけどな」

やっぱり、ゲームと同じく異常に教職員と生徒の距離が異常に近いのかこの学園は。

「それで、どうなんだ?行けるのか?」

数秒の思考の後に、口を開く。

「俺は服あんまり持ってないし、俺なんかじゃ楽しめないかもだけど、それでも良いなら」

すると、エースの目が希望から喜びの目に変わる。。

「あぁ!ありがとうな、トレーナーさん!」

「これでエースを労えるのなら、お安い御用だよ」

喜んでるエースはかわいいなぁ。

そんなことを思いながら、時間を確認すると10分ほどたっていた。

「それじゃ、そろそろトレーニング再開するか」

「おう!行ってくるぜ!」

その日のエースの動きは何だかいつも以上にいいように見えた。

 

 

 

その日の午後 合宿棟の一教室にて

「それじゃ、こんなもんで終わりにしようか」

その教室ではすいちゃんが30余りの生徒に教鞭を振るっていた。

「それじゃ、エースさん号令お願いできるかな」

その教え子の一人にはエースも含まれていた。

「はい!起立!」

エースの声で一斉に生徒が起立する。

「気を付け!礼!」

「「「「ありがとうございました」」」」

号令の後に生徒は教室から解散し、次の教室へと向かっていく。

さて、私も次の教室に移動しようかと考えていた時だった。

「あの、星街先生」

声をかけられ、振り向くとエースちゃんがそこにいた。

「ご無沙汰しています、星街先生」

「こちらこそ、エースさん。どうしたのかな?」

「実は授業のことで~」

内容は一般的な授業に対する質問だった。

「ありがとうございますよくわかりました!」

「いや、教師としての当然のことをしたまでだよ」

ここまでは普通だった、ここまでは

「そういえば星街さん」

気が付くと教室には私とエースだけになっていた。

これなら、普段の話し方でいいかと思い普通の受け答えをする。

「ん、どうしたのエースちゃん」

「アタシ、今週末トレーナーさんと一緒に夏祭り行くんですよね」

………

え?

今、仁君と一緒に夏祭り行くって言った?

「へ、へぇ~、そうなんだ」

「今から楽しみなんですよね~」

そう言って、エースちゃんは教室を出ていった。

それにしてもどうしたものか……

このままだとエースちゃんに先を抜かされてしまう。

とはいえ、夏休み期間中はお盆休み中くらいしか攻めるタイミングがない。

次の教室に移動しながら、考えているととあるアイデアが浮かんだ。

相手のチャンスを、こっちのチャンスにもしてしまえばいいのだ。

そうとなれば、授業が終わったらさっそく行動しなくちゃ。

次の授業に向かう足取りは何処か、軽いように見えた。

 

 

 

その夜 夏合宿所 寮

「へぇ~、エースもトレーナーさんと行くことが決まったんだ」

「そうなんだよ~、承諾してくれてよかったぜ」

「それにしても、トレーナーさん達は心配しすぎですよね。私たちは一緒に行けるっていうだけでうれしいのに」

今日も変わらずエースとシービー、パーマー、ギャルズが話していた。

ピロン

「ん?トレーナーさんからメールだ」

なんだろうと思い、開いてみると

「!!?えっ⁉」

その内容に思わず驚いてしまった。

「どうしたのエース、面食らった顔して」

「まさか、トレーナーさんがいけなくなったとか?」

まだその衝撃を制御しきれていないが、口を開く。

「いや、夏祭りにさ」

 

「星街さんが行っていいかって言ってる」

「「えぇぇーーー!!!」」

「い、一体どうして」

「大分推測になっちゃうけど、向こうもトレーナーのことが好きなんだと思う。今日、アタシが一緒に夏祭り行くって言った時、明らか動揺してたから」

新たな敵の急な作戦。

普通の人なら、戸惑うことだろう。

「どうするんです?エースさん」

しかし、エースの目には戸惑いではなく決意がみなぎっていた。

「いいぜ、っと」

「挑戦受けるんだね、エース」

「あぁ、ここで引き下がってたらエースじゃねえ!」

どうやらその意思は固いようだ。

「かかってきやがれ、相手してやる!」

 

 

 

「どうだった、すいちゃん?」

職員が寝泊まりする大部屋で、みこちとすいちゃんは話していた。

「承諾得られた!ヤッタゼ!

嬉しそうな顔とともにピースをするすいちゃん。

「それにしても以外にぇ。エースちゃんは負けん気が強そうだから断りそうと思ったのに」

「逆に負けん気が強いからだろうね。勝負からは逃げたくないからだと思う」

その予想は当たっているのだが、本人たちが知るすべはない。

「だとしたら、どうするか考えないとだね」

大人たちの夜更かしはその後も続いていった。

 

 

 

「果たしていいのかこれは」

仁は与えられた個室で悩んでいた。

男性一人と女性二人で夏祭り行くっていうのは、傍から見たらすごい光景にならないか?

でも夏祭りには大勢人が来るんだし、そこまで気にされるようなことではないか。

「それにしてもなぁ~」

恋人でもない男と一緒に行って楽しいのかと不安になる。

しかし、これは本人たちが望んでいることだし大丈夫か。

「まあ、とりあえずは週末までの仕事を片付けるのを考えますか」

一先ず、週末の夏祭りを楽しみ、楽しませるためにも仕事を片付けようと考えるのだった。

 

2034年8月19日 夏祭り当日

そんなこんなで迎えた夏祭り当日。

開催場所は合宿所近くの神社。

待ち合わせ場所はその神社の鳥居の前にした。

女性のお誘いに遅れるわけにはいかないので、15分前に来たが、暑すぎて伸びそうだ。

まあ早く来たのは自分だし仕方ないことかと思い、待っていた。

「お~い、トレーナーさーん!」

「お~い、仁く~ん!」

二つの聞きなれた声が聞こえた来たので、振り向くと

 

二人の夏の妖精がいた。

 

エースの方は自身の髪と正反対の白を基調とし、黒色の小物入れを持った浴衣姿。

すいちゃんは涼しげな青色の浴衣と、普段から持っているお気に入りであろう鞄をもっている。

こんな美人が二人もいたら、見惚れない人はいないだろう

「お~い、トレーナー?」

「仁君、まさか私たちに見惚れてるんじゃないの~」

おっと、いけない、しっかりしなければ。

「すみません、ちょっと二人が綺麗すぎるもので」

「へへっ、ありがとうな!トレーナさん」

「ありがとうね仁君」」

集まったことだし、取り合えず出発することにした。

「最初何か買いたいものとかあるか?」

「すいちゃんはたこ焼きが食べたいっ!」

「初っ端から重いもの行きますね」

「良いじゃんか~別に~」

「一先ず、すいちゃんはたこ焼き…っと。エースはあるか?」

「アタシもたこ焼きでいいかな。お腹空いてるし」

「ほ~ん、了解」

俺もたこ焼きにするか

そう思い、三人はたこ焼きの屋台に向けて歩き出した。

「すいません、たこ焼き3つください」

「あいよぉ!兄ちゃん結構食べるねぇ」

「いぇ、二つは自分のではなくて後ろの二人用なんです」

そう言うとたこ焼き屋のおっちゃんは、俺の後ろにいる二人を見ると

「二人ともべっぴんさんだね~」

「教え子と知り合いです」

「教え子ってことは、トレセンの人かい?」

「まあ、部分的にそうですね」

「ん?どういうことだい?」

「本職は自衛隊なんですけど、自衛隊公認でトレーナーもやってます」

「トレーナーも?大変だね~」

「まあ、そうですね」

「というか、どっちの子もなんか見たことがあるような…」

なんかそろそろヤバい内容になってきそうだなと思っていたところ、たこ焼きが完成した。

「あいよ、たこ焼き三人前上がり!」

「ありがとうございます」

「おうよ!また頼むな~」

そう言って、二人と共に去っていった。

「ちょっと危なかったですね」

「そうだな。アタシも星街さんも有名人だからな」

「とりあえず、どこかに座ってこれ食べますか」

少し歩いて席を探すが、夏祭りということもあり、かなりの席が埋まっている。

「ないな」

「そうだね~。ん?あそこ空いてない?」

すると、すいちゃんが席を見つけたようなのでそこに座る。

「あ、あの~二人とも~」

しかしここで問題が発生した。

「ん?どうしたの?」

「俺が真ん中でいいんですか?」

「え?なんでだ?」

「いや、なんか変な勘違いされないかなと思って」

「別に仁君なら変な勘違いされてもいいよ?」

「アタシも別にトレーナーならいいぜ?」

その言葉に一瞬ドキッとした。

「そういうことは本当に好きな人にしてあげて下さい」

((このくそボケ朴念仁め…))

二人の心が一つに重なった瞬間であった。

そんな会話が終わり、三人でたこ焼きを食べ進めていると

「ん」

 

 

 

一応実行したけど、本当にこれでいいの?

ミコチから教えられた作戦はあ~ん作戦。

料理一つ一つが分かれてるたこ焼きを買って、あ~んする作戦。

寝落ち通話までして気づかなかった仁君が気づくのか?

そう思って、たこ焼きをつきだした後に仁君の顔を覗くと少し照れているように見えた。

「す、すいちゃん、これは一体何のつもりで?」

「え、仁君におすそ分け」

「同じもの買ったんですし、そっちで全部食べちゃっていいですよ」

「これは仁君に食べてもらいたいの~」

そう言うと少し呆れたような顔をした後

「一口だけですよ」

やった♪

「それじゃ、はいあ~ん」

仁君が少し恥ずかしそうに口を開けて、たこ焼きを食べる。

「どう?おいしい?」

「おいしいですよ」

なんかほんのちょっぴり顔が赤いように見える。

ふふふ、か~わい♪

ふと思い、蚊帳の外だったエースちゃんを見てみる。

見てみるとエースちゃんは怒ったハリセンボンのようにふくれっ面でこっちを見ていた。

残念だけど、エースちゃんよりは付き合い長いから、こういうこともできるんだよね♪

次はどうしようかと考えていた時だった。

「トレーナーさん」

エースちゃんが仁君に声をかけてきた。

「ん?どうした?」

するとエースちゃんもたこ焼きをつきだしてきた。

「エ、エース?」

「その~アタシのもいるか?」

はは~ん。さてはエースちゃん、私が大胆な行動に出て、ちょっとヤキモチ焼いてるな?

「良いのか?」

「アタシもアンタに食ってほしいんだ。ダメか?」

エースちゃんがちょっと上目遣いで仁君を見る。

「それじゃ、いただきます」

そうしてエースちゃんんたこ焼きを食べる。

「どうだ?うまいか?」

「うん。おいしいよ」

私とは違い、ちょっと砕けた感じの口調で、エースちゃんに話す仁君。

やっぱり、エースちゃんは距離が近い感じの子だから自然に話せるのかな?

私も今後の参考にしないと……

そう思っていると、エースちゃんと目が合った。

その眼には「絶対に渡さない」という強い意思が詰まっているようだった。

「ふ、二人ともどうした?」

「いや~別に~」

「あぁ、なんでもないぜトレーナーさん」

おっといけない、いけない。

うっかりエースちゃんに対する対抗心が出てしまっていたようだ。

流石に、暴走して仁君を怖がらせたらいけないからね。

でも、そのセリフは私の物だからねエースちゃん♪

夏祭りの乙女の戦いは激化していく。

その二人の蒼い瞳の中には強い意思と闘志が宿っていた。

 

 

 

あのたこ焼き食べさせ合いの後、私たちは色んな店を巡っていた。

私たちの両手が夏祭りの戦利品でいっぱいになったころ、トレーナーさんが話しかけてきた。

「そういえば、そろそろ花火大会の時間じゃないか?」

「えっ、もうそんな時間か⁉」

好きな人と一緒にいると時間が流れるのが早いなぁと感じる。

「急いで場所探そう!」

星街さんがそう言って、あたしたちは場所確保のために駆け出した。

「お~、さっきより人がいっぱいだ」

「花火大会ともなればこうなるだろうな」

「だろうね~。さっ、場所探そう」

その後、何とか場所を確保して花火の開始時刻を待った。

「では、只今より花火大会を始めます」

そう、放送が入った。

花火ともなれば、年甲斐もなく楽しくなってしまうものだ。

ワクワクしながら待っていると

ヒュゥゥゥゥゥゥーーー ドガン!!

一発目の花火が撃ちあがった。

「「「おぉー」」」

まさかの三人とも感想が同じだった。

そして顔を見合わせて

「「「アッハハハハハ!!!」」」」

大笑いした。

いや~こんな偶然もあるんだなと思いつつ、花火を見るのに戻る。

その後は色んなん花火が上がった。

小さい花火、大きな花火、不思議な色の花火、強い色の花火。

いろんな花火を楽しんだ後、ついに最後の花火となった。

「ついに最後の花火か」

「どんなのが上がるんだろうね」

「ワクワクするな!」

そうやって話していると、ついに最後の花火が上がった。

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーー

ドガン!!!!!

その花火が撃ちあがるとともに、今しかタイミングがないと思い、とある行動を実行に移す。

少しトレーナーさんに近づいて、頭を預ける。

「エ、エース⁉」

まだ花火の余韻も冷めないまま、一気に攻勢を仕掛ける。

すると、アタシに負けてられないと思ったのか

「す、すいちゃん⁉」

右に目をやると、星街さんも同じことをしているらしい。

この状況にトレーナーさんは困惑しているようだったが、どうにもならないと察したのか

「……今回だけですよ、二人とも」

この状況を受け入れることにしたようだ。

ちょこっとした我儘聞いてもらってごめんな、トレーナーさん。

その背景では、周りが退場を始めていたがその3人は仲良く身を寄せ合っていた。

こんな時間が長く続けばいいなと思うエースとすいちゃんであった。

ちなみに、この様子が来場していたトレセン学園生徒に目撃され、トレーナーが二人を誑かしてるという、あらぬ噂が立ちそうになったが、トレーナーが全力で否定して、流行りはしなかった。

 

 

 

「それでどうよ?情報収集の方は?」

「合宿所近傍のイベントで手に入れた情報によると、二人の女性と一緒に回っていたようです」

「片方は担当の子だろうけど、もう一人は?」

「どうやら水色の髪をして、青色の瞳を持ったヒトだそうです」

「ふ~ん。該当する人はいるの?」

「おそらく、トレセン学園の特別講師で呼ばれた星街すいせいでしょう」

「その二人と親密なわけか。使えそうだね、この情報は」

「すぐに使いますか?」

「いや、成熟してきたらもっと可能性を引き出すために使おう」

運命の交差はもう間もなく。




夏合宿編は次回で終わりです。
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