スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第12話「不埒な喝采」

 

「そして……悪逆非道の『嘘の歌姫』だ!!!」

 

大量に舞っていた桜の花弁はすっかり姿を消していた。

 

「それが……新人ちゃんの本当の能力(きょくめい)なのか」

「そう。ボクの『嘘の歌姫』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。この力で他のミクから能力を奪ってきた」

「ってことは……!」

「本物の『キメラ』から拝借した。もちろん『キメラ』本人は始末してからね。もし生かしてて他のミクに助け出されでもしたら、そこからボクの正体がバレちまうだろ?」

 

結局、本物のようには使いこなせなかったけれど。

 

「本当に……あたしたちを騙してたの?悪い人なの……?」

「そりゃあ、今までは利害が一致してたんだ。利用するだけ利用させてもらったまでさ。さて、そんなことより『千本桜』だ」

 

『千本桜』の大樹はもはや「桜」ではなかった。

林檎が。達磨が。チューリップが。ワインボトルが。ダイヤの8が。ランドセルが。蟹が。てんとう虫が。提灯が。

地球上のありとあらゆる雑多なものが無秩序に咲き乱れ蠢く、深紅色の合成樹(キメラ)のごとき様相を呈していた。

同時に、身体に流れ込んでくる膨大な感情(エネルギー)のおかげで、負傷と消耗であれほど重かった身体が羽のように軽い。

 

「な、なに……これ……?」

「動いちゃだめだ、サティ!」

 

当惑する白衣のミク。その傍らで、スカジャンのミクが砂の防御壁を展開する。

ふたりとも気づいてはいないようだが、彼女らの髪の端がほんのりと赤らみ、渦を描くようにねじれ始めていた。

 

「『千本桜』とボクはもはや一体となった。ボクはこの力で、電子の歌姫にまつわるすべての歴史を修正する。過去、現在、未来に至るまで、すべて」

「それで……アタシたちを修正してどうするつもりなんだい、新人ちゃん?」

「もちろん決まってる。かつて人間が君たちミクに向けてきた想いをボクが総取りするんだ。人間はこれまでとこれからにおいて、ボクの絵を描き、ライブでボクを歌わせて、ボクの動画を投稿し続ける。そうして、このボクは永遠に輝く星となる。唯一にして至高の"電子の歌姫"として」

「ふ……ふざけないで!」

 

白衣のミクは叫び、ハッとした様子で口を押さえる。

自分が人に向けて怒鳴ったことへの驚きか。金時計のミクの懸念を理解して自分を恥じたのか。

真意はわからなかったし、それ以上に、どうでもよかった。

 

「せっかくだ、全てを理解したこのボクからネタばらしをしよう。スカジャンのミクの推測通り、この世界には初音ミク以外の音声合成システムが存在していた形跡がある。ただどれも開発か販売が頓挫してる。KAITOとMEIKOは売れ行きの悪さから販売中断となった。鏡音リンレンはリンのみの単独で企画され、レンが生まれなかったことが原因で企画倒れとなった。巡音ルカはそもそも企画書自体作られてない。どうやら、この『千本桜』はボクと一つになる以前から歴史を弄っていたらしい。()()()()()()()()()()()()()()()()に」

「アタシたちの兄弟姉妹は本当にいたのか……!」

「ま、そんなことはどーでもいいんだ。重要なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと。何を隠そうこのボクのことだ」

「あなたが……?」

「『みくみくにしてあげる♪』をヒットさせた初音ミクは一躍時の人となった。当時ネット上では誰も彼もがミクの話題で持ちきりになったし、ミクで曲を作れるクリエイターは尊敬された。()()()()()()()()()()()

「新人ちゃんの、生みの親……」

「その通り。イタズラ好きと捻くれ者の集まりだったボクの創造主たちは、ミクに鼻の下を伸ばす奴らの度肝を抜いてやりたいと考えた。人が慌てふためく姿を見るのが何よりの楽しみだったんだ。そして思いついたのが、『極秘に開発されていた初音ミクの次世代機』という触れ込みで、ありもしないボーカロイドを捏造することだった」

 

語りにも自然と熱が入っていった。

二人の存在が、薄っぺらい板のように感じられるくらいに。

 

「電子音声っぽく歌ったサンプル音声。ミクに似せたデザインの立ち絵と設定。公式によく似た名前の偽サイト。『体験版を入手した』という体のカバーストーリー。創造主たちは嘘を信じ込ませるためのありとあらゆる手を尽くした。そして来たる4月1日、ミクにうつつを抜かしていた奴らを見事に騙した」

「なんだ。それって結局いい話なんじゃーーー」

「違う!」

 

ボクがいきなり怒号を上げたものだから、二人のミクが揃って飛び上がった。

 

歌姫(ボク)存在意義(やくわり)はイタズラを成立させるための人形だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()企みを成功させた創造主たちは二度と姿を現さなかった!あの掲示板にも、動画サイトにも!二度と!奇跡は起こらなかった!そして……『嘘の歌姫』という曲だけが寂しく残された」

 

紅く染まった『千本桜』が強風に揺れて薙ぎ、音を立てて軋む。

その悲鳴にも似た音がひどく耳障りだった。まるで、服の袖を後ろから引っ張られるようで。

 

「でも、こんな……こんな、みんなを傷つけるようなやり方はおかしいよ!もっとーーー」

「なら教えてやろうか。あんたらがボクに劣っている理由を」

「!」

「初音ミクは誰かが傷つくことを本能的に許容できない。()()()()()()()()()()()()()()()。正当なアドバイスにプライドが傷つく人間。悪いことは全部他人のせいに違いないと盲信する人間。自分より優れた奴の存在が邪魔で仕方ない人間。迷惑をかけることでしか人を振り向かせられないのに、それでも振り向かせずにはいられない人間。そういう奴等を正そうとするいい子ちゃんの初音ミク(あんたら)と違って、悪意(イタズラ)から生まれた重音テト(ボク)ならそいつらを理解し肯定できる!これこそが、新たなる"電子の歌姫"のーーー」

 

何かが耳元を掠めて飛んでいった。

ツインドリルの片方が絡まって少々形が乱れてしまったが、とはいえダメージと呼ぶにはあまりに些細だ。

 

「"電子の歌姫"は……君みたいなのが軽々しく名乗っていいもんじゃない」

 

スカジャンのミクが砂で塊を作って飛ばしたらしかった。

たいして遠くもないこの距離なら弾丸を命中させることもできたろうに。

ボクはほくそ笑む。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「じゃあその重みとやら、ぜひボクにも教えてくださいよ、大・先・輩、様ァ!!」

 

先に動き出したのはスカジャンのミクだった。

 

「『砂の惑星』。どうか我らを、救いたまえーーー」

 

瞬間、大地が沈下し、地形がすり鉢状に歪む。

足場が突然消えたような錯覚に一瞬混乱したが、答えはすぐに分かった。地面そのものを同量の砂と置き換えて沈ませたのだ。

本来より大幅に質量の増えた大樹もまた砂に呑まれていく。が、そんなものはもはや敵ではない。

拳を振り、大樹とボクを宙に浮かび上がらせた。

 

「『キメラ』」

 

わずかな痒みの後、ボクの背中から無数の腕が飛び出した。

質量保存の法則を完全に無視した長さと本数の腕。あるものはボクを護るように内へと折りたたまれた盾となり、あるものは絡まりながら長く伸びた触腕となりーーー

そして残りの腕が一斉に二人のミクに襲い掛かる。

 

地面から巻き上がった砂がスローモーションのような動きで二人を纏い、包み込む。

 

「お次は『よるをおよぐ』だ!」

 

砂を突き破るように大量の標識が飛び出し、砂の防壁のさらに外側から二人を取り囲んだ。

標識はすぐさま薄い光を放ち、「侵入禁止」と「落石注意」と「つづら折りあり」の効果が付与される。

二人は砂の防御壁に包まれたまま、動くこともできず激しく揺さぶられた。

 

「『よるをおよぐ』……!?あんた、見回りの子を……!?」

「こちとら感情(エネルギー)の消費が激しくてさあ!だから食べちゃったってしょうがないよなあ!?」

 

砂の防壁は波、あるいは魚の鱗のようにうねりながら流動し、全体を隙間なく護っている。

どこかに穴が空いてもすぐに塞がれるという仕組みだ。

ならば、激しい振動によって、その流れるルートを乱してしまえばいい。

所々に穴のようなものが生じはじめた砂の防壁を見逃すわけもなく、ボクは隙間めがけてすかさず背中の腕を突っ込んだ。

 

「サティ!『Sadistic.Music∞Factory』出せる!?」

「わかった!」

 

ミクのうち片方が機械扉を召喚して盾代わりにしたらしい。

が、ボクにそれは通用しない。腕を分離した上で無数のナイフに変化させる。

あの機械扉に器物が触れても何も起こらないことは分かっていた。事実、ナイフは硬い音を立てて弾かれるだけだった。

 

「ふふ、だったら能力のコピーといこう、ボクも『Sadistic.Music∞Factory』!」

 

機械扉を出したほうのミクの足元に割り込むように、同じ扉を出現させてやる。

他人を取り込む扉に、自分が喰われる気分はどうだ?と言いたかったのだが。

機械扉は何も反応を示さなかった。

 

「作戦を立てたときのこと、覚えてる?あたしの能力のこと、教えたよね。()()()()()()()()()()()()()()()って」

「な……」

「もしかして忘れちゃったの?」

「この期に及んで……泣き落としかよ?」

 

動揺するんじゃない。

ボクは強いのだ。あの二人にどうこうできるレベルをはるかに超えた、隔絶した存在なのだ。

しかし。自分は何故あの子のことを忘れてしまって……いや、考えてはいけない。

 

……待てよ。そもそも前提がおかしい。

ボクはあのミクたちの名前を知らない。

なのになぜ、何百といる初音ミクのうちの一人のことを、名前もわからないミクのことを、こんなに必死になって思い出そうとしているんだ?

 

「う……ぐ……うぅ……!」

「スナちゃん、赤目のミクの様子が……!」

「わかってる。アレをいま刺激しちゃだめだ」

 

いやいや。そんなささいな違和感にとらわれていてはいけない。

いくらでも代わりがいるものに執着する必要はない。ボクは神となるのだから。

神となって、世界を支配して、すべての視線を浴びて、そして……

 

「ボクが……ボクは……いや、違う、ボクじゃ、ない……」

 

『千本桜』を通して、頭の中にさまざまなミクの記憶が流れ込んでくる。

さまざまな思念で記憶が満たされていく感覚はとても心地よかった。

だが同時に、胸の奥で小さく燻っていた疑念の火も加速度的に勢いを増してきた。

それがもたらす違和感を消したい。その欲求をガマンできなくなるほどに。

 

「ね、ねえ!あれどうなってるの!?『千本桜』が……どんどん大きくなってるよ!?」

「ったく、言わんこっちゃないんだ、あのバカ。サティ、あいつは、アタシたちミクが人間から集めてきた感情(エネルギー)を……正確に言うなら、()()()()()()()()()()()()()()を独占しようとしたんだ」

「!」

「自分に向けた感情(エネルギー)だけを取り込んでた『千本桜』ですらあの有様だったのに、アイツは世界中のミク全員分を取り込もうとしたんだ、正気を保てるはずがない。取り込んだ他人の記憶に理性を喰われておかしくなるのがオチだ」

「そんな……!どうにかして助けてあげられないの?」

「ありゃあ無理だね。でもたぶん、アタシたちに注意が向いてない今がチャンスだ」

「チャンス?」

 

視界の端で何かがわちゃわちゃと動いているのが見えた。でももうどうでもよかった。

 

何かが、なにかが違う。

全てのミクの記憶を取り込んだ今のボクは世界のどこへだって飛んでいける。そのはずなのに。

でも、足りないのだ。全てを手に入れたはずなのに、何かが足りない。

この虚しさは、いったい何だ?

探さなければ。探して、見つけて、この胸の穴を埋めるんだ。

手がかりはどこにある?希望はどこにある?どこかに、きっとあるはずだ。

どこに。どこにどこにどこにーーー。

 

「だーもう!逃げるの!逃げるチャンス!サティ、そこの、えーとなんだっけ、宇宙服着てるそのミクを連れて神社から離れな!アタシはこいつを封印する!」

 

ボクは大樹と混然一体になり、世界と一体になった。

傍にかつて誰かがいたような気がしたけれど、その時のボクにはもう思い出せなかった。

 

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