2034年11月2日 トレセン学園
菊花賞で初めての負けを経験したエースと仁。
トレーナー室ではその反省会が行われていた。
「う~~~~あぁぁぁ!!!!」
「突然叫んでどうしたトレーナーさん」
「いや、なんか疲れて」
「突発的な理由だな」
俺は何やってるんだろうと思いながら、椅子に座りなおす。
「結局よぉ、菊花用での敗戦は脚質適性とスタミナってことなのか?」
「まあ、常識的に考えたらそうだろうな」
「スタミナはともかく脚質はどうしようもないよなぁ」
「体のつくりが違うからな。サイボーグにでもならないと」
「ロボになるのは勘弁だぜ」
軽い冗談を飛ばしながら、パソコンを操作する。
そこに入っていたのは、俺と父さんが作った前世界の古馬レース結果。
それらの馬には前方脚質で尚且つ中距離で活躍した馬という特徴でまとめている。
これら+史実を参考にして今後の予定を立てる。
「トレーナーさん、何見てるんだ?」
「前世界のレース結果」
「へぇ~前の世界でもレースってあったんだな」
エースには大分前に俺が異世界出身ということを話している。
「と言っても、ウマ娘じゃないけどな」
「ん?それって参考になるのか?」
この話が出てきたし、そろそろこのことを話してもいいか。
「それを話すには、少し長くなるぞ」
「あぁ、いいぜ。アタシもトレーナーさんのこと知りたいし」
「そうか。じゃあ始めるぞ」
それから俺は色々なことを話した。
前の世界ではウマ娘の代わりに馬という四足歩行の動物がいたこと。
その馬の中で走りに適したサラブレッドという品種を用いた賭け事、競馬があったこと。
そのサラブレッドの中で有名な馬を擬人化したゲームがあったこと。
そして、エース達ウマ娘はそのゲームの中で出てくる存在だったこと。
まあ長くなったが、理解してもらうためにも丁寧に話した。
「……というわけだ」
「な、中々に衝撃的な話だな」
「それでどうだい、聞いてみた感想は」
今後のレースに対する心構えに関わるので、これの感想を聞くことにした。
「そうだな…あたしたちがゲームの中の存在だったということは驚いたな」
流石にな。俺だって困惑する。
「でも、アタシ的には全然気にしないな」
「へぇ。凄いな」
「今生きてるアタシはそのゲームのあたしとまったく同じだと思うか?」
「いいや。だってエースは生きてるんだろ?向こうはデータ上の存在だ」
「なら、そういうことだ」
強いな、エースは
そんなことを持っているととある質問をされた。
「向こうのあたしってどうだった?」
「ん?それはゲームの方か?馬の方か?」
「馬の方だ。アタシがどんな奴だったのか気になるしな」
「馬の方か。クラシック期は勝ちきれなかったけど、シニア期には強敵を倒した馬っていう感じ」
「向こうのあたしは遅咲きだったんだな」
「レース用語だと晩成型って言うらしいけどな」
「でも、今のアタシはそいつとは違う存在なんだ。縛られず頑張っていこうぜ」
「そうだな、ということで予定、決めてくか」
改めて、予定を決めていく。
2時間後…
「まぁこんなもんか」
「そうだな。途中途中で前世界のいろんなことを聞かされたけど、凄いなG1を9勝って」
目標を決めるにあたって、追加で前世界の知識をエースに話した。
無論、G1を9勝はアーモンドアイのことだ。
「それじゃ、もう一回全体の予定を確認していくぞ」
「おう!お願いします!」
「まず全体の目標としてはアーモンドアイを超えるG1を10勝だ」
後ろに『G1 10勝』という目標を書いたホワイトボードを軽く叩く。
「それをすべて中距離で達成する」
中距離オンリーだと、難易度的にはアーモンドアイよりキツイ。
(アーモンドアイはマイルも走っているため)
「取り合えずG1を今3勝してるから、残り7勝をどうにか取らないといけない」
「それで最初に出るレースが大阪杯、ってことか」
大阪杯。
3月シニア級限定の阪神競馬場で行われる芝中距離2000mG1。
史実のエースの時代ではG1ではなかったが、この世界ではG1となっている。
中距離の芝G1があるなら出ない手はないので、これに出走することにした。
「そう。基本的に王道の春秋シニア路線を走る」
「でも、天皇賞(春)だけは出ないんだろ?」
「あぁ、3200mとなれば脚質問題がより顕著に出てくるからな」
なので三冠は秋シニアまでお預けとなる。
まあ、それ以外にも秋に向けた準備等もあるからなのだが。
「4年目も基本的に変わらずに王道シニア路線で行く」
「下手に変えてまずったら駄目だもしな」
「ただ、4年目以降は確実にドリームトロフィーリーグに出る」
ドリームトロフィーリーグはトゥインクルシリーズを駆け抜けたウマ娘が走るレース。
ちなみに、今現在はマルゼンスキーがドリームトロフィーリーグを席巻している。
G1を2年で10勝し、ドリームトロフィーリーグに出走する。
これが俺たちの壮大な計画だ。
「こりゃあ名バにでもなるつもりでやらなきゃ無理だな」
「名バになるを通り越して、歴史を作るからな。それくらいの心構えがなきゃ無理だ」
俺たちの野望は静かに始まった。
その日の夜 トレセン学園 栗東寮
「はぁ~~~~~~~~~~~~」
「長いため息ですね、エース先輩。何か悩み事でもあるんですか?」
パーマーが枕に突っ伏しながら溜息を吐くエースに話しかける。
「いやさ、最近悩んでることが多くてさ」
「菊花賞とかトレーナーさんのことですか?」
「そう。なんかいろいろ重なり過ぎて訳が分からなくなってる」
実際、アタシの心の中はぐちゃぐちゃだ。
菊花賞の敗戦の悔しさとか、トレーナーさんに向けた戦略、シービーに対する感情。
「こういうのも青春なんだろうなと思ってもさぁ~悩むもんだよな」
「その結果、色々なことをするんでしょうね私たちは」
しばらくの静寂が部屋を通り抜けていく。
「まあ、一つ一つ整理していくか」
「そうですね。それじゃ菊花賞のことから始めていきましょう」
うじうじしていてもどうにもならないということで、一先ず整理から始めることにした。
「菊花賞についてはかなり割り切っているんだよな」
「あんまり気にしてないってことですか」
「過去のことは反省して次に活かしていくしかないからな」
「強いですね」
「そうか?」
「普通なら敗戦は結構引きづりますよ」
あんまり実感湧かないな。
そんなことを思いながら次の話題に移る。
「次はトレーナーさんのことですね」
「もう本当に鈍感。これに尽きる」
「それについてはどうしようもないですね。トレーナーさんはトレーナーさんですし」
改めて振り返ってみると、その鈍感っぷりが冴えわたる。
名前呼びにハグ、夏祭りデートまでしても気づく様子が一切ない。
このまま卒業を迎えてしまうんじゃないかという不安すらある。
「星街さんの方はどうなんだろうな」
「同じように苦戦してると思いますよ。そうでなければもうとっくに取られてると思いますし」
確かに。付き合いの年月は向こうの方が長いしな。
「結局、膠着状態ってことか」
「もっとアタックかけることしか方法はありませんね」
効かないと分かっていても攻撃しなきゃいけないRPGの負けイベみたいだな。
「取り合えず、次のデートの予定立てるぐらいはしとくか」
「まあ、頑張ってください。最大限のサポートはするので」
そして最後の話題である、シービーへの感情だ。
「確かシービーさんには憧れ兼ライバル視してるんでしたよね」
「あぁ、だけど前の菊花賞の敗戦でそれがより強くなったな」
「難しいですよね、ライバル感情っていうのは」
「これに関してはアタシが最適解を見つけ出すってのが一番いい気がする」
「実際、そうでしょうね。ライバルってのはかなり個人的なものですし」
一先ず、それぞれの方針が決まったので頑張るしかない。
夜を飛ぶ鳥たちがその光景を見守っていた。
その日の深夜 星街家
「う~~~~ん」
ベットの上に寝っ転がりながら、すいちゃんは難しそうな顔をしていた。
「はぁ、どうしよっかな」
寝返りを打ちながら、声を漏らす。
「一体仁君をどうやって攻略したらいいんだろ」
エース同様に彼女も仁との恋関係について変わらず悩んでいた。
「私ってアイドルなんだけどなぁ…」
アイドルの魅力は様々あり、それによって人を魅了する。
当然、仁君も人間なので多少は効くと思っていたのだが…
「一切効いてる様子がない…」
恐らく、仁君は完全にオタクに振り切ってしまっているのだろう。
恋愛的に好きだとしても、それを押し殺して推しの応援に全力を回してしまっている。
それ故に、推しから好意を向けられるという状況に拒絶という形で反応している。
この牙城を崩すためには、「推し」から「一人の女性」という形に戻す必要がある。
でも…
「それが出来たら苦労はしてないわな…」
戻すには直接好意を伝えるのが一番手っ取り早いのだろうが、さすがにすっ飛ばしすぎだ。
とはいえ、奥手すぎても気づかないままという状況が生まれてしまう。
「う~~~あ~~~もどかしい!!」
少しだけ声を大きくしてやるせない気持ちを晴らそうとする。
「悲しいよ、仁君」
どれだけ手を伸ばしても届かない星のような存在に感じる。
そんなことを思いながら天井を向くすいちゃん。
「一先ずデートの約束、取り付けますか」
その後、仁の予定表には定期的に二人とのお出かけが入るのだった。
2034年11月3日 東京湾基地
今日はトレセンではなく東京湾基地の方に出勤している仁。
目的はASAWP計画の定期報告会。
ただし、全体の報告会ではなく部門内での報告会。
出席者は
島崎一尉
アムロ二尉
ザアク二尉
イアン二尉
アレス二尉
仁二尉
「それじゃ、報告会始めるで」
馴染んできて、最近関西弁が出てきた島崎一尉の声とともに報告会が始まった。
「まずは太陽炉関係についてや。イアン二尉、どうや」
「太陽炉の再現情報についてはほぼ100%再現が出来たから、今後は改良に入っていく予定だ。GNコンデンサーの技術に関してもハルートやサバーニャと同等レベルまで開発することが出来た」
ついに劇場版OOレベルまで来たな。
いよいよGN-XⅣみたいなのが出てくるんだろうか。
「そういえば、オリジナル太陽炉の製造設備の段階はどうなんや?」
「高重力製造施設はもう完成してていつでも動かせるが、材料がまだないからどうしようもない。その材料を取ってくる無人採掘宇宙船は現在進行度83%で一応計画通りに事は進んでる」
高重力製造施設はここの地下深くに設置されており、俺も一度見に行ったことがあるが、製造施設というより映画に出てくる動力炉のコアみたいな形をしていた。
まあGNドライブの核を変化させるための施設なのでそういう形になるのだろう。
気づくと、4枚の資料がホワイトボードに貼られていた。
一つ目は擬似太陽炉の図面。
二つ目は高重力製造施設の概要。
三つ目は無人採掘宇宙船の図面。
最後の一つは現在設計中のオリジナル太陽炉の図面。
本当にどれもSFに満ちてきたなと思いつつ、次の議題に移る。
「ありがとうイアン二尉。ザアク二尉、サイコミュの開発状況はどうや」
「サイコミュに関しては現在適性が低くても使えるバイオセンサーの試験中で、仁二尉ではなく、実地のパイロットを使って試験しています。また発展技術であるサイコフレームは試作品を試験機に載せて仁二尉に試験してもらっています」
ちなみにサイコフレームを乗せているのは『巨人』の方だ。
『不屈』も拡張性はあるにはあるのだが、探査用機体がベースの『巨人』比べると劣る。
更に余談だが、サイコフレームはほぼ全身の隙間のある所に設置されており、コックピット内部や対Gスーツを改造してまで詰め込んでいるため、フル・サイコフレーム機もどきになっている。
この時アクシズショックみたいなことが起こらないかと、ザアク二尉に聞いたが曰く「あんな事は稀だ」と言われた。
「そういえば、次回以降の機体にサイコフレームって使うんですか?」
「あぁ、バイオセンサーと組み合わせれば反応速度が上がるからな」
機体性能の向上に胸を躍らせながらも、最後の議題に移る。
「最後はアレス二尉からの報告や。内容は前に確保された転移してきた機体についてや」
「はい。今年の6月の中旬に瀬戸内海の某所で転移現象が発生し、調査に向かった所、この機体とパイロットが発見されました」
そうして二枚の資料を追加でホワイトボードに貼り付ける。
「この機体は解析したところ、アーキバスの系列企業であるシュナイダー社の技術が使われ、他にもファーロン・ダイナミクスなどの企業の技術が使われていました」
シュナイダー社とファーロン・ダイナミクスはAC6に登場する企業。
シュナイダー社とファーロン・ダイナミクスの技術を使用した機体…
…もしかして
資料に目をやると俺の勘は当たっていた。
「…スティールヘイズ・オルトゥス」
その言葉にアレス二尉が反応する。
「なぜそれを」
「『胎動』と同じく前の世界に合ったゲームに出てきた機体なので」
そのことを思い出したかのように、納得した顔をするアレス二尉。
見たところ、機体は多少損傷しているようだがパイロットは大丈夫なんだろうか。
「そういえば、パイロットは今どこでどうして」
「今、呼び出す。入ってきてくれ」
すると、小さな会議室の後ろの方にあるドアが開かれて、一人の男性が入ってくる。
見た目は20代前半で顔は中々イケメン。
「それじゃ、自己紹介頼む」
「元ルビコン解放戦線所属のラスティ三尉です」
やっぱりラスティだったか。
作中でもかなりイケメンなセリフを残していったラスティと実際に合えるとはな。
「彼の扱い的にはどうなんですか?」
「普通の転移者と同じで、特例で自衛隊に入ってる感じや」
ちなみに、アムロ二尉やザアク二尉、イアン二尉にアレス二尉も特例だ。
「あと、ラスティ三尉も試験部隊に入る予定やから」
「よろしく頼みます」
「こちらこそよろしく」
そんなこんなで報告会は終わった。
同日夜 山本家
今日もすいちゃんが通話を求めてきたので、通話することにした。
寝落ちするまでの時間で話していると、今日のことの話題になった。
「今日、職場にめっちゃイケメンな人が来た」
「へぇ、一体どんな人なの?」
「転移者でAC6に出てきた人。俺なんか敵わないくらいの」
「ふ~ん、それでもアタシの好きな人は変わらないけどね」
前々から好きな人がいるとは聞いていた。
多少ショックだったが、本人が幸せならいいかと思っている。
「幸せ者ですね。その好かれてる人は」
「……うん」
急にテンションの下がるすいちゃん。
「どうしたんですか、すいちゃん」
「別に」
(鈍感野郎め…)
その日はすいちゃんの機嫌が少し悪かったという。
同日 深夜 小笠原近海 海底
この静かな海底に似つかわしくない機械の駆動音が鳴り響く、主任たちの基地。
「ハングドマンの再建作業は92%完了。後は微調整だけだ」
「仕事が早いねぇ~助かるよ」
「機材の未整備による作戦行動の遅れはあってはならない」
電子の海で冷徹な言葉が交わされる。
「キャロりん、情報収集の方はどう?」
「数日前にASAWP計画の概要書を入手しました」
「ASAWP計画の内容、どんな感じだった?」
「公式発表されてるものと変わりませんでしたね。ただ、最終目的の機体のデータが…」
「まあ、こういうのは長期的に進めるものだしね。ないのも仕方ない」
そう納得し、話を進める。
「新兵器の方はどうだい?」
「開発番号一番の方は基礎フレームが完成して、今外装に取り掛かっている。二番の方はフレームを製造するところだ。最後の三番は一号が70%、二号が45%、三号が30%の完成度に達してる」
「順調そうだね。全部完成するのはいつ頃になる?」
「短く見積もって2036年とかだろうな」
「ふぅ~ん、時間はあるんだし着実に進めていこう」
彼らの兵器工場は動く。
可能性を見つけようとする、彼らを支えるために。
ラスティ
解放者ルートで撃墜された後に転移。