暗部の忍が転生して公安ヒーローになる話   作:ぴのっきお

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全部は分かってあげられないけど

片や円陣まで組み一致団結に成功したチーム、片や熱量低めのリーダーから激励の言葉を授かっただけの個の集団チーム。

この試験にかける思いの強さに双方遜色なしとは言えど、やはり団結によって生じた熱が上乗せされたBチームはスタートから好調だった。

 

 

「何て言うか……向こうのチームはちゃんと連携が取れとるのに、蒼良ちゃんのチームはバラバラやね」

 

「リーダーのコミュニケーション能力の差が明確に出たな」

 

「そんな言い方をしないでください。蒼良のチームだってそれなりに頑張ってるじゃないですか。ただ、少しばかり相手チームよりも独りよがりな行動が目立つだけで」

 

 

蒼良のコミュ障をズバリ指摘する廻に、目良が苦し紛れの反論をする。

と、その横で啓悟が目良に加勢すべく、その通りと大きく頷いた。

 

 

「皆自分が捕まらない事が第一優先って感じの動きやね。蒼良ちゃんの駒やって自覚が足りてないんやなかと?」

 

「啓悟、彼らは駒ではなく一応仲間という立場であって……」

 

「まったくだ。どいつもこいつも蒼良の手を煩わせやがって。ヒーローたるもの自己犠牲の精神を美徳として生きていけよ」

 

「彼らも君だけには言われたくないでしょうね、絶対に」

 

「今の台詞、前回のビルボードインタビューの時に誰かが言っとった気がする。そんで廻くんはそれ見て『病気みたいな思想だな、気持ち悪い』とか言っとった気がする」

 

「掌くるっくるじゃないですか。廻くんってホントにヒーロー向いてませんよね」

 

「俺をヒーローにさせたがったのはあんただろうが」

 

 

Aチームはリーダーの統率力が低いため、悪く言えば烏合の衆状態だ。

稚拙なりに連携をとってはいるものの、協調性以上に個々人の我が強く出るあまり噛み合わない点が多く見受けられる。

そんな不利な状況の渦中に蒼良が身を置いているというのに、どこか緊張感のない実況をしている三人はやはり、心のどこかで彼女の勝利を信じているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

試験前、実質的にAチームからの独立を宣言することとなった黒髪の青年__名を磁場創真という彼は、いわゆる強個性の持ち主だ。

ヒーロー名、マグネティック。

個性『磁場操作』__右手で触れたものにはS極を。左手で触れたものにはN極を付与し、磁力の強弱を調整できる。

 

扱いを間違えれば自らの足を引っ張る事にもなりかねない個性であるため、能力に胡坐をかくことはなく、泥臭く鍛錬を積んできた苦労人だ。

人事を尽くしてきたお陰か、かつての同級生が三人も集合し、個性を最大限に活かせるチームアップが可能となった今日、天は自分に味方したのだと彼は直感した。

 

文字にしてしまえば味気ないものだが、そう思えるほどに努力をしたのだ。

今日この会場にいる誰よりも自分が強いとは思わない。

けれど、誰よりも努力してきたのは自分だと創真は信じている。

ヒーローに焦がれる気持ちだって、人一倍強い自負がある。

だからこそ、試験に対する緊張も不安も熱意も何一つ感じ取れない蒼翼の女が癇に障った。

 

そんな苛立ちに後押しされ、多少強引な手段をとることにも目を瞑った。

それがたとえ後ろ指を指されるような自己中心的行動であったとしても、ヒーローデビューさえしてしまえば、デビュー前のこんな試験内容が掘り返される事などきっとないと考えた。

それに何より、対人関係も好感度アップも創真の得意とするところなのだ。

今日信用を失ったとしても、そんなものは三日もあれば取り戻せると判断した。

 

試合開始と同時、協力者の三人と自分自身に磁極を付与して動き出す。

久しぶりのチームアップとは言え、流石は元同級生と言ったところか。

かつて培った共闘の感覚はすぐに体に蘇った。

 

互いに互いを知り尽くした四人の連携に澱みはななく、彼らの創真に対する信頼もあの頃のまま揺らぐことはない。

鮮やかな連携で敵の攻撃をかわし、時に襲撃を仕掛け、ようやく相手チームの一人を自陣の檻の中に収容した時、戦況を告げるアナウンスに続いて、試験開始から半分の時間が経過したことを告げる放送が響いた。

 

極限の集中と緊張の中、時間感覚を失っていた創真は、ここで初めて違和感に気が付いた。

試験終了まで残り半分を切った今現在まで、彼は一度たりとも自らの所属するAチームメンバーが捕まったという放送を耳にしていなかったのだ。

目の前の自陣の檻の中、複数名の敵が収容されている光景を前に、自陣営が彼らに押し勝っているという予想外の事態に困惑した。

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

「……まるでゲーム感覚だな」

 

 

鼻まで覆い隠したデニム生地の下、会場に響くアナウンスを聞いた維は思わず声を漏らしていた。

その視線の先にあるのは、岩山の頂に直立不動で佇んでいる一人の女の姿だった。

無骨な岩肌に両足をつけ、風に揺られることすらなく、フィールド全体を俯瞰している彼女の背には、本来あるべき鮮やかな羽はもうほとんど残っていない。

彼女の消えた蒼翼は今、その役割を果たすべく、会場の至る場所を風のように飛び回っているからだ。

 

試合前の自己紹介の場において、彼女は羽の一枚一枚を自由に動かせると実演していた。

近、中、遠距離戦闘全て可能だと宣言していた。

その羽を使い、索敵までをも行えると。弱点はないのだ。しかし___、

 

 

「理論的に可能であることと、実際にそれが出来るかどうかは別問題だ」

 

 

いったい誰がここまでの事態を想定できただろうか。

たった一人の人間がこの広大なフィールド全体を掌握し、チームメイト全員を同時にサポート出来るだなどと。

自分の翼を全て同時に操作して最適な形で戦局を動かすなど、理論上は可能でも、実際にそれを行うには膨大な集中力と反応速度、そして信じられないほどの経験と直感が必要だ。

 

全ての羽に彼女の意識が宿っているとするならば、あの頭の中で膨大な情報がどのように処理されているのか、維には想像もつかないのが恐ろしい。

あの羽の緻密なコントロールにも尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

あれだけの量が、精密かつ瞬時に調整されているのだ。

 

維自身、繊維を自由自在に操るファイバーマスターという個性を、相当な練習量で磨き上げて来たからこそ分かる。

必死に努力してきたはずの今の自分でも、辿り着けない境地に彼女はいるのだという事実が。

 

まるで盤上の遊びの如くゲームメイクをする彼女に、さしもの維も始めは心を乱されかけた。

目の前で繰り広げられる驚異的な才能の発揮に、呆れと感心、そして深い畏怖を感じた。

 

オールマイトのような眩しいほどの存在感があるでもない。

威圧感があるでもない。

無口で静かで、まるで周囲の空気に溶け込むように存在していた――そんな彼女は、維の世界をひっくり返すほどの力を隠し持っていたのだ。

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

「さっきの放送は聞いたか?残り時間はあと二十分程度だそうだ。デタラメな力を発揮し続けているが、最後まで体力は持ちそうか?」

 

 

トンと軽やかな音を立て、背後に立ったデニムの男に首だけ振り返り、蒼良はあっさりと頷いた。

 

 

「デタラメな戦い方なんてしてないよ。皆思った以上に優秀だったから、私は少し手助けをしてるだけ」

 

 

例えば、隠れ潜んでいる相手の居場所を教えたり。羽で敵の目くらましをしたり。

時々物理攻撃で加勢をする場面もあるにはあるが、基本的にはその程度だ。

助力は不要と判断した場合は、皆の活躍の場を奪う事が無いようにと、見守るだけに徹している。

 

始めのうちは厄介な立ち回りをする蒼良を疎み、この岩場まで攻撃を仕掛けに来る者もいたが、適当に返り討ちにしているうちに誰もここへは近寄らなくなった。

蒼良は味方の手助けこそすれど積極的に敵を倒しにかかる訳ではないため、どうやら敵のリーダーから触らぬ神に祟りなしと判断されたようだった。

 

 

「ベストジーニストは思ってた通り誰よりも優秀だったね。私の助けなんて全く必要としてなかった」

 

「長ければジーニストと略してくれても構わない。君にそれを言われるのは、嬉しいようで少し複雑だな」

 

「複雑?」

 

「本音を言うと、私は君にも負けたくなかった。せめて、対等でありたかったと思ってしまうよ」

 

 

悔しそうに、どかこ寂しそうに言う維を横目でチラリと盗み見た蒼良は、「でも」と小さく口を開いた。

 

 

「ジーニストはまだ本領を発揮していないだけだよね?その個性、本気になればもっとやりようはあると思うけど」

 

「……身に余る評価だな。私はこの試験において手を抜いた覚えはない。生憎、最初からちゃんと全力だ」

 

「嘘だ。だってその個性、他人の衣服にも使えるんでしょう?それなのに、ジーニストは自分のコスチュームを分解して攻撃する手法ばっかりだった。相手のコスチュームを全部分解してしまえば良かったのに」

 

「一応聞くが、気は確かか?」

 

「全裸になれば、コスチュームに特殊な機能を仕込んでる人はその時点でほぼ戦闘不能になるはずだよ。それでなくとも、羞恥で動けなくなる人間は多いと思う。特に女性は恐らくその傾向がより強く__」

 

「気は確かか?」

 

 

倫理観の欠片もない、ヒーローにあるまじき戦い方を伝授しようとする蒼良の言葉を強制的に遮り、維は呆れてため息をついた。

思考が読めない人物だとは思っていたが、維が最初に抱いていた印象よりもずっと、

 

 

「変なんだな、君は」

 

「よく言われる」

 

「自覚があって何よりだ」

 

 

こうして軽口を交わす間も仲間のサポートへ向ける意識を途切れさせない蒼良の背中に、畏敬とほんの少しの親しみが混ざり合う。

 

 

「まるで無限のデータを同時処理するコンピューターみたいだな」

 

「コンピューターは初めて言われた。人形みたい、なら昔からよく言われてきたけど」

 

「君は昔からそんな感じなのか。苦手な事や不得意な事は一つもないのか?」

 

 

人形という表現を『感情のない操り人形』ではなく『完全無欠で人間味がない』と好意的に捉えてしまった維が少々ズレた質問をしたものの、蒼良は特に気にするでもなく「あるよ」と素直に返答した。

 

 

「パワー型の敵は苦手。力で押し切る戦い方は、私の得意な戦闘スタイルとは真逆だから」

 

「なるほど、パワー型……と言うと、今まさにあの集団の元へ突撃していった彼なんかがそうか」

 

 

飄々としている彼女にも苦手なものはあったのかと安堵しながら維が指さすその先には、Bチームの戦力の要と言っても過言ではない者の姿がある。

ヒーロー名、ビースト。

個性『獣化』___モデルはゴリラであり、腕や足など体の一部、または全部を獣化させることが可能だ。

 

ゴリラは全身の筋肉が異様に発達した動物で、その身体能力には凄まじいものがある。

推定では平均握力が五百キログラム。

パンチ力は二から五トンほどとされており、言わずもがなビーストはパワー特化の戦い方を得意としている。

 

今日最も蒼良の手を煩わせていると言っても過言ではない彼が次に目をつけた集団とは、創真たち四人組のことだった。

試合開始直後は最も連携力の高い彼らを警戒対象として見ていたが、次第に彼らが他のチームメイトとは関りを持たず孤立している事に気が付いたらしい。

四人の内、最も制圧し易いと判断した女の腕を掴み、抵抗すら許さない見事なまでの腕力で彼女を抱えて走り出している。

 

 

「あれは流石に分が悪いな。私が行こう。ちょうど長話をし過ぎてしまったと思っていたところだ」

 

「……いや、私が行く」

 

 

乱れかけていた前髪を撫で付け、抜けかけていた気を引き締めながらそう宣言した維が聞いたのは、予想だにしない返答だった。

 

 

「ごめんね、あれは譲ってほしい。一回くらい目立っておかないと、不合格になるかもしれない」

 

「今までは目立っていないつもりだったのか君は」

 

 

神の視点に立ち、この会場の全員をその掌の上に乗せているくせに、彼女の言葉には不思議と嫌味が感じられない。

何度か会話のラリーを交わした事で、維には蒼良が本気でその言葉を吐いているのだと分かったからだ。

 

 

「君がこの試験に落ちるようなら審査員は全員首を斬られるべきだと思うが……まあいい。君に譲ろう。君が苦手とする相手とどう戦うのか、正直なところ興味しかない」

 

「よく分からないけど、助かる。ありがとう」

 

「君がそっちに集中している間、手薄になる範囲は私が補っておこうか?」

 

「大丈夫、その心配は要らないと思う」

 

 

一度に複数の方向へ意識を向ける事など、前世では出来て当然とされる技術だった。

上忍と呼ばれる忍界でも上位の称号を持つ者は皆、十のクナイを同時に投げて十の的に当てるという離れ業を何の苦もなくやってのける。

蒼良の場合は、二桁に満たない子供の頃からそれが出来た。

出来なければ許されなかった。

出来なければ、きっと生き残れなかった。

 

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 

宣言した直後、蒼良の右足が抉るように強く岩肌を蹴っていた。

強烈な推進力を得た体が、走り去るビーストを猛追する。

蒼良が彼に辿り着くより先に、創真が仲間を取り戻そうと立ち向かう姿が目に入った。

 

出力最大の磁力で、離れていく仲間を自分の元に引き寄せようとしている──が、純粋な力で創真の抵抗をねじ伏せながら、ビーストは止まることなく走り続ける。

必然、止まらない彼に引き寄せられるのは創真の方で、このままでは助けようとした仲間と共に創真までもが敵の手に落ちてしまう。

 

磁力が一瞬、弱まった。

引きずられていた創真の身体が、前のめりになって動きを止める。

仲間の方に伸ばした手が空を切り、そのまま地面の砂を掴んだ。

 

冷静なその判断に内心で感心しながら、蒼良は創真のすぐ隣を駆け抜け、跳ね上がり、そのまま逃げる獣の脳天に真上から踵を叩き落とした。

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬きをした瞬間、気が付けば仲間が一人消えていた。

思わぬ自陣の優位を知って、油断してしまっていたことを創真は恥じた。

 

 

「クソッ、しまった__!」

 

 

しかし後悔している暇などない。

そうしている間にも仲間が敵に抱えられ、グングンと姿を小さくしていく。

ビーストの存在を視認したと同時、創真は考えるよりも先に走り出していた。

敵の脚力は凄まじく、普通に追いかけていても追いつけるビジョンはまるで見えない。

 

 

「待てよ、返せッ!俺の仲間だ!」

 

 

ビーストの背に掌を向け、彼の腕に囚われた仲間を引力で取り返そうと試みる。

けれども引かれていくのは自分ばかりで、近づいてくる敵チームの檻に思わず身体が強張った。

あの箱に入れられた瞬間、自分の不合格が確定するのだ。

幼いころからヒーローに憧れ、人一倍努力を重ねた創真がこの試合にかける思いは並ではない。

 

 

「……ッ」

 

 

ゾクリと駆け抜けた寒気のせいか、創真は本能的に恐怖を回避する行動を取った。

見捨ててしまったのだ。

互いに助け合おうと約束した仲間を、自分可愛さに。

 

これ以上のアクションを起こして、自分まで巻き込まれてしまうことが恐ろしかった。

それなのに、捨てられたのだと理解した瞬間の彼女の顔が、こちらを見つめる仲間の顔が、呆けたように力の抜けた、友のその表情が、創真を何よりも恐怖させた。

 

 

「……あ、」

 

 

絶望と言う言葉は、まさにああいう姿を言うのかもしれないと思った。

溺れまいともがいていた人間が、可能性を失った瞬間のような眼差しだった。

助けを求める友の手を放したのは創真で、溺れる彼女に背を向けたのも創真だった。

 

 

「ああ……」

 

 

けれど、自分に何が出来る。

あの圧倒的なパワーを持つ獣を、どうして追いかける事が出来る。

他二人の仲間が強者を前に顔を背け、諦めている現状をどうして責める事ができる。

創真にはただ、奥歯を噛みしめその拳を握りしめることしか____

 

 

 

「____」

 

 

 

瞬間、自分のすぐ横を通り過ぎた青空のような閃光を、創真は認識することが出来なかった。

それは見惚れるほどに美しい軌跡を描きながら、跳躍一つでビーストの頭上に辿り着いていた。

蹴りつけられた地面から伝わる振動に、創真は息を呑んで目を見張った。

 

 

踏みつけられ、倒れた獣の隣、軽やかに着地したそれが背を伸ばして振り返る。

それは、夜を溶かしたような黒だった。

澄んだ空気が広がるような青だった。

 

 

「__マグネティック」

 

 

それがいきなり自分の名前を呟いたので、創真は硬直したまま困惑した。

こちらを振り返ったその正体を理解して、無様を指摘されるのかと身構えた。

しかし実際にはその呼びかけに深い意図など何もなく、動かぬ創真を手招きを加えて蒼良が急かす。

 

 

「この人、運べそう?気絶してるから今がチャンスだよ。一人は無理でも四人でなら出来るよね?」

 

 

駆け寄った途端に感情のない声でそう言い放たれ、創真は一瞬、馬鹿にされているのかと疑った。

並外れた実力差をまざまざと見せつけた直後に美味しいところだけ与えようなど、当てつけ以外の何物でもないと感じたのだ。

言外に、ここまでお膳立てすればお前たちでも出来るだろうと言われたような気分だった。

 

 

「……四人で?今さらどうやって」

 

 

感謝に先んじて生まれた苛立ちが、創真の口からお礼の言葉を遠ざける。

蒼良を責めても仕方がないと分かっているのに、口調に恨みがましさが滲んでしまう。

 

たった今仲間を裏切った創真は、長い時間をかけて築き上げた信頼を全て失ったのだ。

頼れるリーダー気取りで振る舞っておきながら、いざという時に盤面をひっくり返せるような力も、揺らがない友情も持ち合わせていなかった。

それが露呈した今、蒼良の隣にへたり込んでいる彼女の顔を見る勇気が湧いてこない。

 

 

「質問の意味がよく分からない。普通に持ち上げて運べばいいと思うけど。両腕と両足と胴体部分を分担して支えながら__」

 

「からかわないでくれよ。やっぱり俺が最初にチームの雰囲気を壊したこと、根に持ってたのか?」

 

「からかってないし、チームにまとまりがないのは貴方のせいでもない。私の実力不足なだけ」

 

「な……、」

 

 

いとも簡単に己の至らなさを認めた蒼良に、創真は面食らってたじろいだ。

自信家で無遠慮で偉ぶっている女だとばかり思っていたのだ。

その自信の裏付けとなる実力の一端は先ほど垣間見えたわけだが、だからこそ他者を見下したような態度を取っていたのだと思ってしまっていた。

 

しかし、本当はその全てが創真の勘違いであったなら。

もしやこの女は驚くほどに素直なだけで、これまでの言動に一つの悪意も含まれていなかったのではないかと、創真はようやく思い至った。

 

 

「そんなことより、彼はいつ目覚めるか分からないよ。無駄話をしてる場合じゃない。ミラージュ、貴方も立って。怪我はしてないでしょ?」

 

 

ビーストにチラリと顔を向けた後、蒼良は自分のすぐ横でぺたりと地面に腰を下ろしている女に声をかけた。

ミラージュと呼ばれた女の肩が揺れ、上を向いたその顔にはありありとショックの色が浮かんでいた。

ほとんど確定のような不合格の未来を見て、信頼していた仲間にも裏切られたばかりなのだから無理もない。

バクバクとうるさい心臓に上から手を重ね、青ざめた顔をしている彼女の前に、ストンと蒼良がしゃがみ込んだ。

 

 

「どうしたの?どこか痛いところがあるなら隠さずに教えて」

 

 

変わらず乾いた声ではあるものの、その姿勢は幼子に対するそれのようで、側で見ていた創真はまたしても蒼良の意外な行動に驚いた。

 

 

「怪我は、ない。助けてくれてありがとう。……でも、無理だよ。だってマグネティックは、創真は私を見捨てようとしたんだよ?またいつ捨てられるかも分からないのに、そんな人とどうやってまた協力しようなんて思えるの」

 

 

震える声で、潤む瞳で訴える彼女に、分かっていたはずのその本音に、青ざめたのは創真の方だ。

卑怯者だとなじられている。

信じていたのにと、泣かせてしまった。

こんな自分はまるでヒーローらしくない。

こんな時まで試験への影響を考えてしまう、この思考も全部。

 

 

「チームのために個が犠牲になるのは、仕方がないと私は思う」

 

 

無意識のうちに視線を下げていた創真は、蒼良の発言に弾かれたように顔を上げた。

 

 

「貴方たちのチームアップの核はマグネティックで、彼を失えば残り三人は機能しなくなる。ミラージュは不要と言いたいわけじゃない。ただ、被害を最小限に抑える方法を冷静に考えてみれば分かるはずだよ。私がマグネティックの立場なら同じことをしたし、ミラージュの立場なら捨てられたとしても文句はない」

 

「それは……ッ、貴方が仲間に裏切られた事がないからよ……。想像の範囲内なら何とでも言えるわ」

 

「想像じゃない。捨てられたことならある。怪我をして使い物にならなくなったから捨てられた。でも、それは至極当然の判断だったと今でも思う」

 

 

蒼良が語るのは前世の記憶だ。

治療をすれば助かるかもしれなかった状態で、利用価値と治療の負担を天秤にかけられ、前者が劣ったので捨てられた。

そうしてそのまま死んでしまった。

自分を捨てた組織の人間に対し、恨み言など今だって何も思いつかない。

むしろ、あの場ではあの選択が最善だったと納得している。

 

 

 

「___でも、理屈だけじゃ納得できないこともあるって、少しだけなら理解できる」

 

 

蒼良の頭に思い浮かぶのは、今はもう会えなくなってしまった溌溂とした笑顔の女性だ。

大局の為に彼女が犠牲になる事を、蒼良は受け入れられなかった。

 

 

「全部は分かってあげられないけど、もしもまだ頑張れるのなら立ってほしい。色々と整理するのはこの試験が終わってからでも遅くはない……と、私は思う」

 

 

語尾にあくまでも自分の意見だという主張を付け加える蒼良に、創真は初めて彼女の人間らしさを見つけた気がした。

傲岸不遜なのではなく、あまりにも自然体なだけ。

思いやりがないのではなく、理解できていないだけ。

けれど彼女はそんな自身の特性を理解していて、泣いて傷付いている相手の前では慎重に振る舞おうとする優しさがあるのだと、そう思えた。

 

 

「一緒にヒーローになるんでしょ?」

 

 

その一言と共に差し伸べられた蒼良の手を見て、ミラージュの目から大粒の涙が数滴こぼれ落ちたかと思えば、彼女は自身の腕でそれを拭い、蒼良の手を取って立ち上がった。

 

 

「……ごめんね。私は貴方、リーダーに向いてると思う……だって、カッコいいもの。ありがとう……ええと___」

 

「アズール」

 

 

何かを思い出そうと赤い目で斜め上を見たミラージュに、彼女の探し物をすかさず蒼良が差し出した。

 

 

「そっか、ありがとうアズール」

 

 

今日初めて見る笑顔を蒼良に向けたミラージュは、「ところで」と話を切り替え、

 

 

「貴方が蹴り飛ばした彼はさっきからピクリともしてないけど、大丈夫なの?かなり打ち所が悪かったんじゃ……」

 

 

指一本動かせず、うつ伏せに倒れているビーストを見下ろし、恐ろしいものを見る表情で尋ねた。

 

 

「大丈夫、殺してはないよ。ヒーローはヴィランだって殺さない」

 

 

当たり前のことを堂々と宣言する蒼良に、一瞬変な空気が流れ、「……やっぱり相当変な奴だな」と呆れた創真の一言が沈黙を破った。

 

 

「さっきジーニストにも言われたばっかり」

 

「流石だな、俺より早く気がついてたか」

 

 

変な奴だけど、悪い人間ではない。

恐ろしく不器用なだけの蒼良に、創真はもう忌避感を抱いてはいなかった。

 

 

「ミラージュ、俺のことを嫌いでも許せなくてもいい。この試験が終わったら、ちゃんと話をしよう。だから……」

 

「分かってる。協力するよ。だって、私もヒーローになりたいもん。それに、リーダーからのお願いだからね」

 

 

そう言ってチラリと蒼良に視線を向けた彼女は、信頼を預ける相手が変わったことをチクリと創真に伝えることでささやかな報復としたようだ。

これには創真も胸を痛めたが、苦笑で流して切り替えると、後方からこちらに向かってきている他二人の仲間を自分の元へ引き寄せた。

 

 

「ありがとう、アズール。俺たちは自分の役割を果たしてくるよ」

 

 

振り返り、先ほどは言えなかったお礼をようやく告げることが出来た創真に続き、ミラージュが蒼良に微笑んだ。

 

 

「行ってくるね、アズール。……最後に一つ質問なんだけど、どうして私たちのヒーローネームを知ってたの?」

 

 

自己紹介の席を外れ、伝える機会などなかったにも拘わらず、蒼良は二人の名前を迷いもせずに口にしていた。

二人は言わずと名の知れるような人間ではない事を自覚しているし、蒼良がわざわざ誰かに尋ねるほど自分たちに興味を抱いていなかった事も知っている。

特にミラージュに至っては、学生時代から創真のように前に出て目立つタイプの生徒ではなかったため、純粋に不思議に思っていたのだ。

 

 

「チーム分けの発表の時、モニターに写真と名前が表示されてたでしょ?」

 

 

こてりと首を傾げた蒼良の発言を、二人は数秒理解できなかった。

確かに最初の待合室で試験内容の説明があった際、大画面に表示はあったが、あれは自分の所属するチームを確認するためだけの短い時間の出来事だった。

仮に自分以外の数名を記憶できたとしても、その中にたまたま「マグネティック」と「ミラージュ」が入っていたとは何故だか考え難かった。

 

 

「……もしかしてだけど、君、あの時間で全員分覚えたの?」

 

 

創真が問えば、さも当然のように蒼良が頷く。

ある程度その返答を予想していたお陰か訪れた衝撃は大きくなかったものの、それでも反則だと思わずにはいられない。

 

 

「君が敵じゃなくて良かったよ」

 

「私も今、心底そう思ってる」

 

 

離れていた創真とミラージュの心が思いがけず重なり、ぎこちない笑みを交わした後、彼らはビーストを担ぎ上げた。

 

 

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