栄主と歌姫と白閃と   作:イ―グル

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2026年2月21日 改稿


第八話 その名はエース

2033年11月10日

トレセン学園での勤務にも慣れて来て、はや4ヶ月。

仁はいつもと変わらずに業務をこなしていた。

ちなみに、部下が手伝ってくれることもあって、2倍の仕事量もなんとかやりくりできている。

「向こうも試作機製造まで行ったみたいだし、基地の方に行くかもしれんな」

一方でASAWP計画の進捗はというと。

大気圏内外両用戦略攻撃機は試作機がX-3として完成して、試験飛行を行っている。

空域制圧弾道ミサイルは、様々な欠陥から開発中止に追い込まれた。

ちなみに、チームの技術者は各チームに分配されている。

そして最後に、俺らの人型兵器はやっと試作機の製造にまでこぎつけ、来月までに完成する見込みである。

また、ヴェーダについてはレベル7の解析が完了し、第1段階として擬似太陽炉の設計をしている。

そんな事を考えながら仕事をしていると、内線が鳴った。

ジリリリリリ

ガチャ

「はい、山本二尉です」

「理事長だ!至急、理事長室へと来てほしい!」

「はい、わかりました」

「うむ、それでは待っているぞ!」

一体なんだろうと思いながら理事長室へと向かう。

コンコン

「山本二尉です」

「許可!!入り給え!」

ガチャ

扉を開けると「頼み!!」と書かれた扇子を広げた理事長とたづなさんがいた。

「忙しいときに来てもらって済まないな!」

「いえ、これも仕事ですので。それでここに呼び出した理由というのは」

「感謝!!呼び出した理由というのは、新しい任務についてだ」

「新しい任務?」

「あら?まだ聞いていないのですか?」

不思議そうな様子でたづなさんが尋ねる。

「はい、任務については特に何も」

「ではここで初発表となるな。それで君の新しい任務だが……」

 

「トレーナーになってもらう!!」

 

「へ?」

あまりにも衝撃的な発言に気の抜けた声が出てしまった。

「困惑するのも当然だろう!昨日今日で決まった話なのだからな!」

まじかよ、当事者無しで決まるとかヤバすぎだろ。

「まずは理由から説明しよう!昨今の自衛隊は地域に密着する形で任務を展開している!そしてここ、トレセン学園では現地の支援業務としてそちらからトレーナー業務の申し出があったのだ!」

一体、俺はどれだけ仕事を任せられるんだ。

「こちらとしても、トレーナーの母数が減っているのもあってこれは非常に助かる!よって、この要請を受諾した!」

まあ、人員不足の波ってのはどこにも波及してるものだろうからな。

「なにか質問はあるかっ!」

「えっと、まずその業務は今までの業務と並行して行うのでしょうか」

すると、若干申し訳なさそうな顔をしながら

「申し訳ない!同時並行で行ってもらうことになった!」

仕事量3倍やぞ、3倍!

どうしろってんだい!と、内心思っていた。

「ただ!そのカバーとして陸上自衛隊から10名ほど追加人員が送られてくることになった!」

まあ、それはシンプルにありがたい。

「それと、トレーナー試験なのですが、一体どうなるのでしょうか」

「無論、受けてもらうぞ!落ちた場合は他の隊員から再選抜することになる!」

「なるほど」

「あと、これは他の隊員にも受けてもらうぞ!」

っていうことは俺の部下もトレーナーになるかもしれないのか。

「要件は以上だ!!こちらこそ忙しいときに呼び出して済まなかった!頑張ってくれたまえ!」

バタン

話が終わり、自分の部屋へと戻っているときだった。

「はあ〜取り敢えず、勉強だな。試験日程も調べておかないと…」

「あっ!そこの人、避けてくれ!!」

声が聞こえた方向に目を向けると、積み上げられた段ボールが倒れてくるのが目に入って来た。

「え、うわぁ!!」

ガラガラガラガラ

突然の出来事に対応できずに直撃してしまった。

「イテテ……」

転倒したが、受け身を取って大事には至らなかった。

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫です……あ」

目を開けたその時だった

 

俺の推しがいた。

 

透き通った瑠璃色の目。

漆のように艶を持つ黒髪。

その髪と対になるような白いメンコ。

情熱的な赤色がトレードマークの髪飾り。

 

皇帝と演出家、海外勢をまとめて破り日本調教馬として初めてのJC(ジャパンカップ)勝利。

3冠の敗北を乗り越え、雪辱を果たしたその馬は……

 

カツラギエース

 

「おい、大丈夫か」

ハッと気付き、急いで返答する。

「アっはい、大丈夫です。ちょっと衝撃を受けたもので」

そりゃ推しが突然眼の前に現れたら誰でもこうなるだろう。

「無事そうで良かった〜。ところでアンタ、見たところ自衛官か?」

「はい、半年前からここに配属となりました。山本仁二尉です」

散らかった段ボールを片付けながらそう話す。

「山本……ああ!少し前に全校集会で話してたのアンタか!」

「はい。覚えてくれていたんですね」

「まあ自衛官なんて普段見ないからな。覚えてるぜ」

「ありがとうございます。」

話している間に段ボールを片付け終わった。

「それでは自分はここで」

「おう、ありがとうな」

そう言って、廊下の向こうへと行った。

「それにしてもエースか〜」

なんかやけに世代が古いな。

「まあ、そういう世界なんだろうな」

そう納得して、仕事場へと帰っていった

 

2033年2月27日 ライセンス試験当日

「三ヶ月死ぬ気で勉強したとはいえ、受かるかな〜」

あのあと試験日程確認したら、残り三ヶ月強しかなくてすぐに勉強を開始した。

その間も当然仕事はあったので、過労でぶっ倒れる覚悟だったが星街さんの

「いい加減にしなよ!倒れたら元も子もないじゃん!」

という言葉に流石に折れ、しっかり休みも取りつつ勉強していた。

しばらくすると試験監督官が現われ、問題用紙を配布し始めた。

まあ、やることはただ1つ。

「それでは試験を開始してください」

今ここで全力を出すのみ!

 

試験終了後 山本宅

俺は家族+miComet(ビデオ通話)と団欒していた。

「はぁ〜〜」

「どうだったの?試験は」

「親に結果聞かれるとか俺は小学生かよ……。まあ、三ヶ月っていう短い期間で準備した割にはできたんじゃないかな」

「そもそも三ヶ月でGMARCHレベルに受かれっていうのがおかしいにぇ」

「それに関しては本当にそう。上は俺を人の皮を被ったロボットとでも思ってるんじゃないか?」

「仮に受かったとして、仕事量3倍だぞ。大丈夫なのか?」

「今の仕事量二倍の状態でも、部下の助けがあって何とかやりくりできてるからね。頑張りはするけど、あんまり期待は持てないかな」

「無理だと思ったら、すぐに同僚や私たちに話しなよ」

「ありがとう星街さん。話は変わるけど俺、最近推しに出会ったんだよね」

「ふ~ん、仁君の推しって誰なの?」

「カツラギエースって子。ウマ娘で知ってファンになったんだ」

「へぇ~てっきり前に、私の配信見てくれてるって言ってたから私が推しなのかと思っていたけど、そっちが本命なの?」

「いや、俺は推しを並立できるタイプだからな。あなたも含めて推しですよ」

「ふ〜ん、ありがとう」

今日も推しが可愛い

そう思いながら星と月は西へと向かっていった。

2033年3月19日 合否発表日

 

暖かくなりつつもまだ若干寒さが残る3月。

俺は仕事の休憩時間のついでに合否発表を見に来ていた。

一応ネットでも見れるらしいのだが、折角だからと発表を見たいと思い足を運んでいた。

すでに発表板の前には人混みが出来ており、まさに合否発表という感じだった。

「えーと5474、5474」

他の人に負けず、自分の番号を探す。

ドン!

「おっと、すいません」

「いえいえ、こんなに混みあっているなら仕方ないですよ...って仁!?」

「橋塚⁉お前も受けてたのか!?」

なんと橋塚がいた。

配属当初から橋塚もここに転属していることは知っていたのだが、受けているとは知らなかった。

「ああ、理事長に新任務を告げられてな。仁はどうなんだ」

「俺も同じだ。よかったら番号探すの手伝ってやろうか」

「ありがとう。お前の番号もこっちで探すよ」

そうして互いの番号と自分の番号を探していると、橋塚の番号を見つけた。

「おい!あったぞ!橋塚!」

「ホントか!?っておい、あれってお前の番号じゃないのか?」

「ん?本当だ!っていうことは……」

「俺たち二人とも……」

「受かった!!!」

俺たちは年甲斐もなくはしゃいで喜び合った。

その後、俺たちは受かったことを理事長に伝えるべく、理事長室へと向かった。

「山本二尉、橋塚三尉です」

「許可!!入り給え!」

ガチャ

「山本二尉、橋塚三尉、試験合否を伝えに参りました」

「うむ、両名とも期間が期間だけに不安であったが、その顔を見るに幸運の女神は君たちに振り向いたようだな!」

「はい、両名ともに合格いたしました」

「祝福!!そして、改めてようこそ!トレセン学園へ!」

それと同時に「歓迎!!」と書かれた扇子を広げる。

「後で正式な通知書が来るから確認してくれ!それとその中にはトレーナーバッジも同封されてるから、この学園内にいるときは身につけてくれ!」

「わかりました」

「改めて、本当におめでとう!諸君のこれからの奮励に期待する!」

「ありがとうございます。それでは自分たちはこれで」

バタン

「それにしてもどうだ、これから業務量が二倍になる気持ちは?」

「正直なところ、憂鬱だね。でも、それ以上に楽しみだ」

「俺もだ。絶対に関われないであろう仕事に就けるんだからな」

「ああ、これからも頑張っていこう。ところでこの後、お前はどうするんだ」

「休憩時間終わるでしばらく校内を歩いているよ」

「俺はもう仕事場に帰る。それじゃ」

「じゃあな、箸塚」

箸塚と別れたあと、後の仕事のためにも構内を歩いているとエースと再会した。

「あ、山本さん!」

「エースさん。ご無沙汰しています」

あのあとも何回か会って話しており、顔見知りになっていた。

「おう!ところでアンタは何してるんだ?」

「休憩時間なので、適当にウロウロしてました。あなたは?」

「あたしも特に用が無いからな、ブラブラ歩いてた」

「なんだか似ていますね」

「アハッ、確かに。そういえばアンタ、理事長室の方面から来てたけどなんかあったのか」

「ちょっと報告をしに行ってきました」

「へぇ、一体何の」

「実は任務の関係でトレーナーライセンス試験を受けてたんですよ。なんとか受かったので、その報告をしてきました」

「ライセンス試験って相当難しいって聞くのに、よく受かったな。それも自衛隊の仕事と並立しながらだろ?本当にスゴイなアンタ」

「そこまで言われるとなんだか照れますね」

「いや、そんくらい言われるべきだと思うぞアンタ」

「あ、ありがとうございます」

「自己肯定感低いな〜もっと持っていいのに」

あの時、星街さんに励まされたとはいえまだ自己肯定感は低い。

「自分の癖みたいなものですね、自己肯定感が低いのは」

「ふ〜ん、ならアンタ、あたしのトレーナーにならないか?」

「え?」

ちょっと待て

そもそもなんで俺に?

まだなんの実績も積んでない俺に?

「ま、待ってください。脳の処理が追いつかない」

いや確かに、推しの担当になれることは嬉しいが……

まだなんの実績もない俺がこの子の運命を左右してもいいのだろうか。

「どうしたんだ?そんなに黙りこくって?」

「え、えと、どうして自分なんかに?」

「う〜ん、理由か〜。直感っていうのもあるけど、3つ理由があって、まず1つ目は今あたし専属のトレーナーいないんだよな」

「以外ですね」

「そんな以外か?」

「あなたみたいな優しい人、人気そうですし」

そういった瞬間、若干顔を照れくさそうに背ける。

「お、おう、そうか?」

「少なくとも自分はそう思いますよ」

「あ、ありがとな」

「それで話の続きなんですが、もう一つの理由というのは?」

「もう一つの理由は、アンタが個人的に放っておけないからだ!」

「アンタ、自己肯定感が低いからなんだか想像できないような無茶しそうと思ってな。他の人より仕事量が多かったりしないか?」

「いやまあ、確かに」

「ほら〜。まさか自衛官とトレーナーを完全に両立しようと思ってないか?」

「え、なんでわかったんですか」

「やっぱり。そういうところが何となく頬っておけないんだよ」

確かに、こういうところがあるとは以前から思っていた。

「そして3つ目の理由!アンタの底には夢が煮えたぎっている感じがするから!」

夢?

まだトレーナーになって困惑している俺にか?

「どうにもアンタには、夢がある感じがする。なんというか……渇望とか羨望?みたいなの」

その時ハッと思い出した。

自分の自己肯定感が低いのは元からだ。

特に理由があるわけではない。

だけど、それは俺の人生に大きな影響を与えてきた。

テストの点や、順位などをいつも気にしてきた。

上位にいても『まだ低いんじゃないのか』という不安がいつもあった。

その不安が生きる理由に自信を持てず見つけられないというのにも繋がった。

だからこそ憧れた。

全てを圧倒する強大な力や存在に。

防大に入ったのも、他の学校より自信を持てるかもという期待も理由だった。

「あたしにも夢がある。憧れの前に立つことだ。なぁ、一緒に夢を目指してくれるか?」

一瞬、それに惹かれた。

だけどこれは俺の問題だし、他の人が関わるのはどうかとも思う。

「やっぱり、返答は少し待ってください」

「おう、いつでも返答は待ってるぜ」

結局、返答は決まらないままこの会話は終わった。

 

2033年4月11日 トレセン学園

 

あのあとトレーナーバッジも届き、正式にトレーナーになった俺。

自分の部屋や、その他諸々の手続きやセットアップが終わったので、スカウトレースに来ていた。

ここでトレーナーがウマ娘の走りを見て契約をするが、自分は特に目当てのことも無かったので、取り敢えず見ていればいいと思っていた。

すると、後ろから声をかけられる。

「やあ、仁」

「橋塚。お前も来てたのか」

「まあな。なにか目当ての娘、いるのか」

「いや、別に。ただ見に来ただけだ」

そう言って、出走表の次のレースのページをめくったときだった。

「え」

「どうした、仁」

その出走表には「カツラギエース」という文字が刻まれていた。

「ああ、その娘か。その娘も目当てだけど、みんなミスターシービーの方に注目しているぞ」

そんなことも気にせず、俺は食い入るようにゲートを見ていた。

「さあ、各バ準備が整いました。」

ガチャン!!

「さあ、各バ一斉にスタートを切りました。おーっと、カツラギエース初っ端から大逃げだ!後続を突き放していく!!これは持つのかっ!!」

それぞれが脚をためているときに、一人飛ばしていくカツラギエース。

中盤も変わらず後続を突き放し、7バ身差をつけていた。

レースというのは早いもので、もう最終直線だ。

「さあ、ミスターシービー迫る!迫る!カツラギエース逃げ切れるか!」

「おおッ、スゴイ接戦だぞ仁!聞いてるのか仁!」

「ミスターシービー差し切った!そのままゴールイン!判定をお待ち下さい!」

判定の結果、シービーが2バ身差で差し切り一着で、エースは二着だった。

レース後、箸塚も含めてシービーの方へと人が流れていた、

そんな中、俺は一人エースの元へと向かった。

「やあ、山本さん。来てたのか」

「あぁ」

「どうだったよ、あたしの走りは」

「率直に言いましょう、あなたの走りに惚れた。あなたの走りに力と夢を見た」

「へへっ、お眼鏡には適ったみたいだな。それじゃあ、あん時の返事、聞かせて貰おうか」

一瞬の緊張がその場に流れる。

だが、答えはゴールしたときから決まっていた。

「あなたをスカウトさせてほしい」

同時に手を差し出す。

「おうっ、これからよろしく」

その手を軽く握る

「互いに恨みっこナシです。それでいいですね?」

「ああ、そっちが後悔すんなよ?」

その握りあった手は、眩しい夕日に照らされていた。




X-3
ASAWP計画の1つ目の案である、大気圏と宇宙を行き来できる大型戦略攻撃機の試作型であり、規模としてはB-1の0.8倍程度となっており、大気圏と宇宙空間での運用の両立のための実験に用いられた。エンジンにはスクラムジェットエンジンとロケットエンジンを採用した事により、2つの空間での運用能力を獲得し。これらのデータは後の機体へと生かされることになる。
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