それではどうぞ。
ねぎ星人は吹っ飛ばされ、階段下の道路に落ちていく。コンクリートの地面に身体を強く打ち付け、転がってガードレールに叩きつけられた。
恵留はその様子を階段の上からしばらく見ていたが、緊張が解け膝から崩れ落ちる。
「ハァーーッ、ハァーーッ、……か、階段から転げ落とすつもりが…、このスーツのせいか?なんか変な音鳴ってたし……」
筋肉が膨張したように膨れ上がったスーツが音を立てて萎んでいく。それに伴い体にみなぎっていたパワーも抜けていくようだった。
「葉狩ーーーっ!」
「だ、大丈夫!?」
右方向の通路から加藤とあの少女が走って来た。加藤の手にはねぎ星人の後頭部にぶつけた恵留のアタッシュケースが握られている。
「あ……、加藤くん、僕のカバン持っててくれたんだ…」
「近くでお前が大声出してるのが聞こえて…」
「そっか…、てか、あの場のすぐ近くだったっけ、ここ」
「ねぇ、あの鬼みたいなのは…」
少女のいう鬼みたいなのとはねぎ星人のことを指すのだろう。恵留は階段下のガードレールに寄りかかってる大男を指差した。
「ここから突き落とした。正直こんな上手くいくとは思わなかったよ」
「……死んだのか?」
「わからない、自動車に轢かれてもピンピンしてたし、多分まだ生きてる……、おぉっとっとッ!」
立ち上がろうとするが、脱力感が抜けずによろけて転びそうになり、加藤に支えられる。
「おいおいッ、階段あるから気をつけろよ」
「ご、ごめん、まだ力が入らなくて…、下まで行きたいから、ちょっとだけ肩貸してくれる?」
「えッ!?アレ見に行くの?やめとこうよ!」
ねぎ星人の生死を確認しに行く旨を伝えると、少女が抗議する。大の男数人をいとも簡単に皆殺しにした危険性は十分わかっており、下へ降りることを躊躇わせる。
「俺たちだけで行ってくるから、君はそこで待っててくれ」
加藤は持っていた恵留のアタッシュケースを少女に預け、恵留に肩を貸す。
「加藤くんまで……、危ないよ——」
「ゆっくり歩けよ、またコケるぞ」
「うん…、あの真ん中あたりまででいいよ」
少女の制止も聞き入れず、恵留は加藤に支えてもらいながら彼女を置いて2人でねぎ星人に近づいていく。
「ちょ、ちょっと……、私も行くよ!!」
少女は階段を降りて行き、結局2人と合流した。
● ● ●
恵留は途中まで加藤に肩を借りて階段を降りていたが、足の震えもおさまってきたところで自分で歩くようになった。そして3人でねぎ星人のところまでたどり着いた。
「動かないよ?やっぱり死んでるんじゃ…」
「…………」
少女は階段を降り切らずそれ以上近づかなかった。加藤と恵留はぴくりとも動かないねぎ星人に注意深く近づいていく。いつでも迎え撃てれるように恵留はホルスターに収めている銃に手をかける。
「グオォ!!」
「ううォあァッッ!!」
「わたァァッ!!」
するとねぎ星人は勢いよく顔を上げ、立ち上がった。驚いた2人は思わず変な声が出てしまう。すぐに引き下がり、恵留は右腿のホルスターから銃を抜き、ねぎ星人に向けて構える。
「グ……ッ、フゥッフゥッ!!」
殺意の籠った眼差しでねぎ星人は腕を振り上げ、爪の攻撃を繰り出そうとしたが、爪の生えてない右手で胸を押さえて苦しそうによろめく。階段からの落下のダメージというより、恵留の捨て身の体当たりのそれの方が響いているようだった。
(……っ、今ならやれる!撃てる!)
脳の興奮が収まらないうちに撃ってしまおうと考え、恵留はゆっくりと銃のトリガーに指をかける。しかし、横から加藤がその腕を押さえこみ制止する。
「待ってくれ葉狩!撃たないでくれ!」
「加藤くんッ!?」
「もともと俺らが悪いんだ、俺らがコイツの子供死なせたせいで……」
「で、でも……ッ」
加藤は殺さないでほしいと懇願するが、野放しにすればいつまた自分たちに牙を剥いてくるかわかったものではない。しかし、できればこれ以上傷つけたくはない気持ちは恵留も正直同じだった。だからこそ加藤の言葉に決心が揺らいだ。
殺すべきか見逃すか、そうして葛藤してる間にもねぎ星人は胸を右手で押さえながら、左手の爪を構えてジリジリと近づいて来ている。
「あっ、危ない!!」
バシュッ
「「!?」」
背後で少女が叫んだとほぼ同時に、ねぎ星人の左方向から何かが発弾された。三つの弾がワイヤーで繋がれたそれはねぎ星人の身体に巻きつき、地面に固定した。バチバチと電流が走るような音を立て、それが放たれた方から何が姿を現す。
「君は……ッ」
「なんとか時間内か……」
電流とともに虚空から現れたのは、あの西少年だった。
「お前、ずっと、そうやって隠れてたのか……?」
「ああ、見ていたよ、ずっとね…」
加藤の質問に西は平然とした態度で答えた。そして恵留たちと拘束されたねぎ星人の元に歩いてくる。
「点数は、今回はあんたにやるよ」
西は恵留向き直ってそう言った。
「点数……?」
「わかってただろ最初から、これがTV番組なんかじゃないって。撃ちなよ、コイツ……、そのつもりだったんだろ?」
西は全てお見通しとでも言うようにさらに続けてそう言うと、ねぎ星人にトドメを刺すことを勧めた。
「……当然だよ」
聞きたいことも言いたいことも山ほどあった。だが、今自分がやらなくてはならないのは、目の前の大男を始末することだ。
「おい葉狩…、まさか撃たないよな?」
「…………」
加藤はそんな恵留の良心に訴えるように問いかけた。背後の階段で少女は固唾を飲んで行く末を見守ることしかできなかった。
恵留は再び銃の照準をねぎ星人に合わせ、トリガーにかけた指に力を込める。これからこの化け物の命を狩るのだと思うと、首筋から背筋にかけて悪寒が走る。
「いいねぇその目、お前素質あるよ」
西は恵留の心理を見透かしたのか、そう評価した。だが——、
「……マス……サイ」
「……ん?」
「ネギ…アゲ…マス、ユルシテ…クダ…サイ」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
ねぎ星人の父親は先程とは打って変わって弱々しい声で命乞いをしてきた。その姿が彼の息子と重なり、加藤は目を伏せ「すまない…」と謝罪した。
そしてその姿を見た恵留にはもう彼を殺すことなどできはしなかった。手に持っていた銃を遠くへ投げ捨てる。
「ダメだ……、僕にはできない」
「なぁんだ、少しは期待してたのに、所詮は偽善者か」
「偽善者……ッ?」
西少年が心底ガッカリした様子で吐き捨てた言葉に、加藤が反応する。しかし西は気にする素振りも見せず、改めてねぎ星人に銃口が三つある銃を向けた。
「そんなんじゃ、これから先生き残れないぜ」
「おい、やめ——ッ」
ギョオッ
加藤の制止も聞き入れず、西は躊躇いなく銃のトリガーを引いた。ねぎ星人の頭は爆散———はせず、頭から徐々に消えていった。それはまるで、自分たちがあのマンションの一室からこの住宅街まで転送されていった時と同じような状態だった。断面から一筋の細い光線が空高く伸び、ねぎ星人の全身が完全に無くなると遥か上空へと消えていった。
「こっちは送る用の銃、あっちはぶっ殺す用の銃」
「どこに送ったんだ?」
「さぁ、上かなぁ?」
西は銃の使い方を説明した。彼が持っていた銃口の三つ付いた逆三角形型の銃は殺害ではなく捕獲と転送を目的としているらしい。
「おい……、これから俺たちどうなるんだ?」
「そーだな、まずあの部屋に戻って、あとは自由…、家に帰ってもいいし」
「…!?帰れるのか!」
加藤の質問に対して西は淡々と答える。帰れると聞いた途端に加藤は動揺を隠せなかった。西の説明を聞いて、恵留もハッとした様子で質問した。
「……ッ、あの人たちは!?ねぎ星人にやられた人たちは戻せないの?」
だが、返ってきた答えは期待とは違うものだった。
「無理だね、死んだ人間はあの部屋には戻れない。まぁどんなに重傷でも生きてれば元通りに戻れるけど」
「ホントに…?だったらッ」
それでも最後の言葉に希望を見出した恵留は、その場を離れようとする。
「葉狩?どこ行くんだ…?」
「あの人たちのところに戻るんだ!まだ息があるなら一緒に帰れるかもでしょッ」
「無理だよ、もう……」
階段を登ってすれ違う恵留に対し、少女がそう言って引き止めた。
「えっ?まだわかんないじゃん!全員は無理でも1人くらいなら」
「だから無理なんだって!私たちさっきまであの場所にいたんだよ……?」
その言葉が何を意味するかは簡単に察しがついた。加藤もうつむいてただ首を横に振るだけだった。恵留は座り込んで頭を抱えた。
「ちくしょう……ッ!」
「まっ、そりゃそーだろ……、おっ、じゃあお先」
西の頭が消え始める。あのマンションに戻っていくようだ。残された3人もしばらくすると転送され、その場所には誰もいなくなった……。
● ● ●
ジジッ ジジジッ
「本当に…、戻って来れたのか……?」
「今回は随分生き残ったな、俺以外に生きてるってだけでも久々なのに…」
「…………」
恵留たちはマンションの一室へと戻っていた。黒い球が無機質に制限時間を表示している。
「おい、帰って来たから採点始めろ」
西が黒い球に向かって声をかけた。だが球は無反応で時間を刻むだけだ。
「シカトかよ……おっ?」
「…ッ!?」
黒い球からレーザーが伸びる。住宅街でねぎ星人に殺されずに生き残ったものがまだいるということを示している。だが、黒い球のレーザーが描いた輪郭は人間のそれではない。
「ハッ…ハッ…ハッ」
ねぎ星人を探している途中でいつの間にか姿が見えなくなっていた犬だった。
「いっつもちゃんと帰って来んだよな、役立たねーのに」
(“いっつも”……、か)
恵留は西の言動の端々がいちいち気になっているが、それとは別に確かめたいことがある。
「ねぇ、鈴木さんはどうなったの?」
「あ?鈴木?」
「政治家の鈴木吾郎さんだよ。いたでしょ?途中で帰っちゃったけど」
「あぁ、ガンで死んだジジイか…。死んだぞ、エリアの外出て頭バーンだ。ここにいないのが何よりの証拠———」
ねぎ星人討伐を放棄した鈴木の衝撃の末路を聞かされ驚愕するのも束の間、黒い球はさらにもう一筋のレーザーを発した。
「えっ、嘘!?」
「マジか……」
「おいおいマジかよ、何人生き残ってんだよ」
加藤と少女は驚き、西は呆れ半分な様子だ。恵留も半ば諦めていただけに目を潤ませて歓喜した。
「やった……ッ、1人だけど、助けられたんだッ」
黒球のレーザーによって徐々に形を成していき、やがて全身が転送完了される。戻って来たのは……、
「あああああああああああ!!!
……あ、あっ、アレ……??お、俺……、生きて……る……?」
転送され終わるなりショットガン型銃を構えた姿勢のまま叫び出したのは、金髪の青年だ。恵留による応急手当てが功を奏し、一命を取り留めたのだ。
「ここ…、あのマンションか?なんで……、戻…って、え…ッ?」
彼は混乱した様子で周りを見渡す。見覚えのある部屋と顔ぶれが目の前にあることで、住宅街から帰って来たことはかろうじて理解していた。
「あの時ネギオヤジに出くわして、それで……ッ、う、うえ゛ぇぇ!」
「だ、大丈夫!ねぎ星人はもういませんよ!僕ら帰れますからっ」
ここに戻って来る直前、不可抗力とはいえその手に持った銃でヤクザの男を手にかけてしまったことを思い出すと、身を屈めてえずいた。恵留はそんな青年に対し「大丈夫、大丈夫」と声をかけながら背中をさする。
その姿には加藤と少女も感嘆の念を覚えざるを得なかった。
「すっげぇよな、アイツ」
「う、うん……」
「……ふんッ」
その状況を西ただ1人が面白くなさそうに見ていた。
やがて黒い球のカウンターがゼロになると、まるて電子レンジのベルに似た音が部屋に鳴り響いた。
「ガンツが採点始めるぜ」
西が〝ガンツ〟と呼称したそれは、相も変わらずふざけた文面でメッセージを表示する。
それぢわ ちいてんを
はじぬる
● ● ●
「ガンツ?お前が名付けたのか?」
「いんや、もっと前の、誰かが…」
加藤と西が話してる間に、犬がガンツと呼ばれた黒い球の前に座る。球の表面の文字は切り替わり、次のようなメッセージが表示された。
犬
0てん
やるき、なちすぎ
ベロ 出しすぎ
シッポふりすぎ
犬はそれを見ると「きゅううん」としょんぼりした様子で離れていった。
程なくして金髪の青年と、彼を介抱していた恵留もガンツの前まで来る。
「大丈夫?落ち着きましたか?」
「……落ち着いてねーけど、まぁ歩けはするよ…。それよりなんだよコレ…、どういう状況?」
「さぁ……」
2人の疑問にも答えず、ガンツは次々と表示を切り替える。
巨乳
0てん
ちち でかすぎ
ぱんツ はかづにうろつきすぎ
「あたしィ!?なにこれもォ〜〜〜ッ」
かとうちゃ(笑)
0てん
おおかとうちゃ(笑)死にかけるとわ
なにごとぢゃ
「…………」
「ウケ狙ってるよね……コレ絶対」
こちらを小馬鹿にするような文面で点数を提示している。それを見て余裕を取り戻してきた金髪の青年が茶化しはじめた。
「はははッ、なんだよコレ!ふざけてっけどなんかおもしれーかもな!俺は何点だろ?」
そう言うと青年の番がまわってきた。しかしながらガンツの評価は辛辣なものだった。
ぱつきん
0てん
ヤクザにビビりすぎ
「はぁッ!?」
「ヤクザにビビりすぎー」
西が揶揄うように読み上げる。
「びっ、ビビってねーよ!つかなんで0点なんだよ!?俺だってねぎ星人のガキ撃ったのに」
「トドメ刺したのはヤクザのおっさんだろ。自分で殺さなきゃ点数にならない」
(……その理屈だと僕も0点か、まぁいいけど)
恵留は不満を漏らす青年を尻目にそう思いながら引き続きガンツの採点を待った。
西くん
3てん
TOtAL90てん
あと10てんでおわり
「ちっ、3点かよ」
舌打ちをこぼす西。そしていよいよ最後は恵留の番だ。0点だと言うことはわかっているが、気になるのは点数に添えられるメッセージだ。
はかり
0てん
あれこれかんがえすぎ
たおしかた まわりくどすぎ
「……つまんねー」
「ぐ……っ」
西にもそう言われてしまい、思わず声がつまる。
思い当たる節はあった。確かに銃を使えば1発で仕留められた敵だし、致命傷を恐れてねぎ星人に近づかなかったからだ。スーツが重要だと勘で気付いて着ていながら。
そして恵留はもう一つ、あることに戦慄していた。
(考えてることまで読めるのか?あまり変なこと考えられないな)
全員の採点を終えてガンツが動作しなくなると、西は加藤たちを放置して部屋を出ようとする。
「帰れるよ、ドア、開いてるぜ」
「…待ったッ」
恵留はそんな西を部屋全体に行き渡るかのようなハッキリとした声で引き留める。
「その前に聞きたいことがある。西くん…だっけ?君、随分と落ち着いているけど、毎晩のようにこういうことしてるんだ?」
まっすぐ西を見据え、問い質した。
「毎晩?まさか、さすがにそこまでは呼ばれねーよ、まぁせいぜい週に1〜2回あるかないか————ッ!!」
「…………」
すると西は何かに気が付いたように口を紡ぎ、目を見開いて恵留を見た。
(悟られたか、やっぱ賢いな……、この子)
「……まぁいいや、どうせ聞かれたなら答えてやるつもりだったし……、知りたいんだろ?ここのこと、いいぜ……、聞かせてやるよ、俺の知ってる範囲でならな」
ぱつきんこと、『稲森貴史』くんはビジュが好みだったのでなんとなく生き残らせてみました。今後活躍させれるかどうかはわかりません。
次回は手短に書こうと思います。
それではまた。