今回もあまり進展ありませんけど、どうぞご覧ください。
黒い球のメッセージから切り替わり、次に以下の内容が表示された。
てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい
ねぎ星人
特徴
つよい くさい
好きなもの
ねぎ. 友情
口ぐせ
ねぎだけでじゅうぶんですよ!!
なお、この説明の横に写真が付いており、痩せこけた薄緑色の顔で深緑の頭髪の人のような何かが写されていた。
「なんじゃこりゃ!気持ち悪〜、弱そー」
「なんかゲーム始まるんですかね」
「もしかしたら外に出られるんじゃないか?」
皆が口々に話していると黒球は突然、ガコンッ、と大きな音を立てて左右側面と裏面が引き出しのように開いた。両サイドには銃のような物、裏面にはアタッシュケースが入っている。そして内部には……、
「わァッ中にっ人がっいるッ!」
頭髪のない全裸の男が人工呼吸器をつけ、膝を抱えて座っていた。金髪の青年はどうせ作り物と言っているが、時折明らかに呼吸音が聞こえてくる。こんなものが入っていて銃やアタッシュケースが収納できるスペースがあるとは思えず、恵留は疑問を抱いていた。だが部屋の面々はとくに気にせず、球から出てきた装備に興味津々だった。
「すっげ〜〜、かっこえ〜〜」
「ちょ、ちょっとッ、向けないでよ!」
「え〜いいじゃん」
銃は小型と大型の二種類ある。ただし、小型の銃は円筒型のものと銃口が三つあるものがある。大型の方はショットガンにスコープをつけたような重厚なデザインになっているが、重さはそれほどなく、片腕でも扱えるようだ。いずれも共通して小さなモニターがついており銃を向けた対象をレントゲンカメラのように透視できる。
「こっちのケースは……、スーツ?」
「コスプレか?」
表面に名前が刻んである(と言っても、かとうちゃ(笑)、メガネ、ぱつきんなど、適当かつふざけたあだ名で刻まれているものもある)アタッシュケースの中には全身にフィットしそうな黒いスーツが入っていた。
「あれ?このボタンみたいなのって……」
自分のケースから取り出したスーツの襟元の部分に恵留は見覚えがあった。確か中2の少年、西丈一郎の服の下にも、同じような白いガラス状のボタンが見えていた。
「おい、畑中ぁ……」
白スーツのヤクザが連れの名を呼ぶ。ふと目を向けると、加藤と喧嘩していたヤクザの上半身が
(さっきもずいぶん慣れた手つきで銃を取ってたけど、あの子まさか……)
恵留は直感的にこれらの装備は、少なくともスーツはこの先必要になると思った。
「みんな消えちまった、どうする?葉狩」
「……慌てることはないよ。多分さっきと逆だと思う」
「逆?逆ってどういう……、あれ?外だ……」
そして加藤も消えていった。直前の発言からおそらく、この部屋に転送されたように、どこか外に送り出されていったのだろうか。恵留が黒球を見ると、またしても表示が変わっていた。
行って下ちい
00:50:51
「ここで着替える時間はもう無さそうだな」
何を示す時間かはわからなかったが、恵留は取り出したスーツを一度ケースにしまい直す。そしてあることを思い出した。
「そうだ、あの女の子はッ!?」
「やっっ、ちょっとッ!」
「ハグハグッ ワンッ」
浴槽で手を切りそのまま全裸で転送されてきた少女は、なぜか犬に股の下を舐められそうになっていた。
「あっコラ!ダメだよ!!」
「ワンワンッワフッ」
アタッシュケースを右手に持って犬を抱えると、そのまま恵留も転送されて行ったのだった。
● ● ●
恵留の予想通りあのマンションの外へ転送された。ただそこは見知らぬ住宅街。加藤をはじめとする先に転送されたメンバーたちは右往左往していた。
「さて、気になることは山ほどあるけど、とりあえず着てみるか」
恵留は抱えていた犬を降ろすとさっそく近くの車庫に身を隠し、アタッシュケースからスーツを取り出して着替え始めた。
「よいしょっと……結構キツいなァ、これは着るのに練習がいるな」
「キャアッ!びっくりしたァ、なにやってるんですか!?」
「わぁ!ご、ごめん……あダァッ!?」
下半身部分を着ているところで転送されたてきた少女に見つかり、恵留は慌ててガレージの奥に行こうとするも、足を着用途中のスーツに取られ、尻丸出しでコケた。
「な、なんか…ごめんなさい」
「い、いや、こっちこそ……」
少女はバツが悪そうに背を向け、犬と共にひと足早く加藤たちと合流しに行き、恵留もなんとか着替え終わった。
スーツ姿になった恵留はアタッシュケースに学生服を詰め込んで、部屋のメンバーと合流しようとしたが、何やらみんなで話をしていた。その中心には、あの西少年がいる。
「なんの話?」
「なんかゲームが始まるって。宇宙人倒したら賞金一千万だって」
加藤は西から聞いた話をかいつまんで説明した。
西が言うには、政府の秘密機関にスカウトされ、地球に潜伏している犯罪者宇宙人を倒しに行く、と言う設定で、アメリカのケーブル局の共同制作された企画のゲームらしい。西はその企画のプロデューサーの息子だと言うのだ。そういえばマンションで山田がテレビだの催眠術だのと言っていたが……。
西は「これに出てるから」と、この街の地図だと思われるものを表示した見たことのない機械で宇宙人の居場所を説明している。
恵留はどうにも腑に落ちず、西を問いただす。
「それ話って本当?スカウトなんてされた覚えないけど」
「催眠術を使えば幻覚を見せることだってできるんだ。あの部屋に来る前に誰かに話しかけられたと思うけど、覚えてないか」
「なんで今頃その話を?もし本当なら、ここに来る前にあの部屋で説明してくれてもよかったんじゃない?」
(言うのが遅すぎる。まるで山田さんの話を聞いて思いついたような……)
「企画って言ってもまだまだ試験段階でね、極力うちの父さんに口止めされてるんだ。詳しいことは僕にもわからないし」
「ふーん…、でも、大学で考えられた企画がそのまま起用されるなんてよくあるのかなぁ」
「日本の早稲田や慶應とかだって学生の企画が採用されたりもするじゃん?あり得なくはないよ」
恵留の立て続けの質問に対して言い淀むことなく答え続ける西は、嘘をついてるようには見えなかった。だが、やはり何か煙に巻かれてるような気がする。
「……あの黒い球に書いてあった時間って…」
「そう、このゲームの制限時間」
それを聞いたメンバーたちは「あと1時間もねーじゃねーか!!急げ!!」と、慌てて宇宙人を探しに行った。西もそれに続いてその場を後にする。
「くだらん、帰る」
「え!?帰っちゃうんですか?」
ただ1人興醒めした様子で立ち去ろうとする鈴木を、恵留は引き留めた。
「妻と子供が心配してる。今頃病院は大騒ぎだろう」
「ですが……」
構わず離れていく鈴木に対し、恵留はそれ以上止めることは出来なかった。家族のことを話に上げられると何も言えなかった。
「どうする?葉狩……」
「うーん……」
根拠はないがこのまま帰ってはいけない、少なくともこの街から大きく離れてはいけない。そんな気がしていた。
● ● ●
「一の宮?どこだ?一の宮って」
「多摩市のどっかじゃなかったかな?」
残された恵留と加藤、そして少女は電柱の住居表示から今いる場所を調べようと試みる。するとずっと黙りこくっていた少女が口を開いた。
「あ、あの…、何…、何なんですか?」
「何…?何が?」
「何がって……、今……」
まだ事態を飲み込みきれていないらしい少女だが、こちらも把握しているとは言い難いので、加藤は返答に困っている。そんな加藤に代わって恵留が答えた。
「……あの西って子はゲームとか言ってたけど、鵜呑みにはしないほうがいいと思う」
「え…?」
「だって、やっぱりどう考えてもおかしいよ、催眠術を使ったテレビ番組なんて」
西の言葉を冷静になって反芻したが、あまりに流暢に話すので一見道理にかなった話にも思えるが、所々に違和感を覚える。街角でスカウトした人間に何の審査もなくテレビ出演をさせ、試験段階の企画で一千万という破格な金額の賞金を本当に支払うのだろうか?そもそも催眠術というのも現実的ではない。自殺者や病床の人間まで思いのままに、それも複数人ほぼ同時に幻覚を見せれるのか?何にしてもこのまま西の言う通りに動くのはリスクがある。しかし——、
(かと言って、このままミッションを放棄して帰るのもやばい気がするけど……、僕の勘でしかないし、どう説明しようか)
「じゃあこれからどうすんだ」
加藤が疑問を投げかける。
「とりあえず、あの人たちについてってみよう。えっと……、君もそれでいいかな?」
恵留は自らの提案に、少女にも同意を求めた。
「あ、はい。そーですね、それで、え…と、名前……」
「僕?葉狩恵留です」
「あ……はい……」
「…………」
恵留に次いで加藤が名乗る。
「あ…俺?加藤勝」
「へえ、加藤…サン…、クン?」
「いいよ別に、どっちでも」
少女の2人への対応の違いから、どうやら恵留にはあまり関心がなく、加藤には興味津々という様子が見てとれた。先ほどヤクザから守るために果敢に挑んだからなのだろうが、恵留は一抹の寂しさを覚えた。
(……一応僕も助けようとしたんだけどなぁ…、まぁいいけど)
ともあれ3人は宇宙人捜索に向かったメンバーたちと合流することを決めた。すでに彼らの姿はなかったが、遠くで男の叫び声が聞こえてくる。おそらく少女を襲ったヤクザの1人だろう。その方向へ歩みを進めること数分、恵留たちは古い木造アパートが建ち並ぶ場所まで来ていた。すると——、
「アイツらこの辺にいるのか?」
「声の感じだと多分向こうの——ッ!?」
空を見上げると、自分たちのいる方へアパートの2階から何が落ちてくる。恵留にはそれが人間の子供に見えた。
(子供…?ねぎ星人……!?)
恵留の判断は早い。落下地点を予測してそこに立つと、身長にして100センチ前後の子供らしきものを抱きとめた。その衝撃で腰を強く地面に打ちつけた。
「うおッ!?」
「キャアッ!」
突然のことに加藤と少女は短く悲鳴をあげた。子供が落ちてきたことにもそうだが、それを受け止めようとする恵留の行動に驚きを隠さないでいる。だが、特に痛がる様子もなく、恵留と子供は立ち上がる。
「おい大丈夫かお前ら!?」
「うん、僕は平気。それより……」
「ね、ネギだけで…じゅーぶんですよ」
3人は落ちてきた子供を確認すると、それは緑色の髪に薄緑の肌の宇宙人然とした顔の存在。おまけに強烈なネギ臭を漂わせている。特徴からしてこれがねぎ星人なのだろう。
「まさかホントに……」
「おい!こっちだ!」
「おお!スゲー!生きてるぜーっ、イリュージョン!」
金髪の青年を筆頭に銃を携えたメンバーが接近してくる。ねぎ星人は一目散に逃げ出した。金髪たちは恵留たちに目もくれず、ねぎ星人を追いかけて行った。
「待てコラァッ!」
「ネギあげますっ」
「いらねーっての!」
恵留たちもすぐに後を追うが、少女は裸足なため、上手く走れずへたりこんだ。恵留は足を止めて駆け寄る。
「ハァッ、ハァッ」
「加藤くん!ちょっと待って!」
「葉狩はその子を家まで送ってやってくれ!俺はアイツらを追う!」
そう言い残し、彼らを追って走り去ってしまった。残された恵留はひとまず少女が回復するのを待った。
「ハァ、ハァ…、行っちゃった……、どうしよう」
「……加藤くんはああ言ったけど、ここはやっぱり帰らない方がいいと思う」
「えっ?どうして?」
「ただの勘だよ。少なくともこのゲームが終わるまでは帰っちゃいけない。なにか悪い予感がする」
要領を得ない言い方しかできないことにもどかしさを感じつつも、ほぼ確信に近い直感に従ってゲームを続ける決断をした。少女は若干不安そうに問いかける。
「やるの?ゲーム」
「参加するというより、終わりを見届けるって感じかな?終わったら責任を持って必ずウチに帰すから、もう少し付き合ってくださいッ」
「……わかった」
少女は恵留の必死の説得に渋々と応じた。そして恵留は「あっ、そうだ!」と何かを思いついたように、持っていたアタッシュケースから靴とズボンを取り出して少女に差し出した。
「これ良かったら使って」
「え?」
「嫌かもしれないけど、走ってるとき怪我しないようにしとかないと」
少し戸惑いを覚えるも少女は「あ、ありがとう」と靴とズボンを受け取った。
「えっとそうだな……、あ、あそこの影になってるところで、履いてきなよ」
「う、うん…………」
「いやッ、覗かないから」
なぜか訝しげに見てくる少女に促して、恵留は周囲を見張る。靴のサイズを靴紐で調整する時間を含めても僅か数分で済んだ。
「おわったよ」
「そうか、じゃあ行こう」
少し遅れを取ったが2人も加藤を追うべく行動を起こした。2人の心中は決して穏やかではなかった。特に恵留は人より勘が働く分胸騒ぎがして止まらなかった。
(
だがその願いも虚しく、この後彼らの想像を絶する惨劇が待ち受けていることを、恵留はまだ知らない。
次回から本格的に主人公の戦闘が始まります。