深く深く沈んでいた仁の意識を急速に引っ張り上げたのは、腹部をグチャグチャに切り裂かれるような激痛だった。
「い”ぃ”っ”___!?」
くぐもった叫び声を上げながら飛び起きた仁は、即座に自分の腹を見下ろし、そして何の異常もない肌を見て一人首を傾げる。
「あれ……、どこも痛くねぇ……」
さすさすと腹を撫でていると、「おい」と横から声がした。
「起きたそばから激しく動くな。点滴の針が抜けるだろうが」
言われて気がついたのだが、仁の左腕からは一本の管が伸びており、管の先は輸液バッグに繋がれている。
今の今まで、仁は白く清潔なベッドの上で前開きの病衣を着て寝かされていたのだ。
「ここは病院か……?」
問いながら横を向けば、上着のポケットに手を突っ込んだ黒髪の少年が冷ややかな視線で仁を見下ろしていた。
身長は百七十センチ近くあるが、顔つきがまだ幼いので恐らく少年で間違いないだろう。
「正確には少し違うけど、みたいなものだよ。無事で良かったねお兄さん」
やけに聞き覚えのある声が聞こえ、反対側を振り向くと、そこにはあの仮面の女が立っていた。
女の前には茶髪と灰髪の小さな男の子が二人居て、何故か若干仁を警戒するような目つきで見つめている。
「あんた……あの時のヒーローか。礼を言うのが遅くなった。助けてくれてありがとうな」
「仕事だから気にしないで。ところで今は喋り方が落ち着いてるけど、心身共に状態が良くなったからかな?」
言われてみれば、今の仁は第二人格が表れることなく普通に会話ができている。
頭は剥き出しで、何にも包まれていないのにもかかわらずだ。
「確かにあん時に比べりゃ今はだいぶ気持ちが落ち着いてる。それにベッドで寝かされてたお陰か、体調も随分良くなった気がするよ」
「馬鹿言え。あんな重度の脱水患者が睡眠一つで回復するか。お前の体調が良くなったのは俺の治療のお陰だ」
またしても棘のある言い方をしてきたのは、先ほどの黒髪の少年だ。
「お兄さんね、検査してみたら、腎臓へのダメージが大き過ぎて治療が必要だったの。それでついさっき、彼が貴方を治療してくれたところなんだよ」
「もしかしてさっきの激痛の原因それか……!?」
「正解だ。腹部一帯を一度全部バラバラにして作り変えてやった」
「何それ怖ぇ……初めて聞く治療法だ……てゆーかお前、まだ子供じゃね?」
「無免許だが問題ない」
「問題しかねぇな!?違法治療じゃねーか!」
「いちいち騒ぐな。上からの許可は下りてるんだよ」
「お前ら揃いも揃って許可取りゃ何でもありなのかよ!?てか許可してんの誰だよ!!」
医者の資格すら持たない子供に自分の身体を一部分解されたのかと思うと恐ろしくてたまらない。
もし失敗していたら、今頃仁は死んでいたのだ。
自分自身を両腕で抱きしめるポーズを取ってギャンギャンと喚く仁を前に、少年が小さく舌打ちを落とした。
使い捨てのゴム手袋をつけた手が、仁の頭を容赦なく鷲掴む。
「『ありがとうございます」、だろ?復唱か分解か、好きな方を選べ」
「ありがとうございます。……医者の卵が病人を脅しやがった」
「何か言ったか?」
「『ありがとうございます』!!」
仁が半泣きで敬礼のポーズをとっていると、横から仮面のヒーローが「お兄さんは今、絶対安静中だからね?」と釘を刺した。
生意気だった少年が、その一言で渋りながらも素直に仁から手を放す。
「ありがとうヒーロー、また助けられた。あんたは本当に俺の命の恩人だ……!」
そう言って何気なく女に向けて伸ばした両手は、彼女に届く前にぴしゃりと叩き落とされた。
仁の手を打ったのは、彼女の前方に陣取っていた二人の小さな男の子だった。
「勝手に触るな」
「……お兄さん、ヴィランなんやろ?」
鋭く睨む四つの目が仁に向けられている。
『ヴィラン』――その言葉がずしりと重く仁の頭に響いた。
そうだ、自分は犯罪者だ。
楽をしたいがために何度も悪事に手を染めてきた。
しかしそれを、どうしてこの子供たちが知っているのか。
「分倍河原仁、十七歳。窃盗と強盗の常習犯。未成年だから公にはされてないけど、お兄さんは警察の中ではかなり有名人だったらしいよ。そのせいで、ここに運ばれる途中に素性が分かった」
淡々とした女の口調は、これまでとまったく変わらないはずなのに、なぜだか突然侮蔑の響きを帯びて仁の耳に届いた。
まともな学歴はなく、人を撥ねた前科を背負い、加えてこの鋭い目つき。
いくら仁が心を開こうと努力しても、人々はいつだって彼に背を向けた。
やっとこんな自分の声を聞いてくれる人が現れたと思えば、彼女はヒーローで、自分はヴィラン。
どうやったって相容れない。
そう思うと胸の奥が重く、暗く沈んでいく。
「ごめんなさい。まだ貴方がどんな人なのか分からないから、皆少し警戒してるみたい」
気遣いを示すような言葉だったが、その仮面の下で彼女がどんな表情を浮かべているのかは分からない。
それが仁にはひどく恐ろしく、同時に少しだけ安心もした。
もし彼女にまで軽蔑の視線を向けられているのなら、自分はきっとまた泣いてしまう。
「違うんだ……その、隠してたわけじゃない。言うタイミングがなかっただけで……人の過去を勝手に暴くなんて最低だな、見損なったぜヒーローのくせに!」
謝ろうとしたその瞬間、自分の口から飛び出した言葉に仁自身が驚き、慌てて口を閉じた。
二人の少年の目に、より強い警戒心が宿ったのが伝わってくる。
「ち、違う……っ!あんたは何も悪くない。悪いのは俺だ。俺はあの廃墟の中で思い知ったんだ……!過ちを犯したから報いを受けた、自業自得だって分かってた……ッ!いいや、俺は悪くねぇ!悪いのは俺の両親を殺したあいつだ!バイクの前に飛び出してきたあいつだ!俺の話をちっとも聞いてくれなかったあいつだ!あいつらだッ!俺は何にも悪くねぇ!!違う……ッ」
ただ不運続きだっただけのあの頃と今はもう違う。
今の仁には落ち度がある。
自分の意志で犯罪に手を染めた事実が確かにあるのだ。
悪いのは自分だと、そう理解しているはずなのに、言いたくもない言葉が勝手に口をついて出ていくのを止められない。
これは、恩人に向けて吐くべき言葉ではない。
焦りで背中から冷たい汗が噴き出し、肌を伝って流れ落ちていく。
これ以上は何も言うまいと、仁は顔を伏せて口元を強く押さえた。
それでもひどく醜悪な言葉は、止まる気配を見せなかった。
「俺は悪くねぇ!」
「違う……っ」
「ああやって生きる以外に選択肢なんてなかったんだ、しょうがねぇだろ!」
「違う……っ!」
「俺を責める前に、お前がもっと早く俺を救いに来いよ!ヒーローなんだろ!?」
「違う!やめろ、もう黙ってくれッ!!」
仁が許していないのに、口は勝手に言葉を紡ぎ、指の隙間からこぼれていく。
身体の中で激しい主導権争いが起きている。
もう一人の自分が顔を出そうと暴れているのだ。
裂ける、千切れる。このままじゃまた___、
「ごめんなさい。私はいつも気がつくのが遅いし、ヒーローには向いていないの」
静かな声だった。
自分の言葉が彼女を傷つけたのではないかと仁が青ざめる中、変わらぬ口調で彼女は続ける。
「感情が昂ると第二人格が出てきちゃうみたいだね。お兄さん、一度落ち着いて深呼吸して」
彼女の手が、顔を覆い項垂れる仁の腕にそっと触れた。
そのまま優しく両手を取られ、不安に泣きそうになった瞬間、仁の顔に何かがそっと被せられた。
仮面だ。おそらく、彼女がつけていた狐面だった。
「どうかな、これで一つになった?」
「おいッ、お前何考えて……!」
「駄目だよ、顔が見えちゃう!」
「後ろ向いて、早く!」
彼女の突飛な行動に三人の少年たちが狼狽えるが、彼女だけは冷静なままだった。
「お兄さんが言ったこと、もっともだと思った。勝手に人の過去を暴くのは失礼なこと。私は自分の素顔すら見せずに、一方的にお兄さんの事情を探った」
「それの何が悪い、それがお前の仕事だろうが!」
「そうだよ!対等になる必要なんてなか!」
「ねぇ、絶対顔を上げないでよ、見たら一生許さないから!」
少年の一人が必死に仁を牽制する。
しかしそんなことを言われずとも、仁には顔を上げる勇気などなかった。
彼女が今、どんな表情をしているのか見たくなかった。
あんなにも酷い言葉をぶつけてしまった自分を、彼女がどんな目で見ているのかなど、知りたくなかった。
「貴方の経歴について、ざっくりとだけど警察から話を聞いた。貴方は悪くない___そう言い切るのは、難しかった」
彼女の言葉が仁の胸を鋭く突き刺す。
胸の奥底で悲鳴が上がり、ひび割れるような痛みが広がった。
「でも、貴方だけが悪いわけでもない。それこそ、貴方をもっと早くに救えなかった私にも責任はある」
「なに、言ってんだ……」
仁は強く目を閉じ、首を横に振った。
そんなわけがない。
責任転嫁にも程がある。
落ちるところまで落ちてしまったが、そんな言葉に賛同するほど恥知らずには成り下がっていないつもりだった。
「自分一人じゃ耐え切れないから、貴方は自分を増やしたんでしょ?」
「そうだよ、その通りだ……俺は弱い。寂しくて、苦しくて、仲間欲しさに俺を作った」
「作ってみて、どうだった?」
「結果なら、あんたも見ただろ? 俺は俺自身にすら信頼されない……その程度の人間だった」
自らの言葉で傷つく自分が情けなかった。
あまりにも惨めだ。
無力で、無様で、無意味な人生だ。
もっと賢かったならよかった。
もっと綺麗な見た目だったなら。
もっと運に恵まれていたなら、今よりはマシな場所に立てていたのかもしれない。
しかし、そんなものは全て無いものねだりだと知っている。
そして本当に望んでいるのは、知性でも容姿でも運でもなかった。
仁が本当に欲しているものは、ずっと喉から手が出るほど渇望していたものは___、
「もしも罪を償うのなら、貴方が欲しがっていたものをあげる」
「……は?」
唐突な彼女の言葉に、仁は間の抜けた声を漏らした。
「あんた、俺に更生しろって言ってんのか……?」
「ヒーローはヴィランを救えない。私はルールを順守する」
「だから……っ、だから俺に、ヴィランでいる事をやめろって?」
無理だ。
今さら真っ当な生き方なんて想像もできない。
楽な方へ流れ、自分の犯した罪すら運命のせいにして逃げ続けた人間だ。
もしかすると、救われる価値など最初からなかったのかもしれない。
自責の念に呑まれかけて自己完結しようとする仁に、再び同じ言葉が繰り返される。
「罪を償って戻ってきたら、貴方が欲しがっていたものをあげる」
「それが何なのか、あんたに分かるのかよ……?」
「家族」
簡潔に言い切った彼女の言葉に、仁の喉が詰まった。
「私たちと、家族になろう」
「「は……?」」
震える声で問い返したのは、仁だけではなかった。
彼女の言葉を理解するための一瞬の空白の後、黒髪の少年が隠し切れない苛立ちを滲ませながら吠える。
「馬鹿言え!うちはボランティア施設じゃないんだぞ。お前の独断でヴィラン上がりの厄介者なんて引き取れるわけがないだろ」
「私だって何も考えずに言ってるわけじゃない。彼の能力なら十分実現可能だと思うから、今こんな話をしてるの」
「だとしても俺は反対だ。お前に危険分子が近づくのを黙って見てるつもりはない」
「彼が私たちに危害を加える可能性は限りなく低いと思う。それでも不安なら他にも考えが___」
「待て、待てよ、待ってくれ……ッ!」
置き去りにされて進む会話に慌て、仁はとうとう顔を上げてしまった。
視界に映ったのは、真っ直ぐこちらを見つめる黒髪の若い女性。
それは仁が十七年の人生で出会った人間の中で、間違いなく一番美しい姿をしていた。
しかし、それに気を取られる余裕もないほどに動揺していた仁は、揺れる瞳を彼女に向け、縋るように疑問を口にした。
「何でだ、何であんた、俺なんかのために……どうしてそこまでしようとする……?おかしいだろ、俺たちは今日会ったばかりの赤の他人だ。それもヒーローとヴィラン、最悪の関係性だ!それなのに何で、あんたはそこまでしようとするんだ……!?」
不幸に慣れ過ぎた仁は、他者から与えられる理由のない優しさに漠然と恐怖していた。
都合が良すぎる夢は、いつかきっと醒める瞬間がくる。
それなら、はなから期待などさせないで欲しい。
いつか豹変し、手のひらを返され裏切られるくらいなら、いっそのこと突き放して、甘い夢など見させないでほしい。
「どうして……何で、俺を……ッ。返せるものなんて何もねぇ。目つきが悪くて頭も悪い、こんな空っぽな俺を、何で……」
「『側にいてくれ』___貴方がそう言ったでしょう?」
感情の読めない、けれど揺るがない瞳が、仁を真っ直ぐに見つめていた。
「一人にしないで、誰かと一緒にいたい。そう言いながら、貴方は泣いていた」
彼女はそれだけを言うと、口を閉ざした。
それが彼女の答えの全てだとでも言うように。
「たった、それだけ……?」
たったそれだけの理由で、人は人を救えるのか。
あまりに簡潔で、あまりにも裏がない。
ヒーローにはあまり明るくない仁だが、他のヒーローが皆が皆こうではない事くらいは分かる。
唇を震わせ、視線を落としかけて、仁は思いとどまった。
一瞬でも彼女の姿を視界から外すことに、言葉にできない寂しさを覚えたからだ。
「とは言っても、無条件じゃないよ。私は信用できない人を、この子たちの側には置けない」
自分の斜め前に立つ茶髪と灰髪の少年たちに手を置きながら、彼女は言った。
「大切なのは行動と実績。言葉に結果が伴わない人間には、誰もついてこない。少なくとも、私が見てきた世界ではそうだった。だから、お兄さんも行動で示して。更生すると決めたなら、それを必ず成し遂げて」
「そうすれば……か、家族に……なってくれるのか?」
仁の問いに、彼女はためらいなく頷いた。
「貴方の帰りを、ここで待ってる」
その一言の重みに、仁は息を呑んだ。
「……待ってる、俺を……待ってて、くれるのか……?」
かすかに開いた唇の隙間から息を吸い込み、胸の奥に刺さった言葉を反芻する。
仁の心に渦巻いていた抵抗が、音を立てて崩れていく。
心の中で絡まっていた痛みがほどけ、張り詰めていたものが溢れ出す。
視界がにじむ。堪えていたものが、もう止められない。
「……っ、う……ぁ……」
最初に洩れたのは、声とも呼べないかすかな嗚咽だった。
その直後、堰を切ったように涙が溢れ出す。
泣き声を上げまいと口を手で押さえるが、嗚咽は喉の奥から止めどなくこみ上げ、肩が震え、胸が詰まった。
愛されたかった。
待っていてほしかった。
ただ、帰る場所が欲しかった。
そのすべてが今、たった一言の約束で与えられてしまった。
こみ上げる感情が熱くて、痛くて、どうにもならなかった。
これまでの仁の人生を不運だと称するなら、ここに来てようやく訪れた彼女との出会いを幸運と名付けたい。
「う、あああ……っ、うぅ……っ!」
辛酸を嘗めた。
悔恨を呑み込んだ。
理不尽と無常に打ちひしがれ、容赦なき運命に翻弄された。
打つ手は尽きた。
逃げ道はなかった。
運命という名の牢に封じられていた仁の元に、ようやく、光が差し込んだ。
泣き声は徐々に形を失い、魂の底から搾り出すような呻き声へと変わっていく。
唇を噛み、顔を両手で覆っても、感情は抑えきれなかった。
次々に溢れる思いが喉を震わせ、肺を揺らし、幼子のような嗚咽となってこぼれ落ちた。
女は何も言わず、ただ仁の前にしゃがみ込んで、そっと手を差し出した。
差し出されたその手を、震える指で掴んだ瞬間___不意に、目の前の彼女がまるで違う存在に見えた。
今まで普通に話せていたのが不思議なくらいに、美しい女だった。
泣き疲れた頭には、思考も感情も浮かんでこない。
ただ目の前の女に視線が吸い寄せられるように動けなくなる。
肌は薄く白く、光を包むように柔らかく。
じっとこちらを見つめる瞳の奥に、どこまでも深い湖のような静けさがあった。
彼女の在り方はあまりにも清澄で、まるで人の世に降り立った女神のようだと仁は思った。
瞳の奥にはまだ涙が残っているというのに、その美しさが室内に静寂をもたらしていた。
現実感のない光景。
気がつけば、さっきまで嗚咽で塞がっていた胸が、ほんの少しだけ軽くなっている。
「……俺、」
薄く唇を開き、仁は必死に声を絞り出した。
女神のようなこの人に、真摯な気持ちを伝えたかった。
「俺、約束するよ……。罪を償って、絶対にまた、ここに戻って――」
「さっきから見すぎだ、お前。蒼良が減る」
「い"……ッ!?」
決意の告白をしていた最中、空気も読まずに近くにあった雑誌をクルクル丸めてスパンと一閃。
仁の頭を叩いたのは廻だった。
「お……っ、お前ホンット空気読めねぇな!?今俺が真面目な感じのこと言う空気出てたろ!?」
「知るか。さっさとその手を放せ。軽々しくそいつに触るな」
「廻くん、私は減ったりしな___」
「いいや、減る」
「俺も廻くんに同意」
「僕も廻が正しいと思う」
面白くなさそうな顔で、啓悟と転弧が廻の援護に回っている。
歓迎ムードとは言い難い空気の中、しかし仁の意識は別のところにあった。
「蒼良か……そうか、あんた、蒼良って名前なんだな」
「あーーッ!バレちゃった!廻がさっき名前で呼んだからだ!」
「大戦犯ばい!一週間飯抜き決定!」
「その飯をいつも作ってやってんのは誰だと思ってんだクソガキ」
「私は名前くらいならもう教えても大丈夫だと思___」
「お前はもっと警戒心を持てと何度言ったら……」
「ちょっと、大戦犯に発言権はないんですけど!?」
ああだこうだと騒ぎ始めた彼らの姿を眺めていると、いつの間にか仁の口元には自然と笑みがこぼれていた。
賑やかで温かい、仁がずっと追い求めていたものが、今、目の前にある。
「愛されてんだな、ヒーロー。羨ましいぜ……お前ら、俺の憧れそのまんまだ」
もしも___もしも自分も、彼らの仲間に加わることができたなら。
互いを信じ、愛し、想い合える場所に身を置けたなら。
それはいったい、どれほど幸福なことだろうか。
その夢を、ただの幻想で終わらせたくない。
仁は心からそう思った。
犯した罪は、消えることはない。
簡単に許されるとも思っていない。
それでも償えるものがあるのなら、持ちうる限りの誠意で向き合いたい。
たとえ何年かかろうと、何度拒まれようと。
それでもいつか、彼らと同じ場所に立てる日を夢見て生きたい。
「……だから俺も、いつかそっちに行かせてくれ」
胸の奥に、確かなひとつの灯がともる。
それは希望と呼ぶにはあまりにも慎ましく、けれど確かに、仁の歩みを前へと進める小さな光だった。
後日。
動き回れるほどに回復した仁は、約束どおり警察へ出頭し、己の罪を洗いざらい自白した。
これまで故意に人を傷つけるような傷害事件は起こしていなかったものの、強盗の罪は重く、少年であったことを考慮され、家庭裁判所で非公開の少年審判が開かれた。
審判の結果、仁に下された処分は、少年院への長期収容。
期間は、およそ一年程度。
蒼良たちが再び彼に会えるのは、また一年後の今頃だ。
その時にはきっと、今よりももっと、公安は賑やかになるのだろう。