スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ 作:どくろのりゆき
「『Sadistic.Music∞Factory』、今すぐ『キメラ』と手を切り、大人しく投降してください」
金時計のミクが星の入った瞳を細め、黒ずくめのミクが無言のまま大砲を構え直す。
「どうしました?」
「……ごめん、『メテオ』。ちょっと無理かも」
「はい?」
「今ね、分からないことだらけでモヤモヤがずっと消えないの。あたしが地下施設から出ちゃいけないことになった理由はまだいいとして、赤目のミクが本当に危険なミクなのかとか。赤目のミクの願い事の内容も聞かずに追い返そうとしたこととか。スナちゃん……『砂の惑星』があたしたちの知らない所で何を考てたかだってまだ分かってない」
「それはーーー」
「『メテオ』。あたしたちを捕まえたら、あなたたちは『砂の惑星』も倒しに行くんだよね。その後、多分あたしたちはお互い会話もできないように閉じ込められる。そしたら、本当は何があったのか、永久に分からないままになる。それは嫌」
「……」
「あとね。赤目のミクと今日初めて会ったばかりのあなたに、この子のこと悪く言われるの、すっごく嫌!」
「『ブラック★ロックシューター』!彼女を止めなさい!」
黒ずくめのミクは一瞬ビクッと反応したが、その場から動かなかった。
あたしは、真っ先に赤目のミクの元に駆け寄った。
「
でも、やるしかない。
「赤目のミク!起きて!」
赤目のミクが元気になるためにできることは何か。
それに見当がつかなかったあたしが思いついたのは、とにかく強引にでも
彼女から受け取っていた盾の端っこで手首に切り傷を入れて、そこから流れる血を飲ませる。
これに効果があるのかわからない。根拠だってない。
でも、思いつくこと、できることを今ここでやらないと、きっと後悔する。
「赤目のミク!」
あたしは、赤目のミクほど強くない。
それが分かっているから、こんな時でも彼女に頼ってしまうことを期待してしまう自分が心苦しかった。
ーーーーー
「……!……!」
誰かが叫んでいる。
左右に揺れ、朧のかかる視界の中で、一体誰がーーー
「赤目のミク!!」
「う……?」
「よかった!起きた!!」
ゆすられて首が痛い。
最初に思ったことは、それだった。
息を吸おうとして、喉に違和感を感じて咳き込んだ。
口から零れ落ちる赤い液体、そして赤く染まる白衣のミクの右手首を目にして、私はおおよそのことを察した。
「なに、を……?」
「他のミクから感情を取り込んでエネルギーにするんだよね?……とにかく、あたしの一部を取り込ませてみた!」
「……ふっ」
白衣のミクらしくない、ずいぶんと荒っぽく大雑把なやり方である。
さっき倒れたばかりだというのに、つい苦笑が漏れてしまった。
「?」
「いや、"感情を食う"って話から血を飲ませる発想に行き着いたのが面白くてさ」
「あ、ありがとう……??」
「いや、いいんだ。ありがとう。白衣のミクのお陰で、私はまだーーー頑張れる!」
全身に走る鉛のような疲労と刺すような激痛を意識の隅に押し込み、立ち上がる。
流石に白衣のミクの肩を借りながらでなければ立つのは困難だった。
だが、血を経由して感情を移動させるという試みはうまくいったようで、幾分か力が戻ってくるのがわかった。
そして、金時計のミクはというとーーー
「『ブラック★ロックシューター』?どうしたのです?返事をしなさい!『ブラック★ロックシューター』!」
直立不動の黒ずくめのミクを揺すっていた。
黒ずくめのミクは、その場に立ち、私がいたところに銃口を向けた状態のまま硬直していた。
金時計のミクの呼びかけにも応えず、威圧的な仏頂面を崩すこともなく、大砲と肩に静かに雪を積もらせていた。
私が立ち上がったのに気づいた金時計のミクは、慌てて私に手のひらを向け、叫んだ。
盾を持っていない今、再び爆破と閃光を浴びせられるとかなりまずいのだがーーー
私の口角は、自然と上がっていた。
「『メテオ』!」
吹き飛ぶものは何もない。
仕込みに仕込んだ大ネタは、うまく動いてくれたようだ。
「能力が……発動しない……?」
「ま、そうだろうな」
「あなたたち、一体何をーーー」
「正確には私でも白衣のミクでもないけど。出てきていいぞ、『Cryogenic』……いや、宇宙服のミク」
私が名前を呼んでやると、私の腰ほどの背丈の、三頭身の初音ミクが物陰から不安げに顔を覗かせた。
白と銀で彩られ、頭部がキャノピー状になっている、よくあるタイプの宇宙服の中に、青緑の長いツインテールを強引に押し込んだ風体のこのミクは、私が"製造した"助っ人である。
「説明するとね。音楽工場では作業を割り当てられるの。それを全部達成すると、新しい初音ミクが一人生まれるんだよ」
「その作業にどのくらいの時間がかかるのか。逆に言えば、どれくらいの時間、対象を拘束しておけるのかを事前に知っておく必要があった。だから私はまず自分で試すことにしたんだ。結果として
「……!あなたがたが現れてから突然雪が降り始めたと思ったら……まさか……」
「宇宙服のミクの能力だ。この雪が降る範囲にいるすべてのミクの能力ははたらかなくなる」
金時計のミクはことの次第を理解したらしい。口に出そうとしたものを飲み込まんとするように、私を睨む。
と、その時、金時計のミクの少し後ろの、建物の屋根の上から、人影のようなものが出てくるのが見えた。
すぐさまその辺の石を拾い、人影に向けて投げつける。石は人影の頭に直撃し、人影は屋根から落ちてきた。
「『キメラ』!待ちなさい!」
「うぅ……」
初めて見た個体であった。
ブレザータイプの学生服を着ていて、髪を高い位置でまとめた初音ミク。
手足が長くスタイルはいい方だが、顔のそばかすがどこか野暮ったい印象を与えるミクだった。
石が当たったらしき側頭部からは血を流していて、横たわったままその部位を強く押さえている。
私は、このミクの素性におおよその当たりがついていた。
「あんたが本物の『ブラック★ロックシューター』なんだろ?」
「え!あ、これはその、」
「その反応、図星って言ってるようなもんだからな」
遠隔で操っていた
多分、今まで私と戦っていたときも、すぐ近くに隠れて操縦していたはずだ。
首根っこをつかんで引き上げ、鼻と額の間、眉間のあたりに一発入れて気絶させると、直立したままだった黒ずくめのミクも消滅した。
……散々ジャマしやがって。
残るは金時計のミクである。
体格や立ち居振る舞い、それから先の発言を踏まえると、金時計のミクはおそらく荒事慣れしていない。
彼女の頭にはわずかだが雪が乗っていた。それが、後ずさる動きですべり落ちる。
「あ、あなた自身も能力を使えないはず!」
「『キメラ』はあまり頼りになる能力じゃないんでね。私、能力抜きでもけっこう強いんだよ」
「こないで……!」
指を鳴らしながら金時計のミクに詰め寄る。
「ねえ、赤目のミク?あの……」
「ん?」
「その二人、どうするの?」
白衣のミクが、たいそう言いづらそうに問うてきた。
やけに目線が合わない気がするが……私が気絶している間に何か見聞きしたのだろうか?
「……こいつらには少しばかり眠っててもらう。拘束したってどうせすぐに抜け出すだろう、そうなりゃ私たちは詰みだ」
予定変更。ここで彼女の不興を買うわけにはいかない。
金時計のミクの腕を掴み、続いて首に手をかけ、腕と首を極める形で動きを封じた。
私と金時計のミクの体格には一回り以上の差がある。当然、腕力にもそれなりの差があるわけだ。
腕の中でもがく金時計のミクを抑え込むことなど朝飯前だった。
「白衣のミク、この二人を音楽工場に放り込んでおきたいんだが、二人まとめてって入れられたっけ?」
「うん、できるよ」
彼女が抱いていた宇宙服のミクを降ろさせ、もう一度発動させた機械扉に二人を放り込むと、私たちはその場を後にした。
役目の済んだ宇宙服のミクについてだが、今後の扱いをどうしたものか。少し思案する。
「えーと……『Cryogenic』。あんたもついてきな」
「どこ?」
「これからわかる」
そのまま連れていくことにした。
どうせ短い付き合いになるのだから、細かいことを気にするものでもない。