2037年1月1日 防衛省近くの病院
決戦は終わり、戦後処理に追われる新年。
その一室では最大の功労者が眠っていた。
カラカラと軽い音を立てて、その病室のドアが開かれる。
「仁く〜ん、って言ってもまだ起きてないか」
水色の髪が夕暮れに近づいてきた日に照らされ、半開きの窓からの風で揺れる。
「………………」
ベットの横にある椅子に座り、仁君の顔を見る。
その顔はどこか穏やかで落ち着いていた。
まるで死んでしまっているような……
「帰ってきてよ、仁君……」
過労で寝ているとはいえ、穏やか過ぎる顔には心配してしまう。
悲痛な声でそう呟く。
「私、まだ思いも伝えられていないのに……」
そう言いながら、泣きそうな目を手で覆う。
そうしていると、またカラカラと軽い音が部屋に響いた。
「……エースちゃんも来たんだ」
「…時間が出来てな」
そう言って、すいちゃと反対側に腰を下ろす。
「もう3日も寝てるのか…」
いつもより覇気のない声で話すエースちゃん。
「本当に心配になる顔だな…」
あたしが病室に入るとすいちゃんもいた。
すいちゃんも気持ちは一緒だろうな。
今まで散々トレーナーさんにはお世話になってきた。
トレーニングからお出かけ、メンタルケアまで。
そこまで尽くしてくれる人はきっと誰でも、好きになってしまう。
すいちゃんも自分を体を張って守ってくれたりしたって言ってた。
そんなに人のために頑張れる人だけど、自分を大事にできない。
あまりにも自己犠牲がすごい人。
「一生のお願いだ、トレーナーさん…」
トレーナーさんの手を握って必死に信じる。
「頼むから目覚めてくれ……」
信じる力
「ん......ここは?」
俺は気がつくと真っ白な脳量子波空間にいた。
「確か俺は戦いが終わった後、自動操縦に任せて......」
そう思い出していると、一つの声が割り込んできた。
「お前はいま過労で死にかけてる」
その聞き慣れた無機質な声の方向を見ると見たことのある光の球体が浮いていた。
「その声は「財団」か」
「お前は勝ったが、負けそうになってる。そういう状態だ」
そう不機嫌そうに話す財団。
「負けそうとは?」
「戦いには勝ったが、その後に死にそうになって勝ちが台無しになりそうってことだ」
一面が白い空間を冷徹な声が切り裂く。
「でも、結果的にはお前が勝てるんだから良いんじゃないか?」
「はぁ……本当にお前は鈍感だな」
よくわからないが、話を聞き続ける。
「お前の帰りを待ってる人がいるのに、殺したら後味悪いだろ」
「待ってる人……」
まあ、順当に考えて家族とか同僚のことだろう。
「お前は家族とか同僚を考えているな?」
「心の中を平然と読むな」
「お前の行動ととクセはよく観察させていた」
ヤバすぎるだろコイツ。
「お前のことを一番に思っている連中がいる」
「?だれだ?」
その他の心当たりとしてすいちゃんとエースが思い浮かんだ。
だが、彼奴等は俺なしでもやっていけるだろう。
「はぁ…………本当に気づいていないのかお前」
「いや、思いつかないな」
「星街すいせいとカツラギエースだ」
「え?」
彼奴等がそうなのか?
「本当にか?」
「もうどうせ生き返れはしないんだ。嘘をつく意味がない」
でも、元敵だ。
信じれる確証はない。
「なら今の状況見るか?」
そう言って、光の隣の空間に病室と思わしき風景が映し出される。
俺の横で二人が泣いている。
「……本当に、そうなのか?」
「なんども言ってるじゃないか」
俺のことをそんなに思ってくれてたとは知らずに接してた。
「二人の思いを無下にしてた俺は馬鹿だな……」
「そうだな、お前は馬鹿だ」
ひでぇなあ、本当に。
「それでお前はどうしたい」
多分、このまま逃げることもできるんだろう。
だが、このままじゃ気分が悪い。
「そんなの決まってるじゃねぇか」
その言葉を発した瞬間、視界が少しずつ白で狭まってくる。
「これは...一体?」
「お前が現実に戻るってことだ。ここはお前の国で言う三途の川って所だからな」
「あんたは?」
「俺はもう死んでる身だ。それに…」
「それに?」
少し間をおいて、声を発する。
「可能性を見せてもらったからな、人類の」
「ほ〜ん、丸くなったな」
「ふん、さぁさっさと行ってこい!!」
そう言って俺の視界は白に包まれた。
「…………」
少しだけ感情を出して、泣き切った後には沈黙が訪れた。
「…………」
それはエースちゃんも一緒なようで只々うつむいていた。
「.........何処かへいなくなってしまいそう」
そう呟いたときだった。
頭の上に何か温かいものが乗せられた。
「?」
視線を上げると、自分より一回り大きい手が乗せられていた。
エースちゃんも同じように乗せられた手を見ていた。
「仁…くん?」
ベットの上の方に目をやると仁君の目がパチリと開いていた。
「トレーナーさん!!」
椅子から勢いよく立ち上がり、仁君に話しかけるエースちゃん。
「ごめんな、エース、すいちゃん」
結論
目覚めたトレーナーさんは色々と話し始めた。
私たち二人との関わり合いは普通の関わり合いの範疇だとずっと思っていたこと。
その理由はトレーナーさん自身の恋愛経験の不足だと。
鈍感だった理由はこれか。
「だから二人の好意に気づくことが出来なかった」
その言葉に一瞬耳がピクンと動く。
「ちょ、ちょっと待って、誰からそのことを聞いたの?」
「ん?あぁ、脳量子波空間で財団から」
「あの人魂、なんでそんな事知ってるんだ」
至極当然の疑問を投げかける。
「どうやら俺についての情報を色々集めてたらしくてな…その一環で知ったらしい」
なんか気持ち悪いな。
そう思いつつ話は続く。
「話を戻して...本当に申し訳なかった」
トレーナーさんが深々と頭を下げる。
「そして、おれの覚悟を聞いてくれ」
「本当は俺も二人のことが好きだ。恋愛的な意味でな」
「でも、そんなこと思ってはいけないって、ずっと押し殺してた」
押し殺すのは喉の奥が焼け付くような思いだったが、なんとか思い出さないようにしてきた。
「でも、このことで俺の腹は決まった」
本当は心臓がバクバクして、今にも逃げ出したい気分だ。
でも、ここで断ったら俺が俺じゃなくなる気がした。
「あなたたちのことが大好きです。墓場までの道を一緒に歩いてくれませんか」
多分、流れた時間は数秒とかだろう。
でも、俺にとってはそれは数分にも数時間にも感じた。
「「墓場までと言わず、来世まで一緒に歩いてください!!」」
その返答と同時に二人は俺に抱きついた。
「…!…!」
その光景はその3人以外に見られることはなかった。
ただ、優しい日差しが3人を照らしていた。
ご愛読ありがとうございました!!
来年4月より続編を開始する予定なので、気長にお待ちください!!