スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第14話「ぼくのかみさま」

 

神様となった重音テトはどこへとも分からない場所へ向かって歩みを進めていた。

建造物の類を踏み割り、蹴り飛ばし、破片が足に突き刺さっても、お構いなし。

もたらす影響ももちろん甚大で、元々青緑色のツインテールだったあたしの毛先は、もうすぐその半分が赤くなるところだった。

 

巨大テトが放つ輝きで薄明るくなっている和風の街の中にあって、声を殺してどこかへ行こうとするスナちゃんを見つけるのは難しいことではなかった。

 

「スナちゃん」

「!」

「休んでなくて、いいの?」

「……いい」

 

いい、というには、あまりにも無理があった。

止まらない汗、蒼白な顔、押し付けるように額の皮膚を掴む右手。

 

「寿命、なんだよね?スナちゃんも。『千本桜』と同じように……」

「どうしてそれを……!?」

「さすがのあたしでもわかるよ、そのくらい。だいいち、神様のこと教えてくれたのスナちゃんじゃない」

「……あんた、サティなのか?」

 

あたしはスナちゃんの背後に立っていたわけではないし、ましてや目隠しをして話しかけたわけでもない。

明らかにあたしのことを見ていた。見えていながら、そう言ったのだ。

 

スナちゃんのジャケットの手の袖口からは紙片のようなものが覗いていて、彼女は話している間、何度もその紙片に目を落としていた。

彼女自身はもう、目の前のあたしのことを認識することも思い出すこともできないのだろう。

スナちゃんはそれでも、覚えていようとしてくれているのだ。

 

「スナちゃんが赤目のミクのことをずっと気にしてた理由も今ならわかる気がするの。ただ『千本桜』を鎮めたいだけなら、自分であの子のところに行って、何もしないでとお願いすればいいだけ。でも、スナちゃんは"殺す"ことにこだわった。それは……神様になったスナちゃんを、終わらせてほしかったからじゃないのかな、って」

「…………」

「あたしがスナちゃんなら、一人きりでずっとずっと生き続けるの、怖いよ。今の赤目のミクや『千本桜』みたいに、気づかないうちに迷惑をかけてしまうようになるのも、いやだよ」

 

あたしはあまり頭が回る方ではないと思う。

少なくとも、いつも先のことが見えている赤目のミクやスナちゃんに比べればずっと下。

そんなあたしでも、せめて隣にいるくらいのことはしてあげたかった。

放っておくと一人でどこか遠いところに行ってしまうスナちゃんや赤目のミクのためになら、なおさら。

 

「今から言うことは引き継ぎ事項だ、一度しか言わないからよく聞きなよ」

「スナちゃん……」

「神様になったミクは人とのつながりにまつわる記憶を忘れてしまう。強く自由で純粋な存在であることを望まれる神様(アイドル)にとって、俗世でのしがらみは余計なものだ。それが……当人にとって大事なものであったとしても」

 

スナちゃんはどこか遠くを見ていた。

どこをかはわからない。少なくとも、あたしに見える場所でないことは確かだった。

 

「アタシたち初音ミクに寿命はない。生きている間限りなく成長し続け、注がれた愛情が身の丈に収まらなくなった個体から神様へと昇格する。だけど、無限に積もりゆく記憶(キャッシュ)も、誰の声も聞こえなくなる孤独も、ミクの身で耐えられるものじゃない。いずれ心は壊れ、身体だけが永遠に生き続ける、そんな仲間を……アタシは放ってはおけない」

 

スナちゃんはーーーすぐ傍にいるはずのミク(あたし)を見ていない。

たぶん、スナちゃん自身のことも見ていない。見ようとしていない。

 

「ーーーだから、頼んだよ、聡明な誰かさん」

 

気が付くと、スナちゃんの姿はもうそこにはなかった。

音も前触れもなく彼女はいなくなり、代わりに、初音ミクを模った砂像がいた。

あたしは砂像に呼びかけたけど、反応はなかった。

ただ、興味を無くしたように視線を外しただけ。

 

どこかで見たような五体分の砂像が遠くに現れ、ミクを模した砂像に手を振る。

ミクの砂像は、そのまま仲間のもとへ歩いていった。

 

ーーーーー

 

ミク達が集まる長屋に戻ったとき、金時計のミクはあたしを探しに行こうとしていた。

 

「ああ、よかった。探しましたよ。『砂の惑星』を見かけませんでした?」

「スナちゃんは……」

 

口ごもるあたしを見て、金時計のミクは怪訝な顔をする。

あたしは、スナちゃんから聞いた話、スナちゃんとの間であった出来事、その全てを金時計のミクに伝えた。

どうやらスナちゃんはさっきの話を、金時計のミクにも学生服のミクにも秘密にしていたようだ。

……あたしにこういう説明をさせない気遣いくらい、しておいてほしかったな。

 

「その子たちは?」

 

金時計のミクの足元には、見た事のない初音ミクがふたりくっついていた。

ひとりは黒い野球帽を斜めに被り、赤茶色のベースボールシャツを着た、野球少年(?)風のミク。

もうひとりはスピードメーターの描かれたTシャツを着ていて、トゲトゲした首輪や腕輪や厚底靴が特徴のミク。

二人とも頭身が三頭身ほどと低く、かつ背丈も腰あたりまでしかないため、金時計のミクと一緒にいるとさながら双子の妹のように見えた。

 

「あなたの能力によるものですよ、わたくしたちを閉じ込めた時の」

「あ、そっか」

 

金時計のミクは、音楽工場に放り込まれたことをまだ若干根に持っている様子だった。

 

あたしの『Sadistic.Music∞Factory』は、人ひとりを音楽工場という異空間に一定時間閉じ込める能力だ。

そして閉じ込められた人が"音楽工場"から放り出される時、副産物として新たな初音ミクが誕生する。

あたしと赤目のミクは、金時計のミク、学生服のミクを倒した後、二人を"音楽工場"に放り込んだ。

ここにいる二人のミクは彼女たちから生まれた存在なのだろう。

 

「どうかしましたか?心ここにあらずといった感じですが」

「えっ?あ、うん、気になることがあって……」

 

あたしと金時計のミクは長屋を出て、空を見上げて歩行する巨大テトが見える位置にきた。

新しい二人のミクこと、"野球帽のミク"、"チョーカーのミク"も一緒だ。

宇宙服のミクも様子が気になったのか後から出てきたが、新しく加わった二人のことが怖いのか、距離をとっている。

 

「スナちゃんと重音テトが言ってたの。"初音ミク以外の歌姫はいなかったことにされた"って。もしもあの"重音テト"という人がミクじゃないのなら、どこから来たんだろうって」

「なるほど……」

「ねえ……金時計のミク。教えてほしい。あたし、地下施設のあった砂漠と、この街以外の場所のことを知らないの。そこ以外のことについて、聞かせてくれない?」

「金時計のミク、ですか……」

 

そう呼ばれた彼女が、困惑と照れの入り混じったような複雑な顔をする。

そこで初めて、あたしは彼女をあだ名で呼んだことに気がついた。

 

「あなたは……あなた達三人は、皆にそのようなあだ名をつけて呼んでいたのですか?」

「あ……うん」

「そうですか。……気恥ずかしいものですね、名前をつけてもらうというのは」

 

彼女は俯く。が、下りた髪の隙間から見える口元は緩んでいた。

この子は、赤目のミクとは違うベクトルで不器用な子なのかもしれない。

 

「こほん、話を戻しましょう。わたくし自身は行ったことがないですが、そのような土地自体はいくつかあるようです。『砂の惑星』の出現後に現れた地下施設のある砂漠をはじめ……常に何かが転がり落ちてくるモノクロの山岳、地上にあるにも関わらず海底を模したような土地。ですが、文明と呼べるようなものはそのどこにもありません。この和風の街と同じく、無機的な構造物が存在しているだけです。そこに居着くミクはぽつぽつと居るようですが」

「うん。ありがと、それではっきりしたかも」

 

土地の広さに対してミクの数があまりにも少ない世界。

どこもかしこも寂れ切った無人の街。

……何かを求めて来たとしても、楽しい思いはきっとできない。そんな気がする。

 

「それと、もう一つ。『千本桜』は木の姿になっても、願い事を聞くことはできたから、ひょっとしたらテトという人を説得する方法もあるんじゃないかなって」

「説得?」

「あたしね、重音テトがものすごく嫌がる言葉をひとつ知ってるんだ。あの子を足止めして、沢山ちょっかいかけて、いやでもあたしを見るしかないようにしてから、その言葉をぶつけるの。そうすれば、あの子に言葉が届くはず」

「なるほど、趣旨は理解しました。必要なものを教えてください」

 

金時計のミクの、星のような刻印の入った瞳に、俄かに力が籠ったように見えた。

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