頑張って仕上げましたが、本筋とあまり関係がなく、読んでも読まなくてもいいようなエピソードです。(駆け引きの書き方って難しい…ッ)
もう待ってる人もあまりいないかとは思いますが、どうぞお付き合いください。
葉狩家の自宅の2階には部屋が2つある。それぞれの部屋の扉にはアルファベットの『U』、そして『L』と刻まれたプレートが飾られている。
「
「うん、かもね」
「かもねって……」
夕食を済ませ、現在岸本は風呂に、恵留とその妹の優は2階の『L』の部屋、長男恵留の部屋にいる。
恵留は家族にガンツに関することは伏せ、岸本が家族と大きな喧嘩をしてきて家に帰れないと説明し、しばらく岸本を置いて欲しいと頼み込んだ。母の頼子は少し戸惑った表情を見せたものの、快く受け入れてくれた。後に仕事から帰ってきた父の
だが、それでもまだ納得できない優はミニテーブルの対面に恵留を座らせ、まるで
「そもそもどういった経緯で知り合ったんだよ?やっぱり昨日の駅の事故となにか関係あんのか?」
「それならさっき説明したでしょ?それにそのことと、岸本さんの家出のことは関係ないよ」
「だからって、昨日の今日会ったばかりの女を普通泊めるか?リスクありすぎるだろ。もし向こうの親が騒ぎ立てて、警察沙汰にでもなったら——」
「あぁーわかってる!ホントわかってるから!」
懸念を説く優は声のトーンは一定だが、口調がだんだん苛烈になっていく。それを手で遮る動作をしながら答える恵留。
「それについても問題ないよ、条件通りご家族に連絡させる」
父が岸本に対して提示した条件とは、
・明日から毎日ご家族の誰かに連絡すること
・学校へちゃんと通うこと
——これだけだった。
だが、いずれも今の岸本の状況では不可能。しかし、その時岸本の隣で話を聞いていた恵留は特段あせる様子もなく、岸本の顔を見て軽く頷き目配せを送っていた。それを受けた岸本は条件を了承し、葉狩家へと迎え入れられた。
「優の懸念もよくわかるけど…、ま、悪い子じゃないからさ、仲良くしたってよ、な?」
「そうは言うがねぇ……」
どうにも要領を得ない恵留の説明で、優が不安を募らせる。長年共に暮らした兄がこの様な態度を取るのは初めてであった。
コンコンッ
「葉狩くん、いる?」
その時、ドアの向こうからノック音と件の少女、岸本の声が聞こえてきた。恵留が「どうぞ」と許可してすると、扉を開けて岸本が入ってくる。
「あ…、早かったね」
「うん、いいお湯でした」
岸本の風呂上がりで僅かに紅潮させた顔に色気を感じた恵留は、態度にこそ出さなかったもののドギマギしていた。
「ん……、優、入ってきなよ」
「いや……、たまには先に入りなよ、
「えっ?でも…」
「いいから」
普段なら優が先に、恵留が後、そして頼子か陽久のどちらかの順番で入浴する。今回も恵留が優に先に入浴することを促すが、珍しく兄に順番を譲ってきた。
「そっか、んじゃ行ってきますか……、岸本さん、またあとでね」
「あ……」
そう言って恵留は立ち上がり、部屋を出て風呂場へと降りていった。そうすると必然的に岸本と優の2人きりとなる。
恵留という緩衝材が無くなったことで岸本は途端に重苦しさを感じた。そんな中で先に口を開いたのは優の方だった。
「そのパジャマ、サイズはどうだ?キツくない?」
岸本が今来ている無地のパジャマは、優の小学校高学年まで着ていたものを借り受けたものだ。今の岸本が着て丁度いいサイズに見える——が、
「あっ、うん……、胸がちょっとキツいけど、そんなに苦しくないよ」
胸部の生地の面積が足らず、上のボタンを一つ開けてかろうじて収まっている双丘の谷間がパジャマの隙間から覗いている。
「……………そうか」
優は口角がヒクつくのを堪え、「座りなよ」と目線で促し、岸本をさっきまで恵留が座っていた座布団の上、上座の席へと座らせた。
上座、本来なら客人をもてなす際に案内する位置だが、優としてはどちらかというと出入り口から遠ざけて逃げ道を無くし、精神的に追い込みをかける意図の方が強い。
優はここでお人好しの兄や両親に代わって自分がこの家出娘の正体を暴いてやろう、そう意気込み自らも対面に座った。
「………」
「……あの」
「家族と折り合い悪いんだって?」
「あっハイ!進路のことでお母さんと揉めて……」
沈黙に耐えかねた岸本に被せ気味に質問する葉狩妹。岸本は反射的に敬語で返事をしてしまう。
「まぁ…、色々あるだろうから詮索はしないけど……、なんでわざわざウチに?」
「え?」
「だってそうだろ、アンタがよっぽどのビッチじゃない限り会って間もない男の家に厄介になるなんて抵抗あるだろ?それに、親父の条件を飲んでまでなんでウチを選んだ?他の友達の家じゃダメな理由でもあるのか?」
優は半ば挑発気味に問いかけるが、岸本はできる限り間を置かず毅然とした態度で答える。
「お母さんに居場所を知られたくなかったから。知ってる友達の家だと、しらみ潰しに連絡してるかもしれなくて」
「ハァ…、そこまでするか……」
「うん……」
事実、岸本の母ならやりかねないことだ。それを聞いた優は呆れ半分で関心していた。
「てか、明日も学校行くんだろう?教材とかどうするんだよ」
「と、友達に見せてもらおうかな…」
「ふーん…、じゃあ次の質問、アンタと恵留の
「う、うん」(お兄さんのこと兄妹って呼ぶ人初めて見た……)
恵留は岸本とは駅で知り合ったと、夕食前に説明している。
「それじゃああの事故のことは当然知ってるわけだ……、見たんだろ?」
「見たって、何を?」
詳細をあえて伏せて岸本の反応を見る。岸本が昨日の晩から家出していることが確かなら一介の高校生がニュースや新聞を読む暇などそうそうないはず。事件の当事者でもある兄から聞いた状況と報道内容、そして岸本の発言に僅かでも食い違いがあればすかさず指摘するつもりだ。
さらに優はカマをかける。
「ニュースで見てビックリしたよ、兄妹も普段から使ってる地下鉄で
「えっ?中学生?高校生じゃなくて?」
——が、優が予想していたものとは違った反応が返ってきた。
「私は直接見たわけじゃないけど、高校生が轢かれたって聞いて…」
「……兄妹とは?」
「その時の混雑に巻き込まれて転んじゃって、そこで葉狩…、お兄さんに助けてもらって手当てしてもらったんだけど、そのせいでカバンとか生徒手帳落としちゃったみたいで……」
「………」
岸本はその時の状況を説明した。視線も泳がず、嚥下する様子もなく丁寧な説明する姿は嘘をついてるようには見えなかった。
「……あーそうだった!中学生じゃなくて高校生だった。言い間違えたよ」
「そ、そう」
わざとらしい大仰な口調で訂正する優。カマをかけたことを隠そうともしない姿勢だ。
「最後の質問、家出してる間は家族に必ず連絡する、そう約束したな?」
「はい」
「誰に?」
「姉の、しおりに…、お兄さんの携帯からかけるつもり」
「……そうか、わかった」
一通りの質問が終わったようで立ち上がり、優は部屋を出ようとする。そして、ドアの前で一旦立ち止まると語り出す。
「……わかると思うけど、兄は優しいだけが取り柄でね、それに付け入ろうとする奴は少なくなかった」
振り返り、岸本を真っ直ぐ見据える。
「もしアンタがよからぬことを考えてるなら、すぐにでも児相に付き出すから、そのつもりで」
岸本に向けるその表情に『お前の好きにはさせない』とでも言うような警戒心を露わにして釘を刺した。
「は、はい…、覚えておきます」
「ん……、寝るときは
そう言い残し部屋を出る。残された岸本は隣の部屋のドアが開閉する音を確認するや大きくため息をついた。ある意味では街を歩き回っていた時より疲れたかもしれない。
(はぁーこわっ、なんなのあの子?すっごい警戒してくるじゃん。てゆーか、ここにいる間ずっと今の設定で通さなきゃなの……?)
● ● ●
ほんの数時間前のことだ。恵留が岸本を引き留め、家に帰る前にいかにして体よく岸本を家に泊めてもらうかを話し合っていた。
「——とまぁ言い訳はこんなところかな、覚えた?岸本さん」
「あのー…、葉狩くん?今言ったのほとんどデタラメだけど大丈夫なの?」
岸本が優に話した恵留との出会いとここに至るまでの経緯。その九割が恵留の作り話である。優や父親の陽久に聞かれそうなことを予測して事前にここで考えていた。
「疑り深いと言っても嘘が見抜けるわけじゃない。どっちみち疑われるなら堂々としたらいいよ」
「だけど……」
岸本は一見屁理屈にも思えるロジックを説く恵留にやはり不安を覚える。
「しょうがないよ、ありのまま正直に“家に自分がもう1人いるから帰れない”なんて言っても信じてもらえないだろうし、下手に“アレ”のこと話したら僕らの身に何が起こるかわからない」
「うーん…」
納得したとは言えないが、事が事だけにこの提案を受けざるを得ないのも現実だった。
「こんな時一人暮らしだったら楽なんだけどなー」と、玄関のドアを開ける恵留の言葉を聞き、
(でもまぁ、そういう人のところ行っていやらしい要求されるよりはいいか)
そう考える岸本だった。
「へっくしッッ! ぐす…ッ、ん゛ん〜?」
ちょうどその頃、とある1人の男子高校生がアパートで漫画雑誌を読み耽りながらくしゃみを出していた。
恵留は小学生の頃はよく頼まれると断れない事が多く、良く言えば信頼され、悪く言えばいいように使われてました。
見かねた優は自分がしっかりせねばと思い、今の性格になりました。
お陰で兄を利用する為に近づく人は減り、恵留も安請け合いすることはなくなりました。
次回、再送されます。