栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第二十九話 謹賀新年 その2

2035年1月1日 山本家

「Zzz…」

ペーネロペーとアリュゼウスの転移事案に摺りつぶされそうになった仁の年末年始。

正月休みに入った瞬間、仁が始めたのは『睡眠』だった。

上からの無茶な命令を逆算すると、年中には解析を始めないといけないため、えげつない残業時間とそれに伴う仕事量にプレスされて睡眠時間が取れなかったのである。

だが、普通の睡眠だけでこの疲れが治るわけがなかった。

それに気づいたのは年末年始休み二日目の31日だった。

仁は考えた。

その疲れ切って、1+1=3となってそうな頭で考えた。

そして出した答えは……

「ふあぁぁぁ…もう11時か」

もういっそのこと馬鹿みたいに長い時間睡眠することだった。

もう自堕落とか言うレベルでだ。

ちなみに昨日寝たのが9時なので14時間睡眠していることになる。

「いい加減、下降りるか…」

その時間には似つかわしくない寝間着で階段を降りる。

「おはよう、仁」

「おはよう、母さん」

その後、昼兼朝食の雑煮を食べたあと、着替える。

「そういえば今年の初詣どうするの?」

「今年はなぁ〜これから新年会の幹事をやらなくちゃならなくなったんだよな〜〜」

「私も自治会の新年会があってね〜」

ってなると暇なのは俺だけか

どうしたもんかと思っていた時

プルルル

スマホが鳴った。

発信相手はすいちゃんだった。

「どうしました?」

「仁君、今日予定空いてる?」

「空いてますけど、なにか困りごとですか?」

「困りごとってほどでもないんだけど、一緒に初詣行ってくれない?」

「いいですけど、みこさんはどうしたんです?」

「今日昼から配信で行けないんだ〜、だからお願い!」

ここまでお願いされたら、行かないわけには行かない。

ということで俺とすいちゃんの二人で行くことになった。

一先ず、朝食を食べた後身支度をして玄関で待つことにした。

「ごめん、待った?」

「いや、全然。じゃあ行くか」

 

 

 

正直嬉しかった。

仁君が私と一緒に初詣に出てくれて。

だけど、この鈍感さんは気づいてくれない。

いつになったら、気づくんだろうか。

そんなことを思いながら歩いていると、いつの間にか神社についていた。

「出店もある程度出てるな」

「ね。さすがにお祭りほどじゃないけどね」

「なんか食べたいものとかある?」

「う~ん、いや、さっき朝ごはん食べたばっかりだしないかな」

「俺もないですし、お参り済ませてきましょうか」

その出店の通りをまっすぐ進んでいる中、なんだか視線を感じた。

なんか最近あるんだよね、視線感じるとき。

そんな一抹の不安を感じながら、参拝の列に並んで、ついに私たちの番が来た。

仁君とのご縁がありますようにと、五円玉を投げ入れて、二礼二拍手を行う。

仁君との恋路がうまくいきますように~~

そんなことを願い、一礼する。

「一体何願いました?」

「え〜秘密〜」

流石に本人の前で言えるわけがないので隠す。

「あと何かしま…あっ、おみくじ」

「まだ時間もあるし、引いて行こっか」

寒い手を擦りながら、おみくじを売ってる社務所まで歩く。

また鋭い視線を感じた。

本当になんだろうかこれは。

そんな謎に少し恐怖を感じながら、おみくじを引く。

「「あっ、大吉」」

そんな二人の声が、小さくも神社に響く。

「珍しいですね。同時に同じ運勢を引くなんて始めてみましたよ」

そう若い巫女さんが言う。

見てみると、おみくじの箱はかなり大きく作られており、簡単には同じくじは引けなさそうだ。

「偶然ですね」

「そうだね!今年はなにかいいことがあるかも!」

少しテンションが上がり、上機嫌な声で答える。

ちなみに、一番気になっていた恋愛のところは

「積極的攻勢二出ルベキ」

と書かれていた。

やっぱり、この鈍感さんには攻勢一択だよね〜

そんなことを思いながら、帰路へつく仁と星街。

「仁君、今日家来る?」

「いいんですか?」

「お正月は配信控えめだし、誰か話し相手が欲しいしさ」

「…………」

一人の影がその二人をつけていると知らずに。

 

 

 

まさかすいちゃんと同じ運勢を引くとはな。

少し驚きと推しと同じ運勢を引けた嬉しさを受けながら、帰り道を歩く。

……なんかいやな気配を感じるな。

そんな物々しい気配を感じながら、嬉しそうなすいちゃんと歩く仁。

だが、その裏では臨戦体制を整える仁であった。

 

 

 

仁とすいちゃんが初詣に行ってる頃、エースはどうしていたかというと

「あ〜〜何も考えられねぇ」

エースは風邪をひいていた。

「大丈夫ですかエースさん」

同室のパーマーが心配しながら看病している。

「ありがとうな、パーマー」

「いえ、前に風邪ひいたときお世話になりましたし、お返しですよ」

だが、そんな状態のエースにも懸念事項があった。

それが、初詣での星街さんとトレーナーさんとの関係進展だった。

前回はあたしがいたから関係進展を阻止できた面もあっただろうし、より心配なのだ。

一体、どうしたらいいのだろう。

ぼーっとする頭で考えるエース。

その問を見慣れた天井に投げかけるも、答えは返ってこない。

当然だ、これはあたし自身が解決すべき問題なのだから。

そんなことをフワフワと思いながら、目を閉じる。

恋のレースの行方と恋敵の安全を思いながら。

だが、その思いの片方は虚しく打ち砕かれることになるのをまだ知らない。

 

 

 

同日 夜 山本家

「なあ、すいちゃん」

そろそろ帰る時間に鳴ってきた時に話す。

「どうしたの?仁君」

「ちょっと今から修羅場になるぞ?」

その発言に瞳孔が開くすいちゃん。

「い、一体どうしたの仁君」

「実はな…」

そう言うと、すいちゃんが耳をこっちに向ける。

そして、俺が10秒程度で理由を話す。

俺が話し終わると、すいちゃんは少し困惑を隠せない顔で、話す。

「ほ、本当なの?」

「多分」

「じゃあ、隠れとく」

そうしてすいちゃんは奥のクローゼットへと隠れた。

 

ガララ

そんな音が隣の部屋から聞こえた。

来たか。

不穏な静けさと緊張が場を支配する。

取り敢えず鍵を掛けてるし大丈夫なはず。

そう心で言って、安心させる。

キィィ

甲高い音を立てて、ドアが開く音がする。

その音により一層緊張は高まる。

大丈夫、鍵はかけてある

トン トン トン 

足音がこちらに近づいてくる。

トン トン

そして部屋の前で足音が止まる。

ゴクリ

つばを飲み込み、気持ちを少しでも落ち着かせる。

がちゃ がちゃ がちゃ

3回、ドアノブが回された。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

暫くの間静寂が続く

諦めたか?

そう思ったときだった。

ガチャ

!!?

ばかな!鍵は掛けてるはず!

その時、はっと思い出した。

昔動画で見た鍵をがかかっていても、開けれる悪用厳禁な方法。

それを使いやがったのか!

その思考をしているうちに、ドアは3分の1くらい開かれていた。

まずい!!

急いですいちゃんの前に立つ。

そしてドアが完全に開かれる。

「やっと会えたね、すいちゃん」

 

 

 

昔の俺には何にもなかった。

みんなにバカにされ、友達だっていない。

そんな時に出会ったのが星街すいせい、彼女だった。

彼女の歌、話、表情、全てに魅了された。

そして、彼女は俺にすべてをくれた。

生きる理由、生きがい、全てだ。

そんな彼女に俺は会いたくなった。

徹底的に情報の後をつけ、ついに彼女の住んでいるところが判明した。

俺はその場所に行った。

そこで俺は衝撃を受けた。

しかも、家に招くまでする男までいる環境だった。

信じられなかった。

だからこそ、この作戦を実行した。

あの男を取り除かねば。

そうやって、寒空の中で家に侵入しついにここまで来た。

鍵がかかってるみたいだが、こんなのチョチョイのちょい。

そして俺は鍵を開けてこう言った。

「やっと会えたね、すいちゃん」

 

 

 

その戦いは相手の突撃から始まった。

ドンッ、と鈍い音が部屋に響く。

そのまま俺は床に押し倒される。

なんとか受け身を取ったのでダメージは軽減できたが、このままだと身動きが取れない。

「あれっ!すいちゃんは!?」

やはり相手はすいちゃん狙いのストーカーのようだ。

「貴様!すいちゃんをどこにやった!!」

相手が怒りに任せて拳をフルスイングで投げてくる。

ここはカウンターといこう。

拳を真正面から掴み、思いっきり捻る。

「痛だだだだだ!!」

こうなればあとは簡単。

自衛隊で習った護身術を見せてやる。

「ふっっっ!!」

「痛ででででででで!!」

そのまま立場を入れ替え、相手の手を抑え込む。

「降参か?」

「こ、降参だ、降参!」

こうしてすいちゃんの一大危機は去ったのだった。

 

 

 

正直、音だけで緊迫した状況が伝わってくるのはかなり怖かった。

でも、仁君が守ってくれるっていう安心感もあって、大丈夫だと信じれた。

そしてそれは、確信へと変わった。

「降参か?」

「こ、降参だ、降参!」

この言葉と同時に私はクローゼットの扉を開けた。

一瞬、眼が光でくらんだが私の前には結果が写っていた。

「すいちゃん。取り敢えずこの人から話を聞いてみよう」

そういう仁君の下には知らない男の人が取り押さえられていた。

「う、うん。一先ずその人を放してあげて。苦しそう」

その後、私達はその人から色々事情を聞いた。

なんでこんな行為に走ったのか、いままでどんなことをしてきたのか。

そして、仁君と話した結果警察に引き渡すことにした。

彼はさり際にこんなことを呟いた。

「なるほど、勝てないわけだ」

 

 

 

走り去っていくパトカーを俺達はただ眺めていた。

「…終わりましたね」

その声はアスファルトに染み込んでいく。

「じゃあ、自分はこれで帰るので」

そう言って去ろうとしたときだった。

「ま、待って!!」

すいちゃんに呼び止められた。

「今日はありがとう、私のことを守ってくれて」

「いえ、こちらこそ迷惑かけてしまいました」

「そんなことない!」

その声に身が震える。

「普通の人じゃ絶対にできないことを仁君はやってくれた!!こんなの感謝しきれないよ!」

その言葉はオレの心に深く刺さった。

自分は人を守ることができたんだなという自信と、生きがいというものを感じる事になった。

「……ありがとう…ございます…!」

気づかぬ間に俺は涙を落としていた。

「っつ!ごめん!強く言い過ぎた!?」

「い、いえ、いえ、あんまりにも嬉しくてっ」

その後、10分ほど泣き続けた。

「落ち着いた?」

「は、はい、なんとか」

「あの〜それでさっきの話の続きなんだけど」

少し恥ずかしそうな感じで話すすいちゃん。

「今回のお礼に……駅前の新しい店行かない?」

お出かけのお誘いだった。

「いいですよ」

「じゃあ、いつ行くか決めようか!」

星空は二人を優しく照らしていた。

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