小説書くのがこんなに難しいとは思いませんでした。
最後まで書き切っている方には本当に頭が下がります。
今後も更新が遅くなることが多いかもしれませんが、それでも大丈夫と言うのであればお付き合いいただけると嬉しいです。
「ハァ……ッ!ハァ……ッ!」
(僕はなんで走っているんだ?
プアァァァァァァァァァ
(どうしてこうなったんだっけ?たしか酔ったおじさんを助けようと……)
「通過列車だぞバカ野郎!!」
ゴォォォォォォォォォォォォ
「……ッ!! グッ!ハァ…ッハァ…ッ!!」
(死ぬのか?こんなところで!みんなが見てる前でッ!)
「隙間っ隙間っ!隙間探せ!!」
「いやぁッ……、もうダメ……ッ————
———だッッ!!あッ、あ、あれぇ!? ハァッハァッ」
「ああ!? ハァッハァッ」
「また出てきたぞ……」
先ほどまで列車に追われていた2人の男子高校生の眼前には、異様な空間があった。天井の照明以外に家具の類は何もないマンションの一室。その代わりに部屋の中央に黒い球体があり、それを囲って数人の男と1匹の犬がいた。窓からは東京タワーが見える。
「君たちも……、死にかけたの?」
眼鏡をかけたスーツ姿の男性の問いかけに答えられる余裕は今の2人にはなかった。いまだに頭の中を死の恐怖が埋め尽くして目の前の状況に理解が追いつかない。だが、とりあえず命拾いした事実に安堵したオールバックの長身の青年
「ハァハァ……、なんかしんねーけど、ナ!助かったろ……、ほら」
「ゼェゼェゼェ……ソソ、そうッ、ハァッハァッ、そうみたい……ダネ、ははは……ゼェゼェ」
「助かってない」
「ちっ、うっぜぇ」
病院服らしきものを着た壮年の男性の言葉に、金髪の若い男が悪態をつく。
「ここが天国だよ。死んだんだよ、私たちは」
「勝手にてめーだけ死んでろよ」
「はは、とりあえず仮説の一つですよね」
ついさっきまで病院でガンと戦っていたと語る壮年の男性の言葉から察するに、ここに集められている人間(+犬)は皆共通してなんらかの理由で死亡した、あるいは死の淵に立たされていたのだろう。
「どうなってるんだ?いったい・・・」
誰に言うでもなく恵留は自然と呟いた。
● ● ●
そこはまさに不可解な部屋だった。窓の鍵や玄関のドアノブ、壁自体も空間の一部のように触ることができない。携帯電話は電源も入れられず、外と連絡が取れない。隣の部屋に聞こえるように大きな音を立てても反応がないと言う。ゆえに誰も部屋の外に出ることができない。時間だけがただ過ぎていく中、眼鏡の男性がその場の面々に呼びかけた。
「みんな注目〜っ、今からみんなで自己紹介しましょう!まず名前と職業、どーやって死んだか」
「・・・・・・」
賛同するものこそいなかったが、異論を唱えるものもいないので話は進められた。
「まずは僕から……、ゴホンッ、山田雅史です。練馬東小で1年生を受け持ってます。教師です。スクーターに乗ってて事故っちゃいました……。じゃあ次、君から」
「あ、はいッ」
山田は自身の自己紹介が終わった後、1番近くにいた恵留に次を促す。恵留は素直に応じ、姿勢を正した。
「えっと……、
若干緊張しながらも先の山田の手本に倣うかのように丁寧な自己紹介をした。恵留に続いて隣の加藤も自己紹介を始める。
「加藤勝。電車にアタック」
「ブフォッ!」
「……ッ!?どうした!?」
加藤の発言がなんか変なツボにハマったらしく、恵留は吹き出した。
「くっくっくっ……、ごめん……ッ、フフッ、電車にアタックって……クククッ」
「あの……、大丈夫?」
「頭おかしいんじゃねーのコイツ?」
「・・・・・・」
周りの目は冷ややかだったことに気づくと、恵留はしばらく続きそうな笑いを咳払いをしながら堪えた。
それから改めて自己紹介が続行されたので、その間恵留は一人一人を観察していた。白い病院服の男性は鈴木吾郎。元政治家で、癌の治療のため引退を余儀なくされたそうだ。
中性的な顔立ちの金髪の男は自己紹介を拒否したため詳細はわからないが二十歳らしく、周囲にタバコをせびっていた。
隅に座ってる陰気な少年は
見るからにガラの悪い二人組は自分たちはヤクザであると明かすと、周りはシーンとなり、犬の息遣いだけが聞こえていた。
「あ……、後やってない人……」
「ハッ…ハッ…ハッ」
「…………終わりです」
全員の自己紹介が終わった後のことはノープランだったらしく、部屋は再び静寂が訪れた。沈黙に耐えかねたのか、加藤は突然恵留に話しかけた。
「あのさ、えっと……」
「ん?なに?」
「ごめんな、なんか変なことに巻き込んじまって」
「えっ?いいよいいよ!僕が助けたくて助けたんだし」
心底申し訳なさそうに謝罪する加藤に恵留は少し驚いた後、両手のひらを振って安心させるように笑ってそう言った。
「僕の方こそあの時ちゃんと引き上げられなくてごめんなさい。なにかに足滑らせちゃったみたいで」
「そんなッ、いや、あれはしょーがねーって」
逆に謝ってくるとは思わなかった。見ず知らずの酔っぱらいを助けるべく勢い任せで線路に降りたのに喜んで手伝ってくれて、おまけにそんな自分を気にかけてくれる奴がいるなんて……。加藤は申し訳なさと同時に久しぶりに胸が温かくなるような気がした。そのあと頭の中である人物の顔が思い浮かんできた。それは少年の頃からの幼馴染みの顔だった。
「……でもまぁ、計ちゃんにまで迷惑かけずに済んでよかったかもな」
「けいちゃん?」
「俺の幼馴染みだよ。あの時ちょっと手伝ってくれただろ?ほら、お前の手ェ引っ張ってくれた」
「あぁ〜……」
恵留は合点がいった。地下鉄のホームで手を引いてくれた彼。自分のクラスメイトが加藤の幼馴染みだったとは……、すごい巡り合わせだと思った。(彼が床に置いた雑誌で足を滑らせたせいで結局列車にはねられたことには気付いていなかった)
「でも計ちゃん、なんか感じ変わってたなぁ」
「え?」
「昔はもっと好戦的で、鋭くって、怖いもんないって感じで、俺たちのリーダーだったんだ」
加藤は昔を懐かしむ表情で語りだす。
「計ちゃんはすごいんだぜ。とにかく足が超速かったんだ。階段なんて上から下まで飛んで降りてくるし、鬼ごっこのときなんか逃げても追っかけても天才的だった。あ!あとアレすごかったな。なんでか忘れたけど計ちゃん、各クラスの強い奴に追われたことあって、歩道橋から飛び降りてまじでトラックの上に乗っかって行っちゃってやんの。あん時思ったよ俺……、計ちゃんみたいな奴になりたいって……」
(それはただ逃げ足が速かっただけでは……?)
恵留はそう感じざるを得なかったが、憧れを語る加藤の目があまりにも純粋だったので、口には出せなかった。
「俺頭悪いから、よくない連中が集まる学校に行ってんだけど、そこでなんとか計ちゃんに近づこうってがんばってんだよね」
(……加藤くんが言ってるのって多分アイツのことだよね?でも、とてもそんなことするようには思えないけど)
あまり話したことないが、自分が知っているクラスメイトの印象と大分食い違いがある。
「でもアレ……、ホントに計ちゃんだったのかな?俺の見間違いだったかも……」
「……ねぇ、そのけいちゃんって人だけど、もしかして、くろ——」
「ちょっとまて、なんだそれ?」
「ん?」
疑念を拭おうと口を開いた恵留に被さるように加藤が指したところを見ると、一組の足首があった。
ジジッ ジジッ
と、音を立てて徐々に脚が形成されていく。
「……!?うわッ!!」
さらに空中には腕が出てきた。太さから見るにその腕は女性のものだと窺える。よく見ると断面から光線が伸びており、それは黒い球から発せられていた。
「また1人きた!」
「もしかして女か?」
「俺らもこんなふうに出て来たのか?」
しかも、今に出てくる女性は衣服を着ている様子はない。全裸なのだ。一糸纏わない起伏に富んだ肢体が、黒い球の数本の光線によって恵留の目の前でみるみる生成されていく。
「あわわわ……ッ」
やがて全身を生成し終わると、ショートカットの若い女性が力無く恵留の身体に寄りかかった。
「〜〜〜〜ッ」
この様子に金髪の青年は文句をつける。
「あっ、ズリーぞてめー!!」
「いや……、離したら、いろいろ見えちゃいそうで……」
恵留はもう挙動不審だった。顔を赤くして目を泳がせて、行き場を失った両手は空を掴むような動きをしていた。
「そんなこと言って、自分だけ楽しもうってんだろ!?なぁ!」
「ち、違う!!」
「まあまあ、とりあえず横にしたほうがいいじゃないかな?」
「そ、そうですね……。加藤くん……、だっけ?ちょっと
「あ、あぁ…、わかった」
なお抗議する金髪の青年を宥めて山田は女性を寝かすように提案する。隣で呆気に取られてた加藤もようやく我に返って恵留の頼みに答えた。
● ● ●
恵留たちは女性を寝かせ、前を隠すように加藤の学ランをかけた。軽く調べてみると、彼女の左手首に横一文字に血がついていた。しかし、怪我はしていない。このことから風呂場で手首を切って自殺を試みたことがわかる。浴槽で失血死したところ、この部屋に転送されたのだろう。
「生きてる?」
「呼吸はしてるみたいです」
「うわ!すげーかわいいじゃん!」
金髪の青年が言うように確かにかなりの美少女だ。歳も見たところ恵留や加藤とそう変わらないように見えた。
「ちょっと一回おっぱい見せてよ」
「何いってんですか!ダメに決まってるでしょ」
「なんだよテメー!自分は抱きついたクセに!」
「抱きついてなんか……、あっ、目を覚ましますよ」
2人の言い合いに反応したのか、裸の自殺少女は意識を取り戻した。
「ん……、はぁ」
「あ、おはようございます」
「……?おはようございます……、え?なにこれ?」
目覚めたばかりで状況を把握しきれず、素っ頓狂な挨拶をした恵留に対し、思わずそのまま返してしまった。
「君、大丈夫?」
「え?なんだこれ……、どうなってんの?」
「あぁっ、起き上がらない方が……」
「……?」
朦朧とする意識のまま上体を起こそうとしたせいで身体にかけた加藤の学ランが少しずり落ち、彼女の豊満な乳房が見え隠れした。その時、さっきまで座り込んでたヤクザの1人が急に立ち上がって近づいてきた。
「お前ら来んなよ」
そう言うとヤクザは少女の手を引いて玄関へ連れ込もうとした。そこから何が行われるかは想像に難くなかった。
ガシッ
「あぁッ?」
少女の手を引くヤクザの腕を、恵留は掴んで止めていた。
「なんだテメー」
「お、女の子ですよ…、なに、するつもりですかッッ!」
射殺さんとばかりに凄みをきかせるヤクザに気圧されながらも、震える手を少しも緩めたりしない。
「離さんかいワレ!ぶち殺されたいのか!」
「離さない!その人に、酷いことするならッ」
「邪魔だァ!こんガキャアッ!」
「グ……ッ」
「……ッ!きゃあああああ」
恵留は蹴りを入れられた。咄嗟に身を捻って防ぐも壁際まで吹っ飛ばされだ。ヤクザの怒号でようやく意識が覚醒した少女の悲鳴を上げる。犬は興奮して『ワンッワンッ』と吠えている。そんな彼らの一連の行動に続くように、今度は加藤がヤクザに掴みかかった。
「やめろ、やめろお前ッ!」
「なんだテメェまで調子乗りやがって!殺すぞコラ!」
「おいおいおいッ」
「ちょっと、どっかにテレビクルーがいるかもしれないんですよ!」
加藤とヤクザは取っ組み合いの喧嘩になり、山田たちはオロオロするしかなかった。少女も学ランにくるまり部屋の隅で震えでいた。蹴られた痛みで右肩を抑えて壁際に座り込む恵留に、病院服の鈴木が気遣うように声をかける。すると——、
「君、大丈夫かい?」
「は、はい……、ん?」
あーた〜〜らし〜〜い あ〜〜さがきた
きぼーうの あーさーが
突如流れてきたラジオ体操の曲の出どころは、あの黒い球だった。初めて変化を見せた黒球の前に皆が集まる。
「……チッ」
ヤクザも加藤をドンッと押しのけ、喧嘩を中断してその集まりに入る。
曲が流れ終わると、球の表面になにやら文字が表示された。
てめえ達の命は、無くなりました。
新しい命をどう使おうと私の勝手です。
という理屈なわけだす。
「なんだこれ?ふざけてんな〜」
「やっぱりバラエティですよ、これ
」
それは確かに丁寧さに欠けている文章だ。『り』と『す』が逆に表記されている。山田はバラエティ番組の企画だと思い込んでるらしく、金髪の青年も電波少年の企画か他局のパクリだと言い始めた。
すると、ヤクザと加藤の喧嘩にも、全裸の少女が出てきた時さえ無反応だった少年、西が突然口を開いた。
「この文章ってさ、なんか超バカバカしーけどさ、真面目に受けとるとすんげー怖い文章じゃねー?」
「そ、そうかな……?」
西の問いかけにただ1人、恵留は律儀に反応する。やや否定的に答えたものの、実のところ黒い球が記すメッセージにどこか胸騒ぎを覚えていた。ここからさらなる波乱が巻き起こる。そんな予感がするのだった。
●葉狩 恵留(はかり える)
・かしこさ★★★★
・すばやさ★★★★
・たいりょく★★★★
・ちから★★★
・うんのよさ★★
・かんのよさ★★★★★
本作のオリジナル主人公。基本スペックは玄野より一回り上。大抵のことはそつなくこなすが、突出した能力はない器用貧乏タイプ。親切を旨とし、常に周囲への感謝を忘れない誠実な男。観察力が高く、状況を判断する勘の良さは他の追随を許さない。