栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第三十四話 理解

2035年6月9日 

今日は土曜日。

仕事は基本休みで、自由なことができる日。

いわゆる休日というやつだが、いかんせんやることがない。

トレーナーさんは今週から宝塚記念の打ち合わせで忙しそうだったから、今日は休んでてほしい。

パーマーはギャルたちと一緒に買い物に行った。

だから本当にやることがなく、アタシはベットから天井を見つめていた。

「………」

今日の朝の畑いじりは特に問題なかったし、買いたい物もない…

「自主練でもするか」

今までG1を3勝してきたが、だからといって次も勝てる確証はない。

そんなことを思いつつ、私服からジャージに着替える。

 

まず向かったのはトレーニングルームだ。

数々のウマ娘用トレーニング器具が揃えられた室内では様々なウマ娘がトレーニングをしていた。

その中にはワスカも700kgのバーベルを上げていた。

「あら、エース。あなたも自主練?」

「あぁ。トレーナーさんが居ないしやることもないからな」

すると、いいチャンスを見つけたようにキラキラと目を開いて

「ならアタシと筋上げ勝負しなさい!」

「えぇ…いいけどよ」

「あなたのなんだかんだ了承してくれるところ、好きよ」

横にあるもう一つのバーベルを持ち上げ、肩に乗せる。

「それで、ルールは?」

「どっちが長く持ち上げられるかで勝負よ!」

まあ、やってやるか。

「それじゃ、行くわよ!よ〜い」

「ドン!」

5分後…

「ぜぇ…はぁ…」

息が上がってるワスカを横目に、自販機で購入した水を飲むエース。

ボトルを口から離し、キャップを締める。

「あたしは260秒でワスカが250秒。あたしの勝ちだな」

「む〜〜、次は絶対勝ってやるんだから!」

不服そうに頬を膨らませるワスカ。

この負けず嫌いはリスペクトしないとな。

その後は昼までワスカとトレーニング室で競い合った。

昼食後…

あたしは外出届を提出し、外へ走り込みに行った。

外出届を出した理由はちょっと遠くへ行くためだ。

念の為、スマホとICカードを持って行く。

寮の門を出て、ジョギングを始める。

なぜ走らないのかというと、通常の道ではウマ娘が全速で走るのは禁止されている。

そのためにウマ娘専用道まで整備さているレベルだ。

少しジョギングすると大通りに出た。

この大通り、トレセンの真横にあるのだが学園がでかすぎて少し歩かないといけない。

だが、大通りに出ればウマ娘専用道があるので全速を出せる。

走っているウマ娘が居ないことを確認して、専用道に侵入する。

さて、ちょっと全力出すか。

「はぁっ!」

レースのラストスパートを想定して加速する。

やっぱ、全速力で走るのっていいな。

あたしがレースで走る理由ってのは勝ちたいっていうのもあるがこの気持ちよさもある。

風が肌を通り抜けていく感覚。

大地を蹴り上げて、飛ぶように走る。

顔を伝う汗の冷たさ。

この瞬間が続いてくれればいいと思うことさえある。

だけど、どんなものにも終わりは来るものだ。

体力の限界が来て、いずれ止まってしまう。

そして、今回もそれが来たようだ。

他のウマ娘の邪魔にならないように、歩道に出て一旦休憩する。

「はぁ、はぁ、はぁ」

体感3分ぐらいか?

てことは3kmぐらい走ってきたのか。

まだまだ見慣れた景色が続く大通り。

次は速さと持久力を良質することを意識して走ってみるか。

そうして、再び走り出すエース。

「ホッ、ホッ、ホッ」

前よりもスピードを落として(それでも人の全力疾走よりも速いが)走る。

そして走り続けて、1時間ほど経っただろうか。

「…どこだここ」

いつの間にかかなり遠くまで来ていたようだ。

一応、ここが横浜であることは標識で分かるが横浜の何処かがわからない。

というか、一周回ってここ見覚えあるような…。

その時、後ろから声をかけられた。

「あれ?エースちゃん?」

 

 

あ〜暑い〜〜

そんなことを思いながら近所のスーパーへ買い出しに行って、帰っていた時だった。

ん?あれは…

歩道に、見覚えのある赤い髪飾りがキョロキョロしているのが見えた。

「あれ?エースちゃん?」

「え!?星街さん!?」

後ろから声をかけられたエースちゃんは驚いた様子で振り向いた。

「久しぶり!元気してた?」

「元気ですけど…どうしてここに?」

「え、だってここ家の近くだもん」

すると、すべてが繋がったような顔をして

「あぁ!そういうことだったのか!」

ポンと手を叩いた。

「なんか見覚えあると思ってたんですよ」

「なんか納得したようだけど、どうしたの?」

「いやぁ〜、自主練で走ってたらいつの間にかここまで…」

トレセンからここまで30kmぐらいあるんだけど。

ウマ娘の行動範囲ってやっぱりすごいな。

「星街さんはどうしてここに?」

「私は見ての通り買い出しだよ」

両手に持っている買い物袋を上げて、そう言う。

「それにしても、ここで会うとはね」

「なので帰り方がわからなくて…最寄り駅わかります?」

流石に走って帰るつもりはないようだ。

「分かるよ、案内しようか?」

「え、いいんですか?」

「この袋そこまでの重さじゃないし、私もエースちゃんと話したいからね」

そう言って、私はエースちゃんと話し始めた。

「最近、レースの方はどう?」

「順調ですね。宝塚記念の準備も出来てきてます」

最初はレースの話から始まって

「そういえば、私と話す時ってテレビとかで話す時と違うけどどうして?」

「なんか緊張しちゃうんですよね〜、色々あると思いますけど」

「ふ〜ん、じゃあさこれからは素の状態で喋るようにしてみない?」

「いいんですか?」

「私とエースちゃんは別に敬語使うような間柄じゃないでしょ?それに…」

「それに?」

「…ライバルが敬語ってのも嫌じゃん」

その言葉に一瞬固まるエース。

その後も会話は続き、最終的に

「本ッ当にトレーナーさんって鈍感ですよね!」

「分かるっ!」

「好きじゃない人にあんな凝ったチョコ渡さないだろ!」

「そうそう!『愛を込めて』って書いてわからないってどうなってんの!?」

仁君の鈍感さについて語り合っていた。

と、語り合っているといつの間にか最寄り駅の前についていた。

「ありがとう。色々話してくれて」

「別にいいよ。仁君のことについても話し合えたし」

「それじゃ、また!」

そう言って、改札を通りホームへ入っていった。

 

同日 夜 星街家

まさか、エースちゃんと会うとはなぁ。

そんなことを思いながら、配信の機材を片付ける。

それにしても、向こうも頑張ってるんだなぁ。

どうにか仁君を振り向かせようと色々創意工夫をしてるし、同じように悩んでる。

そう思うと、なにか別の感情が生まれてくる。

あの子も報われてほしい、という感情が。

でも、これは戦いなんだ。

勝者と敗者が必ず誕生するものなんだ。

そう割り切りながら、布団に入ってスマホをつける。

そして、仁君に通話をかける。

「もしもし、仁君。今日も通話していい?」

その抑える感情の行く末はまだ誰も知らない。

 

 

 

同日 夜 トレセン学園 栗東寮

「へぇ、横浜まで行って恋敵に会ったと」

「そう!ちょっと走りすぎちゃってな〜」

そう話す二人はエースとパーマー。

「それでどうしたんですか?」

「近場の駅まで案内してもらった。その道中で話が盛り上がってさ。楽しかったな〜」

話しながら、ベットに寝転がるエース。

そう話す一方でこうも思っていた。

ライバルも頑張ってるんだし、あたしも頑張らないとな。

でも、相手の頑張りも報われてほしいと思ってしまうところもある。

その気持ちが偶然一致していたことは誰も知らない。

この一致がどのような変化をもたらすのか。

 

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