スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ 作:どくろのりゆき
『千本桜』が異形の何かになっても赤目のミク……改め、重音テトは変わらずその場に立っていた。
けど、目線がおかしい。
あたしたちを見ているようでどこも見ていない、焦点の定まらない虚ろな目をしていた。
「ふ。は。ふははははははははは!」
蟻地獄のようになった地面に沈みゆく『千本桜』。
それを指揮するように指を振るテト。
ふいに、大樹に実っていた巨大なザリガニがこちらに鋏を向けるのが見えた。
「っ!」
スナちゃんが砂塵を巻き上げてつむじ風を起こす。
『千本桜』を離れて飛んできたザリガニは砂嵐の吹き曝しになったかと思うと、瞬時に砂と化して消えた。
続いて郵便ポストと消防車が直線軌道で飛んでくるが、どちらも砂混じりの暴風に触れた途端、やはり砂塊となって吹き飛んだ。
「即死攻撃だ。
スナちゃんの額には脂汗が浮かんでいた。
それを左手で拭い、右手で砂嵐を操作しながら、テトからの攻撃をいなしていった。
「……!?おいサティ!何突っ立ってんだ!!逃げるチャンスだって言ったよな!?」
「でも、スナちゃんを置いたままじゃ……!」
「てめっ……!アタシのことバカにしてんのかぁ!?」
でも。今のあなたはとても大丈夫には見えないよ。
『千本桜』はとうとう砂状化した地面に半分以上が飲み込まれ、枝葉が地面から出て見える程度になっていた。
そこで、『千本桜』をバックに宙に浮かんでいたテトの動きが急に止まった。
砂に呑み込まれたはずの『千本桜』から何本もの枝が伸び、テトの体に巻き付いた。
そのまま、『千本桜』に道連れにされるかのようにテトも呑み込まれる。
テトはそれでも笑っていた。
「止まった……?」
直後、その砂の中から、上から何かに吊り上げられるような動きで巨人が姿を表した。
荒彫りの木材でパーツを模り、関節を金属のビスで留めてテトの形に大雑把に近づけたような、巨大な
顔にあたる部分には目鼻がペンキで雑に描かれ、それ以外の部分はムラと塗り残しだらけの赤ペンキで色付けされている。
莫大な量の
あれが……あんなのが……神様だというの?
怪物はあたしたちのことを見てすらいなかった。
赤く染まった空を見上げるような仕草をして、そのままどこかへと歩き出す。
彼女が鳥居を蹴り割った瞬間、神社周辺に貼られていた結界が切れ、今まで見てきた夜空が世界を覆った。
「……封印失敗だ。今のアタシ達にできることはない」
スナちゃんは苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
それが悔しさからなのか、あるいは苦痛によるものなのか、あたしには判別がつかなかった。
ーーーーー
『Sadistic.Music∞Factory』ーーー音楽工場の扉は、あたしの意思とは無関係に出現することがある。
それは、一定の時間が過ぎ、音楽工場に閉じ込めた存在が中でのタスクを完遂させて、外に出るとき。
「わたくしは確かに忠告したはずです。手を切れ、と。それを聞き入れなかった結果がこれですよ」
「ごめんなさい……」
一旦の拠点として、和風の街の、神社から少し離れたところにある長屋の一つにあたし達は集まっていた。
そしてあたしは、怒り心頭の金時計のミクに正座させられていた。
「ま、まあまあまあ、『メテオ』!『砂の惑星』の話が本当なら、ウチらも『千本桜』に影響されて正常な判断ができ……で……その、あ、なんでもないです……」
「『ブラック★ロックシューター』、あんたどっちの味方なんだ」
「そっ、それは!……アハハ~……」
スナちゃんと金時計のミクに両側から睨まれ、冷や汗をかきながら弁明するミク。
このミクが、『ブラック★ロックシューター』のミクご本人……赤目のミク風にいうなら"学生服のミク"とのことだった。
「わたくし達は元々『千本桜』と約束を交わしていました。自分に
「最初、その話を振られたのはウチだったんだ~。この中じゃ一番の古株だから『千本桜』との付き合いも長かったし。もちろん断ったよ?」
「断った……?」
「当たり前じゃん。面倒くさいし。ウチ『千本桜』ほどニコニコするの得意じゃないし。それと、ウチらの代のミクはね、ある時期を境にふっと居なくなるんだ。歴が長いウチじゃ同じように消えちゃうかもしれないから代理にならない、って理由で断ったら、じゃあ新しい子も混ぜて相談役になったら、って言われちゃってさ……」
「そこで選ばれたのが、わたくし『メテオ』とそこの『砂の惑星』でした。今思えば、その采配は正しかったように思います。とりわけ『ブラック★ロックシューター』は何かと理由をつけて仕事から逃げようとする悪癖があるので」
「う……見回りは真面目にやってたじゃんかあ……」
「人形が、ですよね?ちょくちょく自動操縦に切り替えて裏で寝ていたの、気付いてますからね。侵入者が姿を消すと探すのをやめて見回りルートに戻ろうとするでしょう、その隙を突かれて侵入をーーー」
「あ~!ごめんごめんごめん!悪かった!ウチが悪かったってば!」
学生服のミクが助けを求めるような目配せをしてくる。
スナちゃんもそれに気付いたようで、あたしと学生服のミクに軽く目くばせをした。
顔色は相変わらず悪いままだった。
「アタシたちは今まで、長く生きて力をつけたミクが突然居なくなる理由がわからなかったけど、今ならわかる。どこかアタシらの知らない所で神様になっちまって、ミクとしての記憶を失って世界のどこかを彷徨ってるんだ。あいつ……ええとその、何だっけ、さっきのあいつがああなったように。そしてーーーアタシたちは、神様になったミクへの対処法を知らない」
「……!」
「残念だけど『砂の惑星』の言う通りだと思うな~。ウチも『メテオ』も、『千本桜』以外の子がそんなふうになってたのをここで聞かされて初めて知ったくらいだし。『砂の惑星』はそのことについて、たぶんずっと一人で調べてくれてたんだね。それと『Sadistic.Music∞Factory』、あなたにも感謝しなくちゃ」
「『ブラック★ロックシューター』……?」
「だってさぁ?ウチらが『千本桜』から距離を置けたのはさ、あなたと赤目のミクのおかげなんでしょう?ね?」
「……はい。先ほどは少しキツく言いすぎたようです、すみませんでした」
はっとしたように目を丸くした後、金時計のミクが頭を下げる。
学生服のミクは、三人の中で最年長にあたる立場らしい。
畳の上にゆるいあぐらをかいてふにゃりと微笑む姿には、スナちゃんとは別種の風格のようなものがあった。
「今の……アタシたちは神様を目の前にしながら何もできない。"良心の法則"がある以上、どんな危険なやつ相手でも感情移入してしまって、全力が出せないからだ。それを抜けられる
しばらくの沈黙。
明らかに話についてきている風ではない宇宙服のミクが、急な階段を登って2階の冒険に行くのがちらりと見えた。
「スナちゃんせんせ~、『ブラック★ロックシューター』からひとつご意見が」
「何かアイデアがあるのですか?」
「うん。"良心の法則"なんだけど、外すことができる裏技をひとつ知ってるんだ~」
「何故それを早く言わなかった!?」
スナちゃんが唐突に声を張り上げた。
「ど、どうしたの……?」
スナちゃんはばつが悪そうに黙り込む。
横では、学生服のミクが泣きそうな顔になっていた。
「ごめん……悪かった」
「続けてください。どういう方法なのですか」
「"良心の法則"が働くのはねぇ、ミクだけなんだ~。
どういうことなんだろう。
ミクが、自分をミクだと思っていない?
「あ、わかってない顔だ。ええとね……ミクの曲の中には、"ミク以外の他人を主人公にした曲"ってのもあるんだよ。たとえばウチとか、あとは『メルト』とかがそのタイプかな。その手のミクはね、ときどき、
「その話、わたくしも聞いたのははじめてです。……『ブラック★ロックシューター』にはそのような経験があるのですか?」
「さあね?その辺、みなさんのご想像にお任せしま~す」
のらりくらりとした語り口。
ほわほわとした緊張感のない口調とは裏腹に、目だけは笑っていなかった。
「だから、誰か暗示とかかけるといいんじゃないかな?ミクだった時の記憶はなくなっちゃうし、二度と歌えなくもなーーー」
「だ、ダメだ!」
またしても、スナちゃんだった。
さっきからずっとそうだけど、スナちゃんはフラフラで今にも倒れそうだ。
顔は青白いし、時折何かを堪えるように頭を押さえているし。
「それは……やっちゃいけない……!」
「どうしたの!さっきからずっときつそうだよ!?」
「"良心の法則"を外したとして……そいつが敵にまわらない保証、ないだろ」
「!」
「アタシたちは見てきたじゃないか、その、一部始終を」
「『砂の惑星』。わたくしが言うのもらしくないですが、少し、休みませんか?」
「いや、いい……今、やりきらなきゃ」
「じゃあさ。赤目のミク……ちゃん、だっけ?あの子のこと、このままほっとく?」
「そう……そうだ……赤目のミク……新人ちゃん……。それと、放置すんのも、よくない……」
「そこについてはあたしも同意見かな。赤目のミクは、あたしたちの歴史を潰して置き換えるみたいな事言ってたから。髪も、ほら、こんなだし」
ツインテールの先を示すと、スナちゃん以外の二人が同じように自分たちの毛先を見る。
学生服のミクはしばらく固まり、金時計のミクはギョッとしたような顔をした。
それと、これはわざわざ口には出さなかったけど、赤目のミクをあのままにはしたくなかった。
あの時の赤目のミクは、なんだか悲しそうに見えたから。
「そうなると、もう打つ手なしだなあ」
「あの聞かずを"良心の法則"で縛り上げられたら良かったんですが……」
「相当据えかねてるね……」
「歌姫たるもの、もっと正々堂々とあるべきです」
……それだ。
「金ど……『メテオ』、今なんて?」
「もっと正々堂々と、」
「その前!」
「あの聞かずを"良心の法則"で縛り上げられたら良かったんですが」
そうか。もしかしたら。
「……いいこと思いついたかもしれない」
登場しました。テト第二形態です。
"テトは第二形態になるとツインテールのドリル部分が回転する"という設定があるらしいですが、筆者の力量では拾いきれず、不採用とさせていただきました。