2036年10月22日 東京湾基地
有終の美を飾った宝塚記念から4ヶ月。
今は年末にあるドリームトロフィーリーグのための調整をしている。
だが、今日は別件の仕事で東京湾基地に出勤している。
「いよいよ戦略機の完成間近って聞きましたけど」
地下にある組み立て場に向かう俺と島崎一尉。
「せや。トレセンの方の仕事が忙しくてあんま知らんと思うけど、大変やったで〜」
戦略機の開発には一応俺も関わっていたが、トレセンの方の仕事が大変すぎて印象に残ってない。
階段を降りた先にあるキーカード用の扉を開き、中に入る。
その中では技術者やエンジニアたちが慌ただしく動き回り、プロジェクトの大きさを伝える。
中心には今までの機体から一回り大きい機体が鎮座していた。
「やっぱり、今までの機体よりデカいですね」
「34式の2機が10m位で、コイツは18mあるからな。いろんな機能詰め込んでるし、しゃーない」
やっぱ戦略兵器となるとある程度デカくなるな。
そう思いながら機体を見つめていると、
「あ、山本二尉じゃないですか」
後ろから聞き慣れた声で話かけられた。
振り向くと、橋塚が技術者と思しき男ともに歩いてきていた。
一応、自衛隊の基地なので普段は同僚の橋塚も階級が上の俺にある程度気を使う。
「おう、お疲れやな。橋塚三尉」
「お疲れ様です。島崎一尉、山本二尉」
警備課の橋塚がなんでここにと思ったが、警備のためにもいるか、と納得した。
「今こちらの方を案内していました」
そう言われて、隣りにいた40代前半に見える男を見る。
「どうも、アブ・マーシュです。お久しぶりですね、山本二尉」
アブ・マーシュ。
彼は元いた世界でネクストACの設計をしていた男。
ネクストACは物によっては単機で巨大勢力と渡り合える機体。
戦略機の開発には喉から手が出るほど欲しい男だ。
相当優秀な男ということを判断して、防衛省が転移直後に即座にスカウトした。
因みに、彼はトレセン学園に転移してきたらしく、それを助けたのが橋塚らしいと聞いた。
「お久しぶりです。マーシュさん」
彼とは開発会議で何回か会っているが、今回会うのは三ヶ月前の会議以来だ。
「ご無沙汰です。マーシュさん」
俺と島崎一尉がともに挨拶する。
「開発の状況はどうですか?」
「極めて順調です。上半身のユニットは調整も終わり、下半身の再調整とオプション装備ですね」
オプション装備は2つあり、奇襲・強襲用の推力・火力強化ユニット。
もう一つは対集団用の防御・攻撃性能アップユニット。
二つは同時装備も可能であり、大軍団を奇襲・強襲し殲滅することも可能。
また、コレとは別に近接・射撃用の両腕のユニットも開発されている。
そちらのユニットは完全に腕を換装する形で装着される。
なのでいざというときの予備腕ともなる。
「本当に戦略兵器にふさわしい相貌になってきましたね」
「あとは微調整が終われば完成か」
「見た目は前作の焼き増しですけど、中身は別物ですよ」
兵器っていうのは広報や士気の観点からもかっこよさもある程度重要だしな。
マーシュさんの前作は特にかっこいいし、コレはこのままで良かったかも知れない。
「そういえばこの機体の名前は決まってるんです?」
「あぁ、この機体の名前は……」
そう言おうとしたときだった。
「山本二尉!!」
息を切らしながら、原田一尉が走ってきた。
「原田一尉!なんでここに」
「はぁ、はぁ、はぁ、こ、この、USBを………」
久しぶりにあった原田先輩が息を切らしながら、青色のUSBを渡してくる。
「このUSBは?」
「基地の、郵便受けに、入ってた、山本二尉宛に」
俺宛に?
「取り敢えず、受け取ってくれ」
一先ず受け取る。
表面には「S.Nより」
という文字が刻まれていた。
S.Nなんてイニシャルの知り合い居たかなぁ〜
そう思いながらUSBを見る。
「まずはウイルスチェックやな」
島崎一尉がそう言う。
「情報課に渡しますか」
そう言って、俺達は格納庫を去っていった。
同日昼
はぁ〜
大学に近いアパートを借りて、そこに住んでいるエース。
今日はトレーナーが基地に行ってるし、大学も休みなのでアパートで過ごしている。
昼飯も食っちまったし、どうするかな〜
そうなんてことなく思っていると、あることが思いつく。
…ちょっと考えでもするか。
恋のライバルであるすいちゃん。
一時休戦協定を結んでいるとは言え、まだ恋敵の状態だ。
だけど、それが崩れつつある。
大学生になってからそれなりに時間が出来たため、すいちゃんと関わる時間が増えた。
その結果アタシは知った。
あの人のあらゆることを。
いい所、だめな所、性格、クセ。
それを知るなかでアタシは思った。
あの人にも幸せになってほしい。
だけど、あの人にとっての幸せはアタシと同じ。
1つの座に二人が収まることは出来ない。
いったいどうしたら良いんだろう。
ちらりと窓を見ると、窓の奥から灰色の雲が顔を出していた。
雨は降る
誰がために
同日夜
「う〜ん」
配信が始まる前に私は悩んでいた。
休戦中の恋敵のエースちゃんのことだ。
エースちゃんとは恋敵でありながら、友達という体を取っている。
そのおかげで、交流する機会は多い。
その時感じたことがある。
この人も仁君のことちゃんと好きなんだなって。
ちゃんと幸せになってほしいと。
でも私とエースちゃんの幸せは一緒。
1つの幸せを取り合ってしまうことになる。
いったいどうしたら良いんだろう。
そう思っていると配信の時間が近づいてきた。
時間は過ぎる
悩みを置き去りにして
同日同時間 東京湾基地
「取り敢えずウイルスの危険とかはなさそうでした」
そういって情報課の隊員からUSBを渡される。
「そんじゃあ、中身見るか」
島崎一尉、真田二佐、俺で中身を見ることにした。
USBには1つの文書が入っており、その中身はこうだった。
やぁ、山本仁。
俺は主任だ。
二度に渡る戦闘でボコされた主任だよ。
前置きはここぐらいにして、本題に入ろう。
単刀直入に言おう。
2036年12月28日午後4時、北緯20度27分、東経140度38分
そこに来てくれ。
できるだけいい機体で。
決着をつけよう。
来なかった場合は、相応の報復をさせてもらう。
主任
「な、なん何だこれは」
「主任って言うとあいつよな?伊豆事件を起こした真犯人」
「となるとコレは挑戦状…」
場にピリ付いた空気が流れる。
「戦略機の完成を急がせなければですね」
「あぁ、下手に手を出したら大変なことになりそうだからな」
「取り敢えず、上に連絡だな」
その後、オンライン緊急会議が開かれ、夜遅くまで続いた。
「良かったのですか?あのような物を出して」
「流石に決戦の日時は知らせなくちゃね」
「私が失望した人類をもう一度試すのか」
電子世界で話す3人。
「でも、やってみる。そうなのでしょう?」
「だね。最後の証明だ」
「……………」
可能性の証明者
いかに動くか