栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第三十一話 大阪杯

2035年3月19日 トレセン学園

いよいよ今年のシニア戦線が始まろうとしている、3月中旬。

俺とエースはウッドチップコースで試走をしていた。

「ペース落ちてる!上げてけ!」

「分かった!」

ウッドチップコースを走るエース。

アニメだとダスカが喰らってたウッドチップだが、今回は一人なので大丈夫...な、はず

まあ、そうなったらそうなったらだ。

そんなことを思いながら、タイムを計測していると走りきったエースが帰ってきた。

「どうだ?タイムは?」

息を整えながら、歩いてくるエース。

「少しづつ良くなってる。これなら大阪杯も狙えるだろう。でも、シニア故の不安もあるな」

「ん?どんなだ?」

「まずはレース能力の低下だな。それに疲労骨折とかも危惧しなきゃいけない」

その他色々あるが、考慮しなきゃいけないのはこの二つ。

「だから、比較的早めにドリームトロフィーリーグに移籍するんだろ?」

そう、俺らの戦術は言えば勝ち逃げだ。

普通の場合、ウマ娘は最大で6年ほどトゥインクルシリーズを走るが、俺達は4年半で引退する。

G1 10勝という目標を早めに達成してそれ以上の欲を出さずに移籍するというのが戦略。

「まあ、場合によっちゃ変えるけどそんな感じだな」

エースに答えつつ、片手でタブレットを操作する仁。

「一応、これが今年の出走予定」

「ふむふむ、春天以外の王道中距離G1と有マを走る感じだな」

正直かなりキツイ、特に秋はG1を短期間3勝するスケジュールだ。

「結構、過密スケジュールだな」

「だが、エースの適正的にこれがG1 10勝するうえでの俺が出した最適解だ」

「で、その第一歩が大阪杯ってわけか」

「ある意味では、受難の一歩とも言えるがな」

その発言とは裏腹に、ニィッと笑って見せるエース。

「それをやって見せてこそ反逆のエース、だろ?」

エースも言うようになったな。

「それでこのあとは何するんだ?」

ぐいっと顔を近づけ、話しかけてくるエース。

何故か最近は男友達のような距離感で接してくる。

「この後はスタミナトレーニングだが…なんか近くないか?」

「そうか?皆こんなもんだぞ?」

そうなのか?

まあ、エースがそう言うんならそうだろう。

そんなことを思いながら、機材を片付けてプールへの移動準備を始める。

「エースも移動しておけよ〜」

「は〜い」

その後、スタミナトレーニングをやった後にその日は終了となった。

 

 

 

同日の夜 トレセン学園 栗東寮

その日の夜もパーマーとエースは作戦会議をしていた。

「それでどうですか?作戦の進捗の方は?」

「うまくいってはいるんだけど〜アタシをあんまりにも信用しすぎてるのが裏目に出てる」

「というと?」

「アタシの言ってることを何でも信じるから、気持ちには気づいてない感じなんだよ」

彼女たちの作戦はこうだ。

トレーナーとの距離を異常に詰めることで、好意に気づかせる作戦だ。

だが、そこは鈍感トレーナーの本領発揮。

エースに対する全幅の信頼によって、ただの距離感の話になっている。

「一体、どうすれば気づくんだろうなぁ」

「もういっそのこと、好きだって直接言えばいいんじゃないですか?」

「さっ、流石にそれは…」

顔を背けながら、恥ずかしいのをなんとか隠そうとするエース。

「ま、これは流石に無しですね」

「な、なんだよ、びっくりした…」

その反応を見てパーマーは

「エースさんって所々で乙女ですよね」

と揶揄される。

「女の子には誰でも乙女になりたい時位あるだろ」

そう頬を膨らませて不満げにするエース。

「まあ、私にもありますしお互い様ですけどね」

彼女たちの夜は続く。

逃げ切れるのは果たして彼女なのか。

 

 

 

同日 星街家

「時間も時間だし、そろそろ切るね。」

「わかりました。それではいい夢を」

「は〜い、じゃあね〜」

ピコン

通話を切って、天井を見上げるすいちゃん。

「はぁ〜ここまでやってもか〜」

ここのところ夜間の通話回数は2日に1回のペースになっている。

こんなに頻繁に通話するのは恋人ぐらいなものだが、仁君は一切気づく様子がない。

「やっぱり、仁君にとっては私は絡みの多い知人ぐらいの感覚なのかな」

そう思うと、なんだか両目の端が歪んでくる。

やっぱり、好きな人に意識されてないっていうのは悲しいな…

「もう、直接好きって言う他ないのかな」

だけど、そんなことできるのはよほど心臓が強い人だろう。

私がしたら、心臓バックバクで破裂するんじゃないかな。

「どうしよ…」

その時の彼女の顔は誰も知らない。

ただ窓から照らす月と星を除いては。

 

 

 

2035年4月1日 大阪杯当日 阪神レース場

中山や東京などの近場のレース場はトレセンからでも十分行けるが、阪神や京都は違う。

圧倒的に距離があるため、前日には現地入りしなければならない。

また、各地方のウマ娘が中央で戦う時も同様のことが起こる。

そのため、レース場内にはトレーナー・レースウマ娘専用簡易宿泊施設が備えられている。

仁は自衛隊の宿舎使えばと思うかもしれないが、トレーナーとしての仕事なので流石に使えない。

ピピピピ

「うぅぅ…もう6時か」

仮眠用のベットから体を起こす仁。

身支度を整え、部屋をあとにする。

部屋は地下バ道に隣接し、直接ターフに出れる。

「朝は多少冷えるな…」

そう思いながら、地下バ道を歩いているともう一つの足音が聞こえてくる。

足音はちょうど後ろから聞こえてくる。

一瞬の緊張がはしる。

だが、その緊張は一瞬でとけることになる。

「トレーナーさん!」

聞き慣れた声とともに両腕が横から現れて、捕まえられる。

「早いな、エース」

エースがハグしてくるのは珍しいな。

まあ、これもおふざけの一環だろう。

「体調はどうだ?」

ハグを解き、隣を歩き出すエース。

「万全だ!今にも走り出したい気分だ!」

「そうか、じゃあ早速走るか?」

そう話していると、地下バ道から地上に出て来ていた。

「昨日の夜現地入りだったからコースはあんま見なかったけど、こんな感じなんだな」

「改めて見ると想定と違うところとかあるな」

朝日が登る阪神レース場を歩く。

「俺達阪神来るのは初めてだからな。全く未知の戦いになるぞ」

「でも、やってやるさ。だろ?」

口角を僅かに上げ、こちらを見る。

「ああ。全力を出してこい」

その言葉とともにレースの時の表情になる。

「じゃあ、軽く流してくる」

そう言ってコースを走り始めるエース。

その勢いにはどこか強い意志と闘志が付いているように思えた。

 

 

 

「さあ!いよいよ始まるにぇ!シニア戦線開幕戦!大阪杯!」

・まってたぜぇ!この時をよぉ!

・なんか特別ゲストって言ってたけど、誰が来るんだろう。

「早速だけど特別ゲストを紹介するにぇ!」

黒に覆われていたシルエットが変わり、見慣れた水色の髪が現れる。

「ということで、今回の特別ゲストは〜」

「は〜い、彗星のごとく現れたスターの原石!アイドルVtuberの星街すいせいです!」

「すいちゃんは〜」

・今日もかわいい〜

・今日もかわいい〜

・今日もかわいい〜

「というわけで、同郷でビジネスフレンドのすいちゃんに来てもらいました〜」

・おぉ〜

・すいちゃんレース知ってるの?

「みこちと同じくエースちゃんとトレーナーさんと知り合いだからね。ある程度知ってるよ」

・いつの間にか二人とも二冠ウマ娘と知り合いに…

・それで推す子は誰にするの?

「もちろん…」

「決まってるにぇ!」

二人が息を合わせ、同時に口を開く。

「「二冠ウマ娘!カツラギエース!」にぇ!」

 

 

 

今回の大阪杯での戦法は大逃げだ。

理由としては主に二つ。

1つ目は距離。

今回の距離は2000m。

レース場は違うが、距離だけ見るなら皐月賞と同じ条件。

そして最終直線の長さも同様に短いため、差を思いっきりつける大逃げを選択した。

2つ目は未知のレース場であること。

阪神レース場は今まで走ったことのない未知のコース。

そのため、今できる最善の策を実行した。

「策は打った。後は神のみぞ知る、か…」

関係者席でコースを見ながら、そう呟く。

その様子はどこか不安げでありながら、自信もあるように見える。

「やってやるさ、だろ?」

その言葉が心のなかで反響する。

「そうだよな…」

勝つ気概を持ってなきゃ、勝てる戦いも勝てやしない。

ファンファーレが気持ちにけりをつけるように鳴り、ゲート入りが始まる。

「さあ、いよいよ始まります!シニア戦線緒戦、大阪杯!」

解説役の気持ちの良い声が会場全体に響き渡る。

何であれ、これが俺達の第一歩だ。

「全バゲートに入り…」

走れ、エース。

ガシャン!

「スタートしました!」

俺達を頂点へ導いてくれ!

 

 

 

「スタートしたにぇ!」

「見た感じ、全員悪くない滑り出しだね」

・出遅れもなし、一先ず条件はイーブン

・エースはどの戦法取るんだろう

「エースちゃんは…お!大逃げにぇ!」

画面には群を抜いて加速するエースが映る。

「今回の大逃げって、なんか理由あるのかな?」

「多分、皐月賞の経験からにぇ。条件も近いし、直線も同じくらいだから」

見事に人の考えを当てるみこち。

・さあ、このまま逃げ切れるのか!

「みんな!推しのことを信じて応援するにぇ!」

ここでも戦いは続く。

残り1400。

 

 

 

菊花賞以来の久々のレース。

菊花賞の敗戦もあって、怖くなかったのかといえば嘘になる。

だけど、あのトレーナーさんの

「ああ。全力を出してこい」

という言葉で何をすればいいのかっていうのが分かった。

アタシはただ最善を尽くせばいい。

それで恐怖が消え去った気がする。

集団から大きく差をつけて走るエース。

その差は8バ身に達しようとしていた。

残り800。

 

 

 

同日 山本家

「エースちゃんかなり頑張ってるわね」

「そうだな。ここまでの大逃げは前の世界でも見たことがない」

テレビを見ながら、そう語らう二人。

「でも、こんなに逃げて体力持つの?」

「流石にそこはなにか考えてあるだろう」

実を言うと、スタミナで押し切る作戦であまり中盤の作戦は考えてない。

「さあ、第四コーナーを抜けて最終直線!」

エースの道を塞ぐものは現れるのだろうか。

残り350。

 

 

 

ウォォォォォォォ!!

場面が最終直線に移ると同時に会場が一気に揺れる。

比喩じゃなく、本当に。

この世界のレース人気は前世界の比ではなく、尋常じゃない声援が飛び交う。

「行け!エース!」

「差せ!ワスカ!」

そう声援が聞こえる中、、俺はこう叫んだ。

「誰よりも速いウマ娘になれ!エース!」

何万という観衆の声援にそれは消えてしまったかもしれない。

だが、その言葉が伝わったように更に加速するエース

「ドゥービンワスカ迫る!だがしかし!先頭は依然カツラギエース!他の追随を許さない!」

残り100となっても、差がどんどん開いていく。

「強い!強い!カツラギエース!そのままゴールイン!」

「やはり二冠バは強かった〜!!」

 

 

 

「本ッ当に強いねエースちゃんは」

「そりゃ、二冠馬だしにぇ」

戦友(恋敵)の勝利に一安心するすいちゃん。

・次のレースが今から楽しみ

・やっぱ春シニア三冠狙うのかな?

春シニア三冠。

大阪杯、天皇賞(春)、宝塚記念の3つのレースをまとめてそう呼ぶ。

前の世界でもあったものだ。

「いや〜でも春天は狙わないんじゃないかなぁにぇ。菊花賞で負けちゃったし」

・一体何目指してるんだろうか

「何なんだろうね〜」

彼女たちの考察は深みを増す。

もっとも、それはレースに限ったことではないのだが。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

全力を出し切って走れた。

レース後のアタシの頭に残ってるのはそれだけだった。

横を見ると二着になったドゥービンワスカが同じように肩で息をしていた。

彼女はアタシの同期で、去年にはG1のエリザベス女王杯を制した強豪の一人だ。

「カ、カツラギエース!」

息も切れ切れながら、話しかけてくる。

「もっと強くなって、あなたの前に立ってやるから覚悟なさい!」

その発言で以前にトレセンで話したことを思い出す。

 

「カツラギエース! 」

「なんだなんだって…どうしたんだ?」

畑の手入れをトレーナーさんと行っていると、ワスカが後ろから話しかけてきた。

何故か土まみれの状態で。

「さっき農道で転んじゃって…ってそんなことより」

おっちょこちょいだなぁと思いつつ話を聞く。

「今度の大阪杯。あなたも出るんでしょ?」

「あぁ、それがどうしたんだ?」

すると、ピッとアタシを指さして

「いくら二冠バって言われてるらしいけど、あなたの前に立ってやるから!」

そういきなり宣言してきた。

その発言に戸惑いながらも返答する。

「え、えと、つまり宣戦布告ってことでいいか?」

「そう!そういうこと!」

その発言に納得したアタシは一呼吸おいた後に、発言する。

「いいぜ、その挑戦受けてやる」

「本当!じゃあ」

「ただな」

会話に急ブレーキとプレッシャーを掛ける

「こっちだって、ただ負けるつもりはない」

それに対抗するようにプレッシャーを強くして

「ふん!そっちこそね!」

そうしばらく睨み合っていると

「お〜い、エース!こっち終わったぞ!」

向こうの方からトレーナーさんの声が聞こえてきた

「分かった!今行く!」

そう返事した後

「それじゃ、レースでな!」

そうやって去ったときに

「やってやるわ…」

と聞こえた気がした。

 

「ちょっと!聞いてるの?」

「あ、あぁ!聞いてる、聞いてる」

思い出していたら、いつの間にか集中していたようだ。

「とにかく!私はあなたに勝つ!」

その宣言に強く答えるように言う

「おう!いつでもかかってこい!」

会話が一段落したところで、トレーナーさんがやってきた。

「やったな!エース!」

ハイタッチと同時に手をガッチリ掴む。

「やってみせたぜ!トレーナーさん!」

そのままウィナーズサークルに向かった。

 

 

 

「復活だね、あの子」

「例外としての可能性は依然としてありますね」

「まあね。今後も注視しますか」

その後も、0と1の交信は続いた。

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