栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第三十八話 可能性の戦い

2035年8月19日 トレセン学園夏合宿寮沿岸の浅瀬

「各種数値は問題なし…と」

曇り空と雨の下に広がる蒼の絨毯。

そこに足を沈める一機の機体。

35式人型機動機”明星”

そのテストが今行われていた。

「といっても、なんとも言えん試験だなぁ」

今回のテスト内容は「海水域における運用試験」。

防水処理や防塩処理のテストであり、簡単に言えば海とか川で運用できるかの試験だ。

「また歩き回るか」

そう言って、操縦桿とペダルを操作して機体を動かす。

歩く振動がコックピットにも伝わってくる。

35式では居住性の改善も大規模に行われた。

空調も付いたし、長期作戦用の小物入れだって付いた。

でも一番大きいのはショックバランサーの改良だ。

ショックバランサーは機体の衝撃を緩和する装置で、車で言うショックアブソーバーだ。

”巨人”や”不屈”にも付いてはいたが、初期型ゆえに性能がいささか足りなかった。

だが、”明星”では改良型が搭載されており、かなり機動に関する不快感がなくなった。

「技術の進化ってすげーなぁ」

そんなふうに独り言を呟いていると

「全部聞こえてますよ」

通信員の声が入った。

「教えてくれよ〜、まあいいけど。データの方は?」

「今回取る分のデータは取り終えましたし、試験終了でいいんじゃないですか」

「じゃあ、終わりにするか」

今日も何事もなく終わる。

そう思っていたときだった。

「待ってください…JADGEから通報!?」

JADGEは空自の指揮システムだ。

そこからの通報となると、相当な緊急事態だ。

「…!二尉!今すぐそこから逃げてください!!」

ただならぬ声に反応し、バリアを展開しながら、沿岸に全速後退する。

そして後退しきった数秒後だった。

瞬間、その場から音が消えた。

いや、正確にはあまりにも大きすぎる音が場を支配していたのだ。

それと同時に爆発と衝撃が一気に押し寄せる。

ショックバランサー越しでも、分かるほど重い爆発だ。

巻き込まれたものは居ないかと、後ろを見るが特に市街地に損害はなかった。

市街地では、様子を見に家から飛び出すものもいた。

「一体何が起きてやがる!」

「JADGEによると弾道ミサイルによる攻撃のようです!」

弾道ミサイルだと!?

一体どこから打ってきやがった!

「うちの部隊を総動員してトレセン含めた避難誘導に当たれ!第二撃があるかもしれない!」

「わ、わかりました!」

一先ず、住民の避難は部下に任せて、俺は警備に当たる。

そう決めた直後だった。

突然、通信からザーザーとノイズが流れ始めた。

よりによって故障か!?

すると、途端に回線が回復しこう呼ばれた

「よっと、お邪魔するよ〜」

軽い口調と飄々とした声。

この声に聞き覚えがあった。

「弾道ミサイルを打ち込むとはどういう了見だ!!主任!!

嵐のような怒号で主任に話す。

「まあまあ、そんなに怒んないの〜」

「てめぇのせいで、危うく民間人に被害が出るところだったんだぞ!!」

「1回落ち着くことが求められると思います。山本仁二尉」

主任のオペレーターのキャロりんがそう告げる。

「お前らの攻撃に比べれば大したことじゃねえ!」

「ありゃりゃ、完全に頭に血が上っちゃてるよ」

「でも始めるのでしょう?」

「まあね〜。それじゃ行こうか」

その言葉とともに、海中から機体(ハングドマン)が現れる。

「本気でやろうか!!そっちのほうが面白いしさぁ!!」

 

 

 

「あ〜暇だなぁ」

「暇だねぇ」

人がまばらに見える、トレセン夏合宿寮の廊下の一角。

椅子に座りながら、すいちゃんとエースは話していた。

外が雨でできる練習も少なく、トレーナーさんも居ず、授業も終わり、二人は本当に暇なのだ。

「そう言えば、すいちゃんは野菜食べられるようになったのか?」

「え!すいちゃんわかんない!すいちゃんわかんないな〜〜」

すっとぼけるすいちゃん。

「…好き嫌い多いと色々苦労するぞ〜」

「大丈夫。野菜以外なら結構食べられるから」

なんだかんだ楽しく話す二人。

この瞬間がずっと続くと思っていた、その時だった。

耳をつんざくような爆発音が入ってきた。

それと同時に、建物全体が大きく揺れる。

「い、一体何だ!!」

エースが立ち上がってそう叫ぶ。

「とりあえず、外見よう!外!」

困惑と混乱の渦の中で、窓へ走る二人。

その透明な枠に写っていた真実は恐ろしいものだった。

近くの海岸に煙の柱と大きなクレーターが出来ていた。

あんなに大きなものは普通じゃとても起こせない。

となると、考えられるのはもう一つだけ。

攻撃。

非日常が日常に入り込んできた。

 

 

 

ガラスの先の煙柱の後ろには、巨大なロボットが立っていた。

多分、仁君のやつだろう。

そして時間にして数秒立った頃だろうか。

海岸からもう一機、新しいロボットが上がってきた。

あのロボットには見覚えがある。

一年前にニュースで見た、伊豆事件のやつだ。

一体、何が起こってるの。

そう呆然としていると、放送が入った。

「緊急事態!!緊急事態!!各自、自衛隊の指示に従って避難してください!!」

混乱しきった声で話す放送委員。

「おい!君たちも早く避難してくれ!」

後ろを見ると、自衛隊員が避難誘導をしていた。

「急ごう!!エースちゃん!!」

「は、はい!」

ただ今は、生き残れ。

 

 

 

それにしてもどうする?

後ろは市街地。それにトレセンの夏合宿寮まである。

下手したら数千人が被害に遭う、悍ましい自体になりかねない。

相手の武装は射撃武器主体で、流れ弾が当たったら…

…やるしかないか。

左手のシールドを構えて、右手のシールドをブレード状に展開する。

それと同時に、ハングドマンは両手のライフルを構える。

「今だ!!」

最大出力で左手のシールドを広範囲に展開し、スラスターを一気に吹かし突撃する。

「突っ込んできたぁ!!突っ込んできたぁ!!」

まるで歓喜するような声でこっちに射撃する主任。

そして近づき、シールドバッシュのように突き飛ばす。

周りのシールド部分がハングドマンの腕や武器に触れ、溶解する。

これで両手の武器は封じた!!

次はこいつを安全なところに持っていく!

シールドを解除し、思いっきりタックルし主任を突き飛ばす。

そしてスラスターを上に吹かし、方向転換しながら後ろに回る。

ハングドマンの肩武器を両方ともパルスブレードで溶断し、ハングドマンを羽交い締めにする。

辺りは溶解した金属が飛び散って火山のようであったが、それでも武器を撃たれるよりはマシだ。

そして全力でスラスターを吹かし、機体を安全な山の方へ飛ばす。

今日はなんのイベントもなかったはずだから、大丈夫なはず!

数十秒の飛行の後、ハングドマンを山の中の平地へ投げ捨て、自分も着地する。

「ここまでだな!主任!」

着地と同時に展開した両手ブレードで斬りかかり、X字状にダメージを与える。

力尽きたように廃墟により掛かる主任。

「……前も思ったけど、やるもんじゃないね、キャラじゃないことは」

明らかに劣勢な状況、だが主任の声は笑っていた。

「どういうことだ」

「つまり、こういうこと!!」

するとハングドマンは突然スラスターを吹かし、道化師のように廃墟の上に飛び乗る。

廃墟はコンクリート製…!まさか

その予想は当たっていた。

ハングドマンは右手を廃墟に突き刺し、柱を強引に引っ張り出す。

「くそっ!規格外兵器(オーバードウェポン)かよ!!」

「正っ解!!アハッハッハッハ!!」

テンションが最高潮に達し、おかしな笑いを始める主任。

「これだから面白いんだ!人間ってやつは!!」

踊りは続く。

 

 

 

避難を始めて数分立っただろうか。

あたしたちは合宿所を挟んだ、戦場とは反対側の浜に集まっていた。

ここが避難場所になっているようだ。

トレセン生徒以外にも、周辺に住む人達の姿も見える。

「皆さん落ち着いて!落ち着いてください!」

自衛隊員の叫ぶような声がメガホンを通じて耳に入る。

みんな混乱してるな。

この状況じゃ仕方ないか。

そう思いながら、あたりを見回す。

どうやら戦場は浜から山に移ったようで、山から重い音が聞こえる。

「無事で居てくれよ、トレーナーさん」

祈るという戦い。

 

 

 

「狂ってやがる、お前らは!!」

「狂っててナンボ!!やってやろうじゃないの!!」

スラスターの光が周りの木々を倒し、木々に引火する。

「ギャハハハハハハ!!」

マスブレード(オーバードウェポン)を薙ぎ払うように振り回す。

「うおおおおおお!!!!」

ほぼ反射のような反応でギリギリで避ける。

鉄筋コンクリートの塊なんて喰らっちまったらひとたまりもない!!

「クソっ、仕方ない!!」

右のパネルでビームライフルの出力を最小まで落とし、マスブレードを狙撃する。

ビームの光跡が鉄筋コンクリートを貫き、地面までをも溶かす。

「最大火力ですり潰す!!」

空中からファンネルミサイル、ビームライフルの照準をあわせる。

「薙ぎ払え!!」

その瞬間、機体から大量の光が打ち上がった。

その航跡はすべてハングドマンへ向かっていく。

戦いの終わり。

 

 

 

混乱もだんだんと落ち着いてきた頃。

「橋塚三尉!トレセン生徒、教員、全員の安全確認が取れました!」

「周辺住民は?」

「確認はしているのですが、名簿がない分難しく…」

「市役所に名簿を送ってもらえ!今は集まってる人を優先だ!」

戦っている仁君に代わり、指揮を取っているシービーのトレーナーさん。

なんとか立て直し出来たと思った、その時だった。

戦場になっていた山の上に、大きな火の玉が出来上がった。

それはもう太陽かと勘違いしてしまうような。

その太陽を背にこちらに向かってくるものがあった。

「あれって…」

その影は仁君の機体だった。

「…!…!…!」

いつの間にか、私の目からはポロポロと大粒の涙が溢れていた。

「良かった…!良かった…!」

私は膝を着き、顔を抑えて泣き出した。

仁君が、仁君が生きててよかった……!!

歪む視界で、エースちゃんを見るとエースちゃんも目を抑えて泣いていた。

あぁ、やっぱりこういうところは同じなんだなぁ。

そう思っていると、ドシン、という音が近くでした。

泣き腫らした顔を上げると、仁君のロボットが砂浜に着地していた。

胸の上部が跳ね上がり、中から仁君が出てくる。

行かなきゃ。

そう本能的に感じた。

気づくとエースちゃんといっしょに走っていた。

「仁君!!」「トレーナーさん!!」

 

 

 

な、なんとか勝てた。

そうコックピットから出ながら思った。

しかし、本当に目的が知れないな。

つい数分前のことを回想する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

俺は持ちうるすべての火力をぶつけた。

これで倒れてなかったら、相打ち覚悟の近接戦に持ち込むしかない。

それに備えて、ブレードとシールドを展開して構える。

爆炎が晴れて、その下に現れたのは大破した主任の機体だった。

もうこれで自爆以外の攻撃はできないだろう。

そう思った瞬間だった。

「ーーーそうだ!!それでいい!!ーー」

ノイズ混じりで主任の声が入ってきた。

「!?」

「ーーお前が戦い続ける限り、可能性を証明できる!!ーー」

何を言ってるんだこいつは。

「ーー最高だ!!貴様ら!!!ーーー」

それで回線は途切れた。

その場には、黒煙と一機の機体がただ佇んでいた。

まるでまだこの戦いは続くというように、黒煙は立ち上っていた。

 

「今の状況はどうだ」

「トレセンの人員は全員確認が取れました!」

「周辺住民は?」

「名簿が手に入ったので、今現在確認しています!」

「一刻も早く全員の現状確認に努めろ!」

「はっ!」

「それと消防署と空自に連絡して消火を頼んでくれ!山火事に繋がる可能性がある!」

「了解しました!」

一先ずの報告と指示が済んだ時、この声が耳に入ってきた。

「仁君!」「トレーナーさん!」

その声の方向を向いた瞬間、俺は強い衝撃を胸に感じて砂浜に倒れた。

な、なんだ!?

下を向くと、水色の髪と赤い髪飾りの付いた黒髪のウマ耳が目に入った。

「す、すいちゃん?それにエースも…」

「良かった、ヒック、生きてて良かった、ヒック」

「あたしを、ヒック、置いていかないでくれて、ヒック、良かった、ヒック」

俺の胸に顔を埋めて泣く二人。

周りの部下たちは困惑していたが、俺はただ二人を受け入れることしかできなかった。

 

10分後…

「二人とも落ち着いたか?」

「うん、ありがとう仁君」

「ありがとうな、トレーナーさん」

二人とも落ち着いたようだ。

でも、なんで泣いてたのかはイマイチわからない。

なんでなんだろうなぁ。

そう思いながら、二人を帰す。

さぁて、楽しい楽しい地獄の事後処理の始まりだ。

道を走っていく消防車と、海で水を汲むCH-47J(チヌーク)を見ながらそう覚悟するのだった。

 

 

 

2035年8月29日 東京 防衛省

日本の防衛の頭脳である防衛省。

その防衛省では現在、先日の戦闘事案に対する会合が行われていた。

今回の会議のメンバーは以下の通り。

・防衛大臣

・統合幕僚長

・統合作戦司令官

・戦略幕僚長

・陸上幕僚長

・陸自東部方面隊司令官

・航空幕僚長

・海上幕僚長

・山本 仁二尉

・橋塚 直人三尉

錚々たる面子が揃う中、会議が始まった。

「まずは今回の説明を頼む。仁二尉」

「はっ。2035年8月19日午後3時39分、小笠原諸島付近から飛翔体が発射され、伊豆半島に着弾。」

人の報告を淡々と聞く全員。

さすがは日本のトップ達。

「……以上が今回の事件の全容です」

「ご苦労。座ってくれ」

「はっ」

そう言われて、座る俺。

「今回の事案、なぜ事前に探知できなかった?」

「前年から調査はしているが、一向に尻尾を掴めん」

「飛翔体の迎撃はなぜ出来なかった!!」

「その時間はレーダーの切り替えが行われていた。流石に探知できん」

白熱する論争。

置いてかれる俺達。

結局、その日は防空網の強化と海上部隊の強化で結果はついた。

 

 

 

小笠原諸島近海 

海上、海中で自衛隊が痕跡を探している頃。

「負けちゃうよね〜あれは」

「やはり彼の可能性には凄まじいものがありますね」

「こっちも色々強化していかないとね〜計画の方はどう?」

「開発番号1,2番は開発が終わった。いつでも実戦に出せる。3番は艦載機の製造がまだだ」

「だ、そうですが、主任。いつ出ますか?」

「う〜ん、準備をもっと万全にしたいから期間開けようか」

彼らの話は続く。

彼らが求めるものは何なのだろうか。

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