暗部の忍が転生して公安ヒーローになる話   作:ぴのっきお

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平和の裏側

「___え?過去二年間のナガンさんの仕事内容を全て教えて欲しい、ですか?」

 

 

目良善見二十歳は驚いていた。

というのも、普段自分から何かを欲する事など滅多にない___というより過去に一度もなかった寡黙な少女が、つい先ほど、初めて、自らの要望を唐突に提示してきたからだった。

見慣れた美幼女の無表情を見つめながら、確認のために言葉を重ねる。

 

 

「少々時間はかかりますが、可能ですよ。ただ、どうしてそれが欲しいと思ったのかをお聞きしても?」

 

「昨日、久しぶりに会った彼女の様子に違和感を感じました。その原因を突き止めて快方へと向かわせる事が、それに気が付いた私の役割だからです」

 

 

公安のために、ナガンの精神状態をサポートする。

そこに個人的な動機や思惑は介在せず、組織を形成する一つの歯車として最適な行動を取る。

客観的に、論理的に自分がすべき事をする。

それ以外の余計な思考は捨て、不要な思念は排除する。

だから蒼良は、ナガンに対して吐いた自分自身の不可解な発言についてなど、もうとっくに頭の片隅に追いやっていた。

 

 

「………はぁ、なるほど。何となく理解出来たような出来ていないような……。それにしても、ナガンさんとお会いしたんですね。彼女が静岡に拠点を移してしまってから、なかなか会えていなかったでしょう。どうでしたか?久しぶりにお話し出来て、嬉しかったですか?」

 

「………嬉しい」

 

「は、まだ分からないですよねぇ。失礼しました。今の質問は気にしないでください」

 

 

表情筋の死滅したお人形のような顔がこてりと傾くのを見て、目良はサクっと話題を切り替える。

 

 

「とりあえず、頼まれた件については一週間以内にまとめておきます。君からの初めての要求ですから、優先的に処理しますよ」

 

 

なまじ優秀なばかりにやたら多くの仕事を請け負っている目良の目元には、今日も今日とて色濃い隈が住み着いている。

実は本日二徹目なのだ。

けれど、五歳の頃から約二年の歳月をかけてようやく為された蒼良の最初のおねだりに、あともう二徹は踏ん張ってみてもいいかなと思う目良なのであった。

 

 

蒼良が目良から約束の資料を受け取ったのは、依頼してからたった三日後の事だった。

他の仕事もあるだろうに、本当に優先的に進めてくれたのかと驚きつつも礼を告げ、その日の全ての訓練が終了した後、蒼良は自室にて一晩かけてナガンの二年間を追いかけ始めた。 

 

流石は仕事の出来る男と言うべきか、目良の作成した資料には、取り立ててニュースにもならなかったような些細な活動の記録まで余すことなく記されており、その膨大な量と硬い文面は、間違っても七歳の少女に宛てるようなものではなかった。

常に行動を共にしてきた訳ではないが、常識から外れた能力を持つ蒼良を二年もの間見守ってきた目良の、慣れと信頼の表れである。

 

表立って公表されていないナガンの裏の活動は、大まかに要約するとプロヒーローや犯罪組織への諜報活動だった。

ヒーローによってもたらされる平和を維持していくため、世の中に仇をなす不穏な動きが見られないかを調査するというのが、彼女の裏仕事の内容であり、記載されていたのはそこまでだ。

 

では、見つけ出した不穏分子の処理方法はどうなるのか。

 

個人的に調べていくと、彼女が素性を探っていた社会の基盤を揺るがしかねない人間たちの殆どが、法に裁かれる事無く罪ごとその存在を消されていた。

不審な死を遂げた者が居た。

突然消息を絶った者が居た。

不運な事故に遭った者が居た。

その末路に辿り着いた時、蒼良は自然にナガンの暗躍の全貌を推察して受け止めた。

 

暗殺。抹殺。謀殺___とどのつまり、彼女が裏で行っていたのは、常に清廉潔白であるべき表のヒーローたちには出来ない、非合法な事件解決である。

 

恐らく目良はその情報を蒼良に秘匿したのではなく、彼自身も知らなかったのだろう。

かつて蒼良が暮らしていた木ノ葉隠れの里でも、外に公表できない非人道的行為の多くは、暗部の中枢の人間にしか伝えられていなかった。

いくら優秀とはいえ、まだ経験も浅く、組織の末端に属している目良では集められる情報にも限りがあったに違いない。

 

さて、一通りの情報を把握し終えた蒼良は、またしても行き止まりに突き当たって首をひねった。

ここまでしてもなお、ナガンの不調の原因が蒼良にはまるで分からない。

何故なら蒼良にとって、ナガンが日々こなしていたものはごくごく普通の任務だったから。

普通だと、思ってしまったから。

だって彼女の裏の活動は、かつての蒼良が当たり前のようにこなしてきた数々の任務と、よく似た内容だったのだから。

 

その後もしばらくナガンに関する情報を得ようと画策してみたものの、手に入る情報に新規性はなく、蒼良はナガンに対して感じた引っかかりを、とうとう自分の杞憂だと結論付けた。

彼女自身が言っていた通り、本当に疲れが溜まっていただけだったのだろうと。

仕方がない。

だって彼女には、それ以上の可能性など思いつくはずもなかったのだから。

 

 

 

自分の常識と世間の常識との乖離に、蒼良は気づいていなかった。

ヒーロー飽和国家である日本という大木を、見えない場所から支えている公安のその実態は、「根」とあまりにも酷似しており、蒼良がその在り方に疑問を抱けるはずがなかった。

 

蒼良にとってはむしろ、ここは生温いとすら感じる世界だ。

上の思いつきでヒーローの卵たちが殺し合いをさせられる事もなければ、まだ幼いからという理由で子供はやたらと丁重に扱われもする。

蒼良の感覚では、七歳などもうとっくに戦場を駆け回っていてもおかしくない歳だというのに。

 

だから、思い至らなかった。

マトモな心を持った正常な人間が、社会の闇を見続けるとどうなるのか。

そして、見落とした。

瞳に星を宿した女性が、その手を血で汚し続けながら、いったい何を思っていたのか。

 

そうして張り詰めた糸が切れるその日まで、約一年も蒼良はその状態を容認し続けてしまったのだ。 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

人が夢を見る感覚は、溺れたときのそれとよく似ていると蒼良は思う。

肉体から解放された意識はひどく不自由で、重力のない空間をひたすらに漂い続けるのだ。

視覚も味覚も聴覚も嗅覚も触覚も、何一つ感じられないというのに、それを疑問に思う事すら叶わない。

 

 

「___どうして貴方は、私を蒼良と呼びたがるんですか?」

 

 

ふいに聞こえたその声は、鼓膜ではなく蒼良の記憶を直接震わせた。

その声の主がいつか遠い日の自分であることも理解できないまま、男の声がゆったりと答えるのを聞いていた。

 

 

「どうしてってそりゃあ、その名前がお前の原点だからに決まってるじゃない。初心忘るべからずって言うだろ?大事なんだよ、原点は。お前がお前たる由縁だからね」

 

 

懐かしい声だ。

聞きなれた軽薄そうな喋り方。

ああ、そうだ。そうだった。

大人になり、暗部を抜けた彼は随分と表情が柔らかく、物わかりの良い人間になっていた。

それなのに、蒼良を名前で呼ぶ事だけは一向にやめようとしない頑固さを持った人だった。

 

 

「私は何者である必要もありません。ただ国のため、里のため、暗部のために消費されるだけの道具ですから」

 

「あーあー……駄目だよ、そんな悲しいこと言わないの。そういう事ばっかり言ってると、そのうち俺だって泣いちゃうからね」

 

「…悲しい?」 

 

「ああ、悲しいよ。お前がお前でなくなることは、すごく悲しいことなんだ__」

 

 

記憶の中の男の視線が、不意にこちらに向けられた気がした。

朧げな夢が終わるとき、蒼良は決まって息の詰まるような感覚を味わう。

 

 

「__俺にとっても、お前にとってもね」

 

 

懐かしい過去の記憶を夢に見た朝、蒼良の意識はまどろみの中で現実へと浮上した。

湿度が高まり始めた六月、じっとりと湿った身体にはわずかな倦怠感が残っている。

濡れた服を脱ぎ、シャワーを浴びて身支度を整え、蒼良はいつものように社員食堂へと足を運んだ。

 

キッズサイズの日替わり定食を注文し、空いたスペースに腰をかけて食事をとる。

栄養さえ接種できれば口に入れるものは何でも良いという考えだったが、食堂を利用し始めたばかりの頃、一週間三食ずっと同じメニューばかりを注文していた蒼良の様子を見かねた目良が、「それならせめて日替わり定食にしてください」と頼み込んできたお陰で、今の食事スタイルが出来上がった。

 

ナガンが側に居た頃は、朝夜は彼女の部屋で彼女と共に食事をしたり、時には目良も招いて談話室で過ごしたりと賑やかに過ごしていたのが、今となってはそれも過ぎた話であり、こうして一人で食事を摂る事が習慣になっている。

タイミングさえ合えば目良が隣にやってくる事もあるが、常に仕事に追われている彼の生活リズムは蒼良とは重ならない場合が多かった。

 

いつもと変わらない日常だった。

 

学校に通っていない蒼良は午前中、一般教養を身に着けるための通信教育を受講する。

特殊な箱の中、未来に続くレールは真っ直ぐ一本に敷かれていれど、蒼良には学ぶ権利と義務があるのだと大人たちは言う。

随分と発展した世界だ。

あの頃の忍界では、戦争孤児がそこら中に溢れていた。

蒼良が成人する頃にはあの里も随分と変わったけれど、こんなにも水準の高い生活が全ての人間に保証されてはいなかった。

明日もそこにあるのかすら分からない命のために、時間も金も安易には溶かせないからだ。

 

食堂にて昼食を挟むと、午後からはヒーロー養成プログラムを受ける時間である。

戦闘能力強化のため、個性のコントロール技術を高める訓練が主として行われ、まだ未発達な身体に過剰な負荷はかけないようにと、配慮された基礎体力訓練を行った。

骨が折れるまで殴られることも、反対に、血反吐を吐くまで誰かを追い詰めろと指示されることもない、この世界ならではの優しい訓練方法だ。

 

そうして一日の課題を全て終了した蒼良は、また一人で食堂へと向かい、食事を終えると寄り道もせずに真っ直ぐに自室へと戻る。

外はまだわずかに明るいが、時間の潰し方を知らない蒼良は、電気を消して早々にベッドに潜り込むも、睡魔はそう都合よくはやってこない。

目を閉じて、時間を刻む壁時計の音だけが規則正しく部屋を満たすのを、ただじっと聞いている。

日中に全ての体力を使い果たし、疲弊しきって死んだように眠るという経験を、今世の蒼良はまだ一度もしたことがない。

 

蒼良の日常は、ひどく静かだ。

一人で食事を摂る間も、一人で風呂に入る間も、一人でベッドに潜る間も。

そのせいか、この生活スタイルになって二年以上が経過した今でも、その静寂の隙間を縫ってナガンの大きな笑い声や蒼良を呼ぶ弾んだ声音が蘇る事が度々あった。

 

それを懐かしむような感慨はない。

けれど、彼女と過ごした日々の記憶がいつまでも色褪せない。

それはまるで、レディ・ナガンという女性のその全てが、蒼良にとってあまりにも鮮烈であった事の証明のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

蒸気が全身を這っているような蒸れた感覚___その日二度目の目覚めが訪れたのは、室内の壁時計が夜の十二時を指し示す直前の事だった。

暑くもないのにじっとりと全身に汗を掻いていた。

瞼を開け、暗い天井を見つめ、渇いた喉でも潤そうかと上半身を起こしたそのタイミングで、蒼良は金縛りでも喰らったかのように一度ピタリと動きを止めた。

 

全身にピリピリと小さな針の先端が触れているような違和感を感じたのだ。

ゾワゾワと、背筋の産毛が逆立っていく感覚がある。

呼吸を抑えて意識を研ぎ澄ませてみれば、肌に感じる弱い刺激は突き刺さるような圧迫感へと形を変えた。

 

途端、第六感が、経験が、それが恐ろしいほどに禍々しい殺気であると、蒼良の脳内で警鐘を鳴らし始めた。

久しく感じていなかった粟立つような知覚が、意識を完全に覚醒させる。

 

戦いから離れて八年以上の月日が流れていようとも、余計な思考に割くリソースを持たない蒼良の状況判断は迅速だった。

 

胸の前で両掌を合わせ、丹田に意識を集中させる___身体を構成する百三十兆個あまりの細胞から生み出される身体エネルギーと、経験によって蓄積された精神エネルギーの二種類から成るチャクラが体内の経路を巡り始める。

中心から末端へ、そして再び中心へと循環し、急速に練り上げられていく。

 

身体を覆うチャクラが一時的に身体能力を活性化させ、その神経を超人的な鋭感へと昇華させていく。

この状態であれば、たとえ目を閉じていたとしても周囲を認識する事が可能となる。

 

練りこまれたチャクラを背中の翼にまで行き渡らせると、蒼良はその羽の一枚一枚を建物内に一斉に散らした。

意のままに動く羽たちが瞬く間に、誰にも知られる事無く寝静まった施設をヒッソリと埋め尽くしていく。

 

柔く小さくたいした強度もない青い羽たちはしかし、チャクラを纏う事によって、その周囲半径一メートル以内の情報を正確に把握し、本体である蒼良へと伝える強力な探知機へと化していた。

空気に混じる殺意の発信源を突き止めた瞬間、部屋の扉を吹き飛ばす勢いで蒼良の蹴り足が爆発する。

 

目指す場所へと脇目も振らずに猛進する蒼良が辿り着いたのは、会長の個室だった。

蒼良が人間離れした脚力をもってその扉を視界に入れたのと、室内の殺気が急激に高まったのはほとんど同時だったように思う。

 

 

___静まり返った暗い廊下に、鈍い銃声がかすかに響いた。 

 

 

盗聴防止用に作られた部屋の防音性は高く、その耐久性も並みの家屋とは訳が違う。

しかし蒼良は、その背に残った青い翼で細身の刀身を作り上げ、風性質のチャクラを纏わせると、躊躇うことなく目の前の扉に振り下ろした。

 

かつて生き抜いた世界では、薄く鋭く研ぎ澄まされた風遁チャクラは近・中距離戦において一番の攻撃力を持つ希少な性質だと謳われていた。

切れ味を何十倍にも引き上げられた蒼刀が頑丈な扉をいとも容易く切り砕き、それと同時に強引に室内へと押し入りながらも、蒼良は瞬時に会長の居場所を把握。

守護するため、彼に背を向けながらそのすぐ前に位置どるのに要した時間は一秒にも満たない。

彼からすれば、瞬きをした直後に蒼良が目の前に現れていたようなものだった。

 

 

「あ、アズール……ッ!?どうやって、いや、どうして君が今こんなところに……」

 

 

背中で放心したような呟きを聞く蒼良は、その疑問には答えもせず、振り返る事もなく、ただじっと前を見つめていた。

重心を落とし、戦闘態勢に入っていた蒼良の体から、徐々に力が抜けていく。

手に握っていた蒼刀が、無意識の内に形をなくして床に散らばる。

 

 

「どうして、」

 

「やめなさいアズールッ!不用意に彼女に近づくな!」

 

 

ふらりと足を踏み出した蒼良の背後、会長が大声で制止の声をあげた。

薄い肩を強い力で掴まれて、一度歩みを止めた蒼良の視線は、正面に固定されたまま動かない。

 

 

「だって、どうして……分かりません。分からないんです」

 

 

もう一度歩き出そうとした少女を止めようと、会長が肩を後ろに引くも、驚くことに小さな身体はビクともしない。

成人男性の本気の握力をゆるく振り払い、蒼良は再び歩みを進める。

 

 

「駄目だ、止まれッ、止まりなさいアズール!彼女は……ッ、その女はもう、君が慕っていいような相手じゃないんだッ!!」

 

 

知っている。分かっている。そんなことはもう、理解している。

それなのに、納得できない。信じられない。

自分のこの両の目を、疑わずにはいられないのだ。

 

 

「どうしてですか___ナガンさん」

 

 

血色の悪い顔と唇。

長い睫毛を震わせて、今なお自身の右腕を真っ直ぐ前へと突き出したままの形で固まっている彼女のその顔に浮かぶのは、戸惑いか恐れか絶望か。

恐らく、蒼良が読み取ったそのどれもが正解だった。

 

レディ・ナガン。個性”ライフル”。

彼女はその右腕の肘から先をライフルの銃身に変形させる事ができ、自身の毛髪からライフル弾やスコープをも作成が可能だった。

個性自体はシンプルだが、特筆すべきはナガン本人の人間離れした射撃技術であり、彼女の放つ弾丸は狙った獲物を絶対に逃がさない。

 

しかし今、至近距離でその弾丸を打ち込まれたはずの会長は傷一つなくここに居る。

本来なら彼の脳天を貫くはずだったそれが、蒼良よりも一足先に、扉の隙間を通って部屋への侵入を果たしていた一枚の青い羽に弾かれていたからだった。

 

 

「ナガンさん」

 

ナガンを見据えながらゆっくりと歩み寄る。

凍り付いた無表情はこんな時でさえ動くことはなかったが、しかしその胸中には言葉にはし難い驚きと混乱が渦巻いていた。

 

何故ナガンが会長に銃口を向けているのか、その理由が全くもって分からなかった。

彼女は一見気が強く、傲慢なきらいがあるように見えるが、決して軽薄な訳ではない。

重んじるべきルールは守るし、組織のために身を粉にできる人間だと認識していた。

それなのに、何故___何故、何故、何故。

 

 

「分かりません、ナガンさん。貴方はここで、何をしようとしているんですか?」

 

 

平和な社会を作る手助けをしたいのだと、人々の役に立ちたいのだと、溌溂とした表情で夢を語っていたあの日々はどこへ消えた。

お前のことも守ってやりたいと、お前が笑って暮らせる世界を作ると、そう息巻いていた彼女の笑顔はどこへ行った。

 

 

「自分が今、何をしようとしていたのか、理解しているんですか?」

 

 

組織への反逆など、蒼良の常識ではありえない。考えることすら許されない。

それなのに、この人は、どうして、何故。

 

組織に歯向かうという行為が、何を意味するのか分からない浅慮な人ではなかったはずだ。

歯向いた者の末路がどうなるのか、想像できない愚者ではなかったはずだ。

 

蒼良が歩を進めるたび、相対するナガンはフラつきながら後退していく。

 

 

「来るな……やめろ、頼む。お願いだから……こっちに来るな」

 

 

掠れた息に邪魔をされた、途切れ途切れの懇願がこぼれた。

唇をわななかせ、その瞳に涙を浮かべ、ナガンは怯えたように震えている。

 

 

「ナガンさん」

 

「やめろ……」

 

「分からないんです、ナガンさん」

 

「やめろ…、やめてくれ。来るなよ、見るな……ッ!そんな名前で、私を呼ぶな!!」 

 

 

背後の壁にぶつかり、それ以上の退路を失ったナガンは突然、癇癪を起こしたように分自身を抱きしめながら絶叫した。

 

 

「もう、無理なんだ……無理だったんだ。私は、もう___」

 

 

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