自身も接戦の最中であるにも拘わらず、蒼良は眼下の戦いの結末を見下ろしていた。
もしも消太に万が一のことがあれば、その時はもう命を削ってでも助太刀するつもりでいたのだが、その必要はなかったようだと肩の力をわずかに抜く。
とは言え、良い流れが来ているからと浮つくような蒼良ではない。
「――二人とも、即時撤退!」
通常時の彼女には到底似合わぬ芯を持った強い声が、加勢しようと動き出していた二人の青年を牽制した。
「でも」と彼らが口を開くより早く、蒼翼を広げて羽を飛ばす。
二人の身体を強引に包み込み、安全な距離まで遠ざける。
「貴方たちがここに居ると、私は本気で戦えない」
守るべきものを抱えた人間は弱い。
それを傷付けられた瞬間、心の防壁が容易く崩壊してしまうからだ。
そんな人間を数多く見て来た。
そして今、自分もそうなりつつある事に蒼良はもう気が付いている。
死柄木は、まるで蒼良の弱みを見透かしたかのように、二人に対して攻撃をちらつかせてくる。
その度に蒼良の集中は揺らぎ、戦意が乱れかけるのだ。
けれど、それを卑怯な戦いだと非難する権利を蒼良は持たない。
蒼良自身、これまで幾度となく卑劣な戦術を選んできたからだ。
泥臭く、血生臭く、道徳や倫理などはかなぐり捨て、ただ効率的に敵の命を刈り取る事だけを考えながら生きて来た。
純粋で空っぽだった器の中に、強引に詰め込まれた知識や技術。
それらの是非を考える余裕など当時の幼い蒼良にはなかった。
無知で、空虚で、ただの愚かな子供だった。
だとしても――。
そんな自身の辿って来た道のりを『不遇』の一言で済ませるには、もうあまりにも多くの命を奪いすぎている。
「アズール――!」
不意に、誰かの声が聞こえた気がした。
アズール、アズールと、誰かが自分を呼んでいる。
聞き間違いかと己の耳を疑いながら、それでも繰り返し声の聞こえる方向に顔を向けた蒼良は、仮面の下で瞬きを止めた。
「おーい、アズール! 大変なことになったんだ、聞いてくれぇ!」
小型の飛行装置の上、必死な様子でブンブンとこちらに両手を振って迫って来ている青年の姿に困惑する。
賢い子だと思っていたのに。
年相応の臆病さと、生きていく上で大切な、危険に対する優れた嗅覚を持った子供だと思っていたのに。
「山田――ッ!?」
「何やってんだ、ひざしッ! ボロ布羽織ったヴィランが見えてねぇのかよ!?」
青い羽に捕らわれながら、流されていた消太と朧の叫び声が響く。
今さらではあるが、山田ひざしと呼ばれた子供がその額に装着しているゴーグルは、彼らのものとよく似ていた。
この三人の関係性が、ただの同級生という間柄以上のものであることを察した蒼良が、急ぎひざしの元に駆け寄る。
背後に彼を庇うように翼を広げ、死柄木の視界から遮断した。
「どうしてまたここに戻って来たの? あのヴィランの強さは貴方も間近で見てたでしょう?」
それでもなお蒼良に伝えるべき緊急の情報があるのかもしれないが、彼自身の命と天秤にかければ、そんな情報は急を要するものではないと断言できる。
「いい? 敵を刺激しないよう、最短ルートであの二人のもとに向かって。話なら後で聞いてあげる。だから今は、自分の身を守る事だけを考え……て――」
言葉の途中で、蒼良の視界がぐらりと揺れた。
突然の眩暈に襲われ、バランスを崩しかけて咄嗟に背後の飛行装置に手を伸ばす。
「あ……?」
突如として訪れた身体の異常。
その原因を確かめるべく、体内のチャクラ経へ意識を巡らせるも、チャクラの枯渇が原因ではないことはすぐに分かった。
ひざしの乗った飛行装置に右手を掛け、辛うじて宙にぶら下がる蒼良。
懸命に這い上がろうと手に力を込めるが、腕は不自然なほどガクガクと震え、思うように動かない。
即座にチャクラを片腕に集中させ、再び力を込めようとしたその瞬間――、
「……ッ」
思い切り踏みつけられた右手の痛みに、額に嫌な汗が滲んだ。
見上げると、そこにいるはずの人物の姿がない。
自分が何故、これをひざしと見間違えたのかが分からない。
黒いローブ。顔には赤い狗の面。
その面の下から、声が聞こえた。
「……周りを信頼し過ぎたな」
たった一言。それだけで、呼吸が止まりそうになった。
死柄木の声ではなかった。
あの無機質な機械音とは違う、若い男の肉声だった。
「道行く見知らぬ通行人も、長く苦楽を共にした仲間でさえも、いつ悪意を向けてくるかは分からないものだ。お前もそう思わないか?」
グリグリと足を左右にねじられ、手の甲にかかる圧力が増す。
訳も分からず胸の奥が疼く。吐き気がする。
重たい水底のような空気が、皮膚にまとわりつく感覚。
全身が水に沈められたように思うように動かせない、この感覚は――
「お前、俺が怖いのか」
男がぽつりとそう口にした。
恐怖――そんな感情は蒼良の頭の中にはない。ないはずだった。
けれど目が回りそうなこの状態を、止まらない全身の震えを説明するのに、それ以上に相応しい言葉がない。
「お前は背後への警戒を怠った。その油断が招いた結果がこの様だ」
常に人を疑う事。
誰も信用しない事。
それは、蒼良が前世で教え込まれた思想だった。
心を持った人間は弱い。
心を誰かに預けた人間はもっと弱い。
この状況では、強さというただ一つを求めるにあたって、組織の教えはやはり正しかったのだと認めざるを得ないだろう。
不意に、手の甲から鈍い音がした。
拳を砕かれ、蒼良の口から呻き声が漏れる。
下の方で消太と朧がしきりに何かを叫んでいる声が聞こえるが、意識が朦朧としてハッキリと音を拾えない。
次第に視界までもが霞み始め、ローブの男の輪郭がぼやける。
「私に……何をしたの?」
問いかけた蒼良の眼前、こちらに発言権はないとでも言うように、短剣の刃先が突き付けられた。
その先端を伝って落ちた一つの雫が、蒼良の仮面の上で跳ねる。
隙間を縫って鉄臭い匂いが口元まで流れ込んできたとき、それが血液である事に気が付いた。
それと同時、蒼良は自身の不調の原因を理解する。
意識した途端、背中にふつふつと煮えたぎるような痺れが生じる。
――背後から脇腹を一突き。
先程蒼良は、あのクナイに音もなく腹の中身まで串刺されていたのだ。
背中から腹部まで続く傷は深く、血がとめどなく流出している感覚がある。
痛みとも熱ともつかない衝撃に視界が明滅し、身体が危険信号を発し始めた。
何度経験しようとも、この身体が痛みに慣れる事はない。
身体機能ごと狂ってしまえば話は別だが、生憎この世界で大切に育てられてきた蒼良の身体は、至って正常に機能してしまっている。
滴る血液の濡れた感触がたまらなく不快だ。
脇腹を起点に、冷感が広がっていく。
傷口は熱くて仕方がないのに、鳥肌が立ちそうなほどに寒い。
手足の末端にすら力が入らず、凍えるような冷たい世界へと引きずり込まれていくような感覚があった。
完全に思考が途切れる前に、何か手を打たなくてはならない。
そうしなければ被害は自分だけに留まらず、下に居る消太達にまで危険が及ぶ可能性がある。
気を抜けば散り散りになりそうな意識を搔き集め、空いた左手で印を結ぼうとし、
「妙な真似はやめておけ」
鮮血を纏った硬い刃が、非情にも蒼良の頭に振り下ろされた。
染みついた戦闘本能だけで反射的に身体をのけ反らせた蒼良の仮面が、掠めた刃に破砕される音がした。
真上からの衝突の振動に脳が揺れる。
夜の海に投げ出されたように、思考が途切れ、宙を漂う。
何もかもが分からなくなる。
手足の動かし方も。
呼吸の仕方も。
自分が今、どこに居るのかも、上下左右も、何もかも――。
「返せ――ッ!!」
荒れ狂う獣のような絶叫と共に、突然蒼良の身体に白い布が巻き付いた。
その端を強い力で握る青年の目には、隠し切れない憎悪がありありと宿っている。
「傲慢だな。まさかこれが自分のものだとでも思っているのか?」
「うるせぇ……ッ! 足を退けろ! その子に触るな!!」
未だ蒼良の右手を踏みつけて離さないローブの男が、雲の上に乗る消太を上から見下ろしている。
瞬きもせず、今にも掴みかかりそうな表情で敵を見上げる消太の背後には朧が控えていて、彼らとは反対方向に首を巡らせ――ここからいくらか離れた場所で佇んでいる死柄木の姿に息を呑んだ。
「ショータ、敵は二人だ!後方にもう一体、油断すんなよ!さっきまでアズールが戦ってた奴だ。あいつは遠距離攻撃も出来るんだからな!」
「悪いが、同時に二人は目が足らない!後ろへの警戒はお前が頼む!」
「了解!現状、動く気配なし!」
背後への警戒など無意味である事は分かっている。
仮に死柄木が動こうものなら、きっと目で追う事も敵わない。
そんな事実には蓋をして、気丈に振るまう二人の様子に「分からないな」とローブの男が短くこぼした。
「実力差は明白。お前たちに勝機はない。それなのに、なぜ逃げようとしない? それとも、相手の技量すら見抜けない程の愚者だったか」
戯言だ。
勝てないからと大切なものを捨て、尻尾を巻いて逃げ出せるほど、人の心は合理的にはできていないのだから。
敵の言葉には耳も貸さず、消太が朧に合図を送ると、彼らを乗せた雲がぐんぐんと上昇肥大化し、白いフィールドを作り上げた。
消太も朧も、戦闘向きの個性ではない。
しかし大柄な二人は、物理的な殴り合いであれば体格的な利を得ている。
そのうえ、奥に控えている死柄木は蒼良が与えたダメージ故か動く気配がなく、現在の状況は単純に考えて二対一。
互いに安定しない足場ではあるが、こちらは朧が負傷しない限り落下の可能性もない。
そこまで俯瞰的に把握しておきながら、個性を封じられた目の前の敵に勝てるビジョンが全くもって見えてこないのは多分、相手の言う通り、自分たちでは敵わない事を自覚してしまっているからだ。
それでもと覚悟を決める消太たちなど眼中にもないかのように、敵は蒼良に巻きついた捕縛布を放り投げると、彼女を乱雑に肩に担ぎあげた。
「どうしようもない奴だ。どうせならお前たちが死ぬところを見せてやろうと思ったのに、完全に意識が飛んでいる」
「飛んでんのはお前の思考だっつーの……。悪趣味にも程があるってもんだぜ。そんな事して楽しいのかよ?」
理解不能な残虐性に、朧が顔を強張らせる。
「お前たちの理解など求めていない。それに、これはそんな低次元の話でもない」
「おいおい、そりゃ残念だな。俺はお前を理解したいと思ってんのに。もっと俺たちにも分かりやすい歩み寄った説明をだな……ってショータ!? おまっ、そんないきなり――ッ!!」
初動のタイミングを探り、言葉を交わしながら隙を見ていた朧の前――突然勢いよく相手の懐に飛び込んだ消太が、大きく振りかぶった拳を敵の顔面に叩きこんだ。
かと思いきや、直後。
鳩尾にめり込む硬い感触に身体を突き上げられ、消太は雲の上に倒れ伏していた。
「ッぐ、ぅ……ッ」
「ショータッ!」
上手く息を吸うことが出来ず、短く呼吸を繰り返す消太を朧が自分の背で庇う。
臓腑を絞り上げられるような重たい打撃の余波に背中を折り、嘔吐感を必死に堪える青年と、個性を封じてもなお隔絶した力の差を前に、身体の震えが止まらない青年。
身の程を弁えない愚か者たちの戦いが、こうして今、幕を開けた。
――もう、自分が何度打ち倒されたのか分からない。
全身が軋むように痛い。
いくつかの骨にはヒビの入った感覚がある。
素手と素手の純粋な力のぶつけ合い。
それでいて、結果はあまりにも一方的で暴虐的だった。
ヒーローの卵として、雄英高校にて己を磨いた約一年と半年の日々。
その全てが遊戯のように感じられるほど、ローブの男を前に二人は赤子同然だった。
児戯に等しい稚拙な攻撃を裁かれ、穿たれ、ボロ雑巾のように転がる二人を、弄ぶかのように蹂躙は続く。
息の根などいつでも止められるだろうに決定的な終わりがやってこないのは、「蒼良の前で殺したかった」という先刻のあの言葉の通り、奴なりの拘りがあるからなのか。
ふらつく足で、形勢逆転の画期的な策略を思考する事すら出来ない脅威に向かい、懲りることなく立ち向かう。
敵にこちらを殺す気がないのなら、見逃す意思があるのなら、もうやめてしまえばいい――この状況を見ている第三者がいたのなら、きっと誰もがそう思うほど勝敗などとうに明らかで、二人は弱く、脆く、あまりにも無様だった。
「早く目を覚ませ、アズール。お前のために死に行く者たちの姿を見ろ。お前が殺す者たちの姿を」
ローブの男が担いでいた蒼良を乱暴に抱え直し、その顎に指を添えると、だらりと力なく垂れ下がっていた彼女の顔を無理やり持ち上げた。
青白く血の気の引いた頬、固く閉ざされた瞼。
美しい素顔に滴る赤い血液は惨たらしく、それを目にした瞬間、消太の胸の奥が焼けつくように熱くなった。
「そう睨む必要はない。今はまだ、これを殺す気はないからな」
「殺すつもりで刺しておいて、何を今さら……ッ」
「考えが変わった。殺すよりももっと、有効な使い道がある」
言いながら、男が柔らかな頬に深く指を沈めたその刹那、まるでバネ仕掛けのように蒼良の身体が跳ね起きた。
細い腕に握りしめた羽の短刀を、自分を拘束している男の腕へ深々と突き立てる。
「ようやく起きたか。気分はどうだ?」
腕に突き刺さった青い羽を平然と抜き捨てながら、男は腕から滑り落ちた蒼良を見下ろして問いかけた。
「………」
「返事を返す余裕もないのか?」
その問いかけに対する答えは恐らく、肩で息をする蒼良の荒い呼吸音で十分だった。
「アズール……!」
治癒の力を持つ彼女ならばと淡い希望を抱いていた消太だったが、その顔に喜色が浮かんだのは一瞬だ。
満身創痍な彼女はどう見ても戦闘を続けられるような状態ではない。
「これでようやく、場が整ったな」
淡々と告げられたその一言に、消太は背筋を冷たい悪寒が這い上がってくるのを感じた。
先程までの、いたぶられるだけの時間は終わったのだと――これから自分は目の前の敵に殺されるのだと、怖気づく自分の肉体が精神よりも先に直感していた。
凍りついたように立ち竦み、痛む身体を思うように動かせる気がしない。
「……二人とも、私の後ろに」
か細く指示を出す蒼良の体が微かに蒼白く光り始めるが、その揺らめく不安定な輝きは、彼女が限界に達していることを如実に物語っていた。
――腹を、決めろ。
ここから全員助かるような逆転劇はもうあり得ない。
半人前の人間が誰かを救おうと願うなら、代償に何かを支払わなければならないのは必然のことだ。
それがたとえ、自分の命であろうとも。
身体の後ろ、背中に隠した利き手で捕縛布を握りしめた。
これで蒼良と朧を地上に落とす。
朧がいれば着地の問題も解消される。
あとは消太がここに残り、時間を稼ぐ――などと無謀な勘違いはしていない。
瞬きの合間に殺されていたとしても不思議ではないのだ。
けれどももう、今はまだ蒼良を殺すつもりはないと、消太たちを彼女の目の前で殺したいと言った敵の言葉に望みを賭け、自分一人の命で清算できる可能性を信じる以外に希望がない。
弱りきった少女に歩み寄り、もうこれ以上頑張る必要はないのだと、その頭に優しく手を置く。
心の中、消太が別れのカウントダウンを開始した時、
「――そこまでだ」
ありふれたアニメの決め台詞のように突如響いたその言葉。
しかし、その声が空間を震わせた瞬間、場の空気が一変した。
静寂を切り裂く重低音の足音が、足場を大きく震わせる。
姿を目にする前から、すべての者が本能的に理解した――あの圧倒的存在がこの場に降り立ったのだと。
テレビの向こう、教室のモニター、街頭スピーカー、至る所から聞こえてくるその声を耳にしなかった日は、一日たりともない。
人々の心に刻まれたその声が、今ここにある絶望を塗り替えようとしている。
「もう大丈夫だ少年少女。何故なら――ここに、私が来たッ!!」
堂々たる宣言と共に、青いマントが風になびき、裏地の赤が閃いた。
黄金色に輝く髪が風に揺れる。
鋭く光る白黒逆転の双眸、巨大で筋骨隆々たる体躯。
まさしく揺るがぬ信念そのものが具現化したかのような、圧倒的存在感がそこにあった。
「オール……マイト……?」
呆然とした声で、消太はその名を口にした。
「遅くなってすまなかった。少年……ここまでよく、耐え抜いてくれたな」
穏やかに微笑みながら、オールマイト――八木俊典は、傷つき疲れ切った消太たちを見つめていた。
しかし、微笑の奥に秘められた彼の瞳は、慈悲深さからは程遠い冷徹な怒りに染まっている。
表面上の笑顔は自身を律するための仮面であり、人々を安心させるための強固な彼の鎧だった。
彼の胸の内では、制御し難い激しい怒りが音もなく渦巻き、爆発寸前に張り詰めていた。
その氷点下の怒りを秘めた瞳が、冷ややかに敵を射抜く。
絶対的正義の象徴がいま、ここに顕現していた。
「……困ったな。今はまだ、お前とやり合う時期じゃない」
対峙するローブの男が呟いた。
その声音には、一片の恐れも焦りも見えない。
不敵というより無関心に近い態度で、男は背を向けて悠然と立ち去ろうとする。
「好き勝手に暴れておいて、自分の都合だけで去れるとでも?」
俊典の声が低く響いた。
普段の彼からは想像もできないほど凍てついた声だ。
「――デトロイトスマッシュ!!」
渾身の力を込めたその一撃は、大気を砕き、音速を超えて男の背中を貫いた――かのように見えた。
確かに感じたはずの手応えが、不意に消え失せる奇怪な感覚。
次の瞬間、無防備な背中に攻撃を受けた男の身体は、まるで紙片のように散り散りになり、無数の紙吹雪となって宙を舞っていた。
「これは……?」
俊典の目がわずかに見開かれる。
その眼前に突如として黒いゲートが開かれ、舞う紙片はその深淵に吸い込まれていった。
「深入りは禁物だ、No.1ヒーロー。ここから先はお前が踏み込んで良い領域じゃない」
不気味な静寂の中に、冷たい機械音が響く。
暗黒のゲートの縁に、死柄木の姿が揺らめいている。
俊典がとっさに伸ばした指先が触れる直前、無情にもすべては闇に溶けて消え去った。
痛々しい爪痕だけが残された戦場を前に、俊典はしばし愕然と佇んでいた。
やがて小さく息を吐くと、振り返り、傷つき疲れ果てた子供たちへと視線を向ける。
消太、朧と順に労わり、最後に力なくへたりこむ蒼翼のヒーローの前で膝を折った。
「もう大丈夫だ……君は、本当に強い子だ」
穏やかな声音に、蒼良がぼんやりと顔を上げる。
俊典の瞳に微かな驚きが浮かんだが、それはすぐに柔らかく細められた。
「……大丈夫。私は何も見ていないよ」
そっと囁きながら、俊典は蒼良のフードを丁寧に深く被せてやる。
その仕草には、慈しむような静かな優しさが込められていた。
これから若干名(多分三人)オリキャラが出てきます。許してつかあさい、、、。途中でタグをつけ足したので、知らずにここまで読まれた方、誠に申し訳ございません。
※一応オリキャラはお好み焼きで言うところの鰹節であり、メインではございません。