暗部の忍が転生して公安ヒーローになる話   作:ぴのっきお

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相澤消太➡白雲、山田 呼び

山田ひざし➡相澤、朧 呼び

白雲朧➡ショータ、ひざし 呼び

となっております!


ダウト―!

 

 

季節が巡り、再び冬の気配が近づいてきた頃。

個性訓練に励む少年たちの日々に、ひとつの大きな変化が訪れた。

 

 

「蒼良ッ!今の……ッ、今の見てたか!?」

 

「……青い炎だった」

 

 

戦闘訓練中、燈矢が放った炎のひとつが、確かに青く光ったのだ。

もともと高い火力を秘めているとは思っていたが、今この瞬間、彼の炎はあのエンデヴァーをも凌駕する熱量を持ったのだと、蒼炎は雄弁に語っていた。

 

 

「青色だった!蒼良の髪と同じ色だ!」

 

 

興奮冷めやらぬ顔で、燈矢が先ほどまで青い炎が現れていた場所を指差し、ドタバタと足踏みする。

 

 

「うん、確かに青色だった。私の髪ともよく似てた」

 

「だろ!? 俺たち、お揃いだ!」

 

 

これでもかというほど口角を上げて、顔いっぱいに喜びを浮かべる燈矢。

あれほど強さを求めた少年が、蒼炎を出してまず最初に喜ぶことが、蒼良と揃いの色になれた事だとは。

無邪気な少年の笑みに釣られ、蒼良は無意識に目を細めていた。

 

 

「なぁ、よく分かんないけど、これってすごいことなんだよな?何となく、いつもより威力高めだった気がしたんだ!」

 

「赤い炎は不完全燃焼。青い炎は完全燃焼。間違いなく、青は赤の上位互換だよ。正直、私もかなり驚いてる」

 

「そのわりに声のトーンが一定なんだよなぁ。表情も全然変わんねぇし」

 

 

文句を言いながらも嬉しさを堪えきれないのか、燈矢の口角は上がったままだった。

 

 

「見てろよ、蒼良! 俺、もう一回青いの出すから!」

 

 

意気込んで的に向かい、勢いよく炎を噴射する燈矢。

だが、放たれたのは、いつも通りの赤い炎だった。

 

 

「あ、あれ……?」

 

「まだ安定して出力するのは難しいのかもね。それでも、確実な成長への第一歩だよ。おめでとう燈矢」

 

「いやいや、安定して出せなきゃ意味ねーじゃん! ちょっと見てろって、次こそ絶対出すから!」

 

 

そう言って挑戦すること、実に二十回。

しかし青い炎が現れたのは、その内たったの二回だけだった。

 

 

「すごいよ燈矢。確率的には十分の一だ」

 

「それ、褒めてんのか煽ってんのか、どっち!?」

 

「もちろん褒めてる」

 

「だよね、知ってた!!」

 

 

燈矢は悔しそうに自分の手をグーパーと開きながら睨みつけた。

その手のひらが、ふと蒼良の目に留まる。

皮膚は赤く爛れ、いつもよりひどい火傷を負っていた。

 

蒼良は即座に燈矢の手を取り、即席の治療を施した。

火力が上がれば、その分だけ身体への負担も増す。

当然のことだ。

 

 

「この青い炎の訓練は、もう少し先に延ばした方がいいかもしれない」

 

 

そう提案した蒼良に、燈矢はあからさまに不満げな顔を向けた。

これまでどんな無茶にも黙って付き合ってくれた友人から、初めて受けた忠告だったのだ。

 

 

「蒼良まで、他の大人たちみたいなこと言わないでくれよ……」

 

「気に障ったならごめん。でも、今の燈矢の身体には、あの炎は負担が大きすぎる。身体の成長をもう少し待ってからでも遅くは___」

 

「待ったって意味ないよ」

 

 

燈矢の声音には、切実な響きがあった。

彼は、父・エンデヴァーの炎の個性因子を色濃く受け継ぎながら、肉体そのものは母から引き継いだ氷結の性質を強く宿している。

熱に耐える力を持たない体。

成長したところで、その体質が変わる望みはほとんどなかった。

 

だが燈矢は、そのことを蒼良には一度も明かしていない。

知られてしまえば、きっと彼女も他の大人と同じように自分を止めると分かっていたから。

実際、何も知らない蒼良は、燈矢の火傷を単に『未熟な身体が強すぎる力に追いついていないだけ』だと考えている。

個性が持ち主の体を蝕むことがあるなど、想像すらしていない。

 

産まれたときから背に生えていた蒼翼が、まるで前世からあった身体の一部のように自分に馴染んでいた事もあり、個性が持ち主の身体に反発する事など考えたこともなかった。

そのうえエンデヴァーという炎系統の代表的ヒーローの存在もあり、燈矢もゆくゆくは炎に対する耐性が身につくものと思い込んでいる。

 

 

「俺は時間が惜しいんだ。一刻も早く、強くならなきゃいけないんだよ」

 

 

頼むから止めないでくれ、お前だけは自分の味方で居て欲しいと、燈矢は必死に訴えた。

その懇願に耳を傾けながら沈黙を守っていた少女は、数秒の間をおいて観念したように小さく頷く。

途端、燈矢の顔がパッと明るく輝いた。

 

 

「ありがとう、蒼良!やっぱりお前なら分かってくれると思ってたんだ」

 

「大賛成ってわけじゃない。だけど、燈矢のことは私がちゃんと見てるから」

 

 

だから大きな問題はないのだと言い切った少女を前に、燈矢は再び嬉しそうに破顔した。

 

 

  

轟燈矢___十歳、冬。

早生まれの小さな身体に訪れ始めた二次成長。

急速に変化していく身体と共に、その炎は赤から蒼へと移り変わりつつあった。

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

「ねぇ、燈矢兄。今日もまたお友達と遊びに行くの?」

 

 

学校帰りの燈矢が玄関にランドセルを放り出し、すぐさま再び外へ出ようとしたところで、背後から突然声がかかった。

振り返れば、長女の冬美が心配そうにこちらを見ている。

 

 

「うん、そうだよ。帰りは遅くなるから、いつもみたいに晩ご飯は先に食べといて良いってお母さんにも伝えといて」

 

 

正しくは『お友達と遊びに』ではなく『お友達と修業しに』なのだが、そんな事を知られれば母にも父にも叱られてしまう。

それに、友達と健やかに子供らしく遊んでいると思わせておいた方が皆どこか安心したような顔をするので、彼らのためにも燈矢は嘘をつき続けていた。

 

 

「もしかして燈矢兄、今日が何の日か覚えてないの?」

 

「うん?」

 

 

首を傾げた燈矢の反応に、冬美は目を丸くした。

 

 

「嘘でしょ……!?今日はヒーロービルボードチャートの更新日だよ!?二十時からインタビュー生中継!きっとお父さんも映るはずだよ!」

 

 

勢い込んでまくしたてる冬美の声を聞き、燈矢は今この瞬間までそのことをすっかり失念していたことに気が付いた。

 

 

「ああ、そっか。もうそんな時期か」

 

 

言われてみれば、年末はもう目と鼻の先だ。

と、そこへ、近くの部屋から次男の夏雄がひょっこり顔を出してきた。

 

 

「あ。夏くんも居たんだ」

 

「居たんだ、じゃないよ!どうしちゃったんだよ燈矢兄!毎年、馬鹿みたいにテレビの前に張り付いてリモコン手放さなかったくせに!」

 

 

現れるなり、夏雄は人差し指をビシッと突きつけながら叫んだ。

そうは言われても、最近の父の様子を思い出せば、今年もまたNo.2であろうことは簡単に想像がついてしまうのだ。

もしも一位と二位の逆転劇など起こる予感があろうものなら、あの父が平静を保っていられるはずがないのだから。

そうなると、わざわざ代わり映えしないランキング発表をリアタイする事にあまり意味はないのでは、と考えを改めただけのこと。

そんな事をしている暇があるくらいなら、少しでも修業に時間を割きたいと感じるのだ。

 

 

「じゃあ、一応後で確認したいから、夏くん録画お願いね」

 

「どうしちゃったんだよ、燈矢兄……」

 

 

なぜか冬美に続き、夏雄までもが驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「……お父さんのこと、もう、好きじゃなくなっちゃったの?」

 

 

胸の前で両手の指を絡めながら、不安げな顔で冬美がオズオズと尋ねてきた。

 

 

「どうして?大好きだし、俺の一番の憧れだよ」

 

 

何をそんな当たり前のことを、と不思議に思いながら燈矢は答えた。

それでも、冬美と夏雄はなおも訝しげな顔をしている。

 

 

「変な冬美ちゃんと夏くんだなぁ。まあいいや、俺、急いでるからもう行くね。夏くん、録画は頼んだよ」

 

 

困惑顔の二人を置き去りにして、燈矢は軽やかに玄関のドアを開け、外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練場へと辿り着いた燈矢は、普段なら大抵自分よりも先に到着している少女の姿が見当たらず、キョロキョロと周囲を見渡していた。

そして不意に、何かを思い出したようにハッとする。

 

 

「ああ……そうだ。そう言えば今日、あいつは来ないんだったっけ」

 

 

一週間前にそんな報告を受けていた事を、今になってようやく燈矢は思い出した。

この日だけはどうしても外せない予定があるのだとあの少女は言っていた。

 

 

「なーんだ……今日は一人かよ」

 

 

思わず口を突いて出た言葉は、誰に届くでもなく、ひとり宙に消えていった。

燈矢は木陰の下にある大きな根に腰を下ろすと、意味もなく足をぶらぶらと揺らした。

葉擦れの音と、風が運ぶ冬の匂いだけがそこにあった。

 

蒼良と出会う前は、こんな光景が当たり前だった。

一人きりで行動することも、誰にも干渉されない静けさも、むしろ気楽で好きだった。

それなのに今、いざ蒼良の姿が見えないとなると、思っていた以上に胸の奥がスースーと冷たい。

落とし物をしたような、あるいは大事な約束を忘れたような、心にぽっかりと空いた穴。

不意に吹いた風が、余計にその隙間を広げるようで、少しだけ肌寒く感じた。

蒼良の淡々とした静かな声や、一見無関心そうに見えてどこか温かみを感じる視線を無意識の内に思い出してしまう自分に、思わず苦笑する。

 

 

「……重症じゃん、俺」

 

 

小さく呟きながら、燈矢は目を閉じた。

家族と一緒に家でテレビを眺める時間を蹴ってまでここに来たのは、決して義務感でも気まぐれでもなかった。

 

____楽しみにしていたのだ。今日も彼女に会える事を。

 

ようやく、自分の中にあった答えが明確になる。

最近の燈矢の毎日は、どこか新鮮で楽しかった。

それこそ、ビルボード更新日が頭から抜け落ちてしまうほどに。

父親のインタビュー生中継よりも、友を選んでこの場所に足を向けてしまうほどに。

 

先程冬美に答えたように、父のことは今でも大好きだ。尊敬もしている。

その背中は、燈矢にとって炎そのものだった。

誰よりも熱く燃えて輝き、その他全てが霞んで見える、そんな偉大な炎だった。

周囲を照らす熱い光___自分もあんな風になりたいと、そう心から願っていた。

 

けれど、気が付けば今、燈矢の心にはもう一つの灯りがともっている。

それは炎ではない。

もっと穏やかで、しかし確かに心の奥まで染み込んでくるような、やわらかな光だ。

 

いつからだろう。

明確な答えは出ないけれど、確かに蒼良は燈矢にとって特別な存在になっていた。

その事実にはっきりと言葉を与えられるほど燈矢はまだ大人にはなり切れないけれど____今日のこの静けさが、胸の奥にぽつりと落ちる寂しさが、それを教えてくれているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

 

 

夕方、習慣となっているランニングを終えた消太が家に帰ると、玄関にやたら見覚えのある靴が二足増えていた。

それを目にした瞬間、消太の機嫌は急降下していく。

 

 

「ただいま、母さん。今日は知らない人が訪ねてきても、絶対に家に上げちゃダメって言ったよね?」

 

 

タオルで汗を拭いながらリビングへ向かうと、洗濯物を畳んでいた母が顔を上げ、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「あら、おかえりショーちゃん。知らない人じゃないわよ。ショーちゃんのお友達だったんだもの。それよりも、お友達を家に呼んでおいて自分の用事を優先させるなんて、駄目じゃない」

 

「呼んでない。あいつらが勝手に押しかけてきただけだよ」

 

「あらあら、青春ねぇ」

 

「母さん、その感性は多分間違ってる」

 

 

ため息混じりに言い返すが、母は悪びれた様子もない。

 

 

「も〜、文句ばっかり言ってないで、早く部屋に行ってあげなさいよ。お友達、もう三十分以上も待ってるのよ?」

 

「そういうのを自業自得って言うんだよ。……部屋に行って追い出してくる」

 

 

ぼやきながら、消太は階段に足をかけた。

そのときだった。

背後から「ショーちゃん」と、いつもよりワントーン低い母の声が飛んできた。

 

ぎくりと肩を跳ねさせ、恐る恐る振り返る。

微笑みを浮かべた母の顔は変わらず口角を上げたまま。

だが、その目だけがまるで笑っていなかった。

 

 

「せっかくお友達が来てくれたのよ?オ・モ・テ・ナ・シ、できるわよねぇ?」

 

 

母は強し。

にっこりと首を傾げる母を前に、消太はコクリと頷く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おっかえりぃ、『ショーちゃん』っ!!」」

 

「だからお前らを家に呼ぶのは嫌だったんだ……」

 

 

自室のドアを開けた瞬間、ハイテンションな声が部屋に響いた。

そこにいたのは、今日の昼間も学校で顔を合わせていた友人の二人。

白雲朧と、山田ひざしだ。

 

 

「一応聞くけどさ……なんでお前ら、ウチに居る?」

 

 

問いかけると、ひざしが首をかしげ、朧があっけらかんと笑う。

 

 

「なんだよショータ、今朝話したこともう忘れたのか?今日は三人でヒーローランキングの生中継見るって約束してただろ?」

 

「それ、俺が断ったよな??」

 

「だってだって!俺んちと朧んちを地図で結んだら、ちょうど真ん中が相澤の家だったんだもん!そりゃもう、来るしかないっしょ!」

 

「だったんだもん、じゃねぇよ。それはお前らの都合だろうが」

 

 

軽口を叩きながらも、ひざしと朧は顔を見合わせると、コクリとひとつ頷きあった。

 

 

「まぁまぁ。ホントのところ、ショータがいい顔しないってことくらい、俺らだって分かってたさ」

 

「だからな、ちゃんとお礼に手土産持ってきたんだぜ!」

 

「手土産……?」

 

「聞いて驚け、見て笑え!」

 

 

得意げに胸を張ったひざしと朧が、消太の目の前に掲げたのはLサイズのピザ六枚と、二リットルコーラ三本が詰め込まれたビニール袋だった。

 

 

「おいおい。嬉しすぎて声も出ないか?」

 

「全部俺たちの奢りだぜ、相澤!だからお前ももっとテンション上げろよ!」

 

「いや、ピザに関しては部屋入った瞬間から匂いで分かってたし……今驚いてんのは量の多さだからな。買いすぎだろお前ら」

 

「花も恥じらう現役男子高校生が、何ケチくさいこと言ってんだよ!一人二枚、余裕だろ!?」

 

「相澤は飯食わなさすぎなんだよ!いっつもカロリーメイトばっか食いやがって!そんなんじゃ、いくら筋トレしても筋肉つかねーぞ!」

 

 

痛いところを突かれ、消太はぐっと口を噤む。

目を逸らしながら、図星だと認めるしかなかった。

 

 

「筋トレの効果を最大限発揮するには、炭水化物も必要なんだぜ?喜べショータ、今宵はテレビ見ながら楽しく炭水化物パーティーだ!」

 

「ヒューヒュー、楽しくなってきたぁ!つーか、もうすぐ中継始まっちまうぜ?走ってきたんなら、早く風呂入ってこいよ相澤。お前が来ないとパーティーは始まらねぇんだからな!」

 

 

早く行けと急かす二人に追い立てられるようにして、消太はしぶしぶ風呂場へ向かう。

気がつけば、完全に向こうのペースに飲まれていた。

クラスでも一、二を争うお調子者コンビに、消太ひとりが抗えるはずもなかったのだ。

 

 

 

 

 

風呂から上がって自室へ戻ると、消太は思わずその場で頭を抱えたくなった。

パスワードをかけたはずのパソコンが、まるで持ち主のものかのように友人に操作されている。

さらにもう一人の男に至っては、なぜか消太のベッドの下に潜り込み、尻だけを外に突き出してモゾモゾと這いずり回っていた。

 

 

「……はぁ」

 

 

片手を額に当て、深い溜息をつく。

それから入り口脇の壁をガンッ、と強めに音を立てて叩いた。

その音に、パソコンをいじっていたひざしが肩を跳ねさせ、ベッド下に潜っていた朧は驚きのあまり、盛大にベッドフレームへ後頭部を打ちつけた。

 

 

「びっ……くりしたぁ……!相澤、お前、戻ってきたならもっとナチュラルに入場しろよ!」

 

「あ、頭……!頭割れたかも……!ひざし、俺、血出てない!?なぁ、これ大丈夫!?」

 

「うるせぇよ。お前ら、マジで何しに来たんだ」

 

 

消太はため息まじりに声を落とし、冷たい目で二人を見た。

 

 

「まず、山田。お前はどうして俺のパソコンのパスワードを知ってんだよ」

 

「いやー、相澤のことだから、絶対に捻りもクソもねぇと思ってさ。『shota1108』って打ち込んだら、一発だったわ。名前と誕生日、ベリーイーズィーなお仕事でしたー!」

 

「単純で悪かったな」

 

 

苛立ちを押し殺しながら言い捨てると、消太はさらに問い詰めた。

 

 

「それじゃあ、質問二つ目だ。お前ら、なんで俺のパソコンとベッド下を漁ってんだ」

 

 

今度はひざしがスッと目を逸らし、代わりに朧が後頭部をさすりながら答えた。

 

 

「ぶっちゃけな?さっきから、スッゲー腹減ってたんだよ。目の前にあんなピザがあって、でもずっとお預けくらってたら、気が狂いそうになるだろ?けど、ショータを待たずに食い始めるのは流石に良心が痛んでな」

 

「良心……?」

 

「で、気を紛らわせるために、ショータ秘蔵のエロ本かエロフォルダでも発掘できねぇかなーって、お宝探ししてたってわけ!」

 

「お前らの善悪の基準はどこで狂った?」

 

 

悪びれた様子もなくカラカラと笑う朧を前にして、消太は無言で頭を抱えたくなった。

部屋とパソコンを荒らされるくらいなら、素直にピザを食べ始めてもらった方がよっぽどマシだ。

 

 

「ハイハイ!一応、俺は止めたんだぜ?でも朧がさ、『いいかひざし?ショータは間違いなく硬派なフリしたムッツリだ。絶対どスケベなもん隠し持ってるぜ!』って一点張りでさあ」

 

「名誉毀損で訴えたらギリ勝てそうな憶測やめろ。それに、スマホで何でも手に入る時代にわざわざ紙媒体で隠してる奴なんていねぇだろ」

 

「俺はしてるが?」

 

 

シュビッ、と朧が誇らしげに手を挙げた。

 

 

「お前は知らん。例外が過ぎる」

 

「なんだよ、人を変態みたいに」

 

 

変態とまでは思わない。

だが、消太の目に映る朧という人間は、内面をいつだってフルオープンにさらけ出す男だった。

端的に言えば、恥じらいがなく、大胆な行動を平然とやってのける、筋金入りの陽キャなのだ。

 

 

「それと、山田。仮に俺が学校支給のパソコンでそんなフォルダ作ってたら、今ごろとっくに職員室に呼び出されてるからな」

 

「わはは、やっぱり?俺、それで二回は呼び出された!」

 

「白雲はもう黙ってろ」

 

 

消太は疲れたようにため息をついた。

そこは一度で懲りてくれ。

職員全員に性癖を晒しておいて、なぜ再挑戦しようなどと思えたのか。

やはり朧という男は、消太にとって理解不能の領域にいた。

 

 

「えっ、てかさ、相澤、さっき何て言ってた?スマホで何でも手に入る時代?まさかお前、いかがわしいサイトとか覗いたことあるの!?いや、そもそも……お前に性欲とかあったのかよ!?」

 

「お前はお前で、俺をなんだと思ってんだよ」

 

 

こちとら至って普通の男子高校生である。

硬派ぶっているつもりも、気取っているつもりもない。

ただ、真面目に、地道に、日々を生きているだけなのに。

彼らには、いったい自分がどう映っているのか。

消太はふと不安になった。

 

 

「だってお前、香山先輩のほぼ全裸みたいなヒーローコス見たとき、一人だけめっちゃ冷めた目してたじゃん!?」

 

「ヒーロー候補生がヒーローコスチュームをいやらしい目で見るわけないだろ。……それに、あの人の場合は呆れの感情が上回っただけだ」

 

 

思い出すのは、極薄の肌色スーツに、コート一枚だけを羽織ったヒーロー『ミッドナイト』。

彼女を初めて見た時、消太が抱いた感想は、実にシンプルだった。

 

──露出狂みたいだな。

 

「裸の女王様ですか」と皮肉った消太に、「俺バカで良かったぁ!」と大喜びした朧。

そんな二人を、ひざしが腹を抱えて笑っていた。

 

 

「うわぁ……そうだった。相澤って、何気に一番純粋にヒーローに憧れてんだよな」

 

「俺は全然いやらしい目で見てたけどな!」

 

「白雲にはまだ口を開く許可出してないぞ」

 

 

そんな軽口を叩き合っている間にも、時計は着々と時を刻んでいく。

 

 

「そんなことより、そろそろ良い時間だぜ!ひざし、早くそのパソコンYouTubeに繋げ!ショータはピザとコーラの用意だ!いいか、野郎ども。ビルボードチャート発表はな、新たな可愛い女性ヒーロー発掘の場でもあるんだ!気合入れろよ!一人たりとも見逃すなよ!!」

 

「ビルボード更新をそんな視点で楽しみにしてる奴、俺初めて見たわ」

 

「お前、ホントヒーローをそういう目で見るのやめろよな」

 

 

呆れる消太に、朧は相変わらずまったく悪びれる様子もなかった。

 

 

 

 

 

 

会場は東京ドーム。

最初にスクリーンに映し出されたのは、ヒーロー公安委員会会長による開会の挨拶だった。

その後、五十位から順にヒーローたちの名前が発表されていく。

ただし、五十位から十一位までのヒーローたちはステージ上には姿を現さず、事前に作成されたムービーが大画面に投影されるのみである。

 

一人ひとりの名前と、ヒーロー活動中の映像。

きらびやかに編集されたムービーを眺めながら、消太はチビチビとピザをつまみ、ひざしは時折興奮してシャウトし、そのたびに消太から拳骨を食らい、朧は女性ヒーローがランクインするたびに目をカッと見開いて画面を凝視した。

 

 

「いやぁ〜、やっぱヒーロースーツっていいよなぁ! こう、ピタッとして身体のラインが分かる感じが特に!」

 

 

絵に描いたような好青年顔で、最低な感想を漏らす朧を消太は黙殺した。

代わりに、潤滑油役のひざしがさらりと相槌を打つ。

 

 

「まぁヒーローはだいたい皆鍛えてるし、引き締まっててスタイル良いもんな。なぁ相澤?」

 

「わざわざ俺に話を振るなよ」

 

 

ゲンナリとした顔をする消太に、朧がムッと唇を尖らせる。

 

 

「そういうとこだよ、そういうとこ!硬派ぶりやがって!性欲なんてありませんって顔しやがって!んで、それを女子たちが『相澤くんって大人っぽくてちょっといいかも〜』とか言ってんの、俺知ってんだからな!羨ま死ね!!」

 

「清々しいくらいに嫉妬丸出しだな朧。てか、相澤ってモテてたの!?初耳なんだけど!」

 

「……別に、モテた覚えなんてない。そんなの全部お世辞だろ。それに、俺は白雲ほど露骨じゃないだけで、ちゃんと欲もあるし、硬派ぶってるわけでもねぇ」

 

 

消太が少しだけ言葉を濁しながら反論すると、朧がここぞとばかりに食いついた。

 

 

「それじゃあ聞くけど、ショータ、好きな子とかいんの?」

 

「いない」

 

 

即答だった。

 

 

「ほらもう、面白くねーな!じゃあさ、好きな女性ヒーローは?」

 

「俺はヒーロー全般に憧れてるだけだ。特定の誰かを推したりはしてない」

 

「だーーーっ、つまんねーー!!」

 

 

朧は大袈裟に頭を抱え、その場でジタバタと足をバタつかせた。

消太は眉をひそめ、ピザとコーラを避難させながら注意する。

 

 

「やめろ。ホコリが舞うだろ」

 

 

そんな二人のやり取りを見ていたひざしが、横から顔を突っ込んできた。

 

 

「でもさ〜、相澤にだって好みのタイプくらいは絶対あるだろ?今のところ、それに近いヒーローとか居なかったのかよ?」

 

「だから、俺はそういう目でヒーローを見てな___」

 

「いーや!絶対にある!正常な男なら、完全に下心を消すなんて無理だって!俺は今日、絶対に相澤の好みを暴いてやる!」

 

 

朧だけでなく、ひざしまでもが目的を盛大に逸脱した瞬間だった。

普段なら比較的まともなひざしまでこんな調子なのは、相澤宅でのピザパーティーという非日常に、テンションのバロメーターが振り切れてしまった弊害だろう。

とうとうツッコむ気力すら失った消太は、騒ぎ続ける二人を完全にシャットアウトし、パソコンの画面にだけ集中しようと心に決めた。

 

 

 

 

 

「___いよいよ、Top10の発表だな」

 

「大きな入れ替わりなんて起こらないって分かってるけど……毎年この瞬間だけはドキドキしちまうんだよなぁ、俺」

 

 

軽く笑いながら交わされる朧とひざしの会話。

ついさっきまでバカみたいに騒いでいた二人の顔は、今やすっかり引き締まっていた。

そこにあるのは陽気なおちゃらけた男子高校生ではなく、ヒーローを志す者たちのまなざしだ。

 

それも当然。

Top10ヒーロー___ヒーローを目指したことのある者ならば、誰しも一度は彼らの背中に憧れを抱く。

十位以上に並ぶヒーローたちは別格なのだ。

知名度が違う。人気が違う。そして何より、実力が違う。

 

壇上でゆっくりと幕が上がった。

逆光を受けた十人のシルエットが、徐々に輪郭を現していく。

会場中から爆発するような歓声が湧き上がり、それにつられたひざしが思わずシャウトしかけた瞬間、間一髪で消太の捕縛布がその口元をがっちりと封じた。

 

 

「ははっ、オールマイトとエンデヴァー、ガタイ良すぎ。シルエットだけで分かっちゃうじゃん」

 

 

少年のように目を輝かせながら、朧が嬉しそうに笑う。

 

 

「他のヒーローたちも、何となく見覚えあるな……。やっぱり一、二位は固定で、三位以下が少し入れ替わってる感じか」

 

 

捕縛布にぐるぐる巻きにされたひざしを脇目に、消太が感想を述べ合う。

だが、その瞬間。

布に埋もれながらも必死に口を動かしていたひざしが、声を絞り出して叫んだ。

 

 

「いいや、よく見てみろ!十位のシルエット、お前ら、アレ見覚えあるか……!?」

 

 

促されるまま、朧と消太も画面の右端に視線を向けた。

 

 

「おおお!?Top10に見たことない奴、混じってんじゃん!?」

 

 

朧が叫ぶのと同時、会場スピーカーから盛大なアナウンスが流れる。

 

 

《それではご紹介いたしましょう、No.10!なんと彼女はデビューからまだわずか二年!確かな実力を武器に破竹の勢いで順位を上げ、今年ついにTop10入りを果たしたニューヒーロー!素顔不詳!本名不詳!年齢も不詳の三拍子!謎多き蒼翼の女性ヒーロー、アズール――!!》

 

 

目を奪われる鮮やかな青い翼。

肩まで伸びた黒い髪。

オーバーサイズの白いジャケットに、同じく白のショートパンツ。

体のラインを拾わないラフなコスチュームなのに、スラリとした細い脚や、華奢な背格好は隠しきれていなかった。

そして、顔を覆うのは狐を模した特徴的な白い仮面___。

 

 

「おーーー!俺、この人知ってる!!」

 

 

いち早く反応したのは朧だった。

白いショートパンツから伸びた脚を指さしながら、興奮気味にまくし立てる。

 

 

「前回のランキングじゃ、確か三十位くらいだったはずだぜ!ジャケットでダボつかせてんのに、スタイル良いから印象に残ってたんだよな!」

 

「ホワッツ!?マジかよ、デビューして一年で三十位!?それだけでも大概なのに、二年でTop10入りなんて前代未聞だぞ!?」

 

 

ひざしも大声で騒ぎながら、画面に釘付けになっている。

二人は興奮したまま、九位、八位と常連ヒーローたちが発表されていく間も、No.10のニューヒーローについて熱く議論を続けていた。

しばらく会話に夢中になっていた朧とひざしだったが、ふとした瞬間に違和感を覚える。

隣にいるはずの消太が、先ほどから妙に静かなのだ。

 

 

「……相澤?」

「……ショータ?」

 

 

声を重ねて覗き込んだ先、二人が見たのは、無言でじっと画面を凝視している消太の横顔だった。

 

 

「え、ちょ、相澤が女の子に食いついてる……!?」

 

「マジかよ、もしかして……脚か!?あの脚が好きなのか!?」

 

「おい相澤、違うなら違うって否定しろよ!どうしちまったんだよお前!?」

 

「諦めろひざし、沈黙は肯定だって紀元前から決まってんだ!クソッ、やっぱり俺の読みは正しかったな……見損なったぜこのムッツリめ!!」

 

「ちげーよ!お前らもう黙ってろッ!!」

 

 

騒がしい二人に耐えかね、彼女への興味を大声で否定してみせたものの、消太自身、胸の奥にまとわりつく違和感がどうしても振り払えなかった。

初めて見るはずのヒーロー。

それなのに妙に見覚えがある。

いいや、見覚えどころではない。

確かに似ているのだ。

 

背格好も違えば、髪の色だって違う。

それでも消太の知るあの少女と、このNo.10ヒーローは、奇妙なほどに重なって見えた。

可能性として最初に思い浮かんだのは、例えば姉妹のような血縁関係。

だが何故か、どうしてもそうとは思えなかった。

根拠なんてない。

それでも、あり得ないはずの確信が、消太の胸をひどくざわつかせる。

 

しかし、心当たりのあるあの人物は、まだ十一歳そこらの少女だ。

とても同一人物とは言い難く、そもそもヒーローとしてこんな場所に立っていてはおかしい。

常識的に考えて、ありえない。

 

様々な考えが脳裏を駆け巡る。

けれど、答えなど出るはずもない。

オーバーヒートしそうな頭で瞬きも忘れ、消太が画面の中のNo.10を凝視し続けていると、再び騒がしい友人たちが、無遠慮に割って入ってくる。

 

 

「顔も分かんない相手に好意を抱くことなんてあんのかよ!?なぁ相澤、嘘だって言ってくれよ……!大人の色気にやられたとか、そんな情けないこと言うなよ……!」

 

「いや、分かるけどな!あの脚!スタイル!顔見えなくたって推したくなる気持ち、分かっちゃうぞ俺は!」

 

 

ムンクの叫びさながらに絶叫するひざしと、いい笑顔で親指を立てる朧を前に、消太は鼻筋に皺を寄せ、眉を吊り上げる。

 

 

「……お前らなぁ___」

 

 

その時、パソコンから再び会場アナウンスが響いた。

 

 

《それでは、No.10のアズールから順に、お一人ずつカメラに向かってコメントをお願いいたします!》

 

 

呼びかけと同時に、消太はハッと我に返り、慌てて画面に目を戻す。

次の瞬間、彼女の声がパソコンのスピーカーから、真っ直ぐ消太の耳に届いた。

 

 

《身に余る評価だと自覚しています。今後も、与えられた任務に忠実であり続けます》

 

 

それは、あまりにも淡泊な感想だった。

抑揚のない話し方。

聞き間違えるはずもない、澄んだ声色。

消太の胸の中で膨らんでいた疑念は、今、はっきりとした確信へと変わった。

多種多様な個性溢れるこの社会で、外見など容易に偽ることができる。

背格好が違おうと、髪の色が違おうと、あれは彼女だ。間違いなかった。

 

 

「……冗談だろ」

 

 

かすれた声が、知らず零れていた。

あの少女は、出会った当初からただの子供とは思えないほど聡明で、優れた才能を持っていた。

少し抜けたところもあったが、その本質は間違いなくヒーロー向きだと感じていた。

いつの日にかプロヒーローとしてNo.10の称号を手にするに至ったとしても、理解できない話ではない。

 

だが、それでも。

あの子は、まだほんの十一歳だ。

そんな幼い子供に、人の命を背負わせていいはずがない。

あの小さな背中に正義の重圧を押しつけるなんて、許されるはずがない。

胸の内側を、焦げるようなが焦燥感が満たしていく。

それと同時に、ふとした瞬間に彼女が見せる、幼く無防備な甘えの理由を、消太は理解しかけていた。

 

 

「なぁ、相澤。お前、本当にどうしたんだよ?」

 

 

いつの間にか、ふざけるのをやめていたひざしが、低い声で問いかけてきた。

その瞳には、友を気遣う真剣な色が宿っている。

消太はパソコンの画面に視線を向けたまま、短く息を吐いた。

 

 

「No.10……知り合いによく似てるなって思ってたら、まさかの本人だった」

 

「「……はああ!?」」

 

 

ひざしと朧の重なった驚きの声が、部屋に二重に響き渡る。

謎に包まれたニュースターと自分の友人が知り合いだったという事実に、二人の脳内からは先ほどまでの冗談は吹き飛んでしまったらしい。

 

 

「ヘイヘイヘイ、相澤!お前どうやったらあのヒーローと知り合いになんてなれるんだよ!?助けられたとか、何かエピソードあんだろ!?」

 

「出会いは確かに救助だったな。……俺じゃなく、野良猫の、だけど」

 

「猫ちゃん!相澤らしい出会い方!」

 

「なるほど、それが二人の初めての共同作業だったわけだな」

 

 

朧が感心したように鼻を鳴らす。

 

 

「ていうか、おい。知り合いってことはショータ、お前、彼女の素顔も本名も年齢も全部知ってるってことだよな?」

 

「知ってると言えば知ってる。けど、誰にも言うつもりはない」

 

 

きっぱりとそう答えると、さすがの二人も押し黙った。

顔も名前も年齢も、彼女が自ら隠している以上、それには当然守らなければならない理由がある。

いくら気心の知れた友人とはいえ、消太が勝手に明かしていい情報ではなかった。

二人もそれを理解したのだろう。一度断られたあとは、無理に詰め寄ることなく素直に引き下がった。

 

 

「なぁなぁ、じゃあさ。教えられる範囲でいいから、どんな人なのかだけ教えてくれよ!可愛い?性格は?つーか、知り合いってどのレベルなんだ?」

 

 

朧が興味津々といった顔で身を乗り出してくる。

 

 

「連絡先を交換してるくらいだ。それ以上でもそれ以下でもない。現に俺は、彼女がここまでの実力者だなんて今日初めて知ったんだ」

 

「出たぁー!相澤消太のネガティブトォーク!」

 

「そんな捻くれんなよ、ショータ。あんだけ秘密主義なヒーローと連絡先交換してるだけでもすげぇことだろ。相当信頼されてる証拠だぜ?」

 

 

言われてみれば、その通りだった。

彼女にとって、自分は抱える秘密を打ち明けるに値しない存在なのだと思い込み、ショックを受けていた消太に、その視点は新しかった。

思い直してみれば、徹底的に個人情報を秘匿している彼女が消太には迷いなく連絡先を渡し、それどころか定期的に「会いたい」と自分から連絡してくることさえある。

それだけで、十分すぎる信頼の証だ。

少しくらい、自惚れても許されるのかもしれない。

 

 

「……白雲は、彼女に少し似てる気がするよ」

 

「えっ、俺ぇ!?」

 

「髪色のことだろ?あの硬い口調聞く限り、性格は絶対朧寄りじゃねぇし」

 

「見た目とか性格の話じゃない。心根の話だ」

 

 

消太の言葉に、朧はポカンと口を開け、どういう意味か分からず首を傾げている。

その様子に、消太は思わず小さく笑った。

バカ正直な二人は、性格こそ違えどきっと根っからのヒーローなのだと、消太の目にはそう見える。

少しくらいズレていようと、周囲の人を引き寄せるその気質を、実はひそかに尊敬していたりもするのだ。

だがもちろん、朧が図に乗るに決まっているので、そんなことを口にするつもりは毛頭ないのだが。

 

 

「てゆーかさ、相澤。お前が誰かとまめに連絡取り合ってるとか、想像できねーんだけど。No.10と普段どんなやりとりしてんだよ?」

 

 

ひざしに問われ、消太は頭の片隅で、彼女とのメッセージ履歴を思い浮かべた。

会いたい___それだけの短いテキストが、決まって向こうから届く。

それに対し、消太はただ日時と場所を指定する。

そして最後に、向こうからありがとうが返ってきて、やり取りは終了する。

実に無駄のない効率的なやり取りで、合理厨の消太は非常に気に入っているのだが、淡白な会話の繰り返しが永遠に行われているトーク画面をこの二人に見られては、どんな文句が飛んでくるか分かったものではない。

 

 

「あー……まぁ、主に待ち合わせ場所や時間の相談だな。俺も彼女も、直接会って話すのが好きなんだ」

 

「嘘だろ!?ってことはお前、定期的にNo.10と二人で密会してんのか!?」

 

「すげえ……!相澤、お前いつの間にそんな大人の色気漂う関係に……!」

 

「見損なったぜショータ!俺たち、せーのでゴールしようなってあの日約束したじゃねぇかよ!」

 

「身に覚えのない約束を捏造するな」

 

 

消太としては、なるべく当たり障りのない答え方をしたつもりだった。

なのに、なぜか話はどんどん妙な方向に盛り上がっていく。

 

 

「まったく、心の底から心外だ。密会なんかしてねぇし、そもそも手なんて___」

 

 

言いかけて、消太の脳裏に浮かんだのは、人目を避け、人気のない場所で少女と二人きりで落ち合い、彼女を優しく抱き寄せながら頭を撫でる自分の姿だった。

___いいや、違う。

そこにやましい気持ちなんて一片もない。

彼女がただ甘えに来て、自分はそれを受け止めているだけ。

しかし第三者の目から見た時、それがどう映るのかを考えた瞬間、消太の胸に微かなざわめきが生まれた。

 

 

「……出してなんか、ない」

 

 

ほんの、わずか。その返答には戸惑いが滲んでしまっていた。

 

 

「「ダウトオオオッ!!!」」

 

 

瞬間、部屋中に響き渡った二人の怒号。

それはこの日、相澤家が最も騒がしくなった瞬間だったと、リビングにいた消太の母は後に語った。

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