2036年1月1日 山本家
すいちゃんと一緒に年を越した後、俺は普通に家に戻った。
なんかすいちゃんは不服そうだったが、なんでだろう。
で、この後は例年通りに初詣み行く予定なのだが、今年は少し違う。
何故かエースとすいちゃんが一緒に行くことになっていた。
それに加えて、両親は3日間の旅行に行っており、家には俺しか居ない。
まあ、行くか。
そう思って家を出た。
横浜市 神社
「ひゃ〜すごい人だ」
今年は少し趣向を変えて、少し離れた大きな神社に初詣することにした。
「探すのは一苦労だな」
そう思いながら、事前に決めた場所に行く。
「ん?なんか人だかりが出来てるな」
しかも、なぜか集合場所に集まっている。
「まさか」
人混みをかき分け、鳥居の柱の前にたどり着いた。
「エースさんサインお願いします!!」
「すいちゃん!!コッチ向いて!!」
ざっと百人は集まっているであろう中心にはエースとすいちゃんの二人が居た。
二人は顔を埋めながら、なんとか対応していた。
今更ながら、俺は少し後悔をした。
二人はかなりの有名人。
そんなのが同時にいれば、注目を浴びることになるのは自明の理だ。
あぁ、馬鹿だな俺は。
だけど、このままにしておくわけにも行かない。
現に通行の邪魔になってそうだし。
「解散!!解散してください!!」
クソっ、埒が明かない。
多分、マトモな手段じゃ解散しないよな。
数秒の思考の後、あるアイデアが思い浮かんだ。
「…腹をくくるしかねえ!!」
一気にすいちゃんとエースに近づく。
「すいちゃん!エース!」
「仁君!」「トレーナーさん!」
「こっから退散するぞ!!」
後ろからは、「其処の人退いてくれ!!」、「独り占めするのか!!」と言われる。
「悪いが退いてくれ!!」
「何様だよ!!」
「帰れ!!」
そう罵声を言われる。
「気にすることはない、行くぞ」
そう言って、大衆の真ん中に道をこじ開けて行く。
罵声も段々と収まって言ったが、逆に視線の雨の応酬に変わっていった。
気にするな、気にするなと自分に言い聞かせながら進む。
そして人混みを抜け少し離れ、端の方に避難した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「じ、仁君大丈夫?」
「ひ、人の視線には慣れてると思ったんだけど、非難の視線はきつかったな」
一気に解放されたように、過呼吸になる。
「…ごめんな、トレーナーさん。あたし達のせいで」
「いや、あんな方法取ってしまった俺も悪い」
本当はトレーナーさんのことを考えずに誘ってしまった自分たちが悪いのに…
「私もごめん。仁君の事考えずに」
「俺が好きでやったんですよ。其処まで気にしなくたって…」
せめて、少しでもトレーナーさんを労ってあげたいたいけど…
そう考えていると、すいちゃんがチョイチョイとこっちに誘ってきた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと案なんだけど…」
一体、どんな事が起こるのか。
「あの子達、うまくやっているかしら」
箱根の温泉地で二人でくつろいでいる山本夫妻。
「ここまで仕立てたんだ。少しは進展あるだろう」
実は元々旅行する予定なんかなかった。
だが、鈍感過ぎる息子のためにみこちや同室のパーマーと共謀したのだ。
「まぁ、私達が居ないほうが気兼ねなく恋愛できるだろうし」
「私達にできることはした、後は天に任せるのみだな」
眼の前に広がる大自然は何も答えない。
波乱の初詣。
「お邪魔しま〜す」
「お邪魔します」
私達はあの後、早々に神社から退散し電車で横浜の住宅街に戻っていた。
そして向かった先は私の家こと、公営住宅。
最近になって引っ越そうかと考えてもいるが、いまいちいい物件が見当たらない。
そしてなんでここに来たかと言うと…
「寝正月して、気を取り直そう〜!」
もういっそ、あのことは忘れて遊び倒そうと思ったのだ。
「それにしても昨日ぶりですね」
「ん?昨日もすいちゃんの家に居たのか?」
「一緒に年越ししようって言われてな」
「ほ〜ん」
ジト目で怪しい反応をするエースちゃん。
「………………」
そのジト目でコッチを見てくる。
いや、別に何も進展しなかったんだって。
あんな恋人らしいことをした大晦日だったが、あの後謝られた。
「調子に乗りすぎてしまった、嫌だったろうに気づけなくてごめんなさい」って言われた。
一応、大丈夫だったし嬉しかったことも伝えたのだが、相変わらず気づく様子はない。
「それで、何して遊びます?」
「ん〜そうだね〜」
棚にしまってある、今まで配信してきたであろうゲームを見繕うすいちゃん。
「多人数で遊べるゲームタイトルってなると…これとかどう?」
そう言って、一本のゲームを抜き取る。
そのゲームタイトルは所謂パーティーゲームであり、結構有名なものだった。
「そう言えば、前にこの世界の配信者と一緒にやってましたね」
前に聞いたのだが、この世界に馴染めるようにコラボを積極的に行っているらしい。
「パーティーゲームか。あたしそんなにやったこと無いんだよな」
「寮ってなると私的に使えるスペースは限られるしな」
「じゃあ、色々教えながらやってくね」
それぞれの手にコントロラーを渡し、ゲームを起動する。
「う〜ん、どうするか」
「ここは博打に出てみてもいいんじゃないの?」
このゲームは会社の社長になって、会社の運営をしていく戦略要素が強いゲームらしい。
あたしはあんまりゲームしないので、こういうのも新鮮だ。
「でも、この契約一歩間違えれば倒産危機だぞ?」
あたしの頭をフル回転させて、どうにか判断する。
「ええい!当たるも八卦、当たらぬも八卦!」
そう言って、契約のボタンを押す。
「英断だな」
「さてさてどうなることやら〜♪」
期待する二人を横に、画面に集中するあたし。
するとイベントが起き……
『契約先が倒産!会社の7割の予算がパー!!』
「ぐあああああああ!!」
「完全にやらかしたな」
「こういうのを楽しむゲームなんだけどね、これ」
時間は過ぎていく
その後、昼食を忘れるほどに熱中し気がつけば、日が落ちようとしていた。
「時間が過ぎるの早すぎないか?」
「熱中って恐ろしいな」
「流石に世話になり過ぎたし、帰るか」
そう言って、立ち上がった時すいちゃんが切り出す。
「せっかくだし、三人で行かない?」
「ん?どうしたんだ急に」
「中々集まることないし、話したいと思ってね」
「ほ~ん。じゃ、行くか」
そう言って星街家を出た。
「なぁ、トレーナーさんって恋愛経験ってあるのか?」
「唐突すぎないか?」
「まあまあ、いいでしょ仁君」
「なんですいちゃんが…、ないな今まで」
その言葉を聞いたとき、アタシの耳がぴくッと動いたのを感じた。
「へぇ~、なんでだ?」
「いや、そんなことわからんよ」
「じゃあ、本当に『恋愛』ってものを知らないんだ」
二人で連携して、堀を埋める。
これを当面の目標としている。
「ってことは、仁君は今完全に空いてるんだ」
「仮にもアイドルがしていい発言じゃないと思うんですけど」
「いいじゃんか~トレーナーさん。アタシたちの仲だろ~」
そう言いながら、しれッと二人で距離を近づける。
逃がさない。
そう思いながら、駅への道を歩いていくのだった。