スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ 作:どくろのりゆき
紅く染まる空をひとつの影が駆けていった。
目元から空色の炎を走らせ、巨大テトに向かって弾丸のように飛んでいく黒ずくめのミク。
黒ずくめのミクは目標の右肩あたりに到達すると背中の大砲を構え、巨大テトに向けた。
ーーー次の瞬間、黒ずくめのミクがはっきりとこちらを見た。
「……っ!戻って、『ブラック★ロックシューター』!」
大砲をあたしたちに向けた瞬間、何人めかの黒ずくめのミクは幻のように消えた。
「あれさ、ウチらが近づいたらどうなるんだろうねえ?」
「ご想像通りの結果だと思いますが、試してみます?」
「本気にしないでよ〜……」
学生服のミクは腕を組み、難しそうな顔をした。
あまり長くない髪は赤と緑が入り混じり、どことなくスイカを思わせる色合いになっていた。
身長50メートルはあろうかという巨大なテトを相手する上で、空を飛べる金時計のミク、黒ずくめのミクは必要不可欠だった。
それと、巨大テトに接近した黒ずくめのミクが次々と操られてしまうのをこの目で見ている。
あまり近づかず、さらに素早く動けることも大事だった。
「あいつの側で長居するのは危険ってことははっきりした。近づくのも離れるのもなるべく急がなくちゃ」
「わたくしと『ブラック★ロックシューター』は高速での飛行が可能ですが……二人以上を載せるのは遠慮させていただきたいですね。飛行速度が大幅に落ちます」
飛べないことがわかっているのは、宇宙服のミクこと『Cryogenic』、そしてこのあたし、『Sadistic.Music∞Factory』。
となると、残る新しいミクたちがどのような能力の持ち主かだけどーーー
「おそらをとびたいの?飛べるよ!」
野球帽のミクが手を挙げた。
「わたし、『キーウィ』!翼はなくてもね、飛びはねればいいの!わたしのちからでおもさをなくせば、空までひとっとび!」
しゃがんで目線を合わせ、野球帽のミクを撫でてあげる。
一方、同じ場にいた宇宙服のミクは、何も言わずチョーカーのミクの方を見やる。
お前も何か言え、というメッセージを受け取ったのだろう彼女はしかし、恥ずかしそうに視線を逸らすだけだった。
「ね、お名前は?」
「知らないおとなに、こたえてやる義理など、ない」
「…………」
「あ、あーそうそうそう!ちょうどいいや!ウチこの子に任せたいことあるの思い出して!ちょっと借りるね!」
いきなり声を上げたかと思うと、学生服のミクはチョーカーのミクの肩を掴み、あたしと金時計のミクを強引にどかしてどこかへと連れて行ってしまった。
あたしと金時計のミクは顔を見合わせる。野球帽のミクは明らかに何も分かっていない顔のまま金時計のミクを見上げ、宇宙服のミクはキャノピーを開けることもあたしたちに意識を向けることもなく、黙ってチョーカーのミクの連れて行かれた方を注視するだけだった。
「……とりあえず、一人しか載せられないという発言は撤回しようと思います」
「あのこ、くちべた」
宇宙服のミクが、短くそう言った。
ーーーーー
何をどうやったのか、チョーカーのミクは
後ろで見守る学生服のミクが芝居がかった大仰な敬礼をし、それを見たチョーカーのミクはVサインをする。
二人の動作が済むのと同時に、黒ずくめのミクが凄まじい脚力で飛び出した。
チョーカーのミクが吸い込んだ息を大きく吐き出すと、彼女を起点に黒く粘り気のある黒煙が発生した。
彼女は黒ずくめのミクの背におんぶされているため、黒煙はその跳躍軌道にばら撒かれる形で滞留する。
巨大テトの
「『フューエル』!」
チョーカーのミクの身体を青い電流が駆け抜けた。
次いで、黒煙もまた雷雲のごとく電気をまとったあと一斉に着火し、あたり一帯は火の海になった。
元々、足止めに火を使うことは決まっていた。
木製っぽい見た目の巨大テトはきっと炎を嫌うだろう、という単純な考えから思いついた作戦だ。
金時計のミクがその役を担い、あたしが黒ずくめのミクに乗って上を目指す予定だったのが直前で入れ替わる形になったけど、代役の『フューエル』改めチョーカーのミクの能力はすさまじいものだった。
爆発的に燃え広がった炎は建物に次々と引火する。
それだけでなく、黒い煙自体が空中にとどまりながら燃えているので、延焼するものが何もない場所でも炎が消えない。
煙自体にも彼女の力が働いているのか地面近くを這いながら蛇のように蠢いており、足の踏み場はもはやない状態だった。
巨大テトの歩みが止まった。
踏み出そうとした足を熱がるように戻し、別の場所に出そうとしては、また戻す。
タイミングを同じくして、今度は金時計のミクが飛び立った。
「『メテオ』!」
金時計のミクの背にはあたしと野球帽のミクがふたりで乗っている。
金時計のミクによれば本来二人以上を乗せて飛ぶことはできないらしいけど、今はそこに野球帽のミクの能力が加わっている。
「『キーウィ』!」
ふわり、と体が軽くなる。
当人の弁によれば、重力のない領域を作り出す能力なのだそうだ。
巨大テトの体に近づくうちに空から赤い幾何学模様をしたウォレットチェーンのようなものが何本もこちらに飛んできたが、それらもまた、野球帽のミクが作り出す領域に踏み込むと同時に推進力を失った。
そのまま宙を漂うだけとなったウォレットチェーンの森を突っ切り、両足から絶え間なく発射される爆風でロケットのように飛翔しながら、金時計のミクとあたしたちは前へ、上へと進んでいった。
やがて、あたしたちは巨大テトの顔の前まで到達した。
数メートルしか距離がない、ぎりぎりの距離に近づいてもなお、巨大テトはあたしを見ようともしない。
そんな彼女に見てもらうため、あたしは顔の真ん前に陣取った。
凹凸もなければ表情もない、のっぺらぼうの顔に目と口をペイントした仮面のような顔の巨大テトに向けて、あたしは呼びかけた。
「テトちゃん!!」
あらん限りの声を張り上げた。
「あたし知ってるよ!あなたが欲しいもの、あなたが探してるもの!」
そのサイズのせいで、巨大テトは動いているか止まっているかわからない。
「それから、本当のあなたのこともーーー知ってる!」
今度は明確にわかった。巨大テトの動きが止まったこと。
でも、返ってきたのはーーー先ほどと同じ、空から降りそそぐウォレットチェーンの大群だった。
「回避します!しっかり捕まってください!」
金時計のミクが叫ぶ。
彼女の両手の肘から先が消えたかと思うと、両の腕は顔の前に飛び出し、切り離された状態で空中を飛んでいた。
次の瞬間、両腕だったものが閃光を放ちながら爆発する。
半肩車状態だった野球帽のミクが勢い余って空中に放り出されかけたが、金時計のミクの背に乗るあたしがキャッチする。
「大丈夫?」
「ん!」
でも、ウォレットチェーンの軍勢は止まらない。
視界を塞いだにも関わらず、ウォレットチェーンは正確にこちらを狙って飛んでくる。
それを野球帽のミクの能力で空中にとどめ、金時計のミクが距離をとる。
そのやりとりをしているうちに、あることが頭をよぎった。
まるで
「金時計のミク!上!」
「上?」
「さっきから飛んでくる紐、全部上から降ってきてるから!ひょっとして、頭のもっと上にいるかもって!」
「理解しました!上がります!」
そこで野球帽のミクの領域が消えてしまった。
何が起こったのか教えてと言わんばかりに、彼女は不安げにあたしを見上げる。
「力を限界まで使わせてしまいましたか……!」
無情に降り注ぐウォレットチェーンの群れは戸惑う野球帽のミク、悔しげに呟く金時計のミクを瞬く間に絡めとる。
金時計のミクは白衣の上からあたしの腰を素早く掴み、再び両腕を分離させた。
ふたたび両腕のなくなった金時計のミクの目から光が消える。
次の瞬間、その表情は敵意のあるものへと変わっていた。
「……!」
そういうことか。
黒ずくめのミクを操ってあたしたちを攻撃させていたのは、この紐だったのだ。
分離された金時計のミクの腕はロケットのように爆風を噴き出し、あたしの体を上へ上へと運んでいく。
そのうち見えない何かにぶつかった衝撃で、あたしは意識を失った。