2036年12月29日 東京湾基地
昨日の夜から東京湾基地と周辺の港湾、空港は絶え間なく動いていた。
タンカーが別の港へ移動し、空港から次々と航空機が離陸する。
そりゃそうだ。
我々は局所的紛争ではなく、首都が攻撃されそうな全面戦争の事態へと発展しているのだ。
時は昨日の夜中、レース場から即座に撤収し、東京湾基地へ戻ったときに戻る。
「仁二尉には申し訳ないが、事態は急を要する。ブリーフィングを始める」
基地司令が本来やるのだが、多忙で真田二佐が一時的に取り仕切っている。
近未来的なブリーフィングルームで、俺達は足元に表示される日本全域を見る。
「まず、午後6時53分。インターネット、テレビ、ラジオなど多数のメディアがジャックされた」
眼の前の電子画面に多数の写真や動画が貼られる。
そのどれもが財団のマークは貼られたものになっていた。
「「財団」を名乗る存在は日本を含む全世界に宣戦布告。その御蔭で全世界が大パニックだ」
まあ、当たり前だろうな。
謎の存在が宣戦布告してきてるんだ。
「それと同時刻に小笠原諸島近海にて、巨大なレーダー反応が出現」
「それを受けて、入間基地から偵察機RF-15DJが緊急発進、写真の撮影に成功した」
その写真に我々は目を疑った。
それは海に浮く「船」ではなく「島」だった。
その周りにも多数の艦船やACがいるのが分かる。
「この巨体にも関わらず、巡航速度は18ノット。このままだと40時間で東京に到達する」
残された時間は一日と半分か…
「午後8時18分、国会で防衛出動が承認されたが、我々の戦力だけではギリギリの戦いになる」
「だが、我々は運が良い」
下の地図が東京から小笠原諸島の地図に変わる。
「WMEの開催前日ともあって、世界中の軍事力がここに集まっている」
WME。
全世界軍事演習(worldwide military exercises)は2000年から4年おきに行われる軍事演習。
日本主導で行われており、かなり大規模な軍事演習だ。
参加する艦船は60隻以上、航空機は300機を超える。
全世界への宣戦布告ならそれらの国も参加してくれる。
「また、全国の基地から最低限の戦力を残して全戦力を展開する」
ヤツが東京湾に入れば首都圏3700万の命に危険が及ぶ。
未知の存在に対しては、全戦力でぶつかるしか無い。
「そして、いま急ピッチで修復をしている36式と開発が終わったSA-1も投入する」
おそらく、今日本が投入できる最大戦力か。
「ここまでが投入戦力の説明だ。これから作戦の説明をする」
「作戦は3フェーズに分かれる。ファーズ1は航空戦力による随伴機体と艦船の撃破」
「長距離空対空・艦隊空・空対艦ミサイルによるロングレンジ攻撃でできる限り数を減らす」
航空戦力は数が集まると尋常ではない戦闘能力を発揮する。
軍事演習前だったからこそできる作戦だな。
「フェーズ2は36式による防空網制圧、敵機破壊。コレで敵を丸腰にする」
多数対一の戦いを想定した36式にはお誂向きだ。
「フェーズ3は艦対艦ミサイルによる飽和攻撃だ。やつの攻撃能力を完全に奪う」
「その後はできるなら鹵獲、不可能なら艦砲射撃によって沈める」
おそらく戦後最大の軍事作戦になるな。
「以上が首都防衛作戦、「天羽々矢作戦」の全貌だ」
最終作戦
時は29日へ戻る。
地下ハンガーのところに向かう仁。
「もう両腕の換装作業が終わってる」
失われた両腕は肩だけ既存のままで、両腕はそれぞれ別のユニットに換装されている。
左腕は射撃ユニット、右腕は近接ユニットに換装している。
「対集団用のユニットが肩に干渉するからそのままなのか」
左手の射撃ユニットは指先がサイコガンダムのように、穴が空いている。
それに対して、右手の近接ユニットはルプスレクスの用に指先に金属製カバーがついてる。
「早いですね。換装作業」
「国家の存亡が関わってるんや、これくらいはする」
換装を指揮する島崎一尉。
対集団用のユニットもすでに取り付けられており、残りは奇襲・強襲用のユニットだけ。
「君には本当にすまないな」
「?何がです?」
「国家の存亡がかかってる戦いの一場面を君一人に託すのが、本当に申し訳ない」
「自衛隊に入った時から、死地に赴く覚悟はできてますよ」
一瞬の沈黙が二人の間を走る。
「俺達にできることは最善の整備をしてやることだけや」
島崎一尉が機体を見上げながら言う。
「頼むぞ、仁!」
「はい!」
決戦へ向かう者たち
同日トレセン学園
もし天羽々矢作戦が失敗し、最悪の状態が訪れた場合にも自衛隊は備える。
関東圏内には31、32、33、34師団と35、36旅団が展開。
また、SLISも最大可動状態で待機しており、最悪の場合対艦攻撃に用いる。
そんな総力戦体制の東京で、エースとすいちゃんはトレセン学園に居た。
近くの避難所がトレセン学園だったため、避難していたのだ。
「「…………」」
本当に自己犠牲がすごい人だな、トレーナーさんは。
冷たい廊下の床が、アタシを包む。
大勢の人の命のためなら、自分の命を投げ捨てれる人。
でも、その分自分を大事に出来ないひと。
「もっと自分を大事にしてくれ……」
泣きつかれて、掠れた小さな声でそう呟く。
少し前の方を見ると、すいちゃんも顔を膝に埋めていた。
「……グスッ……」
すいちゃんの横に移動し、話しかける。
「一緒に信じよう、信じるしか無い」
泣いていた私に話しかけてきたエースちゃん。
「…ありがとう」
「辛いのはお互い様だ。それに……」
「…それに?」
「好きな人にまだ思いも伝えられてないしな……」
横を向くと、泣き腫らしたエースちゃんの顔が見えた。
そして私はエースちゃんの肩に体を預けた。
少し落ち着いてきた、そのときだった。
携帯電話が鳴った。
「聞こえてるか?すいちゃん?エース?」
俺は電話をかけていた。
一本目は両親に。
二本目は晴斗に。
三本目は橋塚に。
そして最後にすいちゃんとエース。
おそらく、一緒に避難してるだろうと思ったため電話をかけた。
「仁君!?今どこに!?」
「東京湾基地。作戦のための最終準備中。エースもいるか?」
「う、うん。い「トレーナーさん!!」」
いきなりエースが大声で出てきたため、びっくりして携帯を耳から離してしまった。
「良かった、良かった、生きてて……」
「まだ出撃してないよ。これからだ」
そうしてエースが落ち着くまで少し待った後、俺は話し始めた。
「今回の作戦は財団vs世界。それでも勝率は50:50というところだ」
「その中で俺は艦隊に突撃する役目になった」
その言葉を二人は静かに聞いていた。
「俺は今回の作戦で帰れないかも知れない」
「お前ら、達者でな」
「ちょ、ちょっとま」
ピ
その音が静かに、鳴り響く。
さて行くか。
すいちゃんやエースに良い未来を見せてやるために。
2036年12月29日 洲埼灯台から南に100km
普段は平穏な海な太平洋。
だが今日に限っては違っていた。
日・米・英・仏・伊・独・波・西・泰・露・伯・沙・豪・新・尼・印・比の17カ国連合軍。
前代未聞の大連合軍が沖合に集結していた。
戦闘艦73隻と1181機の作戦機による戦後最大級の作戦、天羽々矢作戦。
戦闘指揮を取る統合作戦指揮官である、村正与一は防衛省地下の作戦室に居た。
衛星、偵察機、哨戒機、レーダーからの情報が統合され、前面のパネルに表示される。
今現在、東京から南に800kmの地点に敵艦隊は存在している。
俺の指示次第で、味方は勝利にも負けにも向かう。
それだけに、俺の責任は重い。
「戦自の36式はどうだ」
「5分前に東京湾基地を発進し、作戦準備空域に向かっています」
パイロットは以前会った二度の戦闘を経験した二尉であるという。
おそらく、日本で一番人型機動機が扱える男だ。
彼にしかこの任務はできないだろう。
「作戦、開始」
戦いが、始まる。