栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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第四十四話 連覇の夢

2036年4月5日 阪神レース場

色々あった正月はとっくのとうに過ぎ去り、気づけば春の初旬。

3月にはエースがトレセン学園の高校過程を修了し、大学へと歩を進めた。

大学に行くならレース出れないんじゃないかと思ったがそこは仕組みがしっかりしている。

トレセン学園は学校施設と競技者育成施設の2つの面を持っている。

なので、所属するウマ娘たちは学問に励みながら、レースに出るわけだが1つ問題がある。

それが「卒業」だ。

ウマ娘は長いと10年ほど走り続けるため、中学一年の頃から走り続けても余裕で超えてしまう。

その問題を解決するために、「在留制度」がトレセン学園にはある。

これはトレセン学園生徒としては卒業するものの、トレセン所属の競技者としては残る制度。

これによって、長期間ウマ娘が走り続けることが可能になる。

因みに、この制度を使ってる最長現役ウマ娘は13年も走っている。

二十歳超えても走ってるのか…

世の中色々あるもんだな。

もの思いにふけって、朝の阪神レース場を誰も居ない観客席から眺めていた。

「あと、二十分位で開場か…」

そろそろ行くか、と思っていると

「お〜い、トレーナーさ〜ん!!」

コースの方から、聞き慣れた明るく快活な声が響く。

声の方を向くと、エースが手を振っていた。

「おう、コースの感じはどうだ?」

観客席からコースの方に降りて、エースのもとに向かう。

「まあ、普通って感じだな。良くもなく悪くなく」

「今まで通り、って感じか」

今思うと、俺達が走ってきたレースって全部晴れだったな。

まあ、そんなこともあるか。

「ワスカの方はどうだ?」

ついさっきまでエースと並走していたワスカに目を向ける。

「上々ね。最高のコンディションで走れるわ」

腰に手をつきながら、そう話す。

彼女もこの春でトレセンを卒業した一人だ。

だが、まだエースと競いたいという理由で在留制度を使い、変わらず走っている。

「あと二十分で開場だ。そろそろ戻るぞ」

そう言って、地下バ道まで戻る。

「思えば、ワスカとの勝負が始まったのもこの大阪杯だったよな」

「そうね。もうあれから一年も経ったて思うとしみじみするわ」

「農作業中に勝負を仕掛けられたって聞いたから、あのときはびっくりしたな」

「あれもいい思い出だけどな」

そう話しながら、地下バ道を進み控室の所まで戻ってきた。

「じゃ、私は別の部屋だから」

「おう!レースでな!」

そう言って、彼女は控室に戻っていった。

 

 

 

朝の練習からだいぶたって、今はレース休みの昼。

アタシはトレーナーさんとレースに向けた最終確認をしていた。

「今回の作戦、あえて今までの戦略と真逆の方向で行くことになる」

トレーナーさんが真剣な表情で話し始める。

「あぁ、ワスカの力量の影響で、だろ?」

「アイツの力量はシニア期でもめきめき上がってる。それに何の対策も講じない訳にはいかない」

「勝てるのか‽」

「50:50ってところだな。未知の部分が多い」

一瞬、空気が重くなる。

この引退も近いタイミングでの新戦術。不安を抱えるのも当然だろう。

「だがな」

その空気を切り裂くように、話始めるトレーナーさん。

「俺はこのレースを勝てるって確信してる」

「なんでだ?」

当然の疑問を投げかける。

「去年も勝ったっていうのもあるが…一番は」

「一番は?」

「自分の愛バの勝利を疑うトレーナーなんていないだろ?」

その言葉に一瞬固まってしまう。

「はぁ~~」

「す、すまん、なんか言ってしまったか?」

「いや、なんでもない」

トレーナーさんってこういうこと顔を赤らめずに言うよな。

おかげで心臓がいつ爆発するか分からねぇ。

「そんなに信じてくれるなら、やるっきゃねぇな」

そう言って、立ち上がるあたし。

「着替えてくるぜ」

そういって控室内にある更衣室のドアを閉める。

「………」

ホント、してやられてばっかりだなアタシ。

でも、少しでもやり返してやるために勝たなきゃな。

そう思うエースであった。

 

 

 

「は~い!!彗星のごとく現れたスターの原石!!アイドルVtuber~~」

「星街すいせいです!!すいちゃんは~」

・今日も可愛い!!

・今日も可愛い!!

・今日も可愛い!!

「ということでエースちゃん応援配信していきたいと思います!!」

・遂に応援配信じゃなくなった

・タイトルにも応援配信じゃなくてエースちゃん応援配信って書いてあるし

「エースちゃんは時期的にもうそろそろ引退しちゃうだろうしね。推しは推していかないと」

・オタクの鑑

「じゃあ、今回のレース状況のおさらいしていこうか」

そう言って、3万人の視聴者とともに配信は続いていく。

 

 

 

「始まりました!連覇と逆転がかかったレース!!大阪杯!!」

阪神競馬場は雲がありつつの晴天で、春の陽気が心地いい。

「コースの上に咲く、十八の優駿たちを紹介しましょう!」

カメラが切り替わり、ゲート前に向かうウマ娘たちに焦点が合う。

「まずは外せない、黒毛のエース!その脚は未だ衰えず!!」

「一番人気!カツラギエース!」

慣らしで走るその姿ですら、もはや美しく見えるエース。

「続いて、二番人気!三冠バと菊花賞バでも勝てなかった相手に一矢報いん!!」

「ターフの女王!ドゥービンワスカ!!」

そのエースの後続を走る、不屈の女王。

他の16人のウマ娘も負けず劣らずなのだが、この二人は特に抜きんでている。

「春の開幕戦大阪杯!!まもなく発送です!!」

分かれた道、再び交わる。

 

 

 

「それにしても、まさか再戦するとはな」

俺は関係者席から、ゲートに入っていくエースとワスカを見る。

ワスカは有馬の後、ダート路線に移ると発表していた。

だが、3週間前に突如方針を転換し、大阪杯への出走を表明した。

一体彼女に何があったののだろうか。

その疑問を置き去りにして、彼女たちはゲートに入っていく。

「最後の一人が入り…」

「でも、後は祈るしかないか」

行け、エース

ガシャン!!

「スタートしました!!」

勝利に向けて!!

 

 

 

「エースちゃんは今回も大逃げか」

・前とおんなじ作戦で大丈夫なのかな

「ちょっと心配だけど、信じるしかないよ」

・どうしてそこまで?

「だってエースちゃんとトレーナーさんがしっかり考えた結果だよ?」

・だよなぁ

・なら俺らも信じるしかない!

「頑張れ~!!エースちゃん!」

信じる力

残り1400m

 

 

 

アタシはあの有マ記念の後、ダート路線に行くと宣言した。

だが、それは無理だと分かるのに時間は掛からなかった。

ダートのコースで計測したところ、昔に走っていた時よりも悪くなっていた。

完全に足が芝に慣れてしまっていたのだ。

ダートより芝の方が長く走っていたから、当然ではある。

そのことに私は絶望した。

活路を見出した路線が、使えなくなっていたとは。

だけど同時に少しだけわくわくした。

まだエースと走れるかもしれない。

あのレースで思いは断ち切ったつもりだったが、まだアタシには残っていた。

エースに勝ちたいという、情熱が。

だからこそ私は今ここにいる。

そして、エース。あなたに…

走る理由

残り700m

 

 

 

レースを走っている時に思ったことがある。

アタシはいくつものレースを駆け抜けてきた。

ダービー、ジャパンカップ、有マ…

その中で一番印象に残ってるレースがある。

初めて負けた菊花賞。

あの悔しさは今でも脳の裏を駆け巡っている。

だけど、あの悔しさがなければ、今アタシはここまで頑張ってないと思う。

敗北がアタシを強くしたのだ。

でも、負け続けるわけにはいかない。

負けそうになっても、負けることはアタシの性に合わないからだ。

そのことを胸に抱えながら、アタシは走る。

勝つということに手を伸ばしながら。

誰よりも速く。

残り400m

 

 

 

「残り400!ドゥ―ビンワスカ猛追!!カツラギエース逃げる!!」

やっぱりこの二人か!

逃げ切ってくれ!エース!

 

 

 

・このまま逃げれるか?!

「お願い!エースちゃん!!」

 

 

 

「だが王者には追いつけない!!」

「カツラギエース!!9冠達成!!」

歓声とともに、ゴ―ルを駆け抜けた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

やっぱり衰えてきてるな。

シニア級2年目ともなれば、実力も落ちてくるか。

でも、勝てるだけの実力はまだ残ってんな。

体勢を直しながら、右手を高くかざす。

連覇と9冠の景色

 

 

 

また負けちゃった。

結局、私はエースに追いつけないのだろう。

だけど、私は気づけたかもしれない。

競う楽しさというものを。

エースは次の宝塚で引退するけど、アタシはまだ走り続ける。

このトゥインクルシリーズを楽しむために。

 

 

 

「本当にすごいね〜あの子」

「この世界には「例外」が多すぎますね」

小笠原の深海で二人は喋る。

「俺たちの計画はどうなの?キャロリ〜ン」

「準備はすべて終わりました。あとは実行するだけです」

「ふ〜ん、じゃあ年末に実行しようか」

「?なぜですか?」

「そっちの方が面白そうじゃん」

「……相変わらず、よくわかりませんね」

決戦近し

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