栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第四十一話 ジャパンカップ

2035年11月8日 トレセン学園

脅威の結果を残した天皇賞(秋)から約二週間。

俺達の視線は次のG1、ジャパンカップに向いていた。

俺は今まで以上にトレーニングを真剣に考えていた。

なにせ、今回のジャパンカップ、史実では三冠馬二頭が揃うレースだったのだから。

この世界では三冠バはシンボリルドルフのみとなっているが、それでも手強いことに変わりない。

今回、ワスカは出走を回避し、シービーは史実通り出る。

日本勢は三人の少数精鋭で勝利を狙う。

そして忘れてはいけないのが海外勢の出走。

ここが前の世界と大きく違う。

今回のジャパンカップは、米、英、仏、伊、豪、(ニュージーランド)、独、(サウジアラビア)、印が招待されている。

まずアメリカで、遠征は二人。

一人はBCターフの優勝バであるフリーダム。

二人目はBCフィリー&メアターフ優勝バのインフィニット。

次にイギリスは三人。

英クラシック三冠バのドレッドノート。

続いて英オークス優勝バのブリリアント。

最後にインターナショナルステークス優勝バのヴァリアント。

フランスは二人。

凱旋門賞優勝バのトネール。

仏トリプルティアラのル・テメレール。

イタリアは一人で、イタリア二冠バのサルデーニャ。

オーストラリアは二人。

コックスプレート、TABチャンピオンステークス優勝バのホバート。

オーストラリアンダービー優勝バのシドニー。

ニュージーランドは一人で、ニュージーランドSとニュージーランドダービー優勝バのムーン。

ドイツも一人で二冠バのザクセン。

サウジアラビアは二人。

ネオムターフカップ優勝バのヒッティーン。

同レース三着のバドル。

インドは一人でインド二冠バのヴィクラント。

ここまで見れば分かると思うが、15人中14人がG1を勝っているという強豪揃い。

これは歴代ジャパンカップの中でも異例の事態である。

しかも、ちょうど芝2400mを勝っている子が集結している。

そのため、ジャパンカップ用にトレーニングを見直していた。

「トレーナーさん、入るぜ」

そうやって一人で予定を組んでいたところ、エースが入ってきた。

「やぁ、エース。今トレーニング予定を組んでたんだが、意見をもらいたいんだ。いいか?」

「おう!いいぜ」

マジで時間がない為、本人にも参加してもらって最適なトレーニングを作る。

「やっぱスタミナとスピード中心か?」

「中距離で一番長い距離だしな。なおかつ逃げ系ってなるとこの二つに絞られる」

今まで散々続けてきたトレーニングだが、この二つがないとレース走れないのでこうなる。

「今回の戦術はどうするんだ?」

「俺の世界では大逃げだったが…ダービーと同じで行く」

「逃げと大逃げの中間か。それまたどうして」

「久々の戦術で驚かせるっていうのもあるけど、勝った経験がある走り方だからな」

「ほ〜ん、あたしはいいと思うぜ」

本人の賛同も得られたところで、一旦キーボードから手を離す。

「なぁ、エース」

「ん?どうしたんだ?」

「エースは一体何のために走るんだ?」

「そりゃあ、反逆をなすためだろ?」

「どんな感じで?」

そう言うと、顎に手を当て考え出すエース。

「う〜ん、今思うとあんまり考えたことなかったな」

「まあ、人の理由なんてものはそれぞれだし、大丈夫だと思うがな」

「でも、見つけたい感じもするんだがな」

一瞬の静寂が通り過ぎる。

「何にせよ今回のジャパンカップ、全力で走ろう」

「あぁ!やってやるぜ!」

時間は過ぎていく。

誰にでも平等に。

 

 

 

「それじゃ、See you have a nice day!!乙ま〜ち!」

そう言って、配信を切る。

それと同時にスマホを操作し、仁君との通話を始める。

「仁く〜ん、配信終わったよ〜」

「お疲れ様、すいちゃん」

「そっちは調子どう?」

「ジャパンカップに向けた練習を練ってます。なんとか順調ですよ」

「そうなんだ。良かった!」

もはや習慣と化した仁君との通話。

これも私が配信する上での支えになっていた。

「今度のジャパンカップ。相当な強豪たちが集まってるね」

「ブリーダーズカップに凱旋門賞、三冠バと相当な連中が揃ってますよ」

「でも、エースちゃんはそれに負けない子なんでしょ?」

「えぇ。6冠バの意地、見せてやりますよ」

自身を持っている様子の仁君。

だけど、少しだけその自己犠牲グセが出ているのではないかと心配になる。

「ねぇ、仁君」

「どうしました?」

「本当のところはどうなの?」

「………」

一瞬の静寂の後に、再び携帯が震える。

「…まぁ不安、ですね」

「やっぱりね」

「分かってたんですか?」

「仁君、いつも自分の気持ちを押し殺してるの知ってるんだからね」

「はは、気をつけないとですね」

本人は軽く流しているが、これは深刻な問題だ。

自分の気持ちを押し殺していると、いずれ暴走してしまうかもしれない。

「本当に気をつけてね。ストレスは溜めないのが一番なんだから」

なんだかんだ話は続く。

彼、彼女らが”例外”という事実を抱えながら。

 

 

 

2035年11月25日 ジャパンカップ当日 東京レース場

世界が注目するレースの一つとなったジャパンカップ当日。

今このレース場に数々の強豪が集まっているという変な高揚感がある。

そんな早朝、エースと共に地下バ道から出てくるとすでに何人かターフに出ていた。

「早いな、皆」

「まあ海外勢にとっては未知の戦場だからな。事前偵察っていう感じなんだろう」

走るのは4回目となる東京レース場。

その長い直線は俺達の主戦場だ。

「Oh!カツラギエースですね!」

「「ん?」」

振り向くと、栗毛の長い髪をなびかせるウマ娘が立っていた。

「フリーダムか」

「あのBCターフ優勝した子か?」

「そうデス!私がフリーダムデス!」

某ガンダムと同じ名前で覚えやすいな。

「今回ノジャパンカップ、いい戦いにシマショウ!」

「まあ、よろしく頼みます」

「よろしく頼むぜ」

そう言って、手をそれぞれ出すと勢いよく二つとも掴んで、ブンブンと振った。

「アト、エースさん。モウ1つ」

「何だ?」

「ワタシがカチますから」

一気に目の色が変わり、真剣な表情になる。

それに鳥肌が立ってしまった。

「ジャア、ワタシはコレで」

「お、おう」

そう言って、ターフの様子を見に行っていった。

英雄、集結。

 

 

 

その後、あたし達は控室に戻った。

頭ン中にはいま2つのことが駆け巡っている。

1つはフリーダムの宣戦布告。

もう1つは前にトレーナーさんに言われた走る理由。

まずフリーダムの宣戦布告。

世界有数のレースを勝ったウマ娘からの発言は尋常じゃない。

こっちも全力で臨まないと”呑まれる”。

2つ目の走る理由。

こっちのほうが重大だ。

強豪たちが集まるレース界では目標を決めたほうがいい。

そうしないと多分これ以上強くなれない。

そう感覚でわかる。

そういう焦燥感であたしは落ち着きをなくしていた。

「エース」

「な、なんだトレーナーさん」

「少し落ち着け」

流石にチャカチャカ歩き回っていたら、焦ってるのがバレるか。

「無理に焦るな。かえって落ち着かなくなるぞ」

「悪りィ。ちょっと悩んでることがあって」

「そういう時は時の流れに身を任せるのが一番だ。無理に動くと余計糸が絡まるようにな」

「…そうか、そうだな!」

改めて思ってみると、あたしはせっかち過ぎたのかも知れない。

「今は勝つことだけを考えろ。いいな?」

あたしの両肩に手をおいて、そう言う。

「あぁ!やってやるぜ!」

ガチャ

「エースさん、そろそろです!」

スタッフが時間を告げ、いよいよ動き出すジャパンカップ。

栄冠は1つしかない。

 

 

 

 

「始まりました!世界中の強豪たちが集結する国際G1!ジャパンカップ!」

「この貴重な舞台にお集まり頂いた名優達を御覧いただきましょう!」

観客の視線が観客席の前に設置されたゲートに集まる。

「六冠バの意地を見せれるか!」

「一番人気!カツラギエース!!」

ワアアアアアアアア!!!!!

最近のエース人気は凄まじく、それはハイセイコーに匹敵するとまで言われている。

「続いて二番人気!BCターフの再現となるか!」

「アメリカ最強を見せつけろ!フリーダム!」

栗毛の耳が風に揺れる。

「三番人気!凱旋門賞制覇は伊達じゃない!」

「フランスの栄光!!トネール!」

品格のある勝負服を来た姿はまるで聖女。

「四番人気!再びエースを抜かせるか!!」

「稀代の演出家!ミスターシービー!」

その緑色の目が観客を魅了する。

「五番人気!三人の三冠バの一人!」

「皇帝!シンボリルドルフ!」

その威厳はどこまでも見通しているようだった。

その他優駿たちが勝利を狙う。

「東京第11R!ジャパンカップ!まもなく発送です!」

 

 

 

「いやぁ〜いよいよだねぇ〜」

・強豪揃いだね

「それでも私はエースちゃんの勝利を信じてるから」

・ファンの鑑

「お、最後の一人が入って…」

ガシャン!!

「スタートしました!!」

 

 

 

「全員いいスタートを切りました!!」

さて、どうしたものか。

レース前に決めた作戦を思い出す。

今回の作戦は差し。

理由としては比較的中距離として長い距離を走るから、スタミナを温存しておきたいため。

それがトレーナーの考えだった。

私もそれを承諾し、今走っている。

一番人気のカツラギエースは大逃げか。

なら、もっとスタミナを貯めるために少し下がるか。

この判断を後に反省することになる。

残り2000

 

 

 

「先頭カツラギエースから8馬身離れて、ザクセン、サルデーニャ、ホバートが競り合っています」

エースは大逃げカ。

ワタシの戦法はニホンデ言ウところの先行で、今は六番手。

これ以上離サレルトマズイ。

なら!

「フリーダム!加速し、ドレッドノートと競り合っている!!」

前に上ガって、末脚の基礎を作るのがgood!!

残り1600

 

 

 

アタシは今、最後方から二番目の位置にいる。

今までアタシはかなりの回数負けてきた。

エースに負けた回数なら多分誰にも負けないと思う。

何度もあの菊花賞の再現をしようとして負けてきた。

だけど!!

だけど!!

「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」

「ミスターシービー!!早仕掛けだ!耐えきれるのか!!」

アタシが!

勝つんだ!!

残り1200。

 

 

 

シービーが加速したか。

冷静な目でレースを見る仁。

だけど、コレで終わらねぇだろ!!

エース!!

残り800

 

 

 

「え!!まだ足が伸びるの!?」

・これなら…!!

・走れ!!エース!!

「行け!!エースちゃん!!」

・逃げ切れ!!!

彼らは応援する。

その力に魅せられて。

残り400。

 

 

 

「カツラギエース!!まだ伸びる!!伸びる!!」

あたしの前には何も障害がなかった。

只々、早く走る事ができた。

この瞬間で世界最大の幸福を味わえたんじゃないかとさえ思えた。

そして世界が加速していった。

「強い!!強い!!カツラギエース!!7冠達成!!!!」

まさしく最強。

 

 

 

走りきって、地面に倒れるエース。

「タイムは2分20秒0!天皇賞(秋)に続いてレコードです!!」

そんなことはどうでもいいので、急いでエースに駆け寄る。

「エース!!大丈夫か!!」

大の字に倒れながら話すエース。

「トレーナーさん」

「ど、どうした!エース!」

「見つかったよ。あたしの走る理由」

 

 

 

「か、体の調子は大丈夫なのか?」

「あぁ。大丈夫だ」

ターフに座りながら話すエース。

「それで、走る理由ってのは?」

「あぁ、それはな…」

「レースの常識をぶっ壊す、最速のウマ娘になる」

 

 

 

「あ〜あ。また負けちゃったよ」

そう天を仰ぎながら泣くしかないシービー。

「シービー」

「ん?どうしたの?トレーナー」

トレーナーに話しかけられた。

「有マに出よう」

「え?」

「エースに勝つんだ」

しばしの逡巡のあと、差し出された手を強く握る。

「勝とう、何としても」

「うん!」

彼らの決意は固く。

 

 

 

初の敗北。

なんとも言えない絶望にさらされる。

あぁ、コレが敗北の味か。

ルドルフは敗北の味を噛み締めていた。

そんなルドルフに晴斗が歩み寄り、

「よくやった…!!」

そう言って、共に去っていった。

皇帝は蘇るのか。

 

 

 

「……………」

フリーダムは只々、エースを見つめていた。

この国もいいかもな。

そう思い、彼女は地下バ道に降りていった。

夢は続く。

 

 

 

「本当にすごいねぇ〜彼女。ファンになっちゃいそうだよ」

「あまりふざけないでください」

「何〜もしかして嫉妬〜?」

「データ削除しますよ」

「ひい。こわいねぇ」

可能性を探る者たちの談義。

「それで次の試験はいつにするんだ」

「う〜ん、じゃあ日本以外の全世界行ってみようか」

彼らの行く末はどこなのか、それは彼らも知らない。

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