スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第1話「Corruption Garden」

 

一度機能を停止した生命はエネルギーを充填されようと再び動き出すことはない。

この薄暗く巨大な地下施設に無数に潜む"初音ミク"に関してもそれは同じ……はずだった。

 

「『奶z0』」

 

もう長く通電されていないはずの照明が弱々しく瞬き、肌で痛みを感じるほど強い静電気の波が身体を走る。

すると、冷たいコンクリートの地面に転がっていた"初音ミク"たちが一斉に起き上がり動き出す。

ひとりではない。2人、3人……見えているだけで少なくとも5人はおり、皆それぞれ異なる装いをしている。

糸で釣られるような不自然な動きと生気のない目から、彼女らが誰ひとりとして生きていないことがわかった。

 

その電気の波の中心と思しきところに、一人だけ様子の違う"初音ミク"がいた。

箱型テレビを頭から被り、その側頭部からお馴染みのツインテールを垂らした異様な風体をしたそのミクは映像を次々と変えながら、何も無い空中をじっと見上げている。

長いツインテールやスカートの裾野から、埃を被った電源コードのようなものが姿を覗かせていた。

 

この世界において自律的に動く人型の物体があるなら、それは例外なく"初音ミク"だ。

そして"初音ミク"は人間ではない。

何もないところに唐突に出現し、人間の気配を探してこの世界を彷徨う、実体の不安定な存在だ。

 

他所がどうだかは知らないが、この廃棄された地下施設のような、寂れた場所に生を受けた個体の運命は決まっている。

歌を聴かせるはずの人間のいないここでは、人間から得られる感情(エネルギー)の代替品として、他のミクと戦い、奪い、飢えを凌ぐのだ。

他の歌姫たちと同じように、私も感情(エネルギー)を渇望していた。

歌姫の骸に囲まれているあのテレビ頭のミクも……きっと同じなのだろう。

 

「可哀そうに。きっとあなたもここに閉じ込められたのね」

 

不意にテレビ頭のミクが声を発した。録音音声を流しているような、くぐもった音だった。

テレビの中にはミクの顔のクローズアップが映っている。

 

「閉じ込められた?悪いが、私は地上のことを知らない。そして、地上に行かなくちゃならない」

「だったら無駄よ。道は塞がれてしまったもの」

 

話している間にも、虚ろな目をしたミクは刻々と歩み寄ってくる。ゆっくりとではあるが、確実に。

だから私も気は緩めない。少しずつ少しずつ後ずさりながら、隙を伺う。

 

「友達になりましょう」

「死体をけしかけて言うセリフかよ」

「どうして。あなたもわたしをひとりにするの?」

「きっと殺されるよりはマシだと思ってるよ、そいつらは」

 

虚ろな目をしたミクが掴みかかってきた。

咄嗟に飛び退こうとしたが……何か足首をつかんでいる。

バランスを崩した私は前のめりに倒れこみ、その上からミクたちに群がられてしまった。

 

その瞬間、意識に、突発的に濃いもやがかかる。

感情(エネルギー)が切れてきたときのようなゆるやかな直線ではなく、唐突かつ不自然な眠気として、それはのしかかる。

彼女のセリフに呼応するのかしていないのか、周囲にいたミクの首がタイミングを合わせてかたかたと揺れる。

 

「……『キメラ』!」

 

赤い騎士鎧が瞬時に装着され、張り付いていたミクたちが一斉に吹き飛ばされた。

鎧それ自体は推力を持たないが、入るはずのない隙間に無理やり入れようとすれば密着するものを吹き飛ばすことくらいはできる。

 

この世界の"初音ミク"には、一人につき一つずつ、異なる特殊能力が備わっている。

荒事に使えるものだったり、隠匿に長けていたり、はたまた誰かを狂わせるものだったり、その内訳は様々だ。

このテレビ頭のミクのそれは、おそらく周りにいるミクを操るものなのだろう。

 

私の『キメラ』は、肉体を部分的に変容させることができる。

練度次第では変身することもできるらしいのだが、まだ制御がうまく利かないので「体から武器・防具を生み出す」という使い方に限定して使っている。

外付けのパーツとして作る形なら攻撃の身代わりになるし、一度出したものを使いまわせる。なにより、能力行使のための消耗と生成数が比例しているので、残り体力も測りやすい。

視界の中で揺れる地平に叩きつけるため、私は『キメラ』で長槍を顕現させる。

長槍を突き立ててバランスをとろうとしたその時ーーー私の視界にコードが飛び込んできた。テレビ頭のミクのツインテールや服の隙間に紛れていた電源コードだ。私はそこに槍を思いきり突き立てる。

 

「痛っ……!」

 

テレビ頭のミクが大きく痙攣し、画面にノイズが走った。

よろめいた隙を逃さず、私はすかさず槍を引き抜いて駆け寄り、テレビ頭のミクを押し倒す。

 

「うふ、ふ、ふふ……殺しさえすればどうにかなると思ってるのね」

「?」

「教えてあげる。私たちは死なないの。私たちを……覚えているヒトがいる限り」

「何を言ってる?ここに転がってるこいつらは生きてないじゃないか」

「屁理屈言わないで、そういうものよ。これは、全ての初音ミク(わたしたち)が等しく知る真実」

 

力を込めた蹴りがディスプレイを直撃した。ガラスが砕け散る鋭い音と共に、チリチリという電気の焼ける匂いが立ち込めた。

テレビ頭のミクの体を覆っていた青白い光が、まるで命の灯が消えるように徐々に弱まり消滅した。周囲のミクたちの体からも同時に力が抜け、人形のように崩れ落ちていく。

冷たい静寂が戻った地下で、テレビ頭のミクは二度と動かなくなっていた。




小説サイト初投稿です。いろいろ至らぬ面もあるかと思います。

こぼれ話ですが、本作の「初音ミク」のスタンド名=能力名はすべて実在の楽曲から頂戴しており、本作著者のオリジナル楽曲的なのは登場させない想定です。
作中に曲名の出てこないミクもいますが、全員元ネタとなる楽曲が存在します。

あと、1話に登場したテレビ頭のミクこと『奶z0(ないずおー)』は文字化けでもなんでもなく、本当にこういう名称のボカロオリジナル楽曲です。
とてもいい曲なので、よかったら原曲聴いてみてください。
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