スタンド名がボカロソングばかりのジョジョ   作:どくろのりゆき

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第17話「ボーナスステージ」

 

「白衣のミク。私と勝負しろ」

 

赤目のミクの掲げた槍は、あたしの目と鼻のすぐ先に刃先がくるように止められていた。

 

「えっと、無理……」

「そうか。じゃあこうしよう」

 

気がつくと、あたしの両手は赤い槍を握りしめていた。

鋭い切先はなくなり、代わりに槍の両端に丸い飾りがついた、細身の長棒のような物体になっていた。

 

「その棒を一度でも私に当てられればあんたの勝ち、素手であんたに一発でも入れられれば、私の勝ちだ。何も血みどろの戦いをやろうってわけじゃない」

「でも……」

「勝たないとさっきの願いごとを取り消すと言ったら?」

 

有無を言わさない強い迫力に、つい押し負けてしまった。

あたしが渋々赤い棒を構えると、赤目のミクは両手を広げた。

 

「祭りの炎に身を焼かれ、嘘から生まれて無に還る。仇花のーーー『嘘の歌姫』」

 

赤目のミクの頭上に影ができ、黒いバツ印が浮かび上がる。

まるでバレエでも踊るような動きで、彼女は向かってきた。

 

「ふっ!」

 

触れようとする赤目のミクに棒を突き出すと、赤目のミクはひらりとそれをかわす。

そして側面からふたたびあたしに触れようとし、今度はあたしがそれをよける。

その動きは素早く、ただ避け続けるだけであたしは早くも息が上がってしまっていた。

 

何度かの応酬ののち、あたしの持つ棒が偶然、赤目のミクの足元に当たりそうになっていた。

ーーーチャンスだ!

 

赤目のミクの軸足に向けて、棒で足払いをする。

彼女はやはり読んでいたという風に足を振り上げ、空中を舞った。

支える足のなくなった赤目のミクはバランスを崩し、その場に尻餅をつくーーーことは、なかった。

身体はまるで重力がかかっていないかのように空中に浮き上がり、彼女が足を地面におろした後、再び重さを取り戻したように見えた。

 

「何が起きてるの!?」

 

ちょうどその時、唐突にライトが灯り、薄暗かったライブハウスが照らされた。

光を浴びた赤目のミクの体からは糸のようなものが上に向かって伸び、彼女の頭上に浮かぶ黒いバツ印と繋がっているのが見えた。

 

「『嘘の歌姫』、この能力は使う相手によって効果が変わる。他人にこの糸をからませればそこから能力を吸い取り、私に糸をつければ人体の範疇を超えた体術が可能となる」

 

じりじりと焼けるような音を立てながらも赤目のミクを照らすステージライト。

流れるような所作で胸元に手を持ってくる彼女の動きを、四方に伸びる彼女の影が追う。

 

ここには、あたしと赤目のミクの二人以外、誰もいない。

誰もいないはずなのに、ライトの光を浴びていると、なんだか誰かに見られながら踊っているような気分になる。

 

「さ、続きだ」

 

からくりがバレた以上もはや気を使う必要もない、ということなのだろうか。

赤目のミクの動きはそのタイミングを境にさらに激しく、苛烈になった。

身体は宙を舞いながら前後左右に飛び回り、予測不能の場所から拳や蹴りが伸びてくる。まるで天井に見えないレールが走っていて、そのレールと繋がった赤目のミクが軌道上を滑走しながら攻撃をしてきているかのようだった。

 

「さ……『Sadistic.Music∞Factory』!!」

「あっ……ぶなっ!」

 

もうだめだ、と思ったそのとき、あたしは無意識に能力『Sadistic.Music∞Factory』を発動させ、背中からの攻撃を防いでいた。

部屋に対してアンバランスに大きい機械扉が天井の低いライブハウスの床と天井を同時に突き破り、障害物となってあたしたちを阻んでいた。

 

『Sadistic.Music∞Factory』は、触れたものを異空間にしばらく飛ばしてしまう機械扉を召喚する能力。

相手に指一本でも触れさせればその場で勝敗が決まる、一撃必殺の能力だ。

けれどその代わり、この機械扉には二人がかりでもとうてい動かせないほどの重量があり、一回ごとに体力を大きく消耗する。それから、あたし自身は異空間である"音楽工場"に行けないので、そのままでは重くて大きくて固い、ただの板でしかない。

 

でもーーー

 

「わかってるよね……?一度でも触れたら、逃げようとしたって無駄なこと……!!」

 

でも今なら、この扉は……無敵の盾になってくれる!

 

「……やるじゃないか」

 

赤目のミクは、扉がとてつもなく重いことも知っている。

だから、扉を回り込んで攻撃してくる。それも、ものすごいスピードで。

 

「でも、一回きりのこけおどしなら……うわっ!?」

 

あたしは機械扉の陰に隠れ、そこから長棒を振る作戦に切り替えた。

……正直、体力的にはこの時点で限界がきてしまっていたからだ。

 

「獲った……!」

 

機械扉の脇から突っ込んでくる赤目のミクに向けて長棒を振り下ろした直後、赤目のミクが上から殴りかかってくるのが見えた。

あたしが棒を振ったあとの隙を狙われ、フェイントをかけられたのだ。

 

腕も重いし、体も重い。とてもじゃないけど、避けきれる状態じゃなかった。

 

ごめん、みんな。

 

ーーー赤目のミクの拳は、降ってこなかった。

 

「な……!?」

 

糸で宙吊りの状態のまま、彼女は静止していた。

握りしめたその右手は、小刻みに震えていた。

 

「っ!」

 

力任せに振り上げた長棒が、赤目のミクのお腹にぽん、と当たった。

疲労のせいか、あるいは元々の力のなさか、全力で振っても赤目のミクが普段やっていたような派手なことは起きなかった。

そのことが、内心ちょっと悔しい。

 

「…………」

「…………」

「結局、勝てなかったか……」

 

糸と同時に力まで抜けてしまったかのように、赤目のミクはその場に尻餅をつき、足を大きく投げ出した。

 

「どうして躊躇ったの……?」

「…………」

 

赤目のミクは、あたしに目線を向けなかった。

どこかばつが悪そうに他所を向いたまま、口を開く。

 

「これで確実に私の攻撃が当たると思ったその瞬間、ふっと頭をよぎってきたんだ。もしもこれが白衣のミクに当たると、きっと痛いだろうなって。そんなこと、今まで考えたこともなかったのにさ」

 

"良心の法則"。

最後の最後で、赤目のミクもそれに囚われたのだ。

ミクとしての自分と向き合い、受け入れた彼女の中に、"初音ミク"としての自覚が生まれたんだ。

 

「……そろそろか」

 

ライブハウスが本格的に崩壊してきた。

部屋の隅だけだったはずの輪郭の揺らぎは部屋全体におよんでいて、地面と壁の区別がつかなくなってきていた。

 

「お別れだ」

「……うん」

「戻ったら、他のミクたちによろしくな」

 

赤目のミクはそこで少し押し黙り、後ろを向いた。

 

「私が一騎打ちを要求したのはな。ミクをこの手でこてんぱんにして、スカッとしてから消えたかったからなんだ。願い事の取り消しなんて、最初からするつもりはなかったよ」

「えっ?ま、待っーーー」

 

呼び止めようとしたのも虚しく。

ライブハウスとあたしの意識は消えてしまった。

 




読み返してみてジョジョ要素があまりにも無いことに気づき、大幅に加筆しました。
とはいえ筆者はジョジョシリーズを一切通過していない人間のため、筆者にとっての「ジョジョ要素」は元ツイート(※概要参照)から摂取したものが全てとなります。
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