2034年11月18日 9時00分 東京湾基地
世間一般では休日とされる日にも関わらず出勤する仁。
「休日出勤ですか~」
「軍隊ってのは常時準備出来てるのが条件だしな」
「俺たち一応、実戦部隊じゃなくて試験部隊なんですけどね」
「前戦っただろ、仁は」
「あれはあくまで非常時だったので…」
そうアムロ二尉と仕事しながら駄弁る仁。
「午後って機体の起動試験でしたよね」
「あぁ、だけど今回は少し違うな」
「少し違う?」
「今回は『胎動』も使って試験を行う」
最近『胎動』は倉庫番をしていたので半年ぶりとかに引っ張り出すことになる。
「パイロットは誰なんです?ラスティ三尉ですか?」
「いや、今回は俺直々に出る」
………え?
「アムロ二尉が出るんですか?」
「しかも今回は戦闘試験だからな、楽しみにしてるぞ」
一年戦争で百機以上を撃墜し「白い悪魔」と呼ばれたアムロ・レイ。
戦闘データを元にしたシミュレーターでは戦ったことはあるものの、実際に戦うのは初めて。
「一体どうしたら勝てるんですかね」
「少なくともシャアの真似をしたら互角には戦えると思うぞ」
「10年以上戦ってきたエースの真似を俺にしろと?」
「そうでもしなければ、後ろに目を付けた俺には勝てないぞ」
こんな伝説のエースとまともに戦えるのかと思いながら、仕事を進める仁。
真剣勝負まであと4時間。
同日 10時30分 トレセン学園 栗東寮
その日、エースは一人で部屋に居た。
同室のパーマーはメジロ家の集まりがあるとかで、今日一日中いないとのことだった。
「なんもすることねぇ…」
そう言って、ベットに寝っ転がる。
今日の天気は雨。
じめじめとした湿気が部屋の中にまで伝わってくる。
こんな日は自主練もできないのでどうにも気が落ちる。
折角だから遊びに行こうとシービーに電話をかけたが、トレーナーと出かけると言ってた。
「…どうするか」
何かこの空白を埋めるための手段を探そうと、スマホに手を伸ばす。
適当にニュースをあさっていると、一件の電話がかかってきた。
「星街さん?」
かかってきた電話はまさかの恋敵の物だった。
ちなみに、連絡先は夏祭りの時に交換してもらった。
一先ず電話に出ようと、応答のボタンを押す。
「もしもし、エースです」
「あっ、エースちゃん!今何してる?」
元気な人だなあと思いながら、質問に答える。
「特に何も。今日雨ですし」
「だろうね~じゃあ、家来ない?」
いきなり衝撃的なことを言ってきた。
「良いんですか?」
「今日は色々あって予定ないしね」
少し迷ったが、すぐに答える。
「じゃあ、午後にお邪魔させてもらいます」
「うん、じゃあ待ってるね!」
ピ
「とりあえず着替えるか」
そんなことを思いながら、ベットから立ち上がるエース。
真剣勝負まであと2時間半。
同日 同時刻 星街家
ピ
「ふぅ」
通話が終わったスマホをゆっくりと机の上に置く。
「誘えたにぇ?すいちゃん?」
結果を分かっていながら、一応聞くみこち。
「うん。OKしてもらえた」
そのことを笑顔で話すすいちゃん。
「それにしても、一対一で話したいなんて意外なこと言うにぇ」
「恋の戦いは隠しっこなしの真剣勝負だしね。こういう機会持ちたいって前から思ってた」
彼女たちは今回も恋愛について話していた。
仁君と恋仲になる上で最大の障壁となるエースちゃんの存在。
これをどうにかするために、エースちゃんを家に呼んで真剣に話し合って勝負をつける。
安直だが、勝負をつけるには手っ取り早い。
「作戦はあるにぇ?」
「一応。と言っても簡単なものだけど」
「完全にないよりもましだにぇ」
そんなことを話しながら、部屋の片づけを始める二人。
「そういえば、エースちゃんのことはどれくらい知ってるにぇ?」
「それなりかな。夏合宿でも何回か会ったし」
「ふぅ~ん、そこだけはちょっと不安だね」
真剣勝負まで後2時間
同日 11時50分 東京湾基地 食堂
軍人の飯、といえばレーションを思い浮かべるものが大半だろう。
だが、平時ならば普通に基地の食堂で食事をとる。
「相変わらずうまそうな匂いだが、今日は箸が進む気がせん」
今日の昼食はコロッケ定食を選んだ仁だが、箸の進むスピードはいつもより遅い。
「やぁ、元気は…なさそうだな仁二尉」
「アレス二尉」
そんなこんなで箸を遅く動かしていると、アレス二尉が向かいの席に座ってきた。
「何かあったか?」
「いや、午後から模擬戦なんですけど相手がアムロ二尉なんですよ」
「アムロ二尉か。そういえばアムロの経歴聞いたことないけどどうなんだ?」
「三か月で撃墜スコア100機以上を稼いでいるエースですよ…。勝てる気がしません」
「そんな奴を元の世界で聞いたことがあるな。確か…レイブンとかいう傭兵だったか」
アレス二尉が言っているのは一体どっちのことだろうかと思いながら、コロッケを食べる。
「エースってのは往々にして、運と実力を持ってるやつだ。十分に注意しろよ」
コロッケを飲み込んで、話を返す。
「注意しろって言ってもどうすれば」
「う~ん、そうだな」
少し悩んだ後に、ひらめいたような顔をして話し出すアレス二尉。
「確実に当てられる距離まで近づいてくるのを待つのはどうだ?」
「近づいてくるのを待つ、ですか」
確かに、アムロ二尉はシャアの弾幕の中を潜り抜けられるレベルの回避技術を使って接近する。
それを逆手にとって、攻撃を確実に当てられる距離まで接近させてしまえばいいのではないか。
「ありがとうございます。参考になりそうです」
「役に立ったようならよかった。そういえば試作の兵装があるから、それを持っていくといい」
試作の兵装か。楽しみだ。
そんなことを思いながら箸を少しだけ早く動かす。
真剣勝負まで後、1時間10分。
同日 12時半 とある電車の中
電車に揺られながら、一人考え事をエースはしていた。
もちろん、考えている内容は星街さんと会うことについてだ。
その両手は組まれ、顔は下を向いていた。
「……………」
今回のお誘いは間違いなくトレーナーさん関係についてだろうな。
多分、トレーナーさんを挟まずに直接話し合って決着をつけさせようとしてる。
だけど、トレーナーさん攻略に苦戦してるのは向こうも同じなはず。
それを利用すればうまいこと、勝ったり引き分けに持ち込めそうだ。
ただ、それはこっちも同じだということも頭に入れておかないといけない。
忘れているとそれを逆手に取られるかもしれない。
すると、スマホに一件の通知が来る。
エースはトレーナーが自衛官ということを知ってから、ミリタリー関係のニュースを見ていた。
今回もその通知かと思い、見てみるとその内容は衝撃的なものだった。
「自衛隊異例の行動、東京湾基地で胎動と巨人の模擬戦ライブ」
東京湾基地、人型機動機…
確実にトレーナーさんがどっちかに乗ってる。
一体相手はどんな奴なんだろうか。
そんなことを思いながら、電車は進む。
勝負の地へと向かうために。
真剣勝負まで後、30分
同日 同時刻 星街家
「「えぇ~~~~~~~~!!!」」
みこちとすいちゃんはスマホの画面を見ながら驚いていた。
そりゃあ、自分の恋焦がれている人の真剣勝負を見ることが出来るならな。
「一体相手誰なんだろうね」
「ん、待ってみこち。なんか下に書いてある」
巨人 山本 仁二尉
胎動 アムロ・レイ二尉
「えっ!アムロ・レイ⁉」
アムロ・レイについては仁君からある程度聞いていたし、仕事の関係である程度知ってる。
なぜなら、すいちゃんはガンダムのエンディング曲を歌っていたからだ。
「相当強い人だよね、アムロさんって」
「うん、「白い悪魔」って異名が付くぐらいには」
一体どうなってしまうのかという不安と期待が心で渦を巻く。
「このことはエースちゃんも知ってるかにぇ?」
「夏合宿の時にミリタリー関係のことも話してたし、多分知ってる」
すいちゃんもミリタリー関係のニュースを見ていた。
実を言うと、二人とも同じサイトを使っているのだが知るすべはない。
「取り合えず、今はエースちゃんのために色々準備するにぇ」
そう言って、二人で部屋を出ていって準備を進める。
ピンポーン
「あっ、来たみたいにぇ!」
「私が出るから、みこちはそれ持って行ってくれる?」
「分かったにぇ!」
そう言って、エースちゃんを迎えに玄関に行く。
ガチャ
「ようこそ!エースちゃん」
「こんにちは、星街さん」
恋敵と言えど、快い挨拶で迎える。
「お邪魔します」
そう言いながら、靴をそろえるエース。
「礼儀正しいね」
「他人の家に上がらせてもらってるのでこれくらいは」
そんなことを話していると、みこちが部屋から顔を出してきて
「すいちゃん!もうすぐ始まる!」
と言ってきた。
「急ごう!エースちゃん」
二人で急いで階段を駆け上がり、私の部屋に入る。
「エースちゃん、この自衛隊の配信知ってる?」
「はい、知ってます」
「なら話が早いね。今からそれを見るよ」
そんなことを話していると
「すいちゃん、エースちゃん!始まってる!」
そうして私たちは画面に顔を向ける。
真剣勝負まで後0分。
「ルールを説明します。制限時間は10分間。戦闘区域は半径10㎞。武装は模擬物を使用します」
視聴者と俺たちに向けてルールを話す島崎一尉。
何でライブをすることになったのかというと、広報部の思いつきで急遽やることになった。
「いくら何でも急遽過ぎやしませんか?」
「軍隊は広報活動も重要だからな。これくらい大胆じゃないと」
大胆過ぎんだろ…
そんなことを思いながら操縦桿を軽く握りしめる。
「そういえば、機種転換訓練って受けてるんですか?」
「一通りはな。HMDに慣れるのにちょっと苦労したがな」
相手も十分に性能を引き出せる、機体性能はほぼ同等…
もう新兵装と俺の操縦技量に託すしかないか。
ここで双方の機体の兵装だが
胎動
左手 35㎜マシンガン…巨人の公開時の物と同じ
右腕 34式光波剣
左腕 34式光波防御器
両肩 33式両用誘導弾 20発
巨人
右手 35㎜マシンガン
右腕 34式光波剣
右腕 34式光波防御器
両肩 34式両用誘導弾 20発
内蔵 ???
ちなみに、両方ともサイコフレームを機体全体に装備されている。
「注意ですが、『巨人』の方は技量の差を考えて、新装備を装備しています」
認めたくない以前に技量には圧倒的差があるので、何も言えない。
「良いんですか?この装備俺だけが搭載しちゃって」
「性能的に上の機体と久しぶりに戦ってみたいと思ったしな。それにハンデとしてもいい?」
未熟な人が言ったらダサいセリフになるが、この人はそれだけの技量がある。
「それでは開始10秒前!」
島崎一尉の声とともに開始の合図へのカウントダウンが始まった。
「9…8…7…6…5…」
一瞬、目を閉じて思考を整理する。
一体勝てるのか?
負けるとしてもどんな負け方になる?
いや、そんなことはどうでもいい。
「4…3…2…1…」
今はただ!
「開始!」
全力をぶつけるだけだっ!
ついに始まった仁対アムロの模擬戦。
一方、山本家でも戦いが始まっていた。
「じゃあ、ちょっとみこはお手洗いって来るにぇ」
多分嘘だな。
恐らくアタシと星街さんとの一対一の状況を作り出すためだ。
「…ねぇエースちゃん」
仕掛けてきた!
「どうしました?星街さん」
「仁君のこと、まだ好き?」
画面を見ながらそう問う。
「…好きですよ」
「そうなんだ、私も好き」
この気持ちだけはアタシと星街さんで変わらないだろうな。
「白黒つけたいと思わない?」
「やっぱりそう来ましたか」
この展開は予想していたことだった。
「へぇ、それなら話が早いね」
「なんですか?何かで勝負しますか?」
「そうだね…互いに仁君の好きなところを挙げまくっていかない?」
中々、凄い条件を出してきたな。
「良いですよ、受けて立ちましょう」
それじゃあ、始めるか。
「まずは…カッコいいことかな」
こっちの作戦にかかってきたね、エースちゃん。
「防大の開校記念祭の時に守ってくれて、私が惚れたことにつながったしね」
仁君の好きなところならいくらでも思い浮かぶ。
まあ、エースちゃんが同じような事を得意にしてたら根競べになるが…
その時はその時だ
「じゃあ、次はアタシの番ですね」
さあ、どう来るか。
「アタシのトレーナーさんの好きなところは真面目なところですね」
「あ、私もそれ言おうと思ってた」
「すいませんね、先に言っちゃって」
ちょっと悔しい気持ちはあるが、取り合えず聞く。
「アタシを皐月とダービーに勝たせてくれた、あの真面目さ。誰でも惚れますよ」
実際、私も仁君がマネージャーだったらなあと思ったことがある。
あの真面目さは多くの人を支えられるだろう。
「次、星街さんの番ですよ」
「ああ、ごめん。それじゃ…」
彼女たちの戦いも始まったばかりだ。
後編である次回「学ぶこと学ばれること]に続きます